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俺は未だに魔神の加護が付与された状態である事が解った。
「知っている範囲で良いが、魔神は魔族と関係性はあるのか?」
関係があるのだとすれば…。
「あるわよ、大アリよ。魔神と契約した者が魔王。魔王が創り出したのが魔族だから」
「ふーん…」
「アヴィルくんが聞いてきたんだから、少しは驚くとかのリアクションを取りなさいよ…」
「うっそ…マジかよ…」
「仕切り直しても無駄よ」
カロサが言うから、してやったのに。
「カロサ、お前は団長殿に失礼を働いた…(ゴゴゴ…)」
「ひっ!?」
自棄にメルヴェルが静かだなと思えば、堪忍袋の破裂を押さえるのに必死だったのか。
完全に空気になったルデンはと言うと、こちらをボケッーと見ているだけだった。
「まあ、取り敢えず、話はここまでにしておこうか。時間が時間だろうしな」
「ええ、そうですね。さあ、カロサ。夕食を作り始めるぞ」
「は、はいっ!」
メルヴェルはカロサを強引に台所に連行していった。
「…ルデン?」
俺は立ち尽くすルデンに声を掛けた。
「はっ…あ、何?」
「大丈夫か?」
「う、うん!大丈夫だけど?」
焦点が今さっきまで合っていなかったから戻って来て良かった、良かった。
「明日も休日だろ?」
「ああ、うん、そうだね」
「朝イチから魔法を見てやるよ」
「えっ!?」
「と言うか、暗くなった時よりか安全だと思うぞ?《飛行》の練習は」
多分、メルヴェルの事だから、一日中やると言っておけば、一日中使えるようにはしてくれるだろう。
「どうだ?」
「そこまでしてくれるのは嬉しいけど…」
「けど?」
「いや、お願いします…」
俺は溜め息混じりにこう言う。
「元は、お前の命令のもとに動いているんだがな…」
「ああ、そうだったね」
と言う訳で、明日は朝イチから魔法を見てやる事が決定した。勿論、メルヴェルに言っておいた。
朝イチから魔法を練習すると言うことになったので、ルデンは早めに就寝した。
その後、カロサが寝付き、静かな夜が訪れた。
俺とメルヴェルはベランダに居た。
「星が綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
俺達は星空を見上げている。いつもよりも一段と綺麗な星空だった。
「聞いても宜しいですか?」
「答えられるものなら」
「では。神の加護の付与は失敗することは有り得ないのですよね?」
「そうらしいな」
急だな。いきなり聞くような事でも無いと思うが、メルヴェルにとっては今だと思ったのだろう。
「魔神の加護がどうとか言ってましたが、一応神のカロサの加護が失敗したのと、どう関り合いがあるのですか?」
「魔神の加護は、他の神の加護を受け付けなくするらしい。そして、俺は魔神に監視されている」
「団長殿を!?他にはどの様な…?」
「特にない。俺は知らず知らずの内に、魔神に加護されてしまったらしい」
「団長殿を監視…ズルい…あ、いえ、何でもありません。しかし、付与を取り払う事は出来るのでしょうか?」
何か聞こえた気がするが、付与を取り払うのはどうなんだろう…。
「分からない。この間、俺は帰省しただろう?」
「はい、そうですね」
「道中、パワレント村に立ち寄ったんだよ」
「リヴァーフォールズ辺境伯爵領に行くには最適ルートに含まれますね」
「そこで祀られているパワレントと言う神に加護を付与をしてもらう時も失敗したんだよ。その時に魔神に加護されてるのが分かった。あの神は付与が取り払えたら、また来いと言った」
「つまり…」
「取り払えるのは魔神自身のみなのだろう」
新たな魔神が誕生したと言うことは、俺を加護した魔神はもう居ないと言う事になる。それなのに、加護が続行して付与され続けている。
「魔神を倒せば良いのでは?」
「俺には魔神を倒す理由は無いがな。あの時は、魔王を倒すのであって、魔神を倒す訳でも無かったのだから」
魔神と契約して魔王になると、カロサが言っていた。俺の元弟は魔神と契約したと言う事になる。本来、魔王にした魔神も恨むべきだが、契約は人間側が勝手に喚んで契約を結ぶものなので、魔神は恨まなくても別に良い。
只、魔王となったアイツは、両親を殺し、白鳥さんまで手に掛けようとした。それは、残念だが…。
それに、メルヴェルをババアと呼び、殺しに行こうとした。大罪である。
「私は団長殿が無事、帰ってきてくれただけでも嬉しかったですよ」
メルヴェルは、ほくそ笑んだ。目に浮かんできた少量の涙を拭りながら。
「…有り難う」
俺は何となく、メルヴェルに感謝した。
「私、団長殿に感謝される様な事をしましたっけ?」
「俺が勝手に思っただけだ」
「そうですか」
「俺はもう、寝るぞ」
俺はベランダから中に入ろうとする。
「お休みなさいませ、団長殿」
「ああ、お休み」
俺は中に入り、ルデンが寝ている所を隣に横になった。
***
翌朝。
俺はルデンよりも早く、目が覚めた。
「お早うございます、団長殿」
「お早う」
メルヴェルは俺よりももっと早く、目が覚めていた様だ。
「…?どうされました?何か顔に付いていますか?」
「いや、何でもない」
「そうですか」
俺は朝食が出来る前までに着替える事にした。
着替え終わった頃、ルデンが起きた。カロサはと言うと、メルヴェルに叩き起こされて、やっと起きた。
ルデンは何故か、目を凝らしながら俺の方を見ている。正確には、俺の身体の方。
「…変か?」
「あ、いや、変じゃないけど…初めてだなぁ、と思って。アヴィルの魔法師団の制服姿」
そうだっけ?
ルデンは一度も見た事が無いんだっけ?
「まあ、ルデンは俺の姿とかよりも、先に着替えろ」
「あ、うん、そうだね」
ルデンは学校の制服に着替えた様だ。まあ、私服なんかよりも、動きやすい分、良いだろう。
ルデンが着替え終えたのと、ほぼ同時に、朝食も出来上がったので食した。うん、美味。旨かった。
「あのさ」
「何だ?」
「今日は《瞬間移動》で移動するの?」
「そのつもりだが…どうした?」
「学校の敷地内で、魔法師団の制服を着込んでるからさ、アヴィルが」
「ああ、なんだ、そんな事か」
移動する為の手段として、《瞬間移動》する事に対して、拒否されているのかと思った…。拒否されようがされまいが、無理矢理、連れて行くけどさ。
「じゃあ、行くか」
「うん」
「団長殿。何かございましたら、御呼び付け下さいませ。直ぐに駆け付けますので」
離れていても、俺の声が聞こえるとでも言うのかな?メルヴェルさん。
***
俺とルデンは魔法師団の屋外演習場に《瞬間移動》した。
「…ここが」
「初めて来たのか?」
「そうだよ?王族の立ち入りも厳しい所なんだから」
「へー」
俺がここに初めて来たときは、入団試験の時で、メルヴェルと戦って圧勝したと言う記憶がある。
とは言え、王族の立ち入りも厳しいのか、ここは。
「意外と広いし、魔力が貯めやすい設計になっているんだね」
「五十年以上前から変わらないな、ここは」
「僕に言われても分からないけど、アヴィルがそう言うなら、そうなんだね」
本当に何も変わらないな…。
話はここまでにしよう。
俺は二発、手を叩いた。
「じゃあ、飛ぼう」
「そうだった、僕がここで《飛行》を使えるようにする為に来たんだった」
「忘れてたのか?」
「この屋外演習場は基本、魔法師団団員じゃないと来れない様な場所だよ?早々、来れないんだって、ここは」
「ふ~ん…」
ルデンは何故か盛り上がっている様だ。
「それで、飛ぶにはどうしたら良いの?」
「自分が空と一体になるイメージを持つ。まるで鳥になった様に」
「それで、それで?」
「詠唱でも何なりして、魔法を発動させる。終わり」
「えっ?」
「えっ?って何?」
これ以上に何をする必要があるんだと言うんだ?
「脳内で魔法陣を編み込んで、それ通りに魔力を放出するんじゃないの?魔法発動って」
おいおい、何を言っているんだ?そんな面倒な事を一々、してられるってのかよ…。
「魔法陣は言わば、イメージそのものをメモしただけの奴だぞ?」
「そうなの?」
俺は頷いた。
「でも、アヴィルはアヴィル自身の魔法書に壮大な魔法陣を書いてなかった?」
「自分がイメージした事を誰かに伝える分には十分なんだよ、魔法陣は」
魔法陣の方ではなく、その付近に綴ってある文章の方をよく読んで欲しいものだね。
「つまり、魔法陣は魔法を発動させるものではなくて、魔法発動に必要なイメージを分かりやすくしたもの?」
「ああ。だから、魔法陣通りに魔力を流しても発動するのはこの為だな」
「魔法陣にメモされているイメージを自分なりにイメージし直す必要があるの?」
「その方が威力としては上がる」
「他の魔法にも同じことが言える?」
「勿論」
イメージに工夫を施しまくった結果が、所謂、オリジナル魔法の誕生となるのだ。
人が創った魔法と自分が創った魔法の威力は比にならない程、高威力で発動する事が出来る。
「因みに、自分自身が編み出したイメージを覚えておく為に魔法陣を書いておく事の方が多い」
「僕にも魔法陣を書ける様になるのかな」
「確か、三年生の時に習うと思うぞ。そして、最後の関門で挫折する奴が多い」
魔法陣は文字の様に見えなくても、実際には長文の文章と何ら変わらない文字なのだ。
基本が事細かに決められているからな。
「そんなに難しいの?」
「さあな。感じ方の違いだろ。取り敢えず、飛べ」
「分かった、やってみる…」
ルデンは、イメージの構想を組み立てている様だ。
この場で話し掛けてはならないだろう。集中を途切らす様な行為は、あまり良くないと言うしな。
「風の精霊よ、我に力を――《飛行》!」
ルデンは真上の空に飛んだ。まるで、ロケットの様に…。
取り敢えず、俺もルデンと同じ標高に飛ぶとしよう。
「《飛行》」
ルデンと同じ目線の高さを飛んで、その位置で留まっている。
「空を飛んでいる…僕は空を!」
「簡単だっただろう?魔法陣を一々、覚える必要もないんだぞ」
「イメージに結構、時間が掛かるけどね…」
ルデンは初めて空を飛んだのだ。飛んだ時に見た王都の景色を遠目で眺めていた。
俺はそんなルデンに何も言わなかった。只、見守っているだけだった。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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次の更新は1月29日です。




