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 「どうだ?」


 ドヤァと笑う気味の悪い教師の後ろから、盛大な拍手が贈られている。

 どうだ?って言われても何ですけど…。


 「的の中央のみを灰にする事は出来るのか?」

 「これを見て、まだ言うか。中央のみを灰にするとすれば、かの魔法師団団長殿位だ」

 「出来ないんだ?」


 俺は本当に中央の一点のみを灰にする事が出来ます。

 あれ?メルヴェルやガードラーレは出来ないんだったっけ?


 「…まだ、信じていない様だな?」

 「魔法のエキスパートなら、発動する魔法を場所と時で選べるだろ。なんで、制御を間違えれば辺り一面が灰になる魔法を選んだ」

 「ぐっ…」


 的のみを灰にする偉業なんかよりも、重大な事なんだ。

 他の生徒、教師、この学校そのものが、灰となって消えてしまう。それに、ルデンが含まれてしまえば…。


 「他の魔法…例えば、《火の粉》とかで高威力なら認めてやっても良かったものを」

 「まだ、愚弄(ぐろう)するか…」


 教師の表情は一変し、怒り狂っている様に見えた。


 「愚弄したのではなく、事実を述べたまで」

 「なっ…!?」

 「ちょっと、アヴィル…」

 「何だ、ルデン?」

 「アヴィルがアレだからと言っても、先生に失礼だよ」

 「ここの今の教師陣を先生だと思った事は一度も無いがな」


 五十年前の教師陣の方が魔法のエキスパートだと思う。もっと言ってしまえば、今の教師陣全員は生徒と同程度にしか思っていない。


 「相手が生徒だとは判っているが、ここまで己のプライドと我々教師陣を含める全ての魔法のエキスパート達を傷付けた。仕方無い…決闘を申し込む!」

 「断る」


 野次馬がどんどんと、「何だ、何だ?」と増えてきた。他の魔法属性を担当している教師ですら、野次馬の一員となっていた。

 この空気は正々堂々と決闘を受けるべきかも知れないが、俺にはその意思は無い。

 決闘中にルデンが魔族らに襲われたらどうする。それに、隠してきたものがバレてしまうではないか。


 「受けろ」


 教師は決闘を強要してきた。

 決闘は両者の承諾と、審判が居ることによって成立する。だが、例外も有るには有る。


 「俺は受けるつもりは無い。この場合、決闘としての効力は無く、模擬戦と言う形となる」

 「法的に効力のある決闘一択だ」

 「決闘を受けるのは拒否する」

 「国家で認められれば、強制的に決闘を受けて貰う」


 例外は国王(ヴァールデン)が認めた時。

 アイツは認めないと思うが。俺が拒否しているからな。仮に認めたとしても、メルヴェルを通して強固拒否してやる。


 「認められればの話だな」

 「ほぼ確実に認められるだろう」

 「そうとも限らないと思うんだがな」

 「ふんっ!」


 周りを巻き込み、嫌な空気のまま二時限目が終わった。


 「少し言い過ぎなんじゃないの?」


 次の場所に移動している最中、ルデンが聞いてきた。


 「多分、メルヴェルの方がもっとキツく言うと思うぞ。どちらかと言うと俺の今の言葉は優しかった方だ」

 「でもさ、決闘を断る必要は無かったんじゃない?」

 「決闘をすれば、ルデンが襲われた時に駆け着きにくいだろう?それに、人が沢山居る場所で魔法を発動すれば、今まで隠していた意味が無くなる」

 「そうだったね」

 「それに、極力、無駄且つ俺が俺自身の為にならない、と判断された戦いは避ける」


 この世に必要な戦いは本来無いのは知っているが、無駄ではない戦いは有る。


 「でも、拒否しても強制的に決闘を受けなくちゃいけなくなるかも知れないんでしょ?」

 「認められた場合か」

 「うん」

 「なら、ヴァールデンを抗議しに行け(締め上げれ)ば良い。それに、それ相応の理由があるからな」

 「あ、そっか」

 「断る為の歴とした理由が存在するにも関わらず、強行突破で王命出してきたら、王都の街をぶっ壊す」


 それくらいはやらないとな。


 「王都を…流石に止めたいけど、アヴィルを止められる訳ないか」

 「諦めるんだな」


 ヴァールデンの判断次第で王都の街の未来に掛かってくる事になった。

 出来れば避けたいけどな。無駄な被害しか出ないから。


 「でもさ、先生も凄かったなぁ~、あの《灰海(セネア・マレ)》。的だけを灰にするなんてさ」

 「失敗されたら、この実技訓練場と生徒達は灰になるからな」

 「ハイリスクハイリターンだね」


 成功すれば高い評価が貰えるが、失敗すれば名誉など全て失う。

 そう言えば、何で《灰海》と言う魔法が存在するんだろう…?あんなに危険な魔法の癖に。


 「アヴィルは出来るんだよね?」

 「的の中央のみを灰に出来るぞ。失敗した後も大丈夫だ」

 「…アヴィルが失敗したら、この世界が灰になるんだろうね」


 ノーコメント。


 「さて、次は光属性魔法の実技だよ」

 「治癒系をやったらどうだ?」

 「治癒系って、《回復》とか?」


 俺は頷いた。


 《回復》、《超回復》、《広範囲・回復》、《広範囲・超回復》など全てを総称して治癒系と呼んだりする。…って事を最近、メルヴェルに聞いた。


 「治癒系をやるのは、戦闘魔法師じゃないよ。治癒専門魔法師の仕事だよ。僕達は戦闘魔法師」

 「いや、光属性の耐性を持つ者全てに共通する仕事?だろ」


 基本、怪我などを治す魔法は光属性に限られる。まあ…闇属性で治す事もあるかも知れないが。


 「えっ…?」

 「えっ、て何だよ?」

 「じゃあ、神職の人達の仕事が無くなっちゃうよ?」

 「は?」

 「だから、僕達専門外の治癒系を覚えて使っていったら、教会等が運営する治癒院が破綻するよ」

 「何それ?」


 治癒院って初耳だわー…。


 「治癒院を知らないの?」

 「俺の知る昔には、そんなものが存在してなかった筈だ」


 治したければ、光属性の耐性を持つ者に頼みに行けば良かったから、そんなものは必要無かった。


 「それに、覚えてて損は無い。対人戦で結構、有利な状態で長期に持ち込められるだろう」

 「そうは言ってもねぇ…」

 「何か問題でも有るか?」

 「いや…特に無いけどさ」


 五十年で常識って、結構変わるもんなんだな、と思った時であった。



 実技の授業は、的に魔法を放ちまくって評価が付けられる為、この時間のルデンは治癒系ではなく、《雷撃》の強化に勤しんでいた。

 俺はと言うと、近からず遠からずな場所でルデンを見ていただけだった。隣に立つ、光属性担当教師トゥールムンがルデンを見ていた。


 「他の生徒も見ないのか」


 トゥールムンに聞いた。


 「見て欲しければ、僕を呼ぶからね。君も練習するべきだよ、見学しているんじゃなくて」

 「他人(ひと)を見て学べる事は多少、少なからず有るには有るからな」

 「君には学べる事は沢山有ると思うけどね?」

 「ほぼ無いに等しい」


 学生如きの魔法を見た所で何を学ぶって言うんだよ?

 この時間、オリジナル魔法を幾つも産み出せる。それ位、俺にとって不必要な時間なのだ。


 「だったら、君は魔法をちゃんと発動出来る様に練習する時間に充てるべきだよ」


 発動出来ない訳じゃないんだが…。

 まさか、魔力波動がこの教師(トゥールムン)も解らないんじゃ…。本当に魔法のエキスパートって何?


 「先生、私の魔法を見て頂きたいのですが」


 トゥールムンに女子生徒が声を掛けてきた。

 この女子生徒は、学年次席のマリアンローナ・アユハリローズだ。魔法師団団長に強く憧れを抱いており、強者だの弱者だの言っている、完全実力主義。

 魔法師団団長が俺だと到底、結び付けようとはしないだろう。仮に知ったとしても。

 それ程な狂信者。


 「何の魔法を見せて頂けるのですか?アユハリローズ子爵嬢」

 「《避雷針》です」

 「分かりました。では、的に放ってください」

 「いきます――光の精霊よ、我に力を!《避雷針》!」


 マリアンローナの《避雷針》は、端的に言うと美しい見せ物の魔法だった。

 威力はそこまでと言う程無く、敵に気付いて貰う為だけに撃った様に見えた。

 俺のマリアンローナの《避雷針》に対する批評はそんな感じだが、トゥールムンからは高評価だった。


 「素晴らしいです。ここまで美しい《避雷針》が見られるなんて…」


 もう、感激です――と紡いだ。


 「先生から高い評価を得られて光栄の至り。有り難うございます」


 マリアンローナは少し深めのお辞儀をして、また、練習に戻っていった。


 「君も練習したらどうなんだい?ずっと立って見てるだけでなくて…フレディーン先生と決闘するんでしょ?」

 「フレディーン?」

 「火属性担当教師だよ?君が怒らせた」


 あの教師、フレディーンって言うのか…。


 「知らなかった」

 「君、先生達の名前を知らな過ぎだよ…。流石に校長先生の名前位は知ってるよね?」

 「リダルンディ・フェーンリィ」

 「フルネームで校長先生の名を当てる人は早々居ないけど…」


 リダルンディは先生かどうかは兎も角、友人であった訳だし。覚えているも何も、覚えざるを得なかったと言っても良い。

 こう言う言い方をすると、嫌々覚えた感があるが、全てが全てそうとは限らない、と言うのをここで進言しておこう。


 「何故、他の先生達の名前を知らない?」

 「覚える理由が無いのと、知るのが面倒だったから」


 その知らない理由を言う今でさえ、面倒だと思っている。


 「因みに僕の名前は覚えてるかい?この前、名乗ったけど」

 「多分、トゥールムン・カムイだろ?」

 「合ってるけど、先生を付けなくちゃ駄目だよ?」


 付ける日は到底、来ないだろう。


 「それは良いんだけれど…君はいつも殿下が来られる時間に来るよね。君は幾つMr(魔法耐性)を持っているんだい?」


 嘘偽り大有りで答えた方が良いのか?この場は。

 取り敢えず、ルデンが三つ(火・風・光)だから。俺も三つにしておくか。どうせ、そこしか行かないんだから。


 「…三つ?」

 「何で疑問文?でも、君が三つだと言ったのは、火属性、風属性、光属性の三つだよね?それだったら、最低四つである筈だよ。水属性はどうしたのかな?」


 あっ。

 編入して来たときに自己紹介として放った魔法は不発させたが、水属性最下位魔法の《雫石》だったな。

 ん…?そう言えば、あの時から結構、魔法を不発させる事が上手くなってきた様な気もしてきたぞ?

 《雫石》の時はラムソゥワンナだが、魔力波動を認知出来た。しかし、今日の《火の粉》はフレディーンだが、魔力波動は認知されなかった。

 確実に俺は上手くなっていると言っても良いだろう。

 まあ、それは置いておいてと。

 取り敢えず、俺はトゥールムンにこう答えた。


 「さあな。好きな様に解釈してれば良い」

 「質問の答えになっていないけど…」


 火・水・地・風・闇・光の六つ全て(無属性は魔法属性に含まない)だと答えたら、信じはしないだろう?なんなら、勝手に好きな様に解釈されている方がまだ良いだろう。


 「…アヴィル君と話していると、僕の父上と話をしている気分になるよ」

 「…」

 「かと言って、ムカつく学生とも話している気分にもなる。何でだろうね?」


 さあ、何ででしょうねぇ?


 「俺にはトゥールムンの気分や考えている事は解るまい」

 「先生を付けようか…まあ、自分が考えている事を他の人が知っているなんて思っていない。そんな事が出来る人間は既に人間を卒業しているのかもね」


 人間を卒業しているで思い出した。勝手に卒業して、色んな人を卒業させる奴の事を。

 ルデンを邪魔者だとして、殺しに掛かってくる魔族共を。


 「アヴィル君?急に誰かを怒っている様な顔をしてどうしたのかな?」


 …言われる程の表情をしていたのか?


 「まあ、誰かを怒っているのかも知れないな」


 俺はトゥールムンにそう言った。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。


***


次の更新は2月9日です。

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