16
陽も暮れ始めた頃、ルデンは自由に空を飛べるようになっていた。
最初は直立不動だったが、今じゃ、空中で回転も出来るようになった。そして、段々とスピードも出始めていた。
しかし、ルデンの魔力量は有限だ。後、残り僅かになっていた。
「もうそろそろ、帰るか?」
「そうだね…」
「まだ、飛んで行きたいのか?」
「いや、そうじゃないよ?魔力だって後ちょっとしか残ってない訳だし」
「じゃあ、どうした?」
「後ろ…」
「後ろがどうした?アレドラントだろう?俺の背後に立つのは」
俺は一度も後ろを目視していないが、アレドラントが鬼の形相で立っているの位は分かる。
「貴様ァ…」
「どうした、アレドラント」
何で怒っている?
「どうしたでは無い!」
「アドレナリンが大量に放出されてるぞ」
「アド…?何だ、それは」
怒りのホルモン…って言っても解るわけがないか。これは、日本の知識。
「気にするな。それで、何の用だ?」
「言わせて貰う。ほぼ始めから見てたが、魔法発動の根底から覆すな!」
一日中、見てたの?まあ、そこはいっか。
「魔法発動の根底から覆す?」
ルデンが、何を言っているのか分からないと言う様な顔をしながら言った。
「魔法発動の真の根底だと思うぞ、俺が教えてたのは」
「んな訳あるか!」
「じゃあ、メルヴェルを呼んでどちらが正しいか判断して貰おう」
正しくなくても、俺が正しいと判断される。
「メルヴェル殿はお忙しい御方だ。早々、簡単に呼べる…訳が――」
「私がどうしたって?現副団長?」
メルヴェル降臨。と言うか、まだ呼んでもないのに、来ちゃったよ…。
「話は聞きました。どちらが正しいかでしたね」
何処で聞いていたんだろう?てか、普通の話し声でも聞こえてるのか?
「メルヴェル殿、何故ここに!?」
アレドラントは、いきなりメルヴェルが来て混乱している状態のようだ。ルデンは既にショートしていた。
「早めにメルヴェルに決めて貰って、この場は解散しよう」
ルデンの為に、早く帰ろう。と、言うのは口実で、俺が早く帰りたいだけ…。
「それでは決めさせて頂きます」
アレドラントは何が何だか…と、呆れ始めていた。
「先ず、魔法陣について。魔法陣は魔法のイメージを簡要に書き表したものである。では、イメージとは何か。魔法発動後の結果の想像、予測が主である。我々は魔法を発動させる時にその後の結構を予測して発動した方が効力としては高い。つまりは、副団長の言い分は不確実である。対し、この御方の言い分にとても近い。よって、副団長ではなく、この御方の方が正しい!」
まあ、そんな結果になる事は予想済みだが…まだ、アレドラントには俺が団長その人と言う事は隠しているんだぞ?何、さらりと「御方」と呼んでいる?それに、何か少し清々しそう?
「め、メルヴェル殿がそう仰られるのなら、そうなのでしょう…しかし…」
(コイツの事を御方と呼んだだと?貴様は一体、何者なんだ?メルヴェル殿を呼び捨てにしても、叱責を受けないなど…)
「しかしとは、何だ?私の見極めが誤っているとでも言うのか?副団長よ」
「いえ、滅相もございません」
「なら、良し」
アレドラントは胸を手で撫で下ろした。
「正しいかどうかは決まったし、俺達は帰らして貰う」
俺は、ずっとショート中で同じ場所から直立不動のルデンの手に、俺自身の手を繋いだ。これから、《瞬間移動》で学校の寮の部屋に戻る為だ。
「メルヴェルはどうするんだ?」
「私には気にせずに」
どうやら、この場に残る様だ。
ああ、多分、アレドラントは今日、死ぬな、こりゃ。
本当に死ぬ訳ではないだろうが、精神的に意気消沈状態になる事だろう。
「…お手柔らかに、な」
「出来る限りの最善を尽くします」
俺には、その言葉が真逆の意味を為す言葉に聞こえてきていた。
「《瞬間移動》」
俺はショート中のルデンと共に、部屋に戻ってきた。
ルデンをベッドの上に寝かせ、俺は寛ぐ。
寛いでいたら、机の上に一枚の紙が置かれていたのに気付いた。
その紙は、カロサからの置き手紙で、当分帰れないと言う内容だった。
その置き手紙を机の上に置き直し、メルヴェルが帰ってくるのを待った。
「只今、帰りました」
「お帰り」
待ち始めてから、約一時間半後に帰ってきた。
「団長殿、カロサはどうされました?」
この部屋にカロサが居ない事に速攻で気付いた様で、キョロキョロと探している。
「カロサなら、当分帰れないらしいぞ。机の上に置き手紙があった」
「そうでしたか。カロサが帰ったらトコトン、叱責を浴びせれば大丈夫ですね」
トコトン叱責を浴びせる?何が大丈夫だか分からないが…?
取り敢えず、アレドラントの無事を聞くとするか。
「アレドラントの方は?」
「大丈夫ですよ。団長殿に言われましたので、手は上げてませんよ」
手を上げなければ大丈夫と言う様な話ではないのだがな。お手柔らかにとか、程々にとかにしたら、時間が掛かり過ぎてるからな…。
…アレドラントに憐れみを始めて思えた日だな、今日は。
「それでは夕食をお作りしますね」
「楽しみにしてる」
「いつもよりも豪勢に致しましょう」
「いつもと同じで良いぞ?」
「団長殿に楽しみにしてると言われましたので」
余計な配慮ではないのか?まあ、そんな事はどうでも良いか…。
俺は更に夕食が出来上がるまでボーッとして、待っていることにした。
「あれ…?僕、部屋に戻ってたっけ?」
ルデンのお目覚めの様だ。
「お前はショートして動かなかったけどな」
「じゃあ、何で部屋に?」
「…察せ」
ルデンは納得出来ない顔をしていたが、数秒後に納得出来た様な顔をした。
「あー、成る程。話は変わるけど、カロサ様は?」
「はい」
俺は机の上のカロサの置き手紙を手渡す。
「…当分は帰れないんだ。何でだろう?」
「知らね」
帰れない理由は一切、書かれていなかったから、俺は知らない。
「それで、メルヴェル殿は?」
「帰ってきたら、トコトン叱責を浴びせるだとよ…」
「メルヴェル殿らしいね」
何がメルヴェルらしいだ?
それはそうと、俺とルデンが話をしている内に、夕食が出来上がった様で、メルヴェルが机の上に料理を並べていっている。
「いつも以上に豪華ですね…?」
(そんなに食材あったっけ?)
本当に豪勢に致したな…。沢山の料理が並べられていた。
「今、とても気分が晴れておりますので」
何で?とは聞かないでおこう…。
ルデンも理由を聞かなかった。
最高な一時を過ごしたのだと思う。
沢山の料理は綺麗に完食されたのだが、もう動けない…。動けない程にお腹が膨れたのだ。
それに浸るようにして、俺達は就寝するのだった。
***
カロサSide
私は今、人間が住む所よりもずっと上に存在し、私達神が暮らす所に居る。
私達神を纏める存在(人間にとっては国王)である、神王と言う神が居たのだが、今より約九百年も前に居なくなってしまってから、後代は誕生せず、代理と言う形をとってきた。
その、神王代理の神に帰ってこいと命令されたから、私はここに帰ってきた。
「来ましたね、召喚の女神カロサモンティス。待ち草臥れましたよ」
私の目の前で偉そうにしているショタ姿の男神は、安眠の男神キアガーフ。私より少し歳上。この姿で。
一応、代理とは言え、私達神達のトップ。一番偉い。だから、逆らうことは出来ないし、しない。
「長らくお待たせ致しまして申し訳ありませんでした」
私は跪く。
「カロサモンティス、顔を上げなさい。少しも怒ってはいませんので」
「お気持ちに感謝致します」
私は顔を上げ、安眠の男神キアガーフと目が合う。
「貴女に先ず先に話しておきたいと思いましてね」
神王。全てを知る者。代理であろうが、この世界の全てを知る。知っている。
「私にですか?」
「ええ。新たな魔王出現を伝えておきます。適当に強そうな人間を見繕って討伐してください」
魔王出現…。
「それは、近頃、新たな魔神が誕生したのと関連が?」
「その新たな魔神がもう、人間と契約を交わしたのでしょう」
つい最近、アヴィルくんと勇者達が倒したばかりなのに、また新たな魔王が…。
新しい勇者を召喚すべき、か…。
まあ、逆らう事は出来ないので、仕方無い。
「分かりました」
「補足ですが、新たな魔王は新たな魔神の傀儡らしいですよ、完全に。前回の魔王は逆に魔神を傀儡にしてましたが」
「では、人間達は魔神と接触してしまう可能性がありますね」
「そうですね。魔神とは言え、我等と同様に神です。人間が危害を加えたらなりません」
「そうならない様に厳しく注意換気をして参ります」
人間は神を攻撃してはならない。そう、昔から決められている。
それぐらいは、私にだって知っている事。
「なら、助かりますよ。では、頼みましたよ」
「はい」
私はこの場を後にした。
それで、やっとアヴィルくんの元へ戻れる訳じゃない。
他にも用事があるのだ。
それに、この場所と人間の住む所との時間の流れが違う。ここに来てから二時間もしてないが、人間の住む所だと朝だったのが、もう深夜になっている。
なので、あの部屋の机の上に、当分帰れないと置き手紙をしてきた。
ああ、メルヴェルさんにこっぴどく叱られるなぁ…。ああ、怖い。
何で神である私が、何故人間を怖がっているんだろうか。怖がらなくても良い筈なのに…自分でも解らない。
よし、出来るだけ早く、やる事済まして戻ろう。ここで経つ時間よりも、人間の住んでいる所とは約八倍もの時間が経ってしまうから。
時間が経過する毎にメルヴェルさんにより叱られるから…。
私は気を取り直して、次の場に向かった。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。
***
次の更新は2月2日です。




