20
昼食を食べ終え、また実技教科の授業が始まる。五限目はルーティンしてきて、火属性。
あの、俺に決闘を申し込んだフレーディンが教師を勤める火属性である。
「決闘について話がある。付いて来なさい」
俺を見付けたのか、フレーディンはこの場に居る全ての者にも聞こえる様な声で言った。
俺はフレーディンの目の前まで行き、返答する。
「却下だ」
「強制だ。もう一度言う。付いて来なさい」
「なら、アイツも一緒だ」
早速、魔法の練習に勤しんでいるルデンを指差して言った。
フレーディンは俺が指差している先を見た後、こう言った。
「殿下をアイツと呼ぶとは何事か」
「駄目なら行かない」
「行くことは決定事項、強制だ。殿下の練習を邪魔する事は禁ずる」
「仕方無い。呼んでくる」
「邪魔する事は非礼であ…」
俺はフレーディンの話を無視し、ルデンの元へと向かった。
「火の精霊よ、我に力を《火の槍》!」
ルデンが《火の槍》を放ち、一息を吐く絶妙なタイミングを見計らって、声を掛ける。
「なあ、ルデン」
「何?」
「付いて来て貰えるか?」
「…フレーディン先生との決闘の件について呼ばれるから?」
「おお、よく解ったな」
「あんだけ大声でフレーディン先生が喋ってるもの。それで、僕は付いて来いと言われるだろうなぁー、と思ってた訳」
「付いて来てくれるのか?」
「付いて行くしかないでしょ。僕の護衛もしなくちゃならないんだから、アヴィルは(小声)」
やれやれと、溜息を漏らしつつも、付いて来てくれる事になった。
俺とルデンはフレーディンが待つ場に戻った。ルデンの場合は行くになるが。
「先生、僕の同行を認めて下さいますか?」
ルデンは作られた笑顔でフレーディンに、そう言った。
「うっ…殿下がそう仰有るなら…」
フレーディンはルデンも行く事を認め、俺とルデンはフレーディンに付いて行った。
フレーディンに付いて行くと、校長室に辿り着いた。リダルンディの居る校長室だ。
「そ、それで、フレーディン先生?生徒に本気で決闘を挑むのですか?」
俺の目を逸らし、何かに怯えるようにして、震えながらフレーディンに問いた。
「この生徒にちゃんと分かって貰わないとなりませんよ。我ら魔法のエキスパートの実力を」
「そ、それは単に、フレーディン先生がそう思われただけでしょう?」
「しかしですな…!」
「アヴィル君の方は、決闘をする事を認めたのですか?」
リダルンディはやっと、俺の目を見た。
「断った」
「なら、この決闘は出来ませんよ、フレーディン先生」
「国王陛下が決闘を認められれば、決闘は強制となり、双方の合意など関係ありません」
「仕方ありませんね…はぁ」
リダルンディは頭を抱えて、そう嘆いた。
「俺は決闘を断固拒否だ。国王の許諾?仕方が無い?ふざけるな」
仮に認められて、決闘する事になり、強要されたとしても、俺はその決闘の場に現れないからな。行くものか。
意味の無い戦いだから。俺にとって。
「アヴィル君、取り敢えず…国王陛下に申請はしてみるけど、良いかな?」
リダルンディは額に青筋を立て、小刻みに震えながら、そう言った。
「なら、序でに言っておけ。認可するのなら、締める。とな」
『バシィッッ!』
俺の右頬に一瞬だけ衝撃が走った。
ああ、これは口の中が切れたな。
すげぇ…これ、人間の威力か?俺に微量ながら傷を負わすとは。中々な者だな。
かと言って、認めた訳ではないがな。
「生徒と言えど、これは感化する訳にはいかないぞ!!国王陛下殺害を予告する様な発言は」
俺が言った言葉に怒っているのか、フレーディンは右頬を強く叩いた。
フレーディンにとって強めと言えど、俺にとっては、そこまでの怪我ではない。しかし、魔族+筋肉バカとかだったら納得出来る威力で、フレーディンは右頬を叩いてきた。人間の素手で、魔法無しで。
Jobは魔法師ではなく、騎士でした。とかだったら、納得する程に。
さて、俺は叩かれた訳だが、そこまで怒りは込み上げて来ない。不思議なほどに。
否、そう言った感情になるのが面倒だったのだろう。
「…それで、俺を牢屋に投獄するか?それとも、処刑台に立たせて処刑するか?」
「まだ、発言を撤回しないのか?」
フレーディンは、もう一度叩こうとしているのか、再度、手を上げた。
「そこまでにしてください、フレーディン先生!」
ずっと黙っていたルデンが突如、叫んだ。フレーディンが俺を叩くのを止める為に。
「ですが、殿下…」
「フレーディン先生、何も知らない人から見れば、虐待をされている様に見えますよ。校長先生も、何故止めに入らないのですか!?」
ルデンは涙目だった。そして、リダルンディとフレーディンに向けて怒っている様だった。
何故、ルデンが怒る?ルデンは関係無いだろうに…。
「殿下とは言え、一生徒に叱られてしまうのは、教師とは言えませんね。フレーディン先生の先程の悪質な行為を、私に免じて許してください。アヴィル」
リダルンディは席から立ち上がり、深々と礼をした。そして、俺を君付けで呼ばなかった。態とか、それとも忘れただけだったのかは、解らないが。
「校長先生っ!?何故、頭を下げるのですかっ!?」
フレーディンは納得出来ていない様だ。
それを、リダルンディは睨み付ける。
「ぐっ…」
何も言い返せないらしい。
「俺は怒ってなどいない。だから、頭を上げろ」
「慈悲に感謝する。もし、国王陛下の許可が降りたのなら、逸早くアヴィル君に伝えよう。勿論、フレーディン先生にも」
「それは当然の事だろう。さ、戻るぞ、ルデン」
「えっ、あ、うん…」
俺はフレーディンを置いて、ルデンと共に実技訓練場に戻った。
***
リダルンディSide
アヴィルは殿下を連れて、この部屋を出て行った。
この部屋に居るのは、私とフレーディンのみ。
フレーディンはとても良い教師であったのだが、今日、アヴィルに決闘を申し込んだ。
アヴィルに決闘を申し込むなど、愚か者以外にする人は居ない。模擬戦ならまだしも、決闘である。死ぬかもしれない。
「我ら魔法のエキスパートの実力を思い知らせる」などと、戯れ言を。あれは完全に、アヴィルを嘗めている。自殺行為。
仮に我ら教師が魔法のエキスパートだと言うのであれば、魔法師団団長殿であるアヴィルは、超一流を超えているも同然。もっと言うと、アヴィルにとって、我ら教師は赤子も同然と言っても過言でもない。
「何故、あの生徒に頭を下げたのですか!?」
まだ、言っている。殿下がこの場から居なくなった途端に。
私は一息、深い溜息を吐いてから言う。
「下げとかないと、後で後悔しますからね」
「はい?」
「それに、フレーディン先生の決闘申し込みは、出来るだけ考え直す事をお勧めしますよ」
「校長先生は、何も思わなかったのですか?」
「何も思いませんよ。アヴィル君が言ったのは当然の事でありますよ。だから、フレーディン先生みたく怒りが込み上げると言うのはありません」
「何者なんです?あの生徒は」
「私は知っていますが、フレーディン先生には言えません。先生だけでなく、他の先生方にも」
「何故ですか」
「王国に関わる極秘事項ですので。そして、これは王命でもあります」
これ以上、アヴィルの事を踏み込んで話をしては不味いと判断した。
アヴィル自身が、バラしても良いと言うのなら、陛下も極秘事項と科す王命を取り消すだろう。まだ、アヴィル自身がバラすとは言っていない。なら、王命として存在する極秘事項は守らなくてはならない。
「王国に関わる…?あの生徒一人に王国が関わるのですか!?」
「ええ、そう言いました。もう、良いでしょう、フレーディン先生。持ち場に戻ってください」
「は、はい…」
フレーディンは、部屋から出て行った。
「はあ…」
私は一人、溜息を吐いた。フレーディンも出て行った後であり、誰も知らない溜息である。
「どんなに強い魔法を使っても、アヴィルに勝てる訳が無いのに…」
きっと、この決闘は密かに行われるだろう。そして、フレーディンはプライド諸とも瞬殺されてしまうだろう。
その後、フレーディンはどうなるのだろうか。プライドを傷付けられ、この学校を去ってしまうのではないか。
良くも悪くも、フレーディンは教師としては良い教師だ。その教師を失うのは、この学校にとって不利益でしかない。
「私はどちらの味方をすれば良い?」
私は頭を悩ませる事しか今は出来なかった。
***
俺とルデンが戻った時には、既に五限目は終わっていた。
「次は…やっと、六限目。今日最後の授業だよ」
「次に行くところは光か?」
「うん」
俺達は光属性の場所に行く。そう、トゥールムンの居るあの場所。
着いた途端から、ルデンは光属性魔法を放ちまくる。大体は《雷撃》だが。
「君は練習しないのかな?」
「したところで意味が無い」
「やってみないと分からないよ?」
意味が違うな。
練習しても意味無いだろう。それをする位なら、オリジナル魔法の創作で費やしていた方が良い。
「練習はしない」
「じゃあ、単位はあげられないけど、良いのかな?留年しちゃうよ?」
「急だな」
「早めに言っておかなくちゃならなかったんだけどね?」
知ってたけど。何、今更?みたいな感じだな俺。
てか、俺、留年とか気にしなくても、将来安泰じゃね?いや、先ず、この学校自体、卒業済みだし。
まあ、学年が終わる前までには、ルデンが殺される危険性は去る事を願いたい。
「留年は別に良い」
する前に、学校を去れるだろうし。そうなれば、留年も進級も関係ない。
「良い訳無いよ!?」
「俺を気にするな」
「先生であるこの僕が、生徒である君を気にするのは当然だよね!?」
「俺は気にしてない」
「えっ?」
「だから、俺は自分の事を気にしてないし、教師のお前は俺を気に留める必要性は皆無だ」
今は自分の事を気にする暇は無い。
常にルデンを気にしているからな。好意ではなく、護衛対象として。
「少しは自分の事を気にしたらどうだい…?」
「そこまで一生徒に気を掛けて良いのか?」
「何を?」
「後ろを振り返れば良いだろう。お前を待つ者が居ると言うのに」
トゥールムンは、はっ、とした様に後ろを振り返る。
「私は貴方のお蔭とは思わないわよ。先生、見て頂きたいのですが」
トゥールムンの後ろで待っていたのは、マリアンローナだった。とは言え、余計な一言だな、おい。
「どれを見せてくれるのですか?アヴィル君はちゃんと練習するんだよ」
トゥールムンも一言余計なお世話だな。
トゥールムンはマリアンローナと共に行ってしまった。
あれから、授業終了までにトゥールムンは戻って来る事は無く、俺はルデンが放つ魔法をじっくりと見ている事にしたのだった。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
フレーディンはコソコソ話など小声で話す事が出来ません。自分では普通に話していても、周りからは大声だと言われてしまう程に大きな声なのです。
そして、アヴィルくんの右頬をビンタしました。メルヴェルが居たら、フレーディンはどうなっていたことでしょう…。
校長室にメルヴェルが居なくて、命拾いしたフレーディンなのでした。
***
次の更新は2月16日です。




