37話 変化しろ
街が騒がしくなってきた。
台風、雷、地震、津波。災害は色々あるけど、やっぱ一番怖いのは魔物だ。
魔物は大国だって滅ぼすってのは、有名だ。
しかし、この学園はそんなに騒がしくもない。
俺、クロア、ラティナ姉、フレッド。7人いるSランクの半分以上がここにいる。
ここにいるのは3番目から6番目。最弱はいないけど、最強もいない。
しかしそれでもSランクが4人は大きい。
学園を見ると授業中にもかかわらず、学生が、更には教師までもが窓から俺を見ていた。Sランクの三番目で、学園では一番強い俺を。
正直見ないで欲しかった。
クロア、ラティナ、レシア、シーナ、フレイアが突然現れ、俺を守るように囲った。
当然誰もが困惑する。顔がいい女たちが急に現れて、学園最強の男を囲っている。
「流石に今は争わないでね? 同じSSランクでも、多分アレの方が強いから」
気配の方向へ向いた時、後ろにいるのがラティナ姉だった。
「当然だ。そんな事もわからない奴なんていないだろう?」
そして右にいるのがシーナ。フレイアを見ながら煽ってる。
「わかってるもん! ほら、いいのあげるよ?」
左にいるのがフレイア。いつか俺に使った、部位欠損すら治すポーションを一瓶、ヤンデレ全員に配り、更には俺とフレッドにまで渡した。
「私からも、シーナさんは飛べないでしょうから、この飛竜を使ってください」
後ろ、詳しく言ってラティナ姉とシーナの間にいるのがレシア。ぐちゃぐちゃな飛竜をシーナの横に召喚した。かなり臭いし、乗ったら体に血が付きそうだ。ゾンビでは無くスケルトンを召喚すれば良いものを、少し悪意を感じる。
「レイ、安心してね? 私が絶対守るから」
前にいるのはクロア。『私』では無く『私達』じゃ無いのかとは思う。
「その5人は…………」
「想像通りの5人さ」
もう察してるだろ?
5人全員フル装備らしい。それぞれの装備や武器をすでに準備していた。
周りや上空にアンデッドがいる辺り、レシアも手段を選ぶ気は無いらしい。本人も豪華な装飾入りのレイピアを装備していた。
しかし全員、そこから一切動こうとしない。
魔物は意味もなく人を殺す。さっさと気配の元へ向かわないと、誰かが死ぬ。
「どうしたんだよ? 速く行くぞ!」
「待って!」
俺は足に力を込めるが、クロアに肩を掴まれた。いくら足に力を入れても動けない。
「あれは危なすぎるから、レイは行っちゃダメ!」
「ならどうするんだよ! このままじゃ何万も死ぬぞ!?」
気配の正体がわかった。城よりでっかい黒い竜だ。アレのブレスなら一発でも国が崩壊しかねない。それは俺をもっと焦らせる。
「私がレイを守るから、4人はあの竜をお願い」
「悪いけどクロアのことを信頼してないから、」
街の騒がしさが急に聞こえなくなる。恐らくフレッドが気を効かせて、防音結界でも貼ったんだろう。
「ラティナ様は強力な魔法使いです。ですから向かったほうが良いのでは?」
「私は大型相手は不得意なのでな。それに私はこの中で一番速い。レイバーンを抱えてあれから逃げる程度容易いぞ」
「私がやる! ジェットですっごく速く逃げれるから!」
「アンデッドが強いだけで、私はそれほど強くないので。アンデッドだけ召喚して私が護衛に回る方が良いのでは?」
下手した国が滅ぶ。そんな状況にもかかわらず、ヤンデレたちは口論を始めた。俺が好きなのか知らないけど、俺を守りたいらしい。
けど俺が好きなら、ちょっとは信頼してほしかった。
「どうせみんな、レイが好きなんでしょ? だからレイに近づけさせる訳に
「うるせえ!!」
俺は手加減無しで、火と風の魔剣を振る。ヒートアップしてたヤンデレ達はそれをまともに受け、全員何らかの怪我を負った。
もう良い、俺がやる。
ふと視界にクロアが入る。俺に怯えていた。
俺は魔剣に魔力を強く込め、火と風を噴射して飛んだ。
「待て! レイバー……」
フレッドが何か言ってるけど、今更止まることは出来ない。
黒い竜はもうブレスの準備をしていた。既に国の大部分が、ブレスの射程圏内に入っている。
「止まれぇぇぇ!」
飛んでいる間も、俺は魔剣に魔力を込め続けていた。魔剣が少しずつ壊れ始めているのが分かる。けど壊れたってどうでも良い。全部ぶつけてやる!
俺は竜にぶつかる直前で急停止し、剣を全力で振った。あまりの熱量で、近くにいる俺の肌が焼かれる。
しかし城よりも大きな巨体を、俺は動かした。国を向いていた竜の首が、明後日の方向に向く。
この下はまだ国の外。だから落ちても大丈夫だけど、流石に一発じゃ殺せない。
けどこの巨体じゃそこまで速くは動けないはずだ。だから避けまくってもう一発デカイのキメてやる。
黒い竜は体はそのままに、首の先が別の方向を向いている。
その巨体が急に回転した。
ちょ、避けれね
体は俺の何倍もデカイのに、そのスピードは俺を超えている。流石SSか。俺の剣も砕けて壊れた。
黒い竜がこっちを向いた。溜めてたブレスは攻撃されても健在だったらしい。魔剣が壊れたから、ただ落下することしか出来ない。
なんだか周りがゆっくりに見える。
油断大敵だって本で知ってたのに、忘れてたな。
「待てと言っただろ!」
「先生!? ブレス……が…………」
邪竜が体ごと大きくブレた。
「大丈夫か? 今すぐポーションを使う!」
フレイアのポーションにより、俺の体の損傷や疲労は一瞬で消え去った。
そして5人の姿が見えた。
なんか安心してきて、意識が遠くなってくる。だからよく見えないけど、まああいつらなら大丈夫だろ。
俺は抵抗しようともせず、ゆっくりと寝させてもらうことにした。
「邪竜は!?」
「アレを見ろ」
邪竜は何かと戦っていた。飛んでるアンデッドのせいでよく見えないけど、なんとか5人確認した。
辺りを見渡すと、どうやら町中にいるようだった。
名前も知らない冒険者が、俺の前で武器を構えている。そして後ろには一般人がいて、俺が起きたことをかすかに喜んでいた。
やっぱあの竜、気になるよな。
と思ってたら、竜の目が閉じて、ゆっくりと落下し始めた。
やっぱり勝ったんだな、あいつら。
「クロア、ラティナ、レシア、シーナ、フレイア。Sランクの私でも足元にも及ばなかった邪竜と戦い、倒した」
フレッドがなんか大声で言い始めた。みんながフレッドの方向を向く。
「彼女たちは、間違いなくSを超えている。フレッド・エイリーンが宣言する。彼女たちは間違いなく、SSランクだ!」
だれもがポカンとする。
おとぎ話でしか登場しないからな、SSランクなんて。
けどフレッドはSランク。さらに真面目で有名だし、人気がある。ただの一般人が言ってるのとは違う。
だからなのか、みんなそれを信じた。
「でもなんで、わざわざSSランクって言ったんだよ?」
「Sランク以上の肩書ともなれば、少しは行動が制限されるかと思ってな」
「なるほど、サンキュ。それとさっきもありがとな。死ぬところだったぜ」
「どういたしまして。それと、逃げたほうがいいのでは?」
「いや、むしろこっちから行く」
「何故ですか? わざわざヤンデレの場所に向かって、一体何を?」
「流石にあんな事があれば、ちょっとはマシになってるだろ。てわけで、行って来るぜ!」
ちょっとは反省しただろ。喧嘩なんてしてるから俺は死にかけたんだ。
国境の壁を超えると、竜の死体がすぐに見つかった。
しかしそこに行く前に、5人が現れる。
「大丈夫だった? ごめんね? 私がもっと強かったらレイを守りながら戦うことだって出来たのに」
「守らなくても大丈夫だって、別にあれから逃げるくらい楽勝だからさ。だから次からはちょっとは信頼してくれよ?」
「本当に大丈夫?」
「もちろん。あとお前ら、俺が好きなのか知らねえけど、喧嘩すんなよ?
しかし全員頷かない。
……あれ?
「あと、あの竜を倒してくれてありがとな。おかげで助かったぜ」
「ホント!? ならご褒美ちょうだい!」
「ちなみにそのご褒美とは……?」
「デート!」
フレイアが笑顔で俺に向かって来る。頑張ってくれたみたいだし、可愛いし、俺は手を伸ばして受け止めようとした。
しかしその間にラティナ姉が立ちはだかる。
「ダメだよ、フレイアちゃん。レイは私のだよ?」
……悪化してない?
「レイバーン様は誰の物でもありませんよ」
レシアが俺の手を優しく握った。
「お疲れのようですし、城に来ませんか? マッサージやアロマなど、様々な手段で癒されることができますよ?」
なんか俺の手を握る力が強くなる。離さないってことだろうか。
急にガイコツが出てきた。かと思えばシーナの攻撃を防御した。しかしシーナは回し蹴りでガイコツの胴体を砕いた。
その破片が俺に飛んでくるが、それをラティナがバリアで守った。
「離してやったらどうだ?」
「あなた達から守る為ですから。これも仕方のない事です」
「物は言いようだな。どうせ監禁したいだけだろう? レイバーンに聞いたのか?」
レシアは無言で、大量の人型アンデッドを召喚した。
俺はレシアの手を振りほどこうとするが、強引に骨の飛竜の上にのせられた。
だがその骨の飛竜は、急にバラバラになる。
確かに骨同士は物理的に繋がって無かったけど、急になぜ?
「死霊術なら、私も使えるよ?」
「ですが私の方が上ですね」
また骨の飛竜が現れた。けど骨格がさっきのとはなんか違う。それにさっきとは違って、バラバラにならない。
ラティナ姉は普通に魔法で攻撃するけど、この飛竜かなり速いし、賢い。ラティナ姉の攻撃を上手くかわしていた
まだそこまで高くないし、飛び降りようかと思っていたら、クロアが高速で飛んできた。
そして俺に抱き着くように、レシアから俺を奪い取る。
俺はクロアに抱き着かれたまま、どこかへ連れ去られていく。
「レイ、今度こそ新しい場所に行こうね?」
「クロア、レイを離して」
「やだ、レイは私の! だよね?」
ヤンデレって治るのかな。
終わり




