25
今日は週末ともあり、待ちに待った休日である。待ちに待ったかは、さておき。
今日、明日は一日中、ルデンの練習に付き合うことになる。
昨日と同様にゴーレムと戦って貰う。人間に本当によく似たゴーレムだ。
だが、一つだけ違うことがある。場所を外で行っていることだけだ。大して差はない。
ルデンが飛んでも良いように、魔法師団の屋外演習場に来ていた。
「光の精霊よ、我に力を《雷撃》」
『《障壁》《龍炎》』
ゴーレムは《雷撃》を《障壁》で耐え、《龍炎》を出してルデンを締め上げる。
「ぐっ…か、風の精霊よ、我に力を《飛行》」
ルデンは《龍炎》から《飛行》で空へ飛び、締め上げを脱出した。
そのルデンを《龍炎》は追う。
「団長殿はおやりにならないんですか?」
ルデンを見ていたのは、俺一人ではない。メルヴェルも一緒だ。
「俺は別にやる必要は無いだろう?」
「ええ、そうですが…王太子の魔法じゃ見てる分、物足りなくて…」
「…メルヴェル、俺が魔法を使う所を見たいのか?」
「はい、そうですね。出来れば模擬戦なんかでも」
丁度、俺も暇している様なものだし…メルヴェルとの模擬戦を受けない事はない。
「分かった。やろう。だが、審判が必要ではないか?」
「そうですね…」
「貴様はメルヴェル殿と模擬戦をする資格など無い!」
いつから居たのかは解らないが、魔法師団副団長のアレドラントが隣で叫んだ。多分、空を飛んでいるルデンには聞こえていないだろう。
「いつから見ていた、現副団長よ」
お怒りモードのメルヴェル。
そりゃ、話に横槍を入れたんだから、仕方無いか…。
「つい先程からです!おい、貴様!仕方無くメルヴェル殿のお代わりに私が模擬戦の相手をしてやる!」
「はあ?(怒)」
「まあ、あんまし怒ってやるな」
「ですが…」
「良いぞ?模擬戦なら、相手をしてやっても良い。メルヴェルを相手してやるつもりだったからな。それと同じくらいやるぞ?」
まあ、俺自身の全力と言う訳では無いのだが。
「殿を付けろとあれ程…」
「メルヴェル、審判を頼んでも良いか?」
「ええ、勿論ですよ」
メルヴェルが審判で、アレドラントと俺の模擬戦をやる事が決まった。
て言うか、正式な対人戦でアレドラントに圧勝(?)してんだよなぁ。
「魔法師団、はぁ…副団長アレドラントと魔法師団団chぐっ…員アヴィル…の模擬戦を開始する。それでは…始め!」
溜め息とか色々混じりすぎて、脳内収拾が追い付かないんだが?まあ、始めるか。
「《土人形》」
俺は(ルデンと戦っている奴とは別の)ゴーレムを模擬戦用に生成した。
メルヴェルによく似た精巧なゴーレムだ。
何故、メルヴェルか?創ろうと思ったら、メルヴェルだったて言う訳なだけだ。
「貴様…そうか、本気で戦うつもりは無いと言う事か!」
「まあ、そうだけど。俺のゴーレムは自動操作なんでね。今は二対一だが?」
「それは、反則ではないのか!?」
「どうなんだ?メルヴェルよ」
俺はメルヴェルの方向を向く。
「ゴーレムは始まった後に魔法で生成されたもの。よって、それは反則などではない!」
(ああ…団長殿が私そっくりのゴーレムを作ってくださった。それを反則と見なし、消すのを要求するのは、心が居た堪れないです…)
「だそうだ。もう、始まっているんだ。早く攻撃を始めたらどうなんだ?」
「ああ、勿論そうさせてもらう。風の精霊よ、我に力を《飛行》」
アレドラントは空を飛ぶ。
『《飛行》』
追うようにして、メルヴェル(ゴーレム)は飛んだ。
俺は飛ばない。
飛ばなくても、俺はアレドラントを倒せると判断したまでだ。
と言うか、本物のメルヴェルは飛ばないしな。飛んだメルヴェルを見ると、ああ、偽物なんだなと思う。
「光の精霊よ、我に力を《閃光》」
アレドラントは上空で光属性の中位に位置する魔法《閃光》を発動させる。
「《遮光》」
『《遮光》』
闇属性魔法、《閃光》に耐える為だけに創られたとされる中位の魔法。俺とメルヴェル(ゴ)は、《閃光》の光が目に入る前に発動させれたみたいだった。
勿論、《閃光》の効果に耐えられ、特にこれと言った様な不調とかは無いのだが、ゴーレムと言うのは、あくまでも人形であり、眩しさなどとか痛みとかは感じる筈は無い。
更には、メルヴェルの形を象っているが、メルヴェルではない。メルヴェルが使える魔法ではなくて、俺が使える魔法が使える訳だからな。
戦力的には、メルヴェルと俺が共闘しているのではなく、俺が二人居ると考えても良いだろう。
「水の精霊よ、我に力を《スコール》」
「《超レインコート》」
『《超レインコート》』
《スコール》で酸性雨を発生させようとしていたが、俺とメルヴェル(ゴ)は耐える。
「また、耐えられるか。貴様は前回ので分かっていたが、今回も無害なのは何故だ!」
「何が言いたいんだ?」
「ゴーレムが耐えた時は貴様は耐えられる筈が無い!ゴーレムに魔法を発動させるのは、操縦する者が魔法を発動させながらするものである筈だ!」
…はあ。
確かに、アレドラントの言い分は間違ってはいない。
ゴーレムの操縦はずっと《土人形》を発動させっぱなしであり、ゴーレムに魔法を発動させるのは《土人形》を発動している上で発動させる。この時点で、二重に魔法が発動されている事になる。
そして、自分自身にも魔法を発動させるのは通常では有り得ない事である。《土人形》発動させっぱなしの時に別の魔法を発動させた時、ゴーレムに発動させる事になってしまうからだ。
だからこそ、《土人形》を発動させ、戦うときに自分が自分自身に魔法を発動する事が出来ない筈なのである。
俺のゴーレムは普通とは少し違う。
何せ、自動操作機能が付いているゴーレムだ。俺は既に《土人形》を発動させていないのだから。
だからこそ、自分自身に魔法を発動させる事が出来ているのだ。
「あのゴーレムは、自身で考え行動している。俺は《土人形》を発動し続けてなどいない」
「戯言は寝て言え!そんな事はある筈が無い!」
『《雷撃》』
俺に反論している時に、メルヴェル(ゴ)が《雷撃》でアレドラントを撃ち落とす。
「ぐっ…!」
何も衝撃を緩和させる様な事はしていないっぽいが、気絶はしていなかった様だ。
『DOOONNN!!!』
『《雷撃》』
メルヴェル(ゴ)は空から降りてきて、アレドラントに二回目となる《雷撃》をお見舞いする。
「GAAAAA……」
アレドラントは気絶した様だ。前回と同じ魔法で落ちたな。
『《雷撃》』
気絶し、アレドラントは戦闘不能になったのを気にもせずに、魔法をぶっつけ続けるメルヴェル(ゴ)。
流石に止めないと、俺のオーバーキルで負けてしまうかも知れない。
『…?』
急に魔法を止めた。
アレドラントが動かずにずっと横たわる事に疑いの念を抱いたか?
『《灰海》』
「《飛行》」
メルヴェル(ゴ)は、俺の方向を向いて放った。
俺は《灰海》を避ける。
避けなければ、一瞬にして俺の身体は灰と化してしまうだろう。
…後ろに誰も居なくて、良かった。
対象を失い、暴走しかけているのか?
「副団長アレドラントの戦闘不能を確認!勝利は団長殿!」
「メルヴェル、ルデンを頼んだぞ」
戦力が俺と何ら代わりはしない、あのゴーレムの魔法がルデンに当たれば、命に関わるだろう。最悪、待ち受けるは死。
「はい!団長殿、ゴーレム機能停止、若しくは消去してください。団長殿にしか止められませんし、死なれては…」
「そんな、不安そうな顔をするな。俺は大丈夫だ」
メルヴェルに、そんな表情は似合わない。
早めに消さないとな。危険だし。
『《龍炎》』
龍を模した火と水の物体が、俺を絞めに来ている。
「《魔法削除》」
俺に触れる前だろうか、少し触れているだろうかと言う微妙な所で、その龍は消される。
『…ちっ、《隕石》』
ん?今、ゴーレム、舌打ちした?
「団長殿!空から何かが!」
空?
隕石…。
あれ?俺を目掛けて降ってくる?何か、移動しても変わらず…と言うか、追尾機能?
ゴーレムが舌打ちした後に聞こえた、《隕石》。何か身に覚えがあるような…?
「ああ、そうか。ナシェリアのオリジナル魔法を俺が改良した魔法か」
思い出した、思い出した。
悠長に「あれ何だっけ?」って、考えている暇なんて無かった事も。
「《魔法削除》」
そう言えば、何でゴーレムが出す魔法を消してばかりで、本命のゴーレムを消さないんだろう?
ゴーレムを消せば済む話なのに。
何処か俺の中で、メルヴェルそっくりのゴーレムを消すか、消すまいかと葛藤しているのだろう。
でも、メルヴェルそっくりな身体をしているだけで、メルヴェルではない。なら、消すか。
『《龍え―――「《魔法削除》」
ゴーレムは綺麗サッパリ消え無くなった。
「無事ですか!?団長殿!!」
メルヴェルが心配そうに駆け寄って来た。
「無事だ。誰の心配をしている?」
「これだけは無礼も承知ですが、言わせてください。私は誰よりも貴方の事を心配しています。失うのをとても恐れています」
…。
「良かった…団長殿が今回も御無事で…」
俺は動かなかった。否、何をすれば良いのか判らず、何も出来なかったのだ。
数秒間、俺は目から涙をほんの少し流したメルヴェルの前にし、立ち尽くした。すると、メルヴェルは目を一瞬だけ擦り、言う。
「では、団長殿。この者はどうされましょうか」
気絶しているアレドラントの左手首を持ちながらそう言った。
「では、それはメルヴェルに任せる。俺にはまだ、やる事がある」
「判りました。では」
アレドラントを引き摺りながら、メルヴェルはこの屋外演習場を後にして行った。
よし、ルデンの魔力も体力も、そろそろ切れる頃だろう。終わりにして帰るとしよう。
「ルデン、終了だ」
《魔法削除》
俺はルデンに創ったゴーレムを消した。
「はあはあ…」
「お疲れ様」
「全然駄目だったよ…相手にならないって言うか、何と言うか…」
「いや、良くやった。ゴーレムが傷だらけだったからな」
「まだまだだよ。倒せなくちゃ駄目なんだ」
「本番は完全に倒す訳ではないだろう?今日のは直ぐに倒されない様に結構強めにしておいていた」
大体、俺の三十パーセント位の強さ。
「そうだったんだね」
「帰るぞ」
「うん」
俺達は寮に帰った。
寮の部屋には、既に並ばれた料理があった。先にメルヴェルが帰っていたのだ。
俺達は団欒をしながら、美味しい料理を平らげて、就寝した。
***
約三週間後、毎日ルデンに付き添い、いよいよ迎えるのだ。
合同特別魔法強化訓練を参加する為の選考大会―――又はルデンを何者かが襲うと思われる日が。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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次の更新は3月5日の予定です。




