23
あれから何もなく、決闘を迎える。
ルデンを連れて決闘会場となる、実技訓練場に出向いた。そこには、俺達よりも早くに着いたフレーディンが待っていた。
「決闘の始まる五分前には会場入りなのは知らないのか」
フレーディンはガッチガチに服装を整えていた。国立高等魔法学院教師の正装に。
俺達がここに来たのは、始まる一分前だった。
「何の為に五分も前に会場入りするんだ?」
「入念な最終準備の時間だ。座学でも教えられる」
「要らないな。俺にそんな時間は要らない」
「何…?」
何故、決闘に最終準備が必要なのかが解らない。決闘、言わば死闘。いきなり戦争を吹き掛けられてきた時、入念な最終準備なんて行える筈がないのに。
「それより、始めようか」
「それより…だと?」
俺はメルヴェルの方を見る。因みにルデンはヴァールデンとフェージンとリダルンディ達と少し離れた所に居る。
「それでは…始め!」
メルヴェルが決闘の開始の合図を出した。
フレーディンはスタートダッシュで攻撃を仕掛けようとしている。
俺は極力動かない様にしよう。そうしなければ、フレーディンに勝ち目など無いのだから。
「火の精霊よ、我に力を《灰海》!」
って…おいおい、初っぱなから《灰海》!?
決闘だからと言って、その魔法は危険だろ…。一応ここの学校の教師だろうが。
対象は…俺しか居ないか。
フレーディンは最初から俺を殺す気なのだろうか。
こんな所で灰になって消え去っていくのは嫌だなぁ…。
俺が灰になる前に。
「《魔法削除》」
俺はフレーディンの《灰海》を消す。
極力動かない様にはするが、流石にこの《灰海》は危険だから。もし、仮に失敗したとしてルデンやメルヴェル、その他に被害が及ぶかも知れない。
「《灰海》が…」
「消した。消されたからと言って怯んでるようじゃあ、大したことはないな」
「火と地の精霊よ、我に力を《火の槍》」
フレーディンは、百本に全然満たない本数の《火の槍》を放つ。
俺は全ての《火の槍》を受け止める。そこまでの威力は無かったので、無傷で済んでいる。
「《火の槍》が効いていないだと?」
「いいや、効いてる。効いてるが、弱すぎるだけだ」
「なぬ…?」
「こうしている内にも次の魔法を発動した方が良いんじゃないのか?」
俺は更にフレーディンを煽る。だって、弱いんだもん。
「ならば…地の精霊よ、我に力を《地震》!」
床が揺れ始める。
徐々に揺れが大きくなり、実技訓練場の照明が振り子となり、大きく揺れている。
その場しのぎは簡単な魔法だ。《地震》は唯、地面を揺らす魔法だからだ。
「《飛行》」
もう、飛んでしまえば何も影響はない。
「風属性魔法、《飛行》だと!?何故、飛べる!?」
「《飛行》を発動したからだ」
言うまでもない。
「《飛行》は第三階級魔法師以上の者及びその者の許可にのみ発動が許されている魔法だ。飛べる筈がない。況してや、魔法発動が完璧に出来ない劣等生が…」
俺、一応、第一階級魔法師なんでね。発動が法でも許されている立場なんですけど。
それを知っているから、メルヴェルは決闘を中断させないんでしょうが。
「悔しがっている暇があるなら、他の魔法で攻撃するべきだろう」
フレーディンは《地震》を解いた様に見えた。
「地の精霊よ、我に力を《土人形》」
地属性魔法、《土人形》。土でできた動く人形を創り、動かす魔法だ。
俺が生まれる(六十五年)前よりも昔から存在し、人々の労働力の一つであった。だが、王都などの大きめの街とか人の密集する所では《土人形》は使ってはならない。法で定められている。
フレーディンは大体、八メートル位の高さのゴーレムを創った。
俺が真っ直ぐ顔を向けた時の視線の先が、ゴーレムの脚だけ。上を向いても、顔が遠い。それぐらい、大きい。
だがな、俺にだって出来る。もっと言えば、それ以上の大きさのゴーレムぐらい創れる。簡単なものよ。
しかし、俺は創る事はしない。
ここは実技訓練場。外とは違い、高さには制限がある。八メートルゴーレムはまだセーフだが、俺が創ると…高さがアウトになってしまう事だろう。
フレーディンのゴーレムは、俺を踏みつけようとしてきた。俺は軽く避ける。
ゴーレムが俺を手で握り締めようとしたとき、俺はそれも余裕で避けてしまった。
「これは正当な試合!何故、攻撃をしない!?」
フレーディンは、俺がずっと避けている事に腹を立てていたのだろうか。
俺が攻撃すれば、この試合、直ぐに決着が着いてしまうだろう。
「…そうだったな。碌に魔法が発動出来ないんだったな」
フレーディンは馬鹿なんだろうか?先程、無属性魔法の《魔法削除》に、風属性魔法である《飛行》を使って見せただろうに。
俺は溜息を吐きながら言う。
「じゃあ、攻撃すれば良いのか?」
「ああ、するが良い。受け止めてみせよう。まあ、発動出来たらの話だがな」
そんなに、余裕ぶっこいて良いのか?
瀕死の状態になっても、治療してやらないからな。
「《灰海》《避雷針》」
先ず、俺はフレーディンのゴーレムに《灰海》を。その後、フレーディン自身に《避雷針》を放った。
「何故、《灰海》を…アガガガ!?」
「意外だったか?俺が《灰海》を使える事に」
ゴーレムは形残さず、灰と化した。
フレーディンは案外タフな様で、全身が痺れているにも関わらず、立ち上がろうとしていた。
《避雷針》は人が死ぬギリギリ手前に威力を抑えておいた。それでも、普通は気絶するものだ。
「うぐっ…」
「どうする?まだ、続けるか?」
「ああ、勿論だ」
死んでも知らないっと。
「《龍炎》」
火属性と水属性の複合魔法。
《龍炎》はフレーディンを絞める。
「うっ…な、何故、この魔法が…使…えるっ…!?」
藻掻きながら発している。
フレーディンの質問に「俺が創ったから」と言うべきか。まあ、どうせ信じはしないだろうが。
フレーディンでさえ、流石に勘づいている筈だ。俺が魔法を発動出来ない訳では無いのだと。
「敗退宣言をしないのか?」
「する…ものか…ガハッ!」
フレーディンをどんどんとキツく締めていく《龍炎》。遂に血まで吐いた。
…やっとか、って言う感じなんだが。
「お前が《龍炎》を消すか、敗退宣言をするまで《龍炎》は絞め付けるぞ」
まあ、俺の魔法が簡単に消せる訳が無いがな。フレーディンに魔法のエキスパート(?)としてのプライドがあるように、俺にだって少し位はあるものだ。
「さあ、どうする?」
「全ての…事象…よ、消え…去れ――《魔法削除》」
ほう。《龍炎》を消す方針にしたのか。
まあ、フレーディンが思っている魔力量を遥かに凌駕していて、《魔法削除》が効果を発揮する事は無いだろう。
案の定、《龍炎》は消え去られる事なく、フレーディンを絞め続けた。
絞め付けられる分、フレーディンの口から血が出る。相当な出血量となっている筈だ。
「まだ続けるのか?」
「…ああ…」
力無い発言だな。
メルヴェルはまだフレーディンを戦闘不能とは認めていなかった。ちゃんと気絶させる事が戦闘不能として負かす条件となっているのかも知れない。
「出来る限り、殺したくは無いんだがな。死ぬなよ――《水蒸気爆発》」
《龍炎》が絞め続け、弱り果てているフレーディンに何百発もの爆発が襲い掛かる。
「アガッ…!?うぐっ…」
血を吐く量は増え続ける一方である。
「まだ敗けを認めないのか?命に関わるぞ」
「…認…めるっ…だから…解いて…くれ…」
フレーディンが漸く敗退宣言を出した。
メルヴェルはフレーディンの言葉を聞き逃さなかった。
「勝者、一学年アヴィル!」
俺は試合終了後、直ぐに《龍炎》を解いた。
「《超回復》」
虫の息且つ、身体中の損傷が激しすぎる為、治療してやった。仕方無くだ。
「お疲れ様でした、団長殿」
「ああ」
メルヴェルはフレーディンの意識が無い事を確認して、『団長殿』と呼んだ。
この場には、フレーディン以外に俺が魔法師団団長だと知らない奴は居ないからな。
「所で団長殿は、何故、最初から最後に至るまでずっと、手加減をなされていたのですか?」
メルヴェルには敵わないな…。
「直ぐに決着が着いても、フレーディンのプライドをズタズタには出来ないだろう?まあ、手加減してやっても、あの有り様だがな」
「成る程…ですが、この私めに任せていただければ、プライドの一つや二つ、三つ…いえ、何百個でもへし折りますが」
一つで十分なんだが…。
フレーディンを完全なる廃人とされそうだな。
「メルヴェル。俺が折ったから、追い討ちをしないようにな」
「わかりました。団長殿の御命令とあれば、その様にさせていただきます」
一安心。
少し離れた所で観戦をしていた、ルデン達がやって来た。
「見させて貰ったぞ、アヴィル」
「ヴァールデン位の力はあれば、近くで観戦してても問題ないと思うが」
「それを言うのはお前ぐらいだ…我は一応、一国の王なのだがな」
そんな事もあったな。
「先輩の腕はやはり素晴らしいものですね」
フェージンには、何処かメルヴェルっぽさがある。
「勿論、団長殿は素晴らしいですよ」
うん、似てる。
血は繋がってなどいない事は確かだが。
「俺を誉めるのはここまでにしておいて、ここは解散しようか」
俺は間を置いて言った。
「それでは、ここで伸びているこの者はいかがなさいますか?」
メルヴェルはフレーディンを指しながら言った。
「…置いておこう」
フレーディンは目が覚めたら、勝手に帰るだろうし。まあ、大丈夫であろうと思ったのである。
「流石に放置は…」
リダルンディは、俺の判断に難色を示した。
「なら、リダルンディはフレーディンの目が覚めるまで其所に居れば良い」
「…そうしよう」
リダルンディはフレーディンの目が覚めるのを待つことになった。
「では、我等は王宮に戻るとするか」
「お祖父ちゃ…国王陛下!帰られるのであれば、校門前までお供致します…!」
「む?ルデンよ、今この時はプライベートな場だ。我の事は国王陛下ではなく、お祖父ちゃんと呼んでも良いのだぞ?」
「はい!」
「それにもう夜が深い。我の見送りはしなくて良い。アヴィルよ、我の可愛い孫ルデンを引き続き頼んだぞ」
「人の決闘にプライベートとして来たのなら、さっさと帰れ阿呆」
「はい…すみませんでした」
ヴァールデンは謝罪し、そそくさとフェージンを連れて王宮に帰ってった。
ヴァールデンが見えなくなった頃、リダルンディと気絶しているフレーディンを残して、俺達は寮の部屋に戻り、そのまま就寝した。
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次の更新は2月26日です。




