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今日も一日の授業が終わり、今は放課後。
そして、今日も寮の部屋でルデンの魔法を見ている。
今回は、治癒系の魔法を習得させる。
態々、自分自身の腕に小さな切り傷を作り、そこを治癒するのが練習方法。
これは、昔から変わらない方法らしい。何故、そんな事が分かるかと言うと、ルデンがこの練習方法だけは知っていたからだ。習得しようとしない者でも共通理解として、共通知識として存在するのかも知れない。
「光の精霊よ。我に力を!《回復》」
ルデンは、小さな切り傷に魔力を集め、《回復》を掛けるが、一向に効果を為さない。
「魔法にはイメージが大事だと言っている筈だが?」
「な、治ると言うイメージ…?」
「それもあるが、どちらかと言うと元の形に修復すると言う様なイメージの方が効果を抜群に引き出す」
「わ、分かった…やってみる。光の精霊よ、我に力を…!《回復》!」
先程は全く効果が無かったが、今回は多少、治せはしているだろう。
「今日は治癒系の魔法ですか?団長殿」
今日は偶々、俺の横で見ていたメルヴェルが言った。
「まあ、戦闘において自分自身で治療出来るのは何かと得するしな。選考大会でも有利にはなるんじゃないか?」
「そうですね。最近、国立高等魔法学校のカリキュラムに治癒系魔法が無くなりましてですね、光属性の扱える新人達は、入団後直ぐに治癒系魔法を叩き込みます」
「…それって、時間の無駄じゃないのか?」
「ええ、無駄です」
「前は普通に学校でも習うものを…」
「五十年もの合間に考えが変わりまして、治療をするのは神職の者達の仕事であると言う風に変わってしまいました」
「魔法師でも、将又、騎士でも使える者が居たのに、な」
「…申し訳ございません」
「何で謝る、メルヴェル」
「私が戦闘に長けた魔法師育成に力を駆けてしまったせいでも、あるのです」
…。
「団長殿が居なくなったその日から、国の戦力は大幅に下落しました」
俺が居ないだけで?大袈裟過ぎやしないか?
「いつ団長殿が戻られても、恥ずかしくない様にあろうとした結果です」
「何が恥ずかしいんだ?」
「団長殿が居ないだけで国の戦力が大幅に下落した。つまり、私達が弱過ぎたと言う事なのです。それだけでも、団長殿に申し訳無いですよ…」
俺はノーコメントだ。メルヴェル達の努力と思いが無駄だとは言えないからだ。かと言って、俺自身が無駄だとは思っているかどうかも曖昧なのだから。
「なので、戦闘に長けた魔法師育成のカリキュラムを重視しましたので、治癒系魔法を習う事がカリキュラムから消えました。とても大切な魔法でもあるものを…」
うーん…どうしたものかねぇ…?
「まあ…今の時代、戦争は少なそうだし、取り敢えずはそれでも良いんじゃないか?五十年前は国と国同士の戦争が多発してたし、それに比べれば、まだ」
平和ボケの見られる時代になった。平和ボケをしてても許される時代になった。
人を治療するのは、神職の者達だけで事足りてしまうのかも知れなくなった。
なら、我ら魔法師や騎士達は取り敢えず強くなっておくのみ。そう言う風潮になっていったのだろう。
「メルヴェルが悪い訳ではない。ガードラーレでもない。誰のせいでもないんだ」
「団長殿…慈悲深い御言葉、感謝致します」
いつになく、オーバー。
「まあ、気にするな」
「はい」
俺達は頃合いを見て、会話を止めた。
頃合いとは、ルデンが《回復》を完全に(とは言わないが)成功させて喜ぶであろうタイミングだ。
「――で、どうだ?成功したか?」
俺は魔力が足りなくなったのだろうか、バテて座り込んだルデンに問う。
「う、うん…一応」
「見せてみろ」
ルデンの腕に付けられた小さな切り傷を確認する。成功しているのなら綺麗になり、失敗しているのなら俺が元に戻してやれば良い。
治癒系魔法を練習する時は、絶対に成功する者が居ないといけないのだ。
俺の時は、まだ学校のカリキュラムに存在していた為、先生の監督の下、授業で練習したものだ。
それは良いとして、ルデンの小さな切り傷は綺麗に消え去っていた。
「よし、成功だな」
「よ、良かったぁ~……」
力が抜けたのか、そのままルデンは寝てしまった。
力が抜けただけで寝てしまうと言う事は、相当な魔力消費だったのだろう。
「寝てしまいましたね」
「ああ。ベッドまで運ぶか」
「私がやりましょうか?」
「いや、俺が運ぼう」
俺はそう言ってルデンの身体を持ち上げ、ルデンをベッドに横たわした。
「ふー…」
少し息が上がったな。
「やはり、私がやった方が良かったのでは…?」
「大丈夫だ」
俺はルデンの気持ち良さそうな寝顔を見ながら言った。
「別の話題ですが」
「何だ?」
「団長殿、ここの教師フレーディン・ラインブレインに決闘を申し込まれたとか」
「知ってたのか」
「噂でしかありませんが。王宮内が騒がしかったものなので」
噂か。
「フレーディンから決闘を申し込まれた。俺は断ったのだがな。困ったものだ」
実際、それ程には困っていないのだが。困っている事には変わりないからな。
「もし、国王の許可が降り、強制的に決闘を受けるとなった場合、団長殿はどうされるのですか?魔法の技術など全てを隠されている中で」
「だから、こちらから決闘する上での最低条件と決闘のルールを決める」
「成る程…その条件とルールを申請すれば、フレーディン・ラインブレインが却下しても国王は許可しますね。しなくても、この私がどうにかします。団長殿には素晴らしいお考えがあると信じてますから」
そこまで期待はしなくても良いんだが…。まあ、もしもの時があるかも知れないからな。
「まあ、任したぞ」
「任されました」
「程々に…な」
「勿論、分かっておりますよ」
どうだか。
やり過ぎるだろう。
「さあ、団長殿。お食事に致しましょう」
「もう、そんな時間か」
俺とメルヴェルで夕食を取り、寝床に就いた。
***
翌朝。
俺よりも遅く起床したルデンは体調があんまり優れない様だった。
「魔力が回復しきれていないんじゃないのか?」
「あはは…そうなのかな?」
「昨日、魔力が無くなり、気絶した様に寝に入ったぞ?」
「あー…その辺、全然覚えてないや。《回復》が成功して良かった位までしか」
「その後直ぐに倒れたんだ。殆んど覚えているじゃないか」
俺がベッドまで運んでやった事は覚えてない…か。
「今日はどうされますか?」
メルヴェルが俺達に向けて聞いてきた。
学校を欠席するか否かを問いているのだろう。
「どうする?ルデン。お前の体調が優れないのなら、欠席でも良いと思うぞ。俺はルデンが欠席するなら一緒に欠席するが」
「大丈夫だよ。今、この時期がとても大切だからね。追い付かれたら不味いしね」
ルデンの実力に一日で追い付ける者が居るのだろうか。あの次席の女でさえ、今日だけでは追い付け無いと思う。
それに、魔法師団団長から直々に魔法を見て貰いながら何を言っているんだ。
だがまあ、頑張ると言うのを応援しない訳にはいかないよな…。
「《超回復》」
俺は魔力まで回復をする、とても便利な《超回復》をルデンに掛けた。
「何だか、身体が軽くなった?」
「今回だけ、な。魔力を回復させてやる」
《魔力譲渡》でも別に良いのだが、回復がメインなので今回は《超回復》で。
「今回だけ?どうせ、次もあるんでしょ?」
「次は学校欠席にしろ」
「えー」
無駄な魔力消費をさせないでくれ。
…自分で言うのもアレだが、無駄な魔力消費があったにしろ、∞の魔力量を持つ俺には関係の無い事でした。まあ、気分的に、と言う事を言いたいだけである。
「今日は行かれるんですね。では、もうそろそろ出ないと、遅刻されますよ?」
メルヴェルが言う。
時間は始業時間に差し迫っていた。
俺とルデンは急いで身支度し、飛び出すようにして部屋を出た。
正確には、ルデンが俺を引っ張って飛び出すようにして部屋を出た。
今日も一日中、実技だなぁ。
教師と何故か会話するだけの日常。
それが一ヶ月も続くのか…。
「はぁ…」
俺は絶賛生徒達に囲まれルデンを見ながら溜息を付く。
生徒達がルデンに言っている言葉は俺にも聞こえてきた。
「殿下が予鈴寸前に登校なさるとは、珍しい事もあるのですね?」
「あはは…」
「お身体、優れてますか?」
「どうして、それを聞くのかな?」
「殿下がギリギリで登校なさるのは優れないせいでございましょう」
「そ、そうなのかな?」
ルデンは完全に押されているとみた。
俺は呟く。
「ギリギリ登校は身体が優れない証拠なのか?」と。
「皆は殿下の事を心配しているの。貴方がギリギリ登校するのと、殿下がなさるのとは全然違うのよ」
俺が座る席を横に通り過ぎる時に、マリアンローナは俺の呟きを聞いたのか、立ち止まって言った。
「そう言えば、貴方。殿下と同時刻に毎朝、登校してくるわね。合わせてるのかしら?」
気に障る女だな…それに、何でそんな事を聞く?
「同室だから、登校時刻が揃うだけだ」
「殿下の部屋は一人部屋の筈よ」
「あの部屋は元から二人部屋だ。どの部屋とも同じ様にな」
「いいえ、殿下がお使いの部屋は一人部屋よ。殿下が入学なさる前よりも前から」
は?あの部屋は俺とヴァールデンの二人でも使った部屋…。
「有り得ん」
「はぁ…常識知らずの極悪人でも程があるわ…」
俺が常識知らずだと!?まあ、ここ五十年の世界情勢は知らないが…流石にメルヴェルよりはましな方だと思うがな。
「そう言えば、貴方。フレーディン先生と決闘をするんですってね。貴方の勝率は誰から見てもゼロですけど」
「ゼロに限り無く近いでは無くてか?」
「ええ、そうよ。貴方は魔法を発動させる事が出来ないじゃない」
「何故お前は俺にそれを言う。心配してくれてるのか?」
勝率がゼロだろうと、構う必要は無いのだと思う。心配する以外に。
「心配する?何を言っているの。忠告よ」
「ふーん…」
「何よ!?」
「特に、これと言って何もないが?」
「あ、貴方が正直に私に従うのなら、魔法を見てやっても良いのに…」
「別にいらん」
何でお前に俺は従わなきゃならない?見てやっても良いだ?余計な。
それに…俺の場合は発動出来ないんじゃないんだよなぁ…。
「なあ、何故俺達は実技訓練場に向かわないんだ?」
「それを私に聞くの!?貴方は私に従わないと言いながら!?」
担任であるラムソゥワンナが出欠の確認をした後の話であった。終わった途端にルデンは生徒達に囲まれたのだ。
昨日とかは、ラムソゥワンナの話が終わったとき、実技訓練場に向かったのだが、俺も含め生徒達は未だに教室に居る。
俺はどうでも良いが、何故向かわないのかがわからない。
「貴方、知らなかったの?」
「何をだ」
「今日の一限目は実技は無くなって、特別講義があるのよ」
「誰の」
「はぁ…」
溜息を吐かなくても良くないか?
「メルヴェル殿のよ。どんな講義なのか知らないでしょうから、テーマだけは教えてあげるわ。それは…ズバリ、団長殿のオリジナル魔法よ!」
俺のオリジナル魔法を特別講義の題材にして何を学ぶんだろうか?
「何、詰まんなそうな顔をするのよ。喜びなさいよ」
何に!?
マリアンローナは「もうじき(チャイムが)、鳴るから」と言って、自席へと行った。
すれ違い様に生徒達から解放されたルデンが戻ってきた。
そして、授業の開始のチャイムが鳴り響き、教室前方からメルヴェルが入室してきたのだった。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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次の更新は2月19日です。




