2話 狂行への第一歩
俺はCランク冒険者になった。
けど正直微妙だった。Dが冒険者の平均だと聞いたからな。平均の上なんて、Sを目指す俺にはショボい。
だがそれでもこんなことは、今までに無かったらしい。更に強さだけ見れば武器が木の剣でも、確実にBはあるとのこと。
だからなのか、俺の噂がたった数時間で国中に広がり、有名になった。『12歳で、武器が木の剣なのにBランクの少年が居る』と。
今思えばかなり凄い事だ。成人もしていないのに、既に最強まであと2段階。当然その2段階は大きいが、他と比べて何年か時間がある。それも、成長速度が速いといわれる、子供の時間が。
その日はお祝いになった。親がかなり値の張る肉を買って来て、有名店のケーキを買ってきた。
更に父の知り合いの鍛冶師とやらが突然来て、剣をプレゼントしてくれた。
後から分かったが、そいつは有名な鍛冶師で、剣はミスリルやオリハルコンなどの希少鉱石。ドラゴンの素材や技術を惜しみなく使った、1000万を超えるほどとてつもない高級品だったらしい。
俺にはそんな事わからなかったが、父にはわかったらしく、それを断っていたが、『なら名前を使うぜ。そうすればこれの材料費くらい、すぐに稼げるからな』
そう言って俺に剣を渡し、簡単にメンテナンス方法を教えてもらった。しかも店に持ってくれば、タダで見てやるとまで言い、帰って行った。
Bランクの時点で、年収1000万は稼げるらしい。親は少し心配していたようだが、それでも祝福してくれた。
姉のラティナ・カトラスと、幼馴染のクロア・ハーティアも祝福してくれた。だが表情を見ると、あまり喜んでいるようには見えなかった。
何故だ? 俺達は仲が良かったはず。最近は遊ぶことも無くなったが、幼い頃は常にこの3人で行動していたはずだ。
俺が強くなっても、2人には何の不都合も無いはずだ。疑問に思っていたが、俺は心配しているから、といった結論で済ませた。
そして俺は学園の戦闘科に入学した。学校は義務教育と言われているが、学園は任意。
そして戦闘科って言うのはマイナーな学科で、戦闘や戦略などを学ぶらしい。戦略ならまだしも、Sランクを目指す俺には平均的な人のための教育など、受ける必要が無いかもしれないが、まだまだ基本ってやつを知らない。
それに、学園にはとあるSランクの講師がいる。だから都合がいい。俺になにか教えてくれそうなSランクは、あの人しかいなかったからな。
入学するには試験を突破する必要があるが、俺が突破できないわけもない。
俺と相手の武器の影響もあり、実技試験ではAランクの試験官を倒して見せた。
ちなみにクロアは同じ戦闘科を受け、無事合格。試験の様子を見ていたが、正直言えば特に何の特徴も無く、平均的だった。まああいつ、確か運動は得意じゃ無かったはずだからな。むしろよく平均まで成長できたものだ。
そしてラティナ姉さんは、魔法科の4年生。よく試験が難しいとか愚痴ってるあたり、あまり強くないようだった。
その当時、学園の学生の中で、一番強いやつがAランク。戦闘科の5年生で、貴族だったそうだ。
戦闘科卒業者の平均がE。2番目や3番目でもそれぞれBランクとCランク。かなり突出していると分かる。
そしてその貴族はいい人だったんだが、実際は違った。
俺と2人きりになった時に、「調子に乗るなよ」とか「いつでも潰せる」とか言って脅してきやがった。
どうやら学園最強の称号はかなり使えるらしく、俺に実力を隠すことを要求してきた。更に友達とか家族を人質にするとまで言われたからな。
相手は俺より強いし、恐らく仲間もいる。俺一人なら逃げるくらい簡単だ。だが人質を守りながら逃げるのは、さすがに不可能だった。
大人しくあの貴族に言われた通り、目立たず生きるか。先生にチクって立ち向かうか。
俺が考えた選択肢はその2つだった。
どちらにもメリットデメリットがある。けど今すぐ決める事でも無い。だからその日は寮に帰って寝た。
学園から家は微妙に遠い。姉はいつも帰って来ていたが、俺は面倒くさい。なので俺は寮で暮らしている。
だがなぜか、姉が俺に合わせるように、寮生活に切り替えた。あの時は俺が好きなのか? としか思わなかったが、今の俺に言わせてみれば、少し補足が必要だ。
そして脅された次の朝、急にその貴族に呼び出されたかと思えば、土下座された。
また脅されるとか、リンチされる、みたいな方向で考えていたが、そこに土下座だ。あまりにも想定外過ぎて、俺は動こうと思えなかった。
俺はそのままだと、数分は止まっている事になっただろうが、それを土下座し続けている貴族が止めた。
確か、謝罪されたんだったっけな。
それ以外にも強くなるためのサポートをするとか、新築の別荘くれるとか。今までの行動パターンからは想像も出来ない、俺にとって都合の良い提案ばかりしてきた。
そしてマジで練習相手になってくれたし、新築の家をクソ高そうな家具付きでくれた。
ただあまりに広すぎるから、親でも呼ぼうかと思った。それを偶然あったラティナ姉に話したら、「父さんと母さんは、こっちに来ないって言ってたよ」と言われた。
何でそんな事言ってたのかは知らないが。俺のせいか? 確かに、ウチの親は都会嫌いなところがあるから、こっちには来ないだろうし、わざわざあっちまで確認しに行くのは結構面倒だ。
けど俺は寮で暮らすのが良かった。元々寮で十分だったし、あまりにも広いのは落ち着かない。だから精々ダチの集まりで使うだけだ。そう思った。
そして寮に帰ろうと思った時に、なぜかクロアと姉が、一緒に帰ろうと言ってきた。そして言われるがままに連れてこられた場所は、あの貴族に貰った家だ。
しかも、なぜか家の鍵まで持ってた。こういう高い家の鍵は、かなり複雑だ。合鍵を作ろうと思ったら、大金と何日もの時間が掛かる。
だが俺が何か口をはさむ前に、美味しそうなご飯が用意され、風呂と歯磨きを済ませたら一緒に寝ることになった。
これがあいつらの、狂行への第一歩だったのかもしれない。




