30話 漁夫出現
クロアが全力でこっちに向かってくる。具体的に言えば音速の、あるいは俺の全速力の何倍もの速度で。しかし俺はさっきからその速度を体感していた。
だからギリギリガードすることはできた。しかし押されている上、クロアは片腕しか使ってない。だからもう片方が残ってる。
どうしようかと考えた時にはもう遅く、もう片方のケース付きの剣で腹を突かれる。
ケースはドラゴンの分厚い革で作られている。だから刺さる心配は無いけど、クロアの力が強すぎる、俺は吐き気を感じながら吹き飛ばされ、何本もの木を降りながら地面に転がった。
まだまだ死にはしないけど結構キツい。今すぐにでも吐きたいけど、そんな事してる余裕はありそうにない。魔剣に魔力を込めて、土と風の能力を発動させる。そして剣を振り、辺り一面に岩石の嵐を生み出す。
これでクロアが止まるとは思えない。けどそれでも足止めくらいにはなるはずだった。
木がボロボロになりながら吹き飛ばされ、辺りの見渡しがかなり良くなった。それと同時に、後ろにある微量な魔力の気配に気がついた。さっきまでは体外で魔力を使うことができなかった。つまり特殊な魔力とやらを、今の風で吹き飛ばせたのか?
しかし後ろを向く前に、後頭部を棒のようなもので殴られた。意識が遠くなるが、抵抗もできずに膝をついた。けど1分あれば復帰できる。だからどうにかして時間を稼げれば……。
「レイが悪いんだから」
話す調子にいつものような、悪く言ってぶりっ子のような雰囲気は無い。
「多分治せるし、こんな足切っちゃうから」
焦点がうまく定まらないけど、クロアが片方の剣を持ち上げるのは見えた。そして膝から下を切られた。痛くて思わず声が出てくる。
クロアが回復魔法を使ったらしい。傷口がふさがって、足の出血は止まった。でも太もものヒビが入った骨は治してくれてない。だからまだまだクソ痛い。
「治せよ、やりやがって!」
俺はキレて力任せに剣を振った。火と電気の能力を発動させたからかなり殺傷力は高い。けどこんな不安定な姿勢からじゃ大した威力もでず、クロアに少しもダメージを与える事は出来なかった。
「まだそんな事するの? なら腕も切るから」
「待って待って!? 頼むからやめてくれ! 悪かったから、な?」
必死に頼んでもクロアは止まってくれない。俺は足が無くてもどうにか逃げようとしたけど、激痛でうまく力が入らずに、転げて背を地につけてしまった。
この姿勢だとクロアがよく見える。
横から黄緑の何かが飛んできた。誰が使ったかは知らないけど、見た目は風魔法だった。
クロアが表情を変えた直後に、それがクロアの首を切る。そしてその血が俺の顔に飛んでくる。
だがその血は、同じ方向から飛んで来た火球に焼き尽くされた。少し焦げ臭い。
「やっと見つけたよ」
ラティナ姉が空に浮かんでいる。どうやら相当怒ってるってのが雰囲気から察せた。
「レイを傷つけるなんて。いくらクロアでも許さないから」
俺を見ながら喋っている。俺の足無いし、クロアの短剣血まみれだもん。そりゃ怒るわ。
ラティナ姉が俺の足を再生しようと近づくが、それをクロアが邪魔しようとしたらしい。
戦闘が始まった。俺の家や町中と違って、周りをどんだけ荒らしても問題は無い。だから邪魔なんてなにもない、SSランク同士の手加減なしのガチバトルが始まった。
……こんなの戦いの衝撃だけで国が滅びる。そう確信した。だってさっきからそこら辺の木が吹っ飛んでいる。
俺がやった岩の嵐。あれも木を吹き飛ばしてるけど、あれとは規模が違う。
少なくとも半径1キロが更地どころか、荒地になっている。
一般人は実感湧かないかもだけど、半径1キロはホント広い。学校のグラウンド10個分よりかは確実に広い。
そんな範囲が意図せず整地されている。俺もそれに巻き込まれてる訳だけど、流石に一ランク差の余波じゃ怪我はしない。けどコロコロ転がってる。
どうしようか。
多分ラティナ姉は、岩の嵐で特殊な魔力とやらが吹き飛ばされた時に、魔力察知を使ったんだろう。
まあ吹き飛ばすと言っても、ただの風では吹き飛ばない。魔力の籠もった風じゃないと吹き飛ばないはずだ。つまりクロアの短剣による衝撃波や、ラティナ姉の爆破魔法の爆風じゃ魔力に干渉しない。
まあ2人の近くは魔力が吹き飛んでるだろうけど、俺は今ちょうど1キロぐらい離れた。この場所じゃ俺を魔力察知で見つけれはしない。
俺は最高級のポーションを取り出し、起き上がって足にかける。それで痛みは残っているものの、骨折は治った。しかしなくなった足は生えてこない。
つまり俺に足の欠損を治す手段はない。俺の回復魔法じゃ骨折すら治せないし。
あの2人の戦闘は、一体いつになれば終わるのか。諦めるようには見えないし、あれはどちらかが死ぬまで続ける気だ。
こんな状態でも、腕力でゴリ押せば一般人よりかは早い。こんな俺に何が出来るって話だけど、だからって諦めれない。体はこんなんでも頭に問題はない。
「パパ……じゃなかった、レイバーン! あれ、なんで足なくなってるの?」
食人野郎のフレイアだ。もう2人よりかはマシかもだけど、それでも最悪だよ。




