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ナシェリアが俺とメルヴェルに張られた《障壁》を張り直した。
「私が折角、張った《障壁》が…」
「まだまだ修行が足りない。脆い《障壁》は、命取りだ」
荻原さんはメルヴェルにそう言われ、ショックを受けている様だった。
「準備は宜しいですか?それでは、始めさせて頂きます…始め!」
有田が開始の合図を出した。その後、ナシェリアと勇者達は観戦席へと向かった。
「ふう…声を出しても、勇者達には聞こえはしないだろう」
「やっと、団長殿の声が聞こえました」
「さあ、やろうか。手加減は無しだぞ」
「ええ、承知の上です」
俺とメルヴェルの決闘が始まった。
さて、何の魔法で攻撃しようか。
「火と水の精霊よ《水蒸気爆発》」
俺が何の魔法で攻撃をしようか考えているゼロコンマ数秒間に、メルヴェルは魔法を使って攻撃をした。多分、隙を見付けて今だと思ったのだろうし、先手必勝とも思ったのだろう。
メルヴェルが使った《水蒸気爆発》は、水が超高温の炎に当たることによって、爆発を起こす現象を魔法で起こしているのだ。
日本で科学が発展した様に、こちらの世界は魔法が発展している。科学で解った事も、魔法で解っている事と並立して同じぐらいである。
「…避けられてしまいましたか」
メルヴェルは《水蒸気爆発》を計二百二十五回放った。その全てを消すこと無く、避けきっていた。
「もう、終わりか?」
「いえ、団長殿にこれくらいで勝てるとは微塵も思っておりませんので!火と水の精霊よ《龍炎》」
メルヴェルはナシェリアなんか比にならない程の大きさの《龍炎》を出した。
「まあ、折角の魔法を消すなんて卑怯な事はしないから安心しろ」
そしたら、余裕で勝てちゃうじゃん。戦うなら、詰まらない戦いだけはしたくない主義なんで。
「それでは、団長殿の本気に欠けるのでは無いんですか?」
「事実、まだ一ミリも本気を出した記憶は無いんだがな」
「そうなんですね…。そう言えば、団長殿と戦うのは、団長殿が魔法師団の入団試験ぶりですね」
「…そうだったかもな」
メルヴェルにとって五十年以上も前の話だ。よく、覚えているものなんだな…。
「私と団長殿の記念すべき出会いの日をお忘れでしたか?」
どちらかと言うと…。申し訳ない、メルヴェル。苦しいが、言い訳をさしてくれ。
「一度たりとも、メルヴェルの事を忘れた事は無い。俺にとっては、いつも記念すべき出会いの日なんだ」
俺、何言っているんだ?
「そうですよね!水の精霊よ《スコール》」
嬉しそうに、《スコール》を出してきた。
他人なら思うだろう。笑顔がとても怖いくらいだ、と。
俺には愛らしく思えた。顔のシワなどお構い無しに。
「《超レインコート》。融けるのだけは勘弁なんでな」
「団長殿の魔法、この試合では初めてですよね。申し訳ございませんが、《龍炎》、団長殿をお絞めなさい!」
俺は《超レインコート》によって《スコール》は回避したが、《龍炎》の締め上げを回避はしなかった。
《龍炎》を切り裂く絶好のタイミング。
「《取り出し》」
俺が出したのは、あの時の【魔剣ヴィヴァロ】。
――何でも切り裂くぜ!…何てな。
「その剣、私の《龍炎》を切り裂きましたね、団長殿。その剣は一体、何ですか?」
「教えてやらんでもない。これは【魔剣ヴィヴァロ】。王都で手に入れた」
「【魔剣ヴィヴァロ】ですか…どこかで聞き覚えがある様な気がしますが…結局は魔法を消してますよね?」
「消してはない。切り裂いただけだ」
魔剣は魔力を纏う。魔法は魔力のみ干渉が可能だ。
だから、《龍炎》を【魔剣ヴィヴァロ】が切り裂ける。
事実、切り裂けば消えるので、魔法を消したのと対して変わらないのだが。
「切り裂いただけ…そう言う事にしておきましょう」
「有り難う」
「いえ。では、まだいきます!水の精霊よ《低温火傷》」
む…身体中が少しヒリヒリしてきた?
「《回復》」
治まった。これくらいの損傷なら、直ぐに治せる。
「私の《低温火傷》は《超回復》には至らないのですか…」
《超回復》で治される事を期待したのかな、メルヴェルは。
「団長殿はまだ、攻撃をしないのですか?手加減はしない、と言ったのは団長殿です」
「女性の、それもメルヴェルの身体に傷を付けるのは気が引けてさ」
「団長殿…。団長殿の入団試験の時、団長殿は容赦無しに攻撃してきましたよね?」
「あの時は…そうだな、メルヴェル。勇者達に見せ付ける為に、攻撃しなくちゃな」
「例え、瀕死の状態に追い込まれても、絶対に団長殿が治してくださると、信じてますので」
信用され過ぎてない?
「だって、入団試験の時も、団長殿。瀕死の私を治してくださったじゃないですか」
そうだった様な?
「なので、気にせず攻撃してくださいよ、団長殿!火の精霊よ《火傷》」
「沢山魔力を込めたっぽいな。皮膚が爛れてるよ」
「皮膚が爛れてるのに、立ってられるのですか…流石は団長殿ですよ」
皮膚が爛れ、肉や骨が少し見えている状態になっている。
「《超回復》」
「やっと、《超回復》で回復なさる域にたしました!ですが、回復しても無駄ですよ、まだ続きますから」
回復したら、また、皮膚が爛れた。
「しょうがない。魔法消しても良いか?」
「ふふっ…《魔法削除》が出来るのも、団長殿の実力なんですよ」
よし、許可が降りたので――。
「《魔法削除》《超回復》」
俺はメルヴェルの《火傷》を消し、自分自身の損傷を治した。
「たっぷりと魔力を込めたつもりなんですが、団長殿の魔力量に負けてしまいました」
「それじゃあ、メルヴェル待望の俺の反撃と行きますか」
「あの頃よりも、私も強くなってますから」
メルヴェルにとって長い五十年の時も鍛練に充ててたって事かな。
まあ、良いけどさ。
「一発で仕留めてやるから。《雷撃》」
「団長殿が《転移》される日に使われていた魔法ですよね」
「よく覚えているな」
超特大の《雷撃》がメルヴェルを襲う。
「やはり、耐えられませんでした…」
「何で避けなかった」
「団長殿の《雷撃》は大き過ぎるのです…避けようにも避けられませんよ……」
メルヴェルは気絶し、身体中が焦げてしまっている。
それを遠くから観ていたナシェリアは、決着がついた事を察知したのだろう、一人で駆け寄ってきた。
勇者達はと言うと、決着がついた事を気付いていないのかも知れない。
「アヴィル…メルヴェル殿は気絶しておるのか?」
「ああ…少しやり過ぎたか?」
「虫の息ではないか!?」
「まあ、待て。《超回復》」
ナシェリアがメルヴェルを確認したのを確認し、メルヴェルを回復させた。
「うっ…ああ、また負けてしまいました。信じてましたよ、絶対に治してくださると」
「勝敗の判決を妾がしても宜しいですか?勇者達は降りてこなさそうなもので」
勇者達は観戦席から一歩も動いていなかった。
「団長殿はどう思いますか?私は団長殿の御心に従うまでなので」
そこまでする必要は無いと思うぞー…なんて言っても聞かないだろうから、そのままで。
「勝敗の判決をしてくれ」
「すぅ…メルヴェル殿の敗退が決定した!よって、この決闘、勝者はフード男!」
フード男…か。
抽象的で、なんて分りやすい事か。これは、もし、俺の名を呼ばなくてはならなくなった時、俺を指す言葉として決めたのだ。
「嘘だ…メルヴェル様が負けてしまうなど…」
駆け降りて来た有田が言った。
「私達が纏まって戦いに挑んだとしても、勝てる見込みが無い?」
荻原さんが言った。
「我輩は認めるであるぞ!我輩、強い男に憧れるのでな!」
ほぼ空気と化していた原田が言った。記憶に正しければ、原田…お前は強い男に憧れていたか?
「まさか、《回復》まで使えるなんて…私の役割無くなっちゃった?」
あれ?白鳥さん、回復役だったの?
少し考えて、紙に書いた。
紙に書くんだろうな、と気をきかせたメルヴェルは、さっと筆記用具を渡してきた。
『俺は基本、後方支援しか行わない。回復は後方支援に含ませないので、安心しろ』
白鳥さんを思っての言葉だが、勇者達はどう感じ取ったのだろうか。
「後方支援んん??貴方、メルヴェル様に勝つ程、強いですよね!?何故、後方支援なんですか!」
俺は有田に怒られているのか?
「これ以上の無礼は私が許しません」
メルヴェルが俺と有田の間に入り、有田の憤怒を止めた。
「メルヴェル様?」
「無礼の無いようにと言った筈だが?」
「い、いえ…なんでも有りません」
あちゃー、完全に畏縮しちゃってるよー…。クラスメイト達に一体、何をしたのかな、メルヴェルさん?
「メルヴェル殿、勇者達。そろそろ、部屋に戻らぬか?話の再開を…」
「承知した。行くぞ、勇者共」
メルヴェルは先に、勇者達を連れて部屋に戻っていった。
「それで、何で俺は残っているんだ?」
俺を指す『フード男』が含まれていなかった為、決闘場に残っている。
勇者達は既に居なくなったので、普通に声を出して喋っている。
「今しかないと思ってな…」
「何か俺に用なのか?」
ナシェリアが何か用があるらしい。
「メルヴェル殿には許可は貰っておるのでな、大丈夫だぞ」
何の報告だ、それ。
「妾とアヴィルが出会ったときを覚えているか?」
「まあ、つい最近の事だしな。乗り合い馬車だったよな」
「うむ。その時の強盗に盗られ、アヴィルが返してくれた物はな、二つあって、一つが宮廷筆頭魔法師である証拠となる徽章だったのだ」
かつて父親も着けてたのかな。俺が生まれた頃には既に、引退してたらしいけど。
「もう一つが、リヴァーフォールズ家の家宝の腕輪」
「ん?今なんて言った?」
「リヴァーフォールズ家の家宝の腕輪」
何で、そんなものをナシェリアが…。
「これはアヴィルに渡すべき物だから、今、渡しておこうと思った訳だ」
ナシェリアは金で出来た腕輪を渡してきた。
この腕輪、聞いたことがある。これは、最強一族と言われたリヴァーフォールズ家の当主の証の腕輪だと。
何故か父親は腕輪をしてなかった。その理由を聞いたら、「王家の財宝の中に入ってるかもな」なんて言ってた。そして、腕輪に関してこう言うことも言っていた。
「世界が滅びそうになるような緊急事態以外には着用するな」と。
いや、当主の証の腕輪がそれで良いのかよ…。
「取り敢えず、受け取っとく《収納》」
俺は腕輪を《収納》した。
「着けはしないのだな」
「ああ」
俺とナシェリアは、メルヴェルと勇者達が待っている部屋に戻っていった。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
リヴァーフォールズ家の当主の証の腕輪(第三者視点)
ナシェリアが王都を旅立つ前のこと。
「其方に、この代物を預けよう」
ヴァールデンはランドメントルを通して、ナシェリアにある物を渡した。
「これは…?」
「これはリヴァーフォールズ家の当主の証。現当主の辺境伯爵に渡してくれるか?」
「はい、わかりました」
「気付けるのだぞ、ランドゥルフ魔法師」
「何をですか?」
「その腕輪だ。とても危険な物だからな。我の代から数えて数代前も前から王宮で管理をしていた」
「何故、その様な物を今…?」
「勘でしかないが、きっと使うべき時が近い」
「わかりました。この腕輪を、丁重にリヴァーフォールズ辺境伯爵に届けさせていただきます」
「うむ、頼んだぞ」
「はい」
ナシェリアは広間を出た。
(辺境伯爵自身が使うんじゃないと思うが…な)
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次の更新は11月6日です。




