35
有田が持参していた生肉を焼いた物が今日の夕食となった。
ナシェリアは肉で大喜びしていたが、メルヴェルは俺の夕食を作ることが出来なくて悄気ていた。
夕食後、それぞれで各テントにて就寝の為に別れた。
そして今、俺はメルヴェルと二人きりである。
「団長殿、フードはもうお取りになられても大丈夫では?」
『そうだな。寝るときには邪魔になるしな』
俺はフードを取った。
「ですが、念の為に筆談は続けて下さいね」
『言われなくても』
俺と勇者達との寝床を別々にしたのは、フードを取っても大丈夫な様にしたのではないのかと思った。メルヴェルの気遣いにやっと気付いた瞬間だった。
そして、俺達は就寝した。
***
時間的に朝になり、目が覚めた。
テント内にはメルヴェルが居なかった。
俺はフードを被り、テントの外に出た。
勇者達は何かをしている。それを、腕組みながら監視しているメルヴェルが居た。
「あ、起きたのか」
ナシェリアが駆け寄ってきた。
『まあな』
「のう、アヴィルは勇者等が何をしているのか解るか?」
ナシェリアは勇者達が一体何をしているのかを俺に聞いてきた。
勇者達がしている事を知らないのだろう。俺は勿論、知っている。
やった事は無いが、編み出したから。俺が。
『あれは、魔法師団でやっている魔力を増やすやつだ』
名前は魔力増幅法だったような?
「あの精神統一が?」
『魔力感知をさせて、魔力を増やす』
「魔法師団はどんな時にやっているのだ?」
『月一。俺やった事無い』
「妾は今朝、勇者パーティーの女の子に聞いたのだ。毎朝やっていると」
あれを??毎朝??苦痛でしかないやつを??
初めてお前らに感動したわ。流石、流石。
「魔力が増えるなら…妾もやってみたいが…」
『じゃあ、俺が付き合ってやるぞ?』
メルヴェルが勇者達にやらせているよりも簡単な方法且つ、ちょっと辛い方法で。
即、ボツになった方法だ。
「え?良いのか?」
『ほら、ちょっと手を出せ』
ナシェリアは手を出し、その手を俺が軽く握る。
「これから何を…」
『今から、俺の魔力を流す。それを、暴走しないように制御するだけで良い』
俺は一方的にナシェリアの方に魔力を流す。
「うぐっ…」
もう、辛そうだ。
『どうする?止めておくか?』
「まだ…妾はまだ、暴走はしておらぬ…だろう?」
『まあ、確かに』
俺はナシェリアが暴走する瞬間を見逃さない様に、ナシェリアをじっと待つだけだった。
***
ナシェリアSide
妾は今、アヴィルと手を繋いでいる。
勇者達が行っている魔力増幅が、本当に魔力が増えるのなら妾もやってみたくなったのだ。妾が足を引っ張ってはいけないと思ったからだ。
アヴィルの魔力が沢山、妾の身体に流れ込んでくる。
「うぐっ…」
全身を走る激痛が、魔力制御を阻害する。
『どうする?止めておくか?』
アヴィルは妾を心配そうに見てくる。本当に心配しているかは置いておいて。
妾は今、暴走寸前で制御している。不安定な状態である。
「まだ…妾はまだ、暴走はしておらぬ…だろう?」
『まあ、確かに』
諦めたくは無かった。
折角、アヴィルが手伝ってくれているのに、諦めるなど出来ない。
っ…!?
声が出なくなる程の激痛。
激痛はどんどん大きくなる。
激痛に耐えられなく、一瞬、意識が飛びそうにもなる。
意識を飛ばしたら、絶対に暴走する。
アヴィルから流れ込んできた魔力を妾のものにするのだ。暴走はそれが出来なかった証拠。
未だにどこか、アヴィルを遠くの存在と認識しているのだろうか。
アヴィルは凄い。とんでもなく強い。
でも、アヴィルは普通の…普通の?
まあ、良いか…そんなこと。
妾はアヴィルの魔力を制御した。否、アヴィルの魔力を妾の魔力とする事が出来た。
「はあはあ…成功…したぞ」
***
ナシェリアを見守ること十六分。
ナシェリアの額から大量の汗が流れていた。そして、ずっと辛そうだった顔も次第に通常に戻っていった。
「はあはあ…成功…したぞ」
見る限り、俺が送り込んだ魔力を我がものにする事が出来た様だ。
『お疲れ、ナシェリア』
「妾の魔力量、増えているか?」
『ああ』
この魔力増幅方法で成功したのは、メルヴェルとナシェリアの二人だけだよ。
「…まさかあの方法を?」
『うん?そうだが。勇者達の方は終わったのか?』
「丁度今、終わりました」
勇者達を見れば、休む暇無しに朝食の準備をしている。
休む暇を与えてあげよう?メルヴェル…。
俺は勇者達に少しでも休憩時間をと思い、朝食を出来るだけゆっくり食べる事にしたのだった。
メルヴェルは俺の食べる時間だけを待ってくれる。つまり、俺以外の人を待つことはしないので、俺がゆっくり食べれば、勇者達に時間を与えられる。と、思っていたが…。
勇者達はその間にテントとかを片付けてた。
『…』
そして、俺達はダンジョンの階層を降って行った。
一つ階層を降っても、魔獣は現れなかった。
その下の階層も、更に下の階層も。
遂に、最下層らしき階層に辿り着いた。
何故なら、ダンジョンボスの居る部屋の扉があったからだ。
「もう、奥はダンジョンボスか…」
有田が言った。
「本当にボスなど居るのか?この奥に。妾は今までの階層から、とてもそうは思えないのだが」
ナシェリアはボスが居ないとまで思ってしまっているようだ。因みに、俺も居ないと思う。
「それじゃあ、開けるであるぞ…」
恐る恐る、原田が扉を開けた。
しかし、ボスが居るべき部屋には何も居なかった。
ただ、帰還用の《転移》の魔法陣だけが存在する空間だった。
『味気無いし、勇者達四人で俺と戦わないか?』
「味気無いって何ですか」
「それって…私達四人で貴方に掛かれば良いんですか?」
「四対一は流石に無謀と言うものであるぞ」
勇者達は反応した。一人、白鳥さんだけは何も言わなかった。
『よし、メルヴェル。審判役頼む』
「分かりました」
「妾は何を…」
『そうだな…じゃあ、ナシェリアは勇者パーティーに加われ』
「わかった…えっ?」
「勇者パーティーとナシェリア・ランドゥルフ混合チームの全滅か、フードの御方の降参により勝敗を決定します」
つまり、向こうは俺の戦意を喪失させれば良い話。俺は勇者達とナシェリアの五人全員を戦闘不能か降参させる。
向こうに勝率は多少あるだろうし、こちらにはある。あくまで確率の話でしかないのだが。
「異議は無いですか」
メルヴェルがこの場に居る、俺を含めた全員に聞いた。
「それでは、不公平なのでは…」
有田が言った、が。
『異議は無い。早く開始してくれ』
有田の言うことは正しいかも知れない。だが、有田の発言より俺の発言を最優先するメルヴェルにとっては、俺の発言が全て。正しいことになるらしい。
そんなに俺の発言を尊重しなくても良いのに…。
「戦闘、開始!」
メルヴェルは案の定、俺の発言に従った。
「えっ、え?」
『お前ら、もう、戦闘は開始してるぞ』
俺は魔法師らしく、魔法を使う。
魔法師らしくとは何か解らなくなっているが。
《龍炎》
ナシェリアがゴブリンロードを沢山倒した時に使ってた魔法。
今ではすっかり懐かしいパワレントの武闘祭で何度かナシェリアが使ってた魔法。俺も使った。
ナシェリアは俺が使った所を見た筈だが、実際の対人で味わった事は無いだろう。
火と水の異分子が交わった龍が五匹、形成された。
五匹は丁度相手チームの人数に相当する。
「ぐっ…動けない!?」
「我輩の身動きが!」
「《魔法削除》を使っても消えない!」
「妾も使ってみても消えぬ!」
「助けて…」
白鳥さんには悪いけど、締め上げさせてもらう。
それに、荻原さんやナシェリアが俺の魔法を簡単に消す事は出来る筈が無いだろう。
舐められては困るね。
お前らの魔力量なんか比にならない程の魔力を込めてるから。
『どんどん魔法を撃たせてもらうぞ』
《龍炎》を維持したままでな。
本来、相手に魔法発動を予告するなどあってはならないのだがな。まあ、しても別に変わらないと思うけど、この戦闘は。
《避雷針》
俺は微調整して放つ。
普通に撃っては殺しかねないから。気絶に収まるギリギリのショックを狙って。
魔法にこんなにも調整がきくのは、それなりに高度な技である、と言う事をここに言っておく。
先ずは白鳥さんに。
ごめん、白鳥さん。
「うっ…」
俺の狙い通りに気絶に収まった。
「奈菜さん!?貴方、奈菜さんに何を!?」
『気絶してもらっただけだ』
俺は白鳥さんを締めていた《龍炎》を解く。他四人は維持中。
「ナナ=シラトリの戦闘不能を認める」
メルヴェルが断言した。
『さあ、次は誰に…』
「火と水の精霊よ、我に力を《龍炎》!」
ナシェリアが俺の《龍炎》に締め上げられている最中に、《龍炎》を放ってきた。
《龍炎》を《龍炎》で対抗しようと考えたのか?何故に?
悪いが、消させてもらうぞ。
《魔法削除》
ナシェリアの《龍炎》は跡形もなく消えた。
そして、俺は《避雷針》を放った。ナシェリアに。
「妾の《龍炎》が、っ!?…」
はい、気絶。
ナシェリアを締めた《龍炎》を解く。メルヴェルがナシェリアの戦闘不能を確認した。
「こんなに早く二人も…!」
「ここはJobが騎士でも魔法を!」
「さ、早璃南殿!?」
「身動きがまともに取れない騎士が役に立つ方法は魔法だよ!?少しは魔法を習得してないの!?」
「あ、あのね、早璃南さん。僕達騎士は、魔力感知した後、基本は剣の使い方しかやらないんだ。魔法はさっぱりだよ」
「我輩も同様である」
白鳥さんとナシェリアを戦闘不能にし、残り三人になったとき、何か言い争いが始まった。
俺は行動を起こさず、ただ見物している事にした。
「あーもう、解ったよ。騎士は何も使えない事がさ」
荻原さんの発言にショックを受けたのか判らないが、有田と原田は無言になった。
荻原さんに一言、(筆談で)進言してやろう。
『何も出来ていないお前も、何も使えないよな』
俺は鼻で笑いながら言った。(筆談)
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
魔力増幅法
五十年前、魔法師団の戦力底上げの為の会議を高等団員と各小隊長達が行っていた。
「俺、ちょっと思い付いたんだが」
アヴィルが手を挙げて話し始める。
「魔力量の高い者から低い者に直接、魔力を送るのはどうだろうか」
メルヴェルが今回の司会進行をしていた。
「では、試してみましょうか、団長殿。では、団長殿がこの私に送ってみてください」
「わかった」
アヴィルはメルヴェルに魔力を送ろうとした時、副団長ガードラーレが口を挟んだ。
「危険はないのか?」
アヴィルは答える。
「多分」
「多分ではなく、絶対を聞きた……い?」
ガードラーレの正しい反論に気にせずメルヴェルに魔力を送り始めた。
結果、メルヴェルに激しい激痛が走った。
この場に居るアヴィル以外の者達は、アヴィルを止めに入るが止めなかった。暴走はしていないと言う理由だけで。
八分後位には収まった。
「…メルヴェルが辛そうなら、下等団員達は死ぬかもしれないな」
「もう少し、安全にならないのか?」
「あともう一つ案がある。精神統一させる事だな。魔力感知をきちんとやる。二時間ぐらい」
魔力感知は幼少の頃から簡単にやっている。精神統一は魔力感知に繋がり、国立高等魔法学校でも二ヶ月に一回位は行われている。
だが、その一回でも二分か三分位であり、二時間は異常な数字だった。
その為か、メルヴェルもガードラーレも、各小隊長達は抜かした表情で固まった。
「毎日はキツいだろうから……一ヶ月に一回にしておくか」
そして、やる回数も少し多かった。
固まったまま動く事が無かったから、アヴィルは「まあ、いっか」と、この場を出て行った。
魔力増幅法とは
精神統一をし、魔力感知をする。これを一ヶ月に一度、二時間行う。
今も、一ヶ月に一回、魔法師団では行われている。
勇者達全員は毎日行っている。
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次の更新は11月17日です。




