20話 そして冒頭に戻る
俺は人混みの中を歩いている。
俺みたいなイケメンが、それも若くしてSランクになった男が、変装もせずに街を歩いていれば間違いなく騒ぎになる。
それもさっきのように、大国の馬車が来た時以上に。
だから俺は有名人がよく持っている、特殊な幻術で見た目を変える魔道具を使っている。他のやつの目には、俺はどこにでもいるフツメンにしか見えていないはずだ。
しかし弱点もあって、強いやつなら幻術を見破れる。Bの魔法使いなら見破るやつもいるはずだ。
まあ大衆を騙せれば大した問題は無い。現に誰も、俺を意思を持って見ている奴はいない。魔力察知を使えばそれがよく分かる。
範囲を限定すれば、位置だけでは無く、まるで見ているかのように形を判断できるからな。
だがそんな気配達が、1人分ほどのある一点を避けている。
この気配でいっぱいの人混みの中で、その一点は何の気配も無い。そこだけが不自然に空いている。しかもその場所は俺よりも速く動き、だんだん俺に近づいている。
だから数メートル程近くに来た時に、チラッと後ろを見た。
薄い茶色の折り目がある長いスカートと、黄色っぽい白色の長袖を着ている。まさに大人のファッションだ。
そしてどんな顔かと思ったら、シーナだった。黒髪ロングでエルフらしく耳が長い。それと目が合った。
一体シーナがどうやっているのかは知らないが、俺は人混みの中をあんなに速く進めそうにない。だから俺は逃げるのを諦めることにした。どうせこの人混みでシーナが出来る事なんて、限られている。
数秒程経過し、遂にシーナが隣に来た。
強引に手を引っ張られ、俺の指と指の間に、手の平同士をくっつけるように、シーナの指が順に入っていく。これは恋人繋ぎというやつだ。
だがシーナは俺が好きだからではなく、逃さないためだろう。
恋人繋ぎ、普通の繋ぎ方よりかは振りほどきにくそうだ。
「すぐそこに居酒屋があるけど、行くか?」
「ああ」
「そうか」
そして数回ほど来たことがある、居酒屋に到着した。ここは朝もやってる。最近そういうのが増えたらしい。
こんな時間だが、ここは朝から繁盛している。そしてスタッフにその中の一室へ案内された。
部屋は薄い木の板で遮られ、1面だけは木製カーテンのようなもので、隣の部屋とここを遮断している。だがやろうと思えば、隣で男たちがグチってる場所へ、突撃することだって出来る。
あのまま歩き続けたとして、体力はシーナの方が恐らく高い。それに時間を掛けても諦めてくれそうにも無かった。
だからいっその事、話してみることにした。どうやら今は落ち着いているようだからな。
「あんまり変なことは話すなよ? 見えないけど隣に人いるからな」
「なんでこんな場所に来た? 今からでも遅くない。もっと防音性の高い場所に行くぞ」
「ダメだ。お前の暴行対策にここへ来たんだぞ?」
いくら居酒屋はうるさいと言えど、ここの客層は結構良い。だから叫んだら間違いなく目立つ。
周りに他人がいて、ある程度の防音対策をされた休める場所。そういったらやっぱ居酒屋じゃないか? 壁が薄いとは言えど、個室だからな。それに適度にうるさい。
「で、どうしたんだよ」
「分からないのか?」
「……俺はお前のお気に入りだったな」
「ああそうだ。だからな、レイバー」
…………。
「まさかここでやるとは思わなかったぜ」
ナイフで刺されかけた。不意打ちされてもどうにか避けたが、刃の正面は濡れていて、恐らく毒が塗られてる。掠っただけで気絶するあれだろう。
だが一連の動作は、衝撃で落ちた箸の音よりも小さかった。となりの男たちにも異変はない。
「なあ、酒とか飲むか?」
「いらん」
「そうか。すみませーん、手羽先と焼き鳥一つ」
流石に何も頼まず出るのは恥ずかしいし、それに今はなんだか食べたい気分だ。
「お前これからどうするんだよ? もう俺は油断はしない、だから大人しく諦めな。それに俺には仲間がいるんだぜ?」
「クロアとラティナか」
「ああ、それにここだけの話、あいつらはSを越えている。つまりSSランクってやつだ」
シーナが表情を明らかに変化させた。あの無表情が……いや、結構変わってたな。
「やっぱ驚いてるな。ふざけた話だろ? しかもさ、ラティナ姉はまだしも、クロアが明らかに狂ってるんだよ。あいつ俺の生着替えを見たいなんて言ったんだぞ? クソ気持ち悪かったぜ」
「……そうか」
シーナがまた無表情に戻った。
「わりぃ、グチは興味なかったか」
「いや、興味あるぞ? おかげでいい脅しの材料が手に入った」
「……あっ。クロアならお前より俺を信じるはずだ。でもやめろ」
しかし何も答えてくれず、シーナが急にだまり始めた。それに何考えてるのかは、無表情だからよく分からない。俺は最後の鶏ももを食べながら聞く。
「どうした?」
「SSが4人来ている」
クロア、ラティナ姉。そして後は、レシアとフレイア? ふと出てきたが、レシアもフレイアも俺が倒した。けどシーナがSSが近づいているのに気づいたってことは、まさかシーナは……。
まあクロアとラティナ姉が、魔力察知で俺を見つける可能性は高い。さっさと逃げるか。
「釣りはいらねえから!」
会計で金貨を少々乱暴に置いて、若干走りながら店を出た。あいつら相手にスピードじゃ勝てない。人混みに隠れよう。
そして店を出たその直後に、俺は吐血しながらブッ飛んだ。
「ブゴォッ!?」
腹を殴られた? でも一体誰に。
俺はそのまま国の外へ吹き飛び、草原に落ちても勢いは落ちずに、何十メートルも転がって止まった。
意識はまだある。けど体中が痛すぎて、まともに動けない。そんな所にシーナが現れた。
「またかシーナァ! 我慢しろ!」
「断る。お前を諦めっ!? クソ!」
シーナが消え、あたりから金属音が鳴り響く。
「ごめんね、レイ? 今回復するから」
何故かラティナ姉がいて、見たことも無い回復魔法を発動した。そして10秒ほど使用し続け、俺の体の問題は、全て消え去った。つまり右腕が動くようになった。
「サンキューって言う前に、お前右腕治せるんじゃねえか。なんであの時使わなかったんだよ」
「だって、お世話したかったんだもん」
お世話したい……? いや、姉だし甘えられたいのか?
辺りを見渡すと、シーナがクロアとレシアのアンデットに襲われていた。そしてやっぱりフレイアもいて、こっちに近づいてくる。
「パパー」
キンキンドカドカうるさかった騒音が、急にピタリと止む。
そして4人がフレイアをすごい目で睨んでいる。
「どうして昨日私を置いていったの?」
「そういえば言ってなかったが、俺はレイバーン・カトラスだ。そしてお前にはまだ修行が必要だ。だから置いていった」
修行なんてただの出任せ。ただ命の危機を感じた、それだけだ。
「やだ、パパと一緒にいる! 交尾したいんでしょ? 私なら出来るよ!」
恐らくフレイアに向いていた殺気が、俺に向いた。もちろん全員。
「あれ? 交尾するからパパじゃないから、レイバーン!」
「おう、そう呼んでくれ」
現実逃避したい気分だ。無垢な子供を騙したと思われているのか、殺気を向けられている。
「レイ、どういうこと? その女」
「レイは私が好きなんでしょ?」
「その子供がいいのですか? 私では無くて……」
「そういう事か。どうやら敵は相当厄介のようだな」
1名明らかに変なことを言ってるし、他のやつが言ってることもなんか変だが、そんな場合ではない。さっきから皆、相当怖い。
「別にいいだろ、俺が誰を選ぼうが」
「やっぱり私以外なの?なんで私以外を選ぶの?私って何が足りない?見た目?強さ?お金?性格?学力?私は全部最高でしょ?レイがとっても大好きだからレイの為に……頑張ったんだよ?一体何が足りないの?私じゃダメなの?ねえ!」
「レイは私が大好きなんでしょ?恋人になりたいんでしょ言ったよね約束したよね?だから私達はもう実質恋仲だよ。なのになんで浮気するのかな?今まで36日間ずっと寂しくて、夜も寝れなかったのにその間レイは浮気してたって言う事!?」
急に早口大会が始まった。しかもクソ長いし、何言ってるのか理解できない。まあ一つ言うとしたら、質問は1、2個ずつにしてほしい。
早口長文、俺が好き…………ヤンデレか? 本で見たことがある。
確か病むとデレるが合わさった言葉で、嫉妬心が強くて、好きな人を拷問したり監禁したり。
まさか、こいつらは"ヤンデレ"なのか?
「ねえ、レイは誰が好きなの?」
そんなのこれに決まってんだろ。
「もちろんみんな好きだ!」
「誰か1人で!」
だよねー。
「もちろん異性としてだよ?」
「私じゃ無いと言えば、分かっているな?」
「レイバーン様?」
「イセイとして?」
ああ、そういえばあの小説に、こんな場面があったな。
「俺が誰を妻にしたいかって意味だ」
「じゃあ私だ!」
「黙れガキ、食ったなお前」
本当は幼くはないが、幼そうなやつにもシーナは遠慮なく接している。
SSランクの女5人が、俺を無言でじっと見つめている。
…………冒頭に戻ろう。
俺は童貞イケメンSランク冒険者、レイバーン・カトラスだ。
ガイラント王国立学園戦闘科の2学年。そして顔と強さのおかげで超モテモテ。
だけど夢はハーレムを作ること。
しかし、どうやらこの4人はSSランクのヤンデレのようだ。
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