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 俺は半月位前、一人で王都散策をした時に昼食を取った定食屋に、メルヴェルとナシェリアの二人を連れてきた。


 「おっ、坊主じゃねぇか!」


 店主の男に来店直後に掛けられた。


 「俺の事を覚えてるのか?」

 「半月前だったか?坊主が来たの」


 俺は首肯(うなず)く。


 「それでもな、嬉しい事を言ってくれたのは覚えてるんだぞ」


 そうか。

 その後の嫌な空気だったのも、記憶と同時に流れ込んで来るのは何でだろうか。


 「坊主…魔法師団だったのか?」

 「ああ」


 そんなに驚かれる事なのだろうか?


 「後ろに居るのって…伝説のメルヴェル殿と宮廷筆頭魔法師のナシェリアさんだろう?」


 俺に耳打ちする様にして店主は聞いてくる。

 伝説のメルヴェル殿が良く分からないが…。


 「ナシェリアの事を知ってるんだな」

 「そりゃ、社会知識だからな。チビでも知ってることだぞ」


 そーなんすね。


 「立ち話はさておき、席に案内する」


 店主は俺達三人を(ようや)く、席に案内してくれた。



 メルヴェルとナシェリアが隣り合わせで、二人の目の前に俺が座った。

 実は、メルヴェルとナシェリアの二人は俺の隣を奪い合って、最終結果としてこれで収まったのだ。


 「アヴィル、ここに来たことがあったのだな」


 ナシェリアが聞いてきた。


 「まあ、な。取り敢えず、ここは美味い」

 「私の知らない合間に…」


 何かメルヴェルが悔しそうだった。

 メルヴェルを何かで、フォローしてやらねば。


 「ここの店の料理は美味いと言ったが、メルヴェルの方が何倍も美味いからな」


 事実だけを述べた。

 すると、メルヴェルの顔が晴れた。


 「団長殿にそう言って頂けた私は、誰よりも幸運ですね」


 メルヴェルって、何かヤバイ宗教でも入った?


 「アヴィル、メルヴェル殿の手料理を…?妾の手料理もいつか」

 「ナシェリアって料理出来るのか?」

 「出来る…ぞ」

 「本当か?」


 怪しい…。


 「妾を何と思っている…妾だって、料理の一つや二つぐらい…」


 何か不安になってきた。



 話をしている内に料理が出てきた。

 前払いで既に支払い済み。


 「お待たせしましたぁ!」


 店主は俺達三人の目の前に料理を並べた。

 注文した料理は、この前来たときに食べたのと同じのを三つだ。

 メルヴェルとナシェリアは俺と同じのが食べたいと言ってきたから。

 先ず先にメルヴェルから手を付ける。


 「…悔しいですが、美味しいですね。塩加減が丁度良くて」


 ナシェリアも食べ始めた。


 「美味いぞ、これは!」


 店主がそそくさと言う。


 「有り難うございます…」

 「俺の時と対応が違う」

 「坊主とこの御方達とは訳が違うからな」


 店主はメルヴェルに睨みを喰らい、一瞬怯んだが、まあ良いや。今回は止めるのは無しにしよう…恨むなよ、店主。

 それは良いとして、俺達はあっという間に完食したのだった。



 そして、今、王宮に戻る最中である。


 「美味かっただろう?」

 「ええ、とても美味しかったです」

 「妾も美味いと思ったぞ」


 良かった、良かった。二人には好評で。


 「ですが…」

 「ん?」


 何か良くない点があったのか?メルヴェル。


 「団長殿は、私やそこに居るナシェリア・ランドゥルフなんかよりも高貴な方。それを坊主などと…許し難いですね」


 そこ…?

 と言うか、あの店で睨みはしたものの、言わなかったのは耐えていたのだろう。よく持ったな。褒めてやろう、声には出さないが。


 「そう言えば団長殿、あの勇者共に何の魔法を教えるのですか?」


 今、王宮に向かっているのは、勇者の有田と原田に魔法を教える為だ。

 あともう少しで魔王討伐に出発する。だから、その前に少しでも覚えて貰う為には今ある時間も使わねばならない。

 ダンジョンに今日の午前中まで居たのにね。


 「勇者に教えるのは先ず、《身体強化》だな」


 Jobが騎士なのだから、この魔法は必須項目だろう。


 「ええ、そうですね。良いお考えだと思います」

 「勇者達は使えぬのか?」

 「使えてたら、俺との試合で使うだろ、普通」

 「ああ…そうだったな」


 有田と原田の魔法の訓練はどうするかの話をしていると、王宮に着いてしまった。

 ここから俺は筆談で。

 《身体強化》は便利だぞ、現に今から役に立つし。

 有田と原田は先に待っていた。そこに、白鳥さんと荻原さんも居た。


 「勇者パーティーの男性陣は良いとして、お前らは何故ここに居る」


 メルヴェルが言った。

 確かに、これから有田と原田に魔法を教えるが、白鳥さんと荻原さんに至っては何かをする予定が無い。


 「私は《障壁》が全然丈夫に張れませんでした」

 「私の《回復》には時間が掛かり過ぎです」

 「「私達にも稽古をつけて下さい!」」


 勢い良く二人同時に頭を下げてきた。

 確かに、荻原さんの《障壁》は弱すぎるし、白鳥さんの《回復》は時間が掛かり過ぎている。


 「この御方がお困りになるだろう!?」

 『メルヴェル、この二人にもやろう』

 「宜しいと言うのなら…」

 「妾がサリナに付きっきりで《障壁》の強化をしても良いか?」

 『頼んだぞ』

 「よし、頼まれた。サリナ、妾達はこっちだ」


 ナシェリアは荻原さんを連れてった。


 『それじゃあ、俺達も始めようか』

 「ええ、勇者共をたっぷり(しご)きましょう」

 『ちょっと違う気がするが、取り敢えず、始めようか』



 俺達は場所を少し移動して、早速始めた。


 『一先ず、《身体強化》を覚えて貰う』

 「《身体強化》…?それは、身体能力を高める魔法ですか?」


 有田が挙手して言った。

 その名の通りの効果の魔法。まあ、効果は合ってるわけで。


 『よく知ってるじゃないか。だが、不慣れか、魔力量が少ないと短時間しか持たない』

 「それは…戦闘が終わるまで持ちません」

 『だから、その魔法を覚えて長続きする様にするんだ』

 「で、では、私はその間何を…」


 残された白鳥さんが戸惑っているとみた。


 『同時進行で《回復》の上位、光属性の魔法の中で最上位に位置する魔法――《超回復》を覚えて貰う』


 《回復》で、ちまちま治療を行われては人員不足になりかねない。実際、人員不足なのには代わり無いが。


 「私に出来るかな…滝川くん。あっ、いや、何でもないです!覚えさせてください!」


 …!?

 俺が使ってた偽名の名字が一瞬出てきて、バレたかと思ったが、白鳥さんの独り言が漏れただけだった。

 気付いていない?様だな。



 そうして、有田と原田は《身体強化》、白鳥さんは《超回復》を覚える為の訓練が始まった。何日で覚えられるかな。

***

 ナシェリアSide



 勇者パーティーの内一人のサリナは、強固な《障壁》をちゃんと使える様に練習している。その練習の手伝いを妾がしているだけ。

 妾が手伝うのだ、ちゃんと出来る様になって貰わねば困る。

 自分自身のプライドが許さぬのだ。それに、アヴィルに顔向けが出来ぬだろうし…。


 「いきます!彼の者を護りたまえ!《障壁》」


 サリナの《障壁》を確認する。


 「火の精霊よ、我に力を《火の粉》」


 火属性の初級中の初級、下位に位置する《火の粉》を何個か放った。

 三個当たった時に《障壁》は壊れた。

 一言で言えば、弱すぎる。

 これでは、魔族と対抗は(おろ)か、通常の魔獣の攻撃ですら防げないだろう。今まで何をしていたのだろうか。


 「全然、弱いぞ。もっと、均等に魔力が行き渡るようにするんだぞ」

 「は、はいっ!彼の者を護りたまえ《障壁》」


 サリナが《障壁》を張る度に妾が魔法をぶつける。

 それを幾度と繰り返し、少しずつではあるが均等に魔力が行き渡ってきた。強度も上がってきたのだ。

 サリナは飲み込みが早いが、大雑把な性格なのだろうな。


 「今回はどうですか?」

 「少しは強度が上がっているが、全然まだまだだ。もう少し、集中して慎重にやってみよ」

 「は、はい」

 (毎朝やってるアレの様にやってみよう…)

 「彼の者を護りたまえ《障壁》」


 サリナは今まで以上に集中してやっている。

 見た感じ、均等に魔力が行き渡っている様に見える。


 「それじゃあ、妾が確認するぞ。火の精霊よ、我に力を《火の粉》」


 妾は《火の粉》放つ。

 サリナの《障壁》は二十回耐えることが出来た。


 「今までよりも耐える事が出来たな。よし、どんどん行くぞ」

 「はい。彼の者を護りたまえ《障壁》」


 今度から別の魔法を。


 「火の精霊よ、我に力を《火傷》」


 この《火傷》の場合は、何分耐えられるかだ。



 さあ、魔王討伐に出発するまでにどれだけしっかりした《障壁》が張れるようになるのかが、楽しみになってきたぞ。

***


 「「彼の者の身体を高めたまえ《身体強化》」」

 『良いか?お前ら。何度も言ってるが、魔力を身体中に薄く広げるんだ』


 有田と原田に同じことを繰り返し言っているが、一向に身体中に薄く広げる事が出来ていない。


 「光の精霊よ、我に力を《超回復》」

 『もっと集中して、魔力を一点に集める』


 白鳥さんも一向に出来る兆しが無い。


 「あの」

 『何だ、メルヴェル』

 「勇者共が覚えられる確証が無いのですが…」

 『それは、勇者共の努力次第だな。元々、魔力を必要としない世界から来たんだからな。魔力の使い方を知らずに生きてきた。俺達にとって簡単な魔法だろうが、勇者共には数十倍困難なものになる』


 この世界に生きる人々は幼い頃から使い方を親の見真似で習う。そして、徐々に色んな魔法を覚えていく。

 俺だって父親に最初の魔法の手解きを受けた。



 何故、こんな事を幼い頃からするのか。理由は、そうしないと生き残れないから。

 王族だって貴族だって平民だって皆、そうしないと生き残れない。

 最後は自分の身を自分で守る他無いから。

 地球では魔法は必要ない。日本は平和だし、戦争をしている所は魔法が無くても相手に攻撃が出来るからな。


 『取り敢えず、勇者共にこの世界で生き残る術を教えなければならない』


 勇者共が地球に帰るまで必要となる。いつ、戦争が勃発し、この場が業火の中になったとしても良い様に…。


 「団長殿はやはり流石です」

 『そうでも無いと思うぞ。ただ、当たり前の事を言ったまでだ』

 「団長殿は謙遜し過ぎですよ」




 俺とメルヴェルは、有田と原田と白鳥さんの訓練を、ナシェリアは荻原さんの訓練を魔王討伐の出発日の前日まで続けた。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。

***

余談(飛ばしても大丈夫です!)


 アヴィル達が王宮に辿り着く前の勇者達(第三者視点)



 昼食を食べ終わった、アヴィルとナシェリアと魔王討伐に行く勇者パーティーの四人。他の勇者達は既に昼食を食べ終わっており、四人は少し遅い昼食だった。



 菜奈(なな)早璃南(さりな)は、浮かない表情だった。


 「どうしたの?二人共」


 正義(まさよし)は二人に何故、浮かない表情でいるのかを聞いた。


 「……あのね、私は《障壁》」

 「私は《回復》」

 「が、ナシェリアさんとフードの方とダンジョンに潜った時に思ったんだよ。全然、ダメだったなぁ…って」


 菜奈は首を縦に振っている。


 「じゃあ、メルヴェル様に頼んでみようか?」

 「「…」」

 「我輩は頼んだらフードの方が許すと思うぞ。伴って、メルヴェル殿も了承すると思うぞ」

 「有田くん、私は自分で言うから大丈夫」

 「そう。菜奈さんは?」

 「私も……自分で言えるよ」



 こうして、菜奈と早璃南は魔法を見て貰える事になったのだった。

***

次の更新は11月24日です。

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