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翌朝。
アレドラントよりも朝早く、一階に降りていた。
何せ、俺は貫徹だからな。
「貴様、起きていたのか」
「ああ、まあな」
相変わらずだなー。
「貴様は、何故、メルヴェル殿の御自宅に住んでいるのだ?」
アレドラントが聞いてきた。
何て答えるべきなんだろう?
拾われた?住めと強要された?
強要はされていないが、両方共、当てはまる気がする…。
うーん…悩むなぁ…。
「メルヴェルに拾われ、住めと言われたからだ。他に理由は必要か?」
取り敢えず、こう答えてみた。
「貴様は、数多くの御方を呼び捨てにするな…。現に私でさえ、呼び捨てにしている。公になれば、貴様は不敬罪で処刑されるぞ」
へー。
俺、呼び捨てにしたのって、メルヴェルとガードラーレ、あとお前と俺自身じゃね?それも、メルヴェルとガードラーレは、俺の部下でもあった訳だし。不敬罪にはならないよな…?
つか、俺、処刑されたとしても、自分自身で治療、出来ちゃうので、あまり処刑と言うのは意味を成さないかな。俺にとってはだけど。
「出来たぞ、食え」
朝食を食卓に並べ終わっていたアレドラント。
しかも、美味い。メルヴェル程では無いが。
食事には、ある程度の会話は必須…俺は、アレドラントに話を持ち掛ける。
「アレドラントは、遠征とか行かねぇの?」
「何を聞く、貴様。今日から遠征だ。貴様にも付いていってもらうぞ」
は…?
「先に言っておく。遠征先に現れたのはドラゴンだ。貴様は地域住民の治療をしてれば良い」
へー、ドラゴンが相手なんだ。
えっ?ドラゴン?ふーん…面白くなりそうだなー。
「死ぬなよ、アレドラント」
「貴様にだけは言われたくない」
「えっ?だって、アレドラントは、遠征の最前線でドラゴンと戦うんだろ?」
「ああ、そうだ。最前線でドラゴンと戦う。貴様は私の強さを、遠くから見ておくんだな」
昨日の決闘で、アレドラントの弱さを近くから見たんだが…。まあ、気に留める事も少ないだろう。
俺達は朝食を平らげ、アレドラントの目にも留まらぬスピードの食器洗いを観測した後、連れ出される様にして、このメルヴェルの自宅を出た。
***
ここは、王城。
昨日から更に訓練が、厳しくなっていた。
夜、寝る時間は短く、殆ど仮眠と言っても過言では無い。
そのかいあって、勇者達は、簡単な魔法が使えるようになった。
「ナナ様、メルヴェル様がお見えです」
奈菜の専属メイドが奈菜に言った。
「えっ、メルヴェル様!?」
「遅いっ!魔法が使えるようになって、浮かれてんじゃねぇーだろうなァッッ!!」
(…鬼教官だ!)
奈菜は本能で逃げようとするが、メルヴェルの圧力で逃げられなかった。
「直ぐに準備して来い!」
メルヴェルは部屋を出ていった。
(そう言えば、昨日の魔法師同士の決闘。魔法師団副団長と戦っていた相手、誰なんだろう?とても、強い事が判ったけど…)
勇者達は少し遠く離れた場所で観戦していた為、アヴィルが副団長アレドラントの相手だとは解らなかったのである。
(兎に角、滝川くんは元気かなぁ…?水晶を割った時はビックリしたけど、生きてるかは分からないからなぁ)
「ナナ様、早く行かないと、メルヴェル様に怒られますよ」
奈菜は、専属メイドに言われ、思い出す。
「ああ~!」
叫びと共に、訓練の場所へと急ぐ奈菜であった。
また、他の勇者達も同様にキツイ訓練を迎える。
***
俺は今、荷馬車の中に居る。
遠征に向かう為に乗っているのだ…いや、遠征に向かうではない、行かされる為であるな。また、馬車には乗らされているで正解なんだろう。
そう、アレドラントに強要された結果である。
今、同じ荷馬車内に居るのは他の小等団員達。アレドラントは、別の荷馬車である。
「初めて見る顔だな…名前は?」
隣に居た小等団員の男性に声を掛けられた。
「俺はアヴィル」
「そうか、アヴィルか。俺はシェリフだ。シェリフ・アードンだ。宜しく」
シェリフは手を出し、握手を要求してきた。
俺はシェリフの手を取り、握手をした。これぞ、男の握手って奴さ…熱い厚い友情に…うん、違うな。
「アヴィル、知ってるか?」
「何をだ?」
「魔王だ」
「魔王がどうした」
「ここ最近、魔獣が多く出現してるだろ?」
そうなんだ。魔獣が多く出現してるのは知らなかったなー。取り敢えず、頷いとくか。
「あー、そうだな」
「魔王が活発に活動している噂だ。団長殿が行方不明で不安の今、勇者様達が召喚されたから安心だな!」
行方不明の団長殿は目の前の俺だぞー。
勇者が召喚されても、不安定要素しかないのが、俺の意見。
「魔王って、俺達よりも強いのかな?」
「そりゃ、そうだろ?」
「ふーん…」
「アヴィル、もう着いたらしいぜ」
シェリフは荷馬車から降りた。俺も続くようにして降りた。
そこから直ぐに各々で治療に向かった。
腕が無くなった人、下半身が無くなった人、顔が潰れた人…沢山の重傷者が横たわっている。
一人一人、治療していくのが面倒だな。
広範囲に回復を掛けてやるしかないか。時間が惜しいしな。
「《広範囲・超回復》」
《超回復》の広範囲バージョン。魔力はごっそり…俺に魔力の底など無いから心配する必要は無い。そして、俺のこの魔法は広範囲過ぎて、この世界の生きるもの全てに《超回復》。ヤバイね。範囲を絞れば良かった話だけど、普通に忘れてた。
なので、アレドラントが戦っているだろうドラゴンにも《超回復》。すなわち、振り出しに戻った訳だな。
すまね、アレドラントよ。
「あ、いたいた」
少し遠くからシェリフが手を振って、俺を呼んでいるように見えた。
「アヴィル、最前線の副団長殿の勇姿を見に行かねぇか?」
「何故?」
「気付いたら、周りの負傷者達がピンピンしててよぅ…何か治ってた。だから、暇になった訳よ」
俺のせいだね。
俺って、いつの間にか面倒くさがりになってたとは、思いもしなかった。
気付いたら、シェリフに腕を取られ、最前線近くまで来ていた。
ドラゴンがハッキリと見えた。戦っているアレドラントもだ。
ドラゴンの中でも強いとされている黒色のドラゴンだ。
「黒色のドラゴンは本当に真っ黒だなー」
俺は呟いた。
俺はこの黒色のドラゴンよりも更に強い、金色のドラゴンと戦った経験があるが、黒色のドラゴンは初見である。
「アヴィルはドラゴンを見るのは初めてなのか?」
「(黒色は)初めてだな」
あと何色、いたっけ…。
まあ、良いや。別に困る事は無いし。
「副団長殿、自棄に遅くなってないか?」
シェリフはそう言った。
うん、段々と遅くはなってるね。
ドラゴン、ピンピン。アレドラント(身体は)、ピンピン。
疲れたと感じるのは、一番の苦である。
何かご免な、アレドラントよ。
「ちょっと待て…」
「どうした、アヴィル?」
「体制的に不味いな…」
お疲れのアレドラント一人にピンピンドラゴンは…。
「俺、ちょっとドラゴン倒してくるわ」
「おお…は?」
「だから、ドラゴン倒してくるって…」
「アヴィル、死ぬぞー!?」
俺はドラゴンに向かって飛び出した。
俺を止めるシェリフの声が聞こえた気がするが、お構い無しに飛び出す。
***
アレドラントSide
少し時を戻し、アヴィルが《広範囲・超回復》をする前後のアレドラント。
私は一人、黒色のドラゴンに立ち向かっている。
「光の精霊よ、我に力を!《雷撃》!」
『GYOOEE!?』
先手必勝。ドラゴンに《雷撃》をお見舞いした。
それはかなり、効いたようだった。しかし、致命傷とは至らなかった。
…と、まあ、ここまでは、予測していた。ドラゴンでも強い方とされる黒色のドラゴンが、《雷撃》一撃で倒れる訳が無いものな。
…団長殿なら、倒せるのか?話でしか聞いたことの無い団長殿の、強さなど知らない。
「もう二撃位は必要か?…それとも、強い雨がご所望か!水の精霊よ、我に力を!《スコール》!」
アイツを倒せなかった《スコール》だが、本来の威力を発揮さえすれば、強い酸性雨の筈。そして、あらゆる物質を溶かす。
『GAAA!?』
ドラゴンに有効打だったかも知れない。
飛ぶのに必要な羽は溶けていた。そして、ドラゴンの表面の皮膚はドロドロだった。
よし、このまま続ければ、勝てる!
見とけよ貴様…昨日の屈辱を晴らしてやる!
ん…?
私、回復してないか?誰かが、援護でもしてくれたのだろうか?身体の至るところの切傷が治っていた。そして、魔力も回復しているように感じられた。
『GURUUU…』
「あ…」
気付いたら、ドラゴンは元気になっていた。羽や表面の皮膚は元通りに治っていた。
…誰だっ!?ドラゴンを治療した者は!
ドラゴンは私に向かって、ブレスを吐いた。
「ぐわぁぁっっ!」
私は宙を舞った。痛みで数秒、踞る形となった。
「ひ、光の精霊よ、我に力を!《回復》」
自分を治療した。たちまち、痛みは引いてきた。
私は起き上がり、魔法を放とうとしたが、また、ドラゴンがブレスを吐いた。
威力の増した、ブレスだった。
痛いが、先程の悲鳴が出ない。それ程にも、強く、痛いのだ。
だが、痛みに我慢して、自分の治療をする。そうでもしないと、戦えないから。
「光の精霊よ、我に力を!《回復》」
治療する間、ドラゴンのブレスを避ける事だけに専念しようと考えた。
「風の精霊よ、我に力を!《飛行》!」
空を飛ぶ魔法で、三発目のブレスを回避した。
第三階級魔法師になって初めて使用が認められる、特別な魔法。第四階級魔法師以下の者は、第三階級魔法師以上の者の指示が無い限り、使用が原則禁止の魔法。
良かった、私、第三階級魔法師であって…。
そして、四発目のブレスも回避。五発目、六発目も回避した。
「あっ」
一向に、手出しが出来ないと言うのに気付いた。
『GYUOO!?』
ドラゴンの体勢が崩れた。ドラゴンは倒れたのだ。
「何故…」
何故、ドラゴンが倒れたのかは、私には理解し難かった。
それよりか、ドラゴンが元気になる前よりも、ドラゴンは負傷していたのである。
ほぼ、致命傷に近い傷を負っている、ドラゴン。上空には、私に屈辱を味あわせた男がドラゴンを見下ろす姿が見えた。
「…やっぱり、弱いか…」
私には、この男が狂人の様に見えたのである。そして、何故かそこからの記憶が抜けていたのである。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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