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サラリーマン聖女の暇つぶし  作者: 高山小石
壱.ドラゴン大魔王(偽物)との決戦
2/2

「貴女が噂の聖女ね?」


 司祭様に王都の大聖堂に連れてきてもらった。

 はずなんだけど、目の前の光景はなんていうか、高級クラブ? 異世界だけに高級娼館? いや、後宮?


 そんな美女がずらりと出迎えてくれた。


「詳しくは彼女たちの方が詳しい。後は頼んだぞ」


 司祭様はさっさと行ってしまった。

 おろおろする自分に、美女たちはきゃわきゃわと寄ってきた。


「なんて可愛らしいんでしょう!」

「見てよこの金髪、輝いているわ!」

「年齢よりも幼く見えるわね」

「こんなに小さいのに、私たちの何人分も効果が出せるなんて素晴らしいわ!」

  

「はいはい、ちょっと静かにしてちょうだい。みんなが聞きたいのはそれじゃないでしょ?」


 まとめ役らしい聖女の静かな声に、聖女たちはおとなしく席に戻った。

 席をすすめられるまま自分も腰掛けると、興味津々な様子で見つめられる中、


「で、貴女、タチなの? ネコなの?」


「……は?」

 

 え、空耳? ここ大聖堂で、聖女しかいないよね? 

 

「貴女、そんな美しい姿だと、聖女を保つのが難しいでしょうから、早く技術を身につけなさいな。私たちは純潔が大事なのよ?」


 いやいや、純潔とタチやネコは反発し合うものじゃないですかね?


 固まってしまった自分に「仕方ないわね」と説明してくれたところ。

  

 聖女効果に必要なのは『お祈り』と『純潔』。

 純潔をなくすとどれだけすごい聖女でも力が減ってしまうので、純潔大事。

 ここ大聖堂には力の強い聖女だけが集められていて、みな聖女妃候補らしい。


「聖女妃ってなんですか?」


「魔王を倒す時に同行できる、その時に一番強い力を持つ聖女のことよ」


 なんと魔王は結構な頻度で発生するらしい。

 発生すると、発生場所に一番近い国の討伐隊が派遣されるようになっているとか。

 討伐隊には必ず一人王族がいて、派遣された聖女は魔王討伐後、王族と結婚して聖女妃となる。

 結婚後は国公式の聖女、聖女妃として公務に励むらしい。


「結婚したら聖女効果は減るのでしょう?」


「だから技術がいるんじゃない」


 結婚してからも純潔を守りつつ王族を離さないような技が必要らしい。


 いやいやいや! 純潔って、もっとこう清らかなものじゃないの?


「あのね、そんなきれい事だけじゃ討伐だってできないのよ? 魔王がいる場所に行くまでにも何日もかかるの。その間に純潔を失えば力も失うのよ?」   


 自分の身を守るために相手を満足させなくてはならない、と。


 いやだから、聖女だよね? 


「どうせ結婚するのだからと迫ってくる王族をうまくあしらえてこそ聖女ですわ!」


 えええ……。


 先達からの検証によると、同性同士では純潔はなくならないのだとか。

 異性と子どもを作る行為だけが、聖女の力を失わせるらしい。


「私たちが練習相手をするから大丈夫よ」


「純潔を散らされそうになった時のためにも技術を磨くべきよ」


 聖女とは、純潔とは、女って…………。

 司祭様の「報酬がお金とは可愛いもんだ」みたいな態度の理由がわかった。


「すみません。そもそも自分、男なんです」


「まぁ、ちょうどいいじゃない! でも簡単に女に籠絡されちゃダメよ!」


「大丈夫です。女性に対してそんな気持ちにはならないので」


「あぁ……。もしね、だれかとても愛しい人ができた時に力を失わなくても、それはそういうものなのよ。あなたたちの気持ちが偽物ってわけじゃないからね」 


「私たちは神様がゆるしてくださっているんだって思うようにしているわ」


「……はい」


 その言葉に、農場の息子のことを思い出した。

 農場の息子は、自分が教会で暮らしている時から何回か一時預かりで教会に来ていた。

 初めて会った時に一目惚れしたとかで、やたらめったらかまってくれた。

 騙してるみたいで悪いから、正直に「自分は男だ」と伝えたところ、「信じられない」とつっぱねるので、見てもらって納得させた。


 それでも諦められなかったようで、自分が農場で働くようになってから、夜に呼び出された。


「もしこれで聖女の力を失ったら、この農場で養ってやる」


 まるでプロポーズのような言葉をもらったので、行為をゆるしたのだが。

 聖女の力は失わなかった。

 失わないことがわかってからの息子の体力はすごかった。

 何度、黄色い太陽を拝んだことか。聖女の回復力にどれだけ感謝したか。


 微妙に心にひっかかっていたところを先輩聖女に受けとめてもらい、数々の技術も伝授してもらいながら、災害地域の復興を行った。


 復興が無事に済んで、大聖堂に戻る頃にはすっかり皆と仲良くなれていた。

 女子校ってこんな感じかなとか思っていると、魔王が復活し、自分が討伐隊に選ばれた。



「そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」


「は、はい」


 王太子が優しく言ってくれるが、今回の魔王はドラゴン型で、しかもかなり大型らしい。   

 エルフの知識で、見たこともないのに、硬くて獰猛なドラゴンの姿が脳裏に鮮明に浮かび上がる。

 ドラゴンは長寿でかしこい生物だ。とても簡単に勝てるとは思えない。

 国の精鋭部隊が一緒とはいえ、怖くて仕方が無い。

 馬車の中でガタガタ震えていると、「これは話す予定じゃなかったのだけど」と王太子は口を開いた。


 魔王討伐は茶番なのだ、と。

 最高の聖女を国民納得のうえで国が手に入れるために打つ芝居なのだ、と。

 つまり最高の座敷童効果を最大限に引き延ばすために、時の権力者が聖女を囲うためなのだ。


「魔王討伐の後は私と結婚してもらうけれど、君の貴重な聖女の力をなくさないために決して交わらないので安心してほしい。聖女妃としての務めを果たしてくれれば生活は保障する。その代わり、私は王太子だから、王家の血を繋ぐために側室を娶るのを許して欲しい」


「そもそも自分は男だから側室は全然構わないです。むしろ旅の間なぐさめが必要ですか?」


「え? いいのか?」


 結論からいうと、良くなかった。

 王太子は先輩聖女直伝の技に骨抜きになってしまった。


「君がいれば側室もいらないよ」


 いや、いるだろ! しっかりしろ王太子!


 困った状況になりながらも、魔王がいるという場所に到達した。

 皆でドラゴンを囲って、攻撃のタイミングをはかる。

 ドラゴンはずっと怒っているような声を上げ続けている。


「凶暴そうだな!」

「皆、油断するなよ!」


 なんかこれ、怒ってるんじゃなくて、嘆いている?


 よくよく聞いてみると、エルフの能力かドラゴンの声が聞き取れた。


『怖いよー! ここどこー! 帰りたいよー! 動けないよー!』


 どうやらドラゴンは子どもで、無理矢理さらわれてきたようだ。

 しかもなにか魔法がかけられていて、体を大きくされて、逃げられない状態になっている。


 ちょっと待て。

 この茶番は魔王側も納得済みのものじゃなかったのか?

 人間側だけで勝手に仕込んだものなら、魔王側は被害者じゃないか。

 なんとかあの子を逃がしてやりたいが……。


 気をもんでるあいだに、攻撃が始まってしまい、ドラゴンの悲鳴が上がる。 


 どうすれば……なんとか話すことができないかな。

 エルフの能力で他種族との会話ができないか試したところ、念話ができた。


『なんとかして助けるから、目の前に自分が飛び出したら、攻撃しないでつかんでほしい。力を合わせれば魔法を解除できるはずだ』


『わかったよ!』 

 

 王太子をかばうタイミングで飛び出たところ、うまくつかんでもらい、ドラゴンと一緒に魔法を解除する。

 聖女がドラゴン側にいることと、小さくなるドラゴンに驚いて、攻撃の手が止まっている間に、ドラゴンの背に乗せてもらって大空に上がる。


『助けてくれてありがとう!』


『いや、こっちこそ悪かった。自分の巣がわかるか?』


『だいたいわかるよ! あ、おろそうか?』


 王太子がなにか叫んでいるが、このまま自分はいなくなった方が王太子のためにもいいだろう。


『いいんだ。一緒にいってもいい?』


『いいよ!』 


 ドラゴンとは相性も良かったみたいで、大空の旅は快適だった。


 ドラゴンの巣はけっこう離れた谷にあった。

 ハーフエルフだったこともあって、谷のドラゴンから攻撃されることもなく感謝された。

 捕まっていたドラゴンの親からはドラゴンの祝福をもらった。


『ありがとうございます。どんな効果があるのですか?』


『これはね……』


 全部を聞き取る前に、見知らぬ森の中に一人立っていた。

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