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 魔王の顔を覆っていた仮面が取れ、俺によく似た顔が顕となった。

 …魔王の正体が何故、音信不通の()なんだ?

 コイツ(魔王)が弟だと顔を見て判る。しかし、弟にしては若すぎる。

 俺みたいに時間にずれのある所に居たわけでも無いだろうし。魔族の王だから?

 両親だって魔族になったら、若いときの姿だったわけだし。


 「まだ、当分、見られる訳にはいかなかったのですが…兄さんには。穢れてしまっている僕の顔を」

 「は?別に、特に何も思ってなどいないが?」


 穢れているからどうした?そんな事は正直、興味ないし、俺にはどうでも良い事だ。

 俺はもう、フードは取れてしまったので、気にせず筆談を辞め、普通に声に出して喋っている。


 「あ、え?あ、あ、そうなのですか?」

 「まあ、そうだ。兎に角、お前は()()()()だな?」


 俺の弟の名前はルヴィル・リヴァーフォールズだった。


 「違いますよ。僕はもう、その名は捨てました。今の名は()()()。是非、そう呼んでください、兄さん」

 「誰が呼ぶか。魔王」


 キッパリと断った。

 てか、名前を捨てた?何を言ってやがる、コイツは。


 「残念です、兄さん。元々は、兄さんを救うために僕は魔王となったんですよ」

 「は?俺の為?それに、俺にルヴィルと言う人間の弟は居るが、魔王の弟は居ないんで。勝手に『兄さん』と呼ぶな」


 今、目の前に居るのは、元弟であって現魔王。既に弟ではないのだ。

 魔族になった両親と一緒。既に俺の家族ではないのだ。

 それに、俺の何を救うと言うんだ。


 「僕の兄さんは…変わってしまった。僕だけの兄さんだったのに。あの聖女やあの元魔法師団団長補佐のババア…!許せない、許せない……!」

 「おいコラ、魔王。今、元魔法師団団長補佐のババアって言ったか?メルヴェルにババアって言ったか?」

 「ええ、言いました。兄さんはその者達に汚されてしまったんです。安心して下さい、僕が今から殺しに行って参りますので。その場でごゆっくりと、お待ちくださいね」


 よし、魔王、ギルティだ。

 死ね、魔王。


 「メルヴェルを殺そうとするなら、ここで殺す」

 「な、なんて事を言うんですか、兄さん」

 「俺はお前の兄などではない」


 俺は、そのまま魔王の左胸に《取り出し》で取り出しておいた【魔剣ヴィヴァロ】で刺した。

 俺の逆鱗に触れたのだ。恨むのなら、自分自身を恨め、魔王。


 「ゴフッ…」


 魔王は口から血を吐いた。その時の表情がほぼ笑顔だったから、気持ち悪く感じた。


 『バタッ…』


 魔王はそのまま倒れた。大量に血が流れる。


 「魔王様ー!!よくも、貴様ァ…!」

 「犬児(いぬころ)、お前が俺を殺しても良いのか?何か、魔王にとって俺はとても大切な兄らしいからよ」

 「ぐぬぬぬ…」



 俺はナシェリアと勇者共が居る場所に出向いた。

 ちゃんと返り血を《浄化》で落としてから。

 光属性の《浄化》は毒や呪いを消すだけでなく、媚びり付く返り血も消す事が出来る。(今知った)

 俺がフード男だと知って、どう思っていたのだろうか。

 俺と勇者達が目を会わせると、沈黙の時間が訪れた。

 そこへ、ナシェリアが喋った。


 「アヴィル、お疲れ様」

 「あ、ああ…まあ。一応、魔王は倒したぞ」

 「滝川くん、良いかな?」


 ああ、白鳥さん元気そうで良かったよ。


 「うん」

 「フードの方は滝川くんで良いんだよね?」

 「そうだ、ね」


 何か歯切れの悪い返答になってしまった。


 「滝川くんが元気で良かったよ…ずっと、会いたかった」


 白鳥さんは泣いている。

 これって、感動の再開みたいなやつ?


 「あのね、滝川くん。さっきまでの事について教えて?それから、滝川くん自身についても」


 これを聞かれてしまったら、嘘など無しに包み隠さず答える他、無いだろう。


 「…わかった。王宮で話す」


 俺のクラスとして日本に居た頃のキャラクターは、ここで終了を迎えた。



 「取り敢えず、話はもう良いかな?菜奈(なな)さん、滝川くん」


 有田が切り出した。


 「うん」

 「ああ。俺が《瞬間移動》で王宮まで戻る。行きと同様に各々で手を繋いでくれ」


 行きと同様な手の繋ぎ順になった。が、行きと少し違う所もあった。


 「わ、私…滝川くんと、手を…つ、繋ぐ…」


 白鳥さんが動揺していた。


 「繋がないと戻れない。さあ、手を」

 「あ、うん、そうだよね!あははは…(プシュー)」


 白鳥さんの全身が火照っている。大丈夫かな?

 まあ…王宮に着いたら診れば良いし。


 「《瞬間移動》」


 俺とナシェリア、勇者パーティーはメルヴェルや他の勇者達などが待つ、王宮へと向かった。


――――――――――――――



 「帰ったぞ、メルヴェル」


 目の前に居たメルヴェルに言った。

 メルヴェルは驚いた顔をして俺だけに聞こえる様に耳元でこう言った。


 「団長殿?フードは取られてしまわれて良かったのですか?バレてしまわれるのでは…」

 「まだ、俺が魔法師団の団長だと言うことは言っていないが、顔はバレている」

 「そうですか…よく、帰られた。魔王は…」


 メルヴェルは切り替えて、俺達全員に聞こえる様に言った。それに、俺が答える。


 「メルヴェル、魔王は倒した」

 「皆、生きてる。良かった。今日は十分に休養を取り、明日は国王に報告しに行く」

 「「「「「「はい!」」」」」」


 皆の良い返事が響き渡る。

 俺もノリに乗って返事をしてみたと言う事実を知る者は居なかった。



 そして、既に夜になっていたので、そこで一応解散し、俺はメルヴェルと一緒にメルヴェルの自宅へと帰った。

 早く、俺の自宅が帰る家となってほしいものだが、早々簡単にはならないだろう。国王をやっているヴァールデンに言っても難しいと難色を示す事だろう。


 「団長殿、お疲れ様です、本当に」

 「ああ」

 「夕食を作りますので、少々お待ちください」


 俺はメルヴェルの作る料理を楽しみに待っている。

 あそこで、あのタイミングで魔王を刺さなければ、このゆるりとした時間は無かったんだろうな…。

 微笑ましいな。

 俺はこの時間を守りたい。この人の笑顔も。

 あはは…俺、今何を考えているんだろう?分かんねぇ…。


 「お待たせしました。さあ、どうぞ召し上がってください、団長殿」

 「うむ、頂こう。――うん、美味しい」

 「良かったです」


 俺は世界で一番、メルヴェルの作る料理が好きだわ。マジ、最高に美味い。



 あっという間に完食してしまった。


 「メルヴェル、俺はもう寝るぞ」

 「はい。お休みなさいませ、団長殿」

 「お休み」


 俺は三階の寝室に入り、ベッドに横たわると、疲れているのか、直ぐに就寝してしまった。

***

 メルヴェルSide



 団長殿が無事に帰られた。

 団長殿がもし、死んでしまったらと考えると私…辛く、悲しい。



 話は変わる。

 私はこの年齢になっても団長殿が好き。異性として見ている。団長殿の方がどうかは分からないけれど。だって、団長殿は超が付く程の鈍感なんだもの。

 もし、私がまだ若い身体だったのなら、団長殿と…。

 はぁああ…。

 分かる。私には分かる。物凄く顔が火照っている事に。

 団長殿はお疲れで、夕食を食べた後、直ぐに寝に行った。


 「お疲れ様です、団長殿。生きて帰ってきてくれて…本当に、本当に嬉しいです」


 私は団長殿に聞こえないと知っていながら、団長殿に向かって言った。



 私は明日の朝食の仕込みを始めた。

 敬愛する団長殿の為に。魔王を倒すと言う偉業を成された団長殿の為に。

 少しでも豪華な食事を私から。


 「ふふっ」


 団長殿の喜ぶ姿が目に写り、余計に私の気分は(はしゃ)いでいる。

 私が本気を出して料理を作るのは団長殿以外に居ませんよ。



 そうして、私は一晩掛けて朝食を作った。

***


 「おおー、凄いな…」


 翌朝。

 目が覚めて、一階に降りると朝食が出来ていた。

 その朝食が本当に凄い。驚きを通り越して、引くの領域に入るぐらいの。


 「さあ、団長殿、召し上がってください」

 「ああ、うん」


 いつものメルヴェルの料理が比にならない位は美味さ。

 ああ、俺、今日明日には死ぬんだな。きっと、これは最後の晩餐…ならぬ、最後の朝餐(ちょうさん)だな、うん。

 それぐらいに豪華で美味しい料理だったのだ。


 「どうですか?」

 「美味いよ。こんなに美味い料理は初めてだ。有り難う、メルヴェル」

 「私には勿体無さすぎる、お褒めの御言葉…こちらこそ、有り難うございます」


 過度に謙遜している、いつも通りのメルヴェルだ。

 変わらないこの日常を守ることが、幸せと言うんだろうな、多分。



 俺達は朝食を食べ終わり、王宮へと向かった。

 今日は国王であるヴァールデンに、魔王討伐の報告をせねばならないらしいからな。


 「今日はフードを被られないんですね」

 「もう、必要は無いと思ってな。やっぱ、フードしてた方が良かったか?」

 「いえ、私は団長殿の御顔がハッキリと見えて嬉しいんですから、なのでそれで良いんですけどね」


 俺の顔って、そんなに見てて嬉しいのかなー?まあ、メルヴェルが喜ぶなら、それでも良いか。


 「フードを取られたって事は、筆談もお辞めになってますよね?」

 「まあ、な。顔が割れたら、筆談も意味は無いかなと思ってさ」

 「そうなんですね。私は団長殿の声がずっと聞けて嬉しいんですから、その方が嬉しいです」


 知らなかった…俺の声って、ずっと聞きたくなるような声だったのか。

 メルヴェルの俺宛の褒めっぷりは五十年(日本転移)前よりもパワーアップして、健在してるよな…。常々、思うけどさ。


 「どうされました?私の顔に何か付いてますか?…そんなに見詰められると、恥ずかしいですぅ…よ…?」


 何かメルヴェルが照れ始めた。


 「あ、いや、俺、そんなに言う程、メルヴェルを見詰めてたか?」

 「はい。それも熱く」

 「誤解を招かねない発言は止めようか」

 「誤解…ですか?私、何か誤解を招かれる様な発言をしてましたでしょうか?」

 「あのねぇ…」


 王宮に行くだけでこんなに疲れただろうか。

 ああ、でも照れたメルヴェル、可愛かったな。若い時のメルヴェルを知っている俺だから言えるんだよな。



 そして、俺とメルヴェルは王宮に辿り着いた。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。

***

余談(飛ばしても大丈夫です!)


 アヴィル、ナシェリア+勇者パーティーが魔王討伐に行った頃(第三者視点)



 メルヴェルはアヴィル達を見送った後、王宮内をあっちこっち歩き回っていた。


 (……団長殿が死んでしまったらどうしよう……)


 メルヴェルを見掛けたヴァールデンや他の者達は、あたふたしている。何せ、メルヴェルの機嫌が悪いからである。

 王宮の何処かの部屋が破損してしまわないか、不安になっているのだ。

 それに、今回のメルヴェルの機嫌の悪さは、五十年前――アヴィルが転移してしまった時レベル位だろう。

 ヴァールデンは祈る。


 (アヴィル達よ、早く戻ってきてくれ………!)と。


***

次の更新は12月8日です。

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