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33話 子供

「そうなんだ……」


パンチ、キック、押し倒す。一体どれが来るかとおもっていたけど、普通に落ち込まれて、俺のいない方へ寝返りをうった。ベッドやフレイアは血で汚れたままだ。


「なあ、風呂借りて良い?」


「いいよ」




変装の時も思ったけど、予備って大事だな。物がたくさん入る袋の中に、大量の着替えを買ってきて入れておいた。そして獣人用のシャンプーを借りて、血をしっかりと落とし、俺は風呂から出た。


俺はパジャマにでは無く、少しラフな私服に着替えた。そしてフレイアのところに戻る。


フレイアは出たときと同じように、壁を向いて寝転がっていた。買い物にも行ったから、俺が出てから40分は経っている。


そんなに経てばとっくに寝てるか?


「起きてるのか? …………俺は帰るぜ、今日はありがとな?」


逆じゃないのか? ありがとうって言うのは。


「待って」


しかし寝てると思っていたフレイアが起きてた。起き上がってこっちを見てくるその目からは眠気を感じない。多分あれからずっと起きてたんだろう。


「私と結婚して」


あまりにも急すぎる求婚だ。口の周りが血で汚れてるし、ムードなんて全く無い。精神年齢から察するに、子供が年上にやりがちなあれだろうと判断した。


「悪いけど断る」


「ヤダ、私と結婚して。それとも他の人が良いの?」


「違う、いろいろあって結婚自体したくないんだ」


浮気がバレてSランクの俺が訴えられたら、評判が下がる。もちろん浮気しないという選択肢を選ぶ気は一切ない。


「なんで?」


「まあ色々あってな」


ゴリ押しだけど……押し切れるか?



「わかった……なら約束して! 他の女の人と結婚しないで。〇〇もしないで。それから他の人に食べさせないで! レイバーンが他の女の人とそういうことをするのを想像すると、なんだかもやもやして、女の人を殺したくなる」


「…………それは嫉妬ってやつだ。その感情を抑えるのが立派な大人だぞ。だから頑張れよ?」


「ヤダ。レイバーンは私の」


「わがまま言うんじゃねえよ。フレイアも自分のやりたいことを禁止されたら嫌だろ?」


「ふーん、やりたいんだ」


「あ」



自ら墓穴を掘ってしまったらしい。しかも思わず声を出してしまった。今更言い訳してももう遅そうだし、いっそのこと開き直った方が良さそうだ。


フレイアがベッドから降りた。少し怒りながらこっちを見て。


「なんだよ、別に良いじゃん。男なんてみんなヤりたいに決まってんじゃん」



何か嫌な予感がした……いや、予感じゃない。フレイアが足に力を込めている。どうせ強硬手段だ。いつまでただ黙って食らう気は流石に無い。今度は反撃してやる。


俺は身構えていた。そして案の定、フレイアの輪郭がぶれる。



俺はフレイアの接近に合わせて、一発ぶん殴ろうと思っていた。


しかし俺のパンチが良い感じに受け流され、俺の喉仏を殴られた。そういえば喉仏って急所じゃなかったっけ?


「あがッ!?」


そんなことを思う前に、激痛もだけど、のどに何か刺さって、更に息が出来なくなる。


それはそれは苦しくて、カヒューなんて言いながら悶絶していた。



フレイアが俺の口へ、雑にポーションの瓶を突っ込んだ。


その中身が重力によって俺の首を流れると、すぐに痛みは引き、呼吸も出来るようになった。しかしそれと同時に、なんだか体に力が入らなくなってきた。


この野郎、多分ポーションに何か混ぜたな? 前にシーナが俺に使ったやつとは違い、日常生活には問題ないほどには体が動く。


しかしそれはつまり、俺は一般人ほどの力しか出なくなったってことだ。身体の重さからそれを実感した。



「サンダー! 嘘だろ……なんだよこれ?」


俺には魔法がある。いちおう発動はしたけど威力が明らかに無い。魔力まで制限するのか?


一応フレイアにサンダーは当たったけど、こんな威力じゃもはや痛みすら感じてないんだろう。全く動じていない。


フレイアに肩を掴まれた。避けようとしても遅すぎて、拘束から抜けようとしてもビクともしない。


そうして俺は、フレイアに右肩を噛まれた。



またこれかと思った。しかし一向に肉を食いちぎられない。


一体何やってるのかとフレイアを見ていると、何か飲んでるのが音と首の動きからわかった。まさか血を吸ってるのか? 吸血鬼みたいなことしやがって。


ちょっと飲まれるくらいならまあいい。食いちぎられるよりかは痛くないからな。



なんだか気持ちよくなってきた。頭がフワフワする。確実にヤバいやつだ。けど頭が真っ白になってくる。のぼせた時と似てるな。


そうして俺は、貧血によって意識を失った。

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