12話 パパ!
「なあ、どうしたんだよ? ここは大人向けの場所だぜ。迷ったのか?」
俺はなるべく優しく。いや、いつもと変わらない口調で話しかけた。
だが少女は俺をじっと見つめて、何も言わない。そして俺の勘が、こいつは俺に惚れたと言っている。
もしこれが逆なら、俺はロリコンっていうヤバい人になるが、惚れてんのはこの子供だ。別におかしな話じゃない。
「あ、……うん」
「家がどこか、分かるか?」
「ない」
ホワイ? ここは観光業で結構儲けてる。生活保護や、孤児向けの組織もかなり整備されているはずだ。
まあ良いか、さっさと孤児院にでも連れて行こう。
「何があったのかは知らねえが、それなら俺が孤児院にでも連れて行ってやるよ」
妥当な選択肢だろう。引き取る財力はあるが、俺の思考は教育に悪い。間違いない。この年でハーレム作ろうだなんて真面目に考えているやつだ。
だから良さげな所に連れて行って、俺にとってはそこそこの金を寄付する。これで良いはずなんだ。
「やだ! 戻りたくない!」
しかし少女は急に表情が曇り、泣きそうな顔になった。
「待って待って、分かったから! ほらこれやるよ!」
俺は干し肉とチョコレートを取り出す。
そしてこの少女は当然のように、干し肉にかぶり付いた。別に獣人だからって、肉好きな訳じゃない。こいつ猫の獣人だし。猫って一体何食うんだろうか。
まあそんなことはどうでも良い。それよりも戻りたくないと言った辺り、孤児院でなにか嫌な思いをしたんだろう。それで逃げたってわけだ。
そんな事件を聞いたことはあるが、この国金持ちだぞ? 孤児院も国営しか認められて無かったと思うし、職員やらの精神状態は問題ないと思うんだが。
だが調査するにも、こいつを1人に出来ない。誰かに預けることも出来ないからな。信頼できる知り合いも、ここには居ない。
まあ今日はさっさと帰って、寝るか。仕方ないよな。
「じゃあ今日は俺と寝るか?」
「……今日だけなの?」
「いや、明日も明後日もだ。俺は教育に悪いからな。だからしっかりとした里親探すまでは、俺と寝ることになるけど、良いか?」
だが里親探すと言った辺りで、また涙ぐみ始めた。
まあ、正直予想はしてたよ。最初に助けたのが俺だからな。当然俺への好感度は高いだろう。
「やだ、パパが良い!」
"パパ"
パパ? パパが誰のことか、俺は知らない。だがパパが誰なのか、誰でも察しが付く。
「パパって、俺?」
「そうだよ?」
何いってんのコイツ? そんな思いがはっきり伝わった。
「そうか、……俺はパパなのか」
「うん!」
身長から見るに、こいつは10歳だろうか。俺の肩よりも低いし、150cm以下だ。
10歳が17にパパ呼び。…………まあ、セーフか?
「乗りな。おんぶしてやるよ」
「うん!」
まあ可愛らしいし、これでいっか。猫獣人の少女とか、すごい癒やされそうだ。
「俺はレイバーン・カトラスだ。17歳でガイラント王国立学園の2年生だ。そういえばお前の名前は? 年はいくつなんだ?」
「私はフレイア・タルテ、16歳!」
嘘だろ? とは思うが、コイツがこんな所で嘘をつくはずがない。つまりコイツ、フレイアは16歳だ。
そして16歳の女が17歳の俺をパパって呼ぶんだ。
流石にキツイだろ。
俺は学校の一個下の女の後輩が、パパって呼ぶのを想像する。
後輩はとてもかわいい。そしてその後輩と廊下で出会い、その後輩は俺のことを、満面の笑みで、パパと言う。
どっからどう見てもキツイ。当たり前だ。ふざけてんのか?
しかし、そんな事をフレイアに言うわけにはいかない。だから黙っておくことにした。どうせパパ呼びやめさせようとしても、また泣くんだろう。俺は分かるぞ。
「パパー」
「おーう……」
疲れる。精神面で。
ぱっと見は言動相応の年齢に見えるが、後ろのクソデカい胸を見れば、その認識は変わる。人によっては成人済みと思うまである。
幸いな事に、眠いのか声は小さめだ。だがそれでもフレイアは目立つから、注目を浴びているのが気配で分かる。こうなりゃ路地裏に行こう。土地勘が無いから行きたくは無かったんだけど。
だがしばらく進む内に、前方から4つの気配が接近しているのが分かった。
しかも、それ以外にも結構いる。右左後方の全方向で、合計10人もいる。
これは人さらいだ。初めてあう。しかもなんか多いし、また大きな組織が関わっているのかも知れない。
「よう、兄ちゃん。分かるだろ? その女と持ち物、全部置いて行きな」
ピアスとタトゥーをしている男、まあほぼ全員そうなんだが。見分けつかねえな。
「断る」
「へっへっへ、そんな事言ったって、お前ボコして、無理やり奪うだけだぜ?」
さっきとは別の男が不敵な笑みを浮かべ、脅してきた。
フレイアも怯えてるだろう。だが16歳とは言えど、コイツに戦いを見せたくはない。
俺はその場で軽くジャンプし、屋根に飛び乗った。そしていい感じの場所に、フレイアを置く。
「良いか? ここでおとなしく待ってるんだ。そして絶対にこっち見るんじゃねえぞ?」
「うん、わかったパパ!」
そして俺はフレイアを一撫でし、飛び降りた。




