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お待たせし過ぎました…すみません
選考大会の表彰式が終わり、生徒は解散した。
俺達も他の生徒と同様に寮へと帰った。
明日から三日間の休日だ。生徒の殆んどが大会に参加し、負傷者も多い事から、療養の為に休日が設けられているらしい。
ルデンは机に面を向かって、療養ではなく、勉強をしている。真面目だな。
聞けば、次の登校日の二週間後には定期試験があるとか。
定期試験か…試験勉強に思い出は無いな。ルームメイトでもあったヴァールデンと一緒に遊んだと言う記憶しかない。
先ず、勉強と言うものをこの学校に在籍していた頃にした記憶すら無いのだ。授業中、殆んど寝てたような気がするし、何もしなくても点数は取れてたし。
「メルヴェル、五十年前と今。試験の大まかな内容は変化無いな?」
今日は偶々、休日であったメルヴェルに聞いた。
「変化はありません。筆記試験と実技試験のままですね。実技の方は、的に魔法を放つだけです」
別に変わってても何もしないが、変わってなかった。
「赤点って、何点位だったか」
「今も昔も三十点以下です。赤点は補講と追試が課せられます」
「各教科でか…」
「はい」
そうなると赤点を取れば、ルデンと離れなければならない。つまり、赤点を取らないギリギリの点数に押さえなければならない。三十一点となる。
俺は魔法を発動出来ない体を取っていた。実技試験の場合、ゼロ点となり、補講と追試が免れ無いだろう。それは不味いと思われる。
「最下位魔法で何点位取れそうだ?」
「魔法を評価する試験監督の教師によると思いますが、赤点でしょうね」
「もし、最下位魔法で的を壊した場合は?」
「加算されると思いますが、少し判りません」
「軽く《雷撃》でも放っておくとしよう。的も破壊しないようにして」
「魔法の痕跡が解りやすく残しておく事をお奨めします」
「仕方無いよな」
次の実技教科で少し練習するふりをするか。
そう言えば、座学教科に『魔法師団団長殿の歩み』と言う教科があった気がする。つまり、点を取らない様にするには、自分に嘘を付かなければならないのか。
「只今、戻りました」
今までカロサが何処に居たか気にもしなかったのだが、買い出しに行かされていた様で、上空を飛び、部屋の窓から入ってきた。
「団長殿、私はこれからカロサと御昼食を御作りしますね。用があれば、いつでもどうぞ」
「私は帰ってきて疲れてるのに!?…何でもないです、メルヴェルさん…」
メルヴェルは一瞬、カロサに殺気を飛ばしていたようで、カロサはメルヴェルに従うように後に付いてった。
「解らない所があるんだけど、質問しても良い?」
机に向かっていたルデンが俺に話し掛けてきた。
「答えられる範囲なら、教えてやる」
「有り難う。これなんだけど…
『団長殿の御実家リヴァーフォールズ辺境伯爵領へ王都から行く最短で掛かる日数と、その時に寄る道を詳しく説明しなさい』
って言う問題」
「往復なのか?その問題」
「いや、往復じゃないと思うけど」
「魔法が使えるだろ」
「うん」
「無属性魔法の《瞬間移動》と言うとても便利な魔法があるだろ」
「つまり?」
「最短日数は一日。《瞬間移動》を使えば一瞬で里帰りが出来る」
緊急事態になった時に。
特に何も無い時は、馬車を乗り継いで行くが。
「大体の人が使えない気がするんだけど…」
「メルヴェルとかも使える。練習すれば、何れルデンも使える様になるだろう」
「でも、その答えが合ってるかどうか判らないから、先生に聞いてこようかな」
結局、俺の回答は意味があったのか否か。
***
メルヴェルに少し外出してくるとだけ伝え、ルデンと共に学校に向かった。
学校は休日だろうと誰かしら教師は居り、開いているのだ。
「それ、何の教科だよ…?」
「えっとね…『魔法師団団長殿の歩み』だったかな」
本当によく解らん教科だ。人の個人情報を授業に取り扱うよな。
俺の前の前任者だって居た…筈?なのにな。
ちょうど、教科担任であるシュンデインにすれ違い、ルデンが呼び止めた。
「この問題なんですけど…」
「乗り合い馬車を乗り継いで、三ヶ月掛かると言われていますが、団長殿本人がどのルートで、どのくらい掛かるかは残念ながら詳しく知られていないのです。ですが、学生時代、長期休暇期間中には往復出来ていたらしいのですよ」
「そうなんですね。所で先生はリヴァーフォールズ辺境伯領には行かれた事はありますか?」
「私ですか?そうですね、行った事はありませんね。休学届をお取りになられて、行ってみては如何ですか?この場合、留学扱いになりますので」
「どんな場所なのか気にはなりますが、休学してまで行くのは流石に…」
「そうですか。では、何時でもお声掛け下さいませ、殿下」
「有り難うございました」
シュンデインは去っていった。
「アヴィル、答えが全然違うけど?」
「俺は間違った事は言っていないが」
そう言えば、ナシェリアも三ヶ月位掛かると思っていたって、言ってたな。
「まあ、嘘を言っているとは思えないんだよね…かと言って、シュンデイン先生が教えてくださった事も事実だと思うんだよ」
「何が言いたいんだ?」
「一日、どころか半日すら掛からないんでしょ?連れていってよ」
「は?」
「だから、アヴィルの領地にさ」
ルデンは片手を差し出している。
「ほら」
「断る」
「何で?」
「行っても詰まらない所だし」
今となっては、人一人居ない廃村状態。人の血の臭いが漂うだけ。
それに、一度以上、元魔王(現魔神)の現れた地にルデンを連れて行くのは危険だからな。
「ふーん…じゃあ、今はいいや。何時か連れてってよ。僕が国王になる前に」
「覚えていたらな」
「忘れないでよ?」
「さあな」
ルデンが国王になる前に迄に事が片付けば良いが…。
***
翌日。
あれから、俺達は部屋に戻った。ルデンはずっと試験勉強。
「…する事が無いな。世は意外にも国家間では平和だし」
偶に、ルデンが解らない所を聞きに来たりする程度しかやる事が無い。本当に一時間に一回はあるか無いか程度なのだ。
「暇だ」
「良いじゃないですか、平和で」
「今日、この時は、な」
「私は団長殿と同じ空気を吸えている今がとても幸せですよ」
「そ、そうか…?」
「そうですよ」
メルヴェルさんの素敵な笑顔が一瞬、ちょっと怖く感じた。
「ルデンくんは勉強してるけど、アヴィルくんは勉強しなくても良いの?」
そこへ同じく暇なカロサが聞いてきた。
メルヴェルは、舌打ちしてからカロサに言った。
「この御方は団長殿であるのを存知無いのか、この駄女神」
「駄女神じゃないわ…です」
「メルヴェル、それぐらいにしておいてやれ。まあ、俺は一応、この学校は卒業してるしな。勉強しなくても別に良いだろ」
「そ、そ言うものなの…?」
「ああ。でも、日本に飛ばされた時は困ったな」
「うっ…」
特に言語が全くを持って違うところだな。
この世界の言語は国によって多少異なるが、日本で言う方言の違い程度しか変わらないからな。救いだったのは、言っている意味は何となく判るところだろう。
後、魔法も剣も使わない世界だったと言う事と、平均身長が高い事。
俺はこの世界の平均身長より低い(ルデンやマリアンローナよりも低い)のに、更に日本はこの世界の平均身長を超えている。俺は、白鳥さんと同じか、それよりちょっと低い身長だった。…普通に悔しい。
「そう言えば、勇者共は召喚されてから直ぐにこちらの世界の言語と会話出来ていたんだ?」
「それは勿論、転移・転生補正が付くからよ」
だから、勇者として召喚されたクラスメイト達は普通に話せたのか。
「日本に飛ばされた時、そんなもん無かったが」
「そ、そうだったかしら?」
目を逸らすな、目を。
「団長殿、大丈夫でしたか?」
「まあ、何とか乗り切れたな」
「流石は団長殿です!」
今回ばかりは大いに誉められよう。
「で、でも、アヴィルくんだったら、直ぐに還って来られるんじゃないの…?」
「言われてみれば、そうかも知れないが、大掛かりな魔法陣を日本の何処で描くんだ?日本は建物や、車が通る道、それ以外は全て誰かの所有する土地。そんな場所で描けないだろ」
「アヴィルくんなら、《転移》の魔法陣無しでもいけるんじゃないの…?」
「必ずこの世界に帰って来られるとは限らないだろう?魔法陣有りなら、改良して場所と時間指定が出来る様になるかも知れないな」
「団長殿は素晴らしい御考えですが、流石に《転移》の場所・時間指定が出来る様になりましたら、《勇者召喚》と《勇者送還》の魔法の意味が無くなりませんか?」
《転移》の時間指定版の《勇者召喚》と《勇者送還》ね。確かに、意味は無くなるかも知れない。
「それは大丈夫よ!《勇者召喚》は特別強い又は強くなりそうな異世界に居る人間を探し宛て、その周辺の人を巻き込んで召喚するから」
特別強い…?
この間の召喚は、俺と俺の周辺に居た人が召喚されたと言う事なのか?
「つまり、《勇者召喚》のお蔭で俺はこの世界に帰ってこられたと言う訳か」
「あの勇者共は特別強くも、強くなりそうと言う訳じゃなかったのか。私が勇者共の為に割いた時間を返して欲しいものだな、カロサ」
「あっ…で、でも!アヴィルくん、まだあと四つ願いが叶えられるけど?一夜限りになるけど、メルヴェルさんを若返らせる事も出来るわよ…!」
(私を若返らせる…!?つまり、団長殿と…)
「全てが片付いたら頼もうか。今はそれどころじゃないから」
(そ、そうですよね…団長殿)
何故かメルヴェルの表情が一瞬、火照った様に照れているとも思えるように見えたが、今は少し残念そうな表情をしていた。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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