17
翌日。
今日からまた、学校にて授業がある。
いつもよりも一段と、教室が騒がしい。理由は、俺達の担任ラムソゥワンナが珍しく、真剣な眼差しでこう言ったからだ。
「合同特別魔法強化訓練参加の為の選考大会が、遂に来月に迫りました。志望者は後で私に申し出て下さい」
いつもなら、ウザったらしくするラムソゥワンナだが、今回はそう言った事も一切しなかった。初めてラムソゥワンナのウザくない所を見た。
「やっぱり、アヴィルは志望しないの?」
「やっぱりって何だ?志望した所で、選考大会を勝ち抜いて参加が出来る訳無いだろう?」
「…アヴィルに言われると嫌味みたく聞こえるのは、どうしてだろう?」
「気のせいだな」
そう、気のせい、と言う事にしておく。
「それにしても、本当に盛り上がるんだな。話を聞いただけで」
「そりゃね。それに、今年の合同特別魔法強化訓練は行方不明になっていたとされる魔法師団の団長が居ると言うのが告示されているしね」
その団長が俺だと知ったルデン以外の若人達は、幻滅したりしないだろうか。
「想像で創り固められた妄想だな」
「それを、ここで言っても大丈夫なの?」
「どうせ、無罪放免になる」
「…そうだったね」
***
一時限目が始まった。
朝から魔法実技教科だ。選考大会まで一ヶ月間は、魔法実技教科のみの履修しか出来なくなる。一ヶ月間、実技教科のみでいける様に、年間を通して組まれているのだとか。
今の時間、ルデンは風属性の所へと行っている為、俺も付いて行っていた。
「君は、風も耐性あるのかな?」
風担当の教師も言った。
多分、水属性以外の所へ行ったら、必ず言われるんだろう…はぁ。
「無ければ受けてはならないとでも言うのか?」
「そうだよ?自分自身の為にならないからね」
「まあ、俺はMrが無いとは言っていないんでね。受けさして貰う」
「えっ?君は先生の話を聞いてた?」
「聞いてない」
「あっ、先生」
「何ですか?殿下」
教師にルデンが話し掛けた。
話の途中に入ってきたのだが、別に気にしてない。どちらかと言うと、止めたいと思っていた時に入ってきてくれた。感謝。
「《飛行》の発動許可を頂けないかと」
ルデンはこの授業でも、飛ぶ練習をしたいらしい。より、スピードと滑らかさを追及する為にだと思われる。
「《飛行》ですか、練習したのですか?」
「はい」
「残念ながら、先生の一存では許可はしかねます」
あらあら。この教師、第三階級未満なんだね。第四階級か、それ以下。
教師がその階級で良いのかよ…。
「そうですか…選考大会に向けて完全に習得をしようと思っていたのですが…」
「きょ、許可を取ってきますので、少々お待ちを!」
許可を取ってくるって、誰から取ってくるんだろうか。
教師はこの場から離れた。魔法を使ったようには見えなかった。だから、自身の俊足力で行ってしまったのだろう。一瞬にして、消えた。
「アヴィルが公に公表すれば、済む話なんだけどねー」
「行動しづらくなるだろ…」
「そんな事も言ってたよね」
ルデンは軽く笑い飛ばした。
「それに、別に《飛行》に拘る必要は無いだろう?例えば、《台風》や《テンペスト》とか」
「選考大会は対人だからね、一応。自分自身が飛んで魔法を放った方が得は少なからずあると思う」
「飛んでる最中に魔法を発動出来るのか?今のルデン自身は」
「ま、まだやった事無いよ?昨日飛んだのが初めてだった訳だし」
「まあ、そりゃそうだよな」
「でも…本番で許可降りるかな…」
「そんな心配しなくても大丈夫だろう。メルヴェルに言ってルールから変更すれば良い」
「この選考大会の最高責任者は校長だけれど?」
メルヴェルに言っても変えられない可能性があるな…。なら、
「リダルンディを脅せば良い」
多分、うんともすんとも言わずに変えるな、うん。
「脅す?」
「脅さなくても変えるとは思うがな」
「一回、罪に問われてみると良いと思うよ」
「何でだ?」
「何でって…常識を身に付ける為?」
常識を身に付ける為だけに牢屋に入るのか?俺は。
あ…自分が創った物を割った時に入れられた記憶がある…。
「牢屋なんてものは簡単に脱獄出来るからな。本当に意味が無いと思うぞ」
「入った事があるの?」
俺は頷いた。
「王宮の地下にある牢屋に」
「彼処って、罪の中でも特に重い方の囚人が囚われる牢屋だよ?」
へぇー、そうなんだー。
水晶を割っただけで大罪とか…。
「それでも、簡単に脱獄が出来る牢屋に大罪人を収容するか?」
「出来ない様になってる筈なんだけどね…」
「お待たせしました、殿下!」
おっ?ルデンの《飛行》許可を取りに行った教師がやっと戻ってきた。
許可を得るのにそんなにも時間が掛かるものなのかなぁ…?
「が、学校長に許可を得ましたので、どうぞ発動してください!」
「有り難うございます」
「的に放つ事は出来ないので、飛んで見せてくださるだけで良いですよ」
「それでは、飛びます!風の精霊よ、我に力を《飛行》!」
ルデンは天井近くまで飛び、教師に人と人との合間を低空滑降したりして見せた。
「流石は殿下です!そこまで滑らかに飛ぶ事は高い評価が付くでしょう!」
教師は拍手している。ルデンに気が付いた他生徒達も連れて拍手喝采状態になった。
更には、別の魔法耐性の授業を受けている生徒達も飛んでいるルデンを目で追い、拍手している。
こんなんで拍手喝采とは幼稚な…。教師陣も拍手してやがる。
「こんな魔法だけで拍手喝采…魔法のレベルは下がったのか?」
俺はこう呟いてしまった。
「む?君はそう言えないよね?最下位魔法ですら、発動出来ていないって聞くよ?」
出来ていないのではなく、態と失敗させているんでね。お間違えの無い様に…と言っても信じる訳がないか。て言うか、信じた=正体がバレたに繋がるからな。
でも、これくらいなら言っても解らないだろう…。
「出来ないんじゃない、しなかったんだ」
魔法発動に必要不可欠な工程の一つを。
この程度で拍手している教師にこの意味を理解する事は無いだろう。
現に、頭の上に疑問符を浮かべているしな。
疑問符――別名インテロゲーションマークって言うんだっけ?まあ、そんな事はどうでも良いが。
「――さて、俺も魔法をやろうかな」
故意的に不発させるんだけどさ。何か、一発位は何か放っておくべきかなと思った訳で。
最初は、何かの(不発であっても)魔法を発動する気は無かったが、急に気が変わった。
「風の精霊よ、我に力を――《つむじ風》」
この《つむじ風》は、規模の小さめの激しい突風を起こす魔法。珍しく、魔法名が二つある魔法で、《塵旋風》とも言う。
つまり、大切なのは詠唱ではなく、イメージ重視である魔法の代名詞…そこら辺はどうでも良いか。
不発させられた《つむじ風》の風は一切、靡く事は無かった。
「君は…魔法発動の基礎、根底を一から学び直すべきだね」
魔法発動の基礎、根底を一から学び直すだと?教師のお前は知らないだろうが、ルデンに《飛行》を教えたのは俺だぞ?ちゃんと理解できていないと、他人に教える事など出来ないんだから。
「何とでも言っておけ」
言ったところで従う余地は無いから。
教師と話している内に、ルデンが降りてきた。
「ふぅ…どうでしたか?」
「ええ、感服致しました!素晴らしい《飛行》ですね」
「いえ、まだ全然ですよ」
「謙遜を為さらずに。殿下なら、選考大会をトップ通過出来ますよ」
「気の緩みは禁物ですよ。僕はもっと強くなって、国を国民を守れる様にならなければなりませんから」
「ティナラータ王国の未来は明るいですね」
何をもって明るいんだか…。
***
教師の、王国の未来明るい宣言から数分経ち、二時限目に差し掛かる。
ルデンは次、火属性の授業を受けるらしい。
まあ、俺は付いて行くだけなんだが。
「おいおい…火属性の魔法耐性を持ってるのか?」
火属性担当教師は俺の顔を見ただけで呆れていた。酷く無い!?
それはそうと、ルデンは絶えず火属性魔法を的に放ちまくっていた。
さっき、飛んでた癖に、そんなに魔法は放つか?俺じゃ、あるまいし。
魔力の残りが気になる所だな、うん。
これは、一日持つかな?
「さて、一応、参加はしている訳だが…取り敢えず、一つ位は魔法を発動させてみろ」
「俺に言っているのか?」
「他に誰が居ると言うんだ。良いから、放て」
「うっさいな…」
「あ?」
暑苦しいし、一々声がデカイんだよ。
「しょうがない。火の精霊よ、我に力を《火の粉》」
軽ーく不発させておく。
俺が普通に《火の粉》を放つと、この実技訓練場に火の雨が降り、燃えてなくなるだろう。
少しオーバーに盛られているかも知れないが、試した事は無いので何とも言えないのだ。
「魔法が発動された形跡は無し。耐性は無いものと見られる」
魔法発動の形跡が無いだと?そんな筈は有り得ない。少なからず、形跡、証拠とも為り得る様な魔力波動が残る筈だ。
まさか、この教師、魔力波動を感じられないのか!?
「…何をそんなに驚いた顔をしている」
暑苦しい教師ですら引くような、驚いた表情をしているらしい。
「一応は国立高等魔法学校の教師だし、ほんの僅かな魔力波動位は解るだろうと思って…」
「む?嘗めてるのか?」
はい、ここの教師陣全員に対してです。
「それで、解らないのか?」
「これでも魔法のエキスパートだ。嘗められちゃ困る」
…しょうがないじゃない。俺の(不発の)魔法の魔力波動が解らなかったんだからさ。て言うか、俺以上に魔法のエキスパートなんて何処にも居ないだろ。
「嘗めてしまう者が現れれば、我々の面潰れだ。例え、魔法が上手く発動出来ない者であってもだ。その者の為に、力を見せ付けなければならない」
「は?」
「良いか?よく見ておくんだぞ」
魔法のエキスパートねぇ…。自滅行為にならない事を願っておいてやるよ、教師。
的に真っ直ぐになる様に立った。その時の暑苦しい教師の目は真剣だった。
「火の精霊よ、我に力を!《灰海》!」
火属性魔法の《灰海》。万物を灰と化す魔法で、最悪、辺り一面が超高温の灰だけになる事がある。そうならない様に、気を付けながら出力に細かな調整が出来る技術力を持っていると言う証拠にしたいのだろう。
的は綺麗に灰に変わったのだった。
教師の表情は何かをやり遂げた様な、清々しい表情で俺の方向へ顔を向けたのだった。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。
***
次の更新は2月5日です。




