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 俺は酷いことを言ったのかも知れない。だが、現実を言ったまでだ。

 荻原さんが、有田と原田に「魔法を使え」と言ったように。

 俺は荻原さんに《避雷針》を放ち、気絶させた。

 俺は全員を締め上げた《龍炎》を解いた。


 「何でこのタイミングで解放する?」


 有田は聞いてきた。


 『俺の気紛れだ。それ以外に理由は無い』

 「気紛れ…であると!?」

 『いや、俺自身にも危機が訪れるような描写が無いと詰まらないからか?』

 「貴方…一体、何を言っているんですか」


 何を言っているか俺にもサッパリ。


 『さあ、お前ら二人でかかって来いよ』

 「…か、克臣(かつおみ)くん!」

 「分かっているであるよ、正義(まさよし)殿!」


 二人はそれぞれが携帯していた剣を抜き、俺に向かって跳んできた。

 俺は四方八方、三百六十度に《障壁》を張り、二人の剣から身を守る。


 「ぐっ…固すぎる!」

 「生身の人間であるのか!?」

 『はっはっは…』


 俺は笑いが筆談にも表れる程に可笑しく、笑える。


 「何がそんなに可笑しいですか?」

 『いや…《障壁》を知らないのかと』

 「《障壁》を使ったのであるか!?」

 「嘘…僕と克臣くんの剣を防ぐ強さの《障壁》を瞬時に張れるなんて」


 そこまで驚かれる程では無いのだが。


 メルヴェルに誉められ過ぎるのとではまた違う意味で照れる。

 『魔力を持つなら、魔法も使え』


 有田と原田への教訓。


 「魔法師なんかよりも魔力の使い勝手が悪い。なら…」

 『なら?力が足りないのなら、魔法で補うしかない。この世界に一時(ひととき)でも、生き長らえるのなら』


 近衛騎士団なんかよりも魔法師団の方が力が強い理由の発端でもあるのだろう。

 思えば、俺によく似た弟が居たが、その弟はJobが騎士だったなぁ…。

 まあ、今、何処に居るかも解らないし、音信不通な弟を思い出す時では無かったな。


 「まるで僕達勇者が居た世界を知っているような口を…」

 「貴殿は地球を知っているのであるか?」


 俺は答えない。即バレの可能性があるから。

 とは言え、少し言い過ぎた様な気もする。バレてしまうギリギリのラインだったか?


 「魔法も剣も無い地球からいきなり、この世界に召喚された。そんな僕達の気持ち、分かりますか!?貴方に」

 「我輩達は家族に会えなくなったのである…」


 気持ちが分かりすぎてヤバイ。

 と言うか、俺なんか家族死んでるんだけど?唯一の弟は音信不通だし。


 『俺は気にせず魔法を放つけど』


 死んでいるものは死んでいる。常人が思う悲しみなど俺には既に無いようなものだったし。


 《低温火傷》


 俺は二人に向かって魔法を使った。

 徐々に痛みが増すぞ。


 「痛っ…!?貴方は鬼畜です…あたっ」

 「ヒリヒリしてくるぞ…?」

 『この世界は魔法、魔法が全てだ』

 「くっ…し、死んでくださいっっ!」


 ――ザシュ…。


 俺の鮮血が切り口から出てくる。

 俺は少し出血し過ぎたのか、その場に倒れてしまった。

 ほう、俺の心臓を剣で刺したか。

 どう思うだろうな、有田は。初めての殺人()()


 「はあはあ…」

 「正義殿?大丈夫であるか?」

 「近付かないで、誰も。僕は汚れてしまったんだ。人を殺してしまったんだ…」


 絶望した表情で、誰も寄せ付けようとはしなかった。

 因みに俺は死んでいない。

 剣に刺され、身体から抜かれた時、《回復》で治療した。流血した?それは、ゴブリンロードの血。

 初め、多少は俺の血も流れ出たけど。

 倒れたのは俺の演技。だから、何も確認せずに殺すな。


 「だが、正義殿。メルヴェル様が一向に勝敗について宣言をしないのであるが」

 「えっ…?でも、僕、この人を殺し…」

 『殺人気分はどうだった?』

 「えっ?死んでない?確かにこの手で殺した筈…」

 『演技だったけど。まあ、これから倒すのは人によく似た魔族とその王だ。俺達の行うことは、殺人と何ら変わりはしない』

 「あはは…」


 有田はその場に座り込んだ。


 『どうする?続けるか?』

 「いや…僕は降参しますよ。気持ちと感情が追い付かないです…」

 静かに立ち上がり、メルヴェルの元へと有田は歩いていった。

 『それでお前は?』

 「我輩も降参するである。我輩に勝利の女神が微笑まなそうであるのでな」

 『本来の戦いは降参など無い。敗けは死だ。肝に銘じておけ』

 「…」


 原田も降参し、俺の勝ちとなった。




 俺が気絶させた、ナシェリア、白鳥さん、荻原さんの三人の意識が戻るまで休憩時間となった。

 俺は勇者達が居る所よりも離れた所に、メルヴェルと居た。


 「団長殿、お疲れ様です」

 『そこまで疲れてはないが、その言葉を有り難く受け取っておこう』

 「いえ、そんな…私には勿体無さ過ぎる御言葉です」


 謙遜し過ぎ。


 「団長殿」

 『何だ?』

 「今回はきっと、勇者達にとても良い刺激となった事でしょう」

 『…そうかもな』

 「まさか、あんなに死と隣り合わせなのを自覚していないとは思ってもいませんでしたが」


 俺とメルヴェルは勇者達とナシェリアの居る方向を遠目で見詰めている。

***

 正義Side



 「はあ…」


 生まれてこの方、こんな大きな溜息を吐いたのは初めてな気がする。


 「本当に大丈夫であるか?正義殿…」


 克臣くんが僕を心配してくれている。


 「ちょっとね…」


 僕は先程、人を殺した。確かにこの目で殺したと判断した。…実際には生きていて、僕は人を殺してなどいなかったのだけれど。

 あのフードの男の人の言う通りかも知れない。人間によく似た魔族を倒す。それは、遠くから見れば殺人だ。

 僕は悪い奴ら(魔族)なら倒しても良いと何処か思っていたのかも知れない。魔族だって(れっき)とした生を受けた者なのに。



 僕は馬鹿だ。そして、勇者達全員、馬鹿なんだ。

 魔王討伐したいのなら、それ相応の覚悟が必要なんだ。

 魔法、一つぐらいは覚えておこうかな。


 「克臣くん、僕はもう大丈夫だよ。魔王討伐に出発するまでに少し時間があるからさ、魔法、一つぐらい覚えよう」

 「数分前の正義殿とは何か違う別の感じがするであるぞ。それを、覚悟と言うのであるな。魔法の件、我輩も乗るであるぞ」


 僕と克臣くんで握手を交わした。男の約束?とか言ったよね。こう言うの。


 「頑張ろうね」

 「うむ!」

 「あれ…私、一体…?有田くんと原田くん、何してるの?…って、早璃南(さりな)!?ナシェリアさん!?」


 奈菜(なな)さんが起きた。

 今の現状に驚いているようである。


 「ナシェリアさんと早璃南さんの目が醒めるまで休憩時間だよ」

 「休憩時間?そんなこと、メルヴェル様が許す訳が…」

 「あのフードの男がメルヴェル様に頼んでいたであるよ」


 何故、メルヴェル様は、あのフードの人だけに対してあんなに甘いんだろう…?

 フードの人がそうしたいと言えば、必ずそれが通ってしまう。何でなんだろう?

 僕はそれを考えながら、ナシェリアさんと早璃南さんの意識が戻るのを待った。

***


 『メルヴェル、三人の意識が戻ったようだ』

 「休憩時間は終わりですね。あの魔法陣で地上に帰りましょう」


 俺とメルヴェルは勇者達とナシェリアの居る所に戻った。


 『意識はちゃんと戻ったな』


 俺はナシェリア、白鳥さん、荻原さんの三人の顔の様子を伺う。

 すると、荻原さんから強烈に睨まれた。

 ナシェリアと白鳥さんに限ってはそんな睨むことなどをしてなかった。

 俺は荻原さんに睨まれ続けながらも、俺達は魔法陣の上に立ち、地上へと戻った。




 まだ、昼過ぎ。と言うことで、俺も王宮に付いて行くことになった。

 このまま、メルヴェルの自宅に帰りたかったが。


 「メルヴェル様、ナシェリアさん、フードの方。お願いがあります」


 街中を歩いている最中、有田と原田が後ろを歩く、俺とメルヴェル、ナシェリアの方に振り向いた。

 いきなりで驚いた。

 でも、人から見れば驚いているか判らないだろう。前、メルヴェルに言われたからだ。それプラス、フードで顔を隠しているので余計だろうな。

 兎に角、話を聞いてやろうじゃないか。


 「用件ならさっさと済ませなさい」


 メルヴェルが切り出す。


 「僕達に魔法を教えてください」

 「お願いするであるぞ」

 『言ったことをちゃんと聞いてくれている様だな。それに、覚悟も纏まった様だし、教えてやらない事もないだろう』


 少しは自分の身を自分で守れるような魔法を教えねば、直ぐに敗けて(死んで)しまうから。


 「それはつまり…」


 不安そうな顔をした有田が言った。


 『教えてやると言った。メルヴェル、ナシェリア、異論は無いな?』

 「ええ、勿論ありません」

 「妾も無いぞ」


 メルヴェルもナシェリアも賛成してくれた。と言うか、俺に対する反対意見と言う概念を知っているのかが疑いたい頃合いだな。


 『――と言うわけだ。良かったな、お前ら』

 「はいっ、有り難うございます!」


 時間も少ないから、ちょっと厳しくなるぞ。それに、魔法のプロ達に初歩的な魔法を習えるのは早々、無いと思うしな。

 まあ、覚悟は結構、固そうだし、乗り越えられるだろう。…原田は置いておいて。




 そうして、王宮に着いた。


 「食事後、早速始める」

 「今日から…?い、いえ、分かりました!」


 有田はメルヴェルにひれ伏す様にして、去っていった。それを、後を追うように勇者パーティー一同は去っていった。



 勇者達が絶対に現れない事を確認して、俺は筆談から口に出す事にする。

 もっと言うと、やっと喋れる…と、安心?しているのも事実?


 「メルヴェルとナシェリアは昼食はどうするんだ?」

 「私は考えてませんが…」

 「妾も」


 二人なら、王宮から昼食と出てそうだが、そうでも無いのかも知れない。


 「なら、俺が二人分を(おご)ってやろう」

 「え、そんな、団長殿に奢って貰うなんて…」

 「アヴィルに奢って貰うなど…!」


 二人はエキサイトし始めた。何故に?

 そして、そんなに俺に奢って貰う事に躊躇(ためら)う必要性があるのか?


 「そんなに嫌なら良いけど…」


 俺は二人に昼食を奢るのを諦めようか…。良い機会のような気がしたんだがな。残念。


 「「是非、奢ってください!」」


 二人の声が被った。

 そんな声に力みを入れなくても、聞こえるってば。



 俺は二人を()()定食屋に連れてった。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。

***

次の更新は11月20日です。

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