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『ふん…我の本来のこの姿に怖気ついたか』
『いや、怖気と言うより、大きな犬が現れたなー、位にしか思ってないのだが』
『なぬ…?』
いや、マジで。
『我は犬ではない、狼だと何度も言っているが…。まあ、良い。どうせ貴様は、ここで死ぬのだからな』
あー、死にたくはないな。
俺にとって十八年ちょっとしか生きられないのはなー…。
『いや、死ぬのは犬児、お前の方だ』
『貴様を殺してやる…いや、絶対に殺す!GAAAA!!』
今までは対人戦気分だったのに、今じゃ、魔獣と戦っている気分だな。
《龍炎》
ガブリアを締め殺せ。
『こんな魔法如き、我が噛み千切ってやるわ!』
ガブリアは俺の《龍炎》を噛み千切りやがった…。誉めてやらん事も無い。
『貴様の魔法とはこんなものなのだな!』
完全に嘗められている。
ガブリアは俺を踏み潰そうとした、その時――。
「危ない、っです!フードの方!」
白鳥さんが俺を押し倒した。
その後、鈍い音が聞こえてきて、そのまま、白鳥さんが…潰された。
白鳥さんっ!?
「犬、そこまで」
『魔王様…私はまだ、この男を』
「僕はその聖女を殺せとしか命令してない」
『すみませんでした…」
ガブリアは人サイズに戻り、魔王に跪いている。
そんな事を気にせず、俺は白鳥さんを治療する。ああ、酷い怪我だ。
《超回復》
瀕死と言うか、ほぼ死んでるも当然な様で、とても危険な状態だった。
「《人魔転生》」
魔王は俺が一生懸命治療中の白鳥さんに何かの魔法を掛け始めた。
「これで、その聖女は僕の臣下の仲間入りだ」
何と!?
俺の《超回復》も効いてはいるが、白鳥さんは目を覚まさない。そう言うこと、一回も無かったのに。
逆に、白鳥さんが白鳥さんじゃなくなる感じがしている。これが、魔族化…。
《魔法削除》
これは、魔法による効果だと思う。
今までにないぐらいの魔力を込める。
「あーあ、途中で消えてしまいましたか…。中途半端な」
見たところ、魔族化が途中で止まったようだ。
《超回復》
このまま、目を覚ましてくれ。
これ以上、人間を辞めさせられないでくれ。
「…あ、あれ…私、何を…」
良かった…白鳥さんが目を覚ましてくれて。
「目を覚ましてしまいましたか…これでは、《人魔転生》が効きませんよ」
魔王はやれやれと溜息を吐いていた。それにしても…良いこと聞いたな。
「私の髪の毛、どうなっているの?何で、銀髪になってるの…」
『それは、魔族化の影響だ』
「魔族…?私、魔族なの?」
『一応、食い止めたから、まだ魔族ではなく、人間だと思う』
白鳥さんの茶髪が、ほんの魔族化の影響で銀髪になった。
…白鳥さんには人間と言ったが、魔族と人間の中間位だろう。
「聖女を護るんですか…まあ、僕の目の前で未だに顔を見せてないのは貴方だけですよ。フードを取ったらどうですか?」
おい、魔王。何を言ってやがる。
魔王だけに言われたくは無いわ。顔面全体を仮面で覆っているお前に。
『なら、お前も仮面を取れよ』
「この僕の穢れた顔を見せられませんよ」
何か、魔王の言うことでも無いような発言だな…。
『取らないなら、お前の仮面を力ずくでぶっ壊してやるけどな』
「先の爆風でも取れなかったフードを、僕は力ずくで取るしか無いようですね」
先の爆風って、グレファに《水蒸気爆発》を起こした時かな?
『やれるものなら、やってみろ』
「ふふっ、僕は魔王ですよ。グレファとかと、一緒にしないでくれますか?」
『さあ、どうだかな』
「フードの方…」
「菜奈さん、こっち」
白鳥さんは有田が回収し、少し離れた所に移動した。そこには、ナシェリアを含める勇者達が勢揃いしていた。
「仲間が助けてくれないですよ、そんな遠くでは」
『巻き込ませない。と言う面では、離れてくれていた方が嬉しい』
「優しすぎですよ。《取り出し》」
魔王は魔王自身の剣を出した。
魔王は元々、騎士だったのかも知れない。
俺は《障壁》を張っていたが、魔王の一撃で《障壁》は割れてしまった。
『中々、やるな』
「僕の攻撃を耐えられたんです、誉め称えてあげましょう。次はどうですか?」
俺は魔王の攻撃を避ける。
その隙に張り直しておこう。
《障壁》
「避けるだけでは駄目ですよ」
『そうらしいな』
《魔光龍炎》
《龍炎》は元々俺が作った魔法で、それを光属性の雷と、闇属性の毒を纏わせた。
魔王の攻撃を避けている時に思い付いた。
「見たところ、火と水と雷と毒を纏った龍ですか…まあ、断ち切るだけですけどね」
『魔王の仮面をぶっ壊せ』
魔王の剣が《魔光龍炎》を断ち切るのと、《魔光龍炎》が魔王の仮面をぶっ壊したのが同じタイミングだった。
《魔光龍炎》が断ち切られ、爆風なんか比にならない衝撃が来て、俺のフードが捲れ取れた。
あーあ、勇者共にバレちゃうよ…。
俺は魔王を見る。
ん?あれ?俺の顔?今、俺は鏡でも見てる?
いや、これは…音信不通で瓜二つで俺によく似た弟だ。
魔王自体が俺の弟だった。
***
菜奈Side
私はナシェリアさんと勇者パーティーの皆とで、遠くからフードの方と魔王が戦っている所を見ている。
私達は無力すぎて、あの中には入れない。
入れば、必ず死ぬ。
それはそうと、私は髪の毛が銀髪になってしまった。
「その銀髪は元の色には戻ることは無いだろう」
ナシェリアさんに一応、見てもらったけど、もう、戻ることは無いらしい。少しショック。
「菜奈、その銀髪、綺麗だよ」
「有り難う」
早璃南は励ましてくれた。
「そう言えば、あのフードの人…一体何者?瀕死の菜奈を救ってたし」
「私なんかよりも治療が早いしね」
「それを言うなら、魔法師である私は魔法で敵わないよ、フードの人には」
本当に何者なんだろう…。
勇者やメルヴェル様よりも強く、こんなにも魔王とやり合えるなんて…。
「フードの男は妾なんかよりも更に強いぞ」
隣に座っていたナシェリアさんも会話に参加した。
ナシェリアさんよりも強いんだ…。
突然、多分魔法で創られた龍が現れた。
その龍は、火と水と雷と毒を纏っている。
「あの魔法は初見だぞ…まるで、《龍炎》のようだが、《龍炎》ではない新たな魔法」
ナシェリアさんがそう言った。
「フードの人は、戦っている最中に新しい魔法を編み出したって事ですか!?」
早璃南は少し身を乗り出してナシェリアさんに聞いた。
「多分だが。妾には到底出来ぬ、その行為。妾でもオリジナル魔法を産み出すが、早くて一晩は掛かってしまうものなのだ。だから…」
そんなに凄い事なんだ…。
早璃南も驚いた顔をしていた。
私はフードの方と魔王の方向を見た。
魔王の仮面を龍が壊した所と、魔王が龍を剣で断ち切った所が同時に起き、その衝撃とも言える、強風が起きた。
「キャアアッッ!?」
早璃南が叫んだ。
「皆!何処かに掴まれ!」
ナシェリアさんの指示により、私達は近くにある掴まれそうな所に各々で掴まった。
しっかり掴まっていないと、直ぐに飛ばされてしまいそうな強風だった。
そして、一分も経たない内におさまり、龍は居なくなって、フードの方と魔王が立ち尽くしていた。
魔王の仮面が壊れ、顔が見えた。
「嘘…」
まさか、まさか、魔王って、滝川くん!?
魔王の顔が滝川くんにそっくりだった。もしかすると、本物かも知れないけれど。
フードの方のフードが取れていた。きっと、あの強風で。
やっと、顔を知れる――って、こっちも滝川くん!?
魔王の顔とフードの方の顔が滝川くんだった。
「滝川くんが二人!?」
私は気が動転して、叫んでしまった。
「確かに滝川が二人居る…でも、何でここに?王宮の牢屋に放り込まれてた筈じゃ…」
早璃南はブツブツと言いながら、混乱しているとみた。
「ちょっと、聞いても良いかな?菜奈さん」
「う、うん…良いけど」
「あれ、滝川くんだよね?」
有田くんに聞かれた。今、私自身も知りたい事を。
「多分…」
「のう、ナナ。タキガワくん…とは誰のことだ?」
「えっと…名前はアヴィル=タキガワ。私達と一緒に召喚された勇者の一人」
それで合ってるよね?
「ぷっ…そうか、そうか。きっと、フードの方がお主らの言うタキガワくんだと思うぞ?そして、ここからは予想だが、魔王の方は双子の弟だろうな」
は、え…?
双子の弟?
待って、滝川くんに弟が居ることすら知らないし、クラスに居なかった。
つまり、双子の弟らしき魔王は元からこの世界に居た?
じゃあ…滝川くん本人は?
滝川くんと魔王はその場で動かない。
ずっと見詰め合って、何かを言っているが、私達には聞こえない。
滝川くん、本当の事を、滝川くん自身の事を教えて。
***
ナシェリアSide
強風の後に魔王の顔が割れた。そして、フード男の顔も。
元々、フード男はアヴィルだと知っていたが、魔王の方は知らなかった。魔王はアヴィルの顔にそっくりだった。
アヴィルには確か、音信不通の双子の弟が居た。普通に生きてれば、そんな外見な筈はないが、前リヴァーフォールズ伯爵と夫人レアーナさんが魔族になって若い姿になっている。それを考えると、魔王の外見には勝手に納得できる。
本当に魔王はアヴィルの弟なのか?
でも、妾はそう納得しておきたい。
アヴィル自身の分身か何かで、アヴィル自身ではないと信じたいから。
そう言えば、前伯爵と夫人レアーナさんを殺したのは魔王。魔王がアヴィルの弟なら、二人は自分達の子供に殺された事になる。
何故、自分の両親を魔王は殺したのだろうか。殺し、魔族にした後、臣下として使う。
ああ、何て魔王は残虐で最低なのだろう…。
前辺境伯爵が殺され死ぬ前に言っていた。
「もしかして…お前…ぐっ…なのか…?」と。
もしかすると、気付いていたのかも知れない。自分の死と、自分の息子の一人に殺される事を。
妾は唾を飲み込んだ。
そして、アヴィルとその弟の二人を見守るは変だが、見ていることにした。
兄弟間に介入するのは不味いからな。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
《人魔転生》とは(魔王Side)
《人魔転生》は、人間を魔族に創りかえる魔法ですよ。条件は死んでるか、それに近い虫の息(殆んど意識がない)状態なら掛かりますよ。
更に死んだ人間の魂だけでも発動しますよ。
…まあ、これも魔法ですからね。《魔法削除》で消し去られます。僕としては、結構、魔力を込めたつもりだったんだけれど……。その込めた魔力量を更に超えたんですね。うんうん。
あの聖女、途中で止めちゃいましたからねー、中途半端になっちゃいましたよ…。あはは。
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次の更新は12月4日です。




