7話 初心者製推理ショー
さっきまではシーナと互角だったが、俺はこの戦いで大きく成長したらしい。俺は遂に、Sランクになったんだと自覚できた。
「予想以上に、差が広かったようだな」
シーナは壁にぶつかった。しかも打ちどころが悪かったらしく、クラクラしている。
そんな状態でナイフを持ち、握りしめた。だが立ち上がろうとはせずに、ナイフを首に向ける。
「やめろ!」
俺はシーナに急接近し、すんでの所で首に刺さろうとしていたナイフを、弾き飛ばした。
「放っておけば勝手に死んだのに、なぜ止める?」
「お前がただの悪人だとは思えない。悪人が俺の代わりに手を汚して、自殺するわけがないだろ。もしやってたら、それは恐らく、悪人が改心してるパターンだ」
悪人と言うには行動がおかしい。探せば何か、理由があるはず。
「なあ、シーナ。なんで暗殺者なんて始めたんだ? そもそもどこで募集してるんだそんなの」
シーナは少し黙っていたが、ゆっくりと無表情で喋りだした。
「両親がどちらも暗殺者でな。生まれた時から、暗殺者として教育されていた」
自分からじゃなかったのか。想像以上に重い。特に言えることも思い浮かばなかったから、俺は無言で驚くふりをした。
「だがもう何年も前に、自分の異常さには気が付いた。なのに暗殺者を辞めようとも思わなかった。楽しかったからな。……これでもまだ殺せないのか? 臆病な奴だな」
「いや、俺はそんなに臆病じゃ無い」
良い事思い出した。
「お前、もう悪人じゃ無いな?」
「何を言っている、私は今も暗殺者だ。そして今までに何人も殺した。なのに悪人じゃないのか?」
「俺が思うに、お前は悪人だった」
「何を言っている?」
「暗殺者に育てられていたお前は、恐らく閉鎖的な環境にいたせいで、そうとは思わず異常な考え方を持ち、暗殺に何の罪悪感も無かった。だが成長して普通を知ってしまい、自分は異常だと知った」
「しかし暗殺者は無感情だ。お決まりだろ? それに生まれた時から暗殺者として教育されていたのなら、感情は無いに等しかったに違いない。だから異常と知ろうが悪だと知ろうが、罪悪感も良心も無いお前は暗殺者を辞めなかった」
「けど今のお前を見るに、少し感情を持ち始めた。だが、お前が『人を苦しめる事だけが楽しい』って言ったのから考えるに、まだ少なかった良心では、暗殺者を辞めることが出来なかった」
「そしてだんだん感情は成長し、良心も大きくなった。だから暗殺者を辞めなかった自分を責めた。だがもう何人も殺した。今更やめたって、その過去が消えることはない」
かなり長くなったが、俺にしては知的な推理だ。……どうだ?
「だがお前は俺に負けて、死ぬことを決意した。あってるか?」
「おおむねその通りだ。よく分かったな。だからなんだ?」
よかった。長々と語っておいて、間違ってたら相当恥ずかしかったからな。
「死んだって罪は消えない。……だからまあ、人助けでもしたらどうだ? そうすればちょっとは罪も軽くなるんじゃねえの?」
「何人殺したと思っている?」
「さあな。まあ正直、他人に興味はない。それにお前の環境で、真っ当に育つ方法が分からない。そんなやつ殺せるかよ」
絵本とか、おもちゃとか。愛情とか楽しさとか。恐らくそんな物は無かった。
「まあ、どうしても死にたいっていうのなら、S級危険地帯って場所にでも行ってくれ。俺にはお前を殺せない。王様には……焼き尽くしたとでも言っとくから。死体でも残した方が良いんだろうけど、まあ大丈夫だろ」
そこら中に転がる暗殺者に、火の魔法を使った。
「じゃあな。俺は止めないから、好きに生きてくれ」
『生きてくれ』
これ含めてかなりイケメンな対応じゃね? 正直女心なんて知らない。だが、恐らく誰も気づいてなかった、隠された本心に気付き、同情し、正しいのかは知らないがアドバイスをした。
しかも顔が良い。今の俺、かなり主人公してるんじゃね? これは惚れるに違いない。
適当にそんな事を考えながら、シーナに背を向けて歩き初め……はせずに、走り始める。絶対違うとは思うけど、レシアが待ってるだろうからな。あっちは確実に惚れてるし、ゆっくり歩いてたら何時間もかかる。
だがしばらくしても、追ってくる気配は無かった。追いつけない程に速く走ってないのに。
今更恥ずかしくなってきた。なんだよ推理って。けど大体あってたみたいだし、まあいっか。
「好きに生きろ、と言ったな」
無機質なシーナの声だ。それ自体は大歓迎なんだけど、背中になにか刺されている。
だがそこまで痛くない。けどなぜか体の力が抜ける。そして体を支えることが出来なくなり、前のめりに倒れた。
「特殊な薬を打った。恐らく数時間は、まともに動くことも出来ないだろう。」
「なんで、こんなこと?」
全体的に体の機能が低下しているようで、喋れないことは無いが、声量も滑舌も良くない。だがここには俺たち2人しかいない。強くなれば聴覚も良くなるし、問題なく聞いているようだ。
「もちろんこういう事では無いことぐらいわかっている。それなのに、あんな事を言われては。もう我慢出来ない」
うつ伏せに倒れているから、どんな表情かは分からない。まあ、声を聞くに、たぶん笑っているんだろう。そんな声になった。
「俺を、どうする気だ?」
欲求を我慢できなくなったとでも?




