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「…本当に王都に帰って来られた、のか?」
「さっ、王宮に向かうぞ」
「そんな急に!?書状も無しに…」
「ナシェリア、お前、王宮に住み込みじゃないのか?」
宮廷魔法師は王宮に住み込みと言うのを、父親がよく言ってた。
「そうなんだが…って、アヴィル!?」
ナシェリアが俺を小走りで追い掛ける。
「じゃあ、ナシェリアの名前で入ろうか」
「妾を書状代りにしないでくれ…」
そうして、俺達は王宮の目の前の大きな門の前に来た。
「何者だ…って、ナシェリア殿ではないですかぁっ!?」
門番の鎧を着た男が叫んだ。
「えっ?ジョン、ナシェリア殿が!?」
また一人、同じ鎧を着た男が叫ぶ。
「人気者なんだな、ナシェリアは」
俺は男達に言った。
「勿論だ!国王陛下のお気に入りだからな!」
「い、言うでない!」
ナシェリアは照れている様だ。
「それで、魔法師団の者と見受けられるが、何者だ?」
「俺のナシェリア殿が!」
「グランツのでは無い!」
鎧の男二人はジョンとグランツと言うのか。そして、大変忙しい人達だ。
「俺はアヴィルだ。メルヴェルに話を通せばわかる」
「アヴィルと言ったか」
「何だ、ジョン」
「何で俺の名を…」
「そう呼ばれてただろう」
「ぐっ…まあ、良い。メルヴェル殿は大変お忙しいお方だ」
そうだろーね。自宅に帰れない程にね。
「何の騒ぎだ」
門の奥、つまり王宮からよく見知った女性の声がした。
「「「め、メルヴェル殿!?」」」
門番のジョン、グランツと、ナシェリアはメルヴェルに向けて敬礼している。
軍隊か、ここは。
「あー、久し振りメルヴェル?」
「団長殿、お早い帰還で。それで、この者達は団長殿をご存知で?(小声)」
「ナシェリアの方は俺が団長だって言うことを知っている(小声)」
「なら、大丈夫ですね!」
ジョンとグランツは?
俺は後々感付いた。メルヴェルには門番の二人が視界に入っていなかった事に。
認知されてなかったのか、ジョンとグランツ…。
「なあ、メルヴェル」
「何でしょうか」
「今の国王って誰?」
メルヴェル以外の者達は固まった。
「え?アヴィル?王様を知らぬのか!?」
「宮廷筆頭魔法師ナシェリア・ランドゥルフよ。団長殿に失礼では無いのか?」
「俺は気にしてないから。メルヴェルも余り人に眼を飛ばすな」
「すみません…」
反省したのなら、それで良し。
「それで、誰なんだ?」
「ヴァールデン・ティナラータ国王です。団長殿ならタメ口の許される者です」
ヴァールデン。懐かしい名前だ。うんうん。
「た、タメ口の許されるとはどう言う事なのですか!?メルヴェル殿!」
ナシェリアが問う。
「言っている通りであるが?理由が必要か、宮廷筆頭魔法師」
「い、いえ…」
上から目線の三十路女性も、メルヴェルには敵わないものだ。
「じゃあ、王に会いに行くか」
「団長殿の御心のままに」
「…」
ナシェリアは完全にメルヴェルに畏縮しきっている…。
兎もや角も、王の謁見の間に着いた。その間の話しは全くせず、静まり返っていたのである。
「よっ、久し振りだな、ヴァールデン」
俺は謁見の間に入って直ぐに言った。
実は魔法師団に入る前、国立高等魔法学校に通っていた。その時のルームメイトがヴァールデンである。
俺は本来、十二歳から入るような学校を飛び級で七歳の時に入った。これが上京のタイミング。
不思議な事に当時、王太子だったヴァールデンが俺のお守り役だったらしい。それは、卒業の前日に知った。
ヴァールデンもいい年だ。
「うむっ…?その、いつも怠そうな男の声は…」
俺の声に気が付いているらしいが、俺の名前が出てこないらしい。
「非礼だぞ!王様の御前であるぞ!」
ヴァールデンの隣に立っている中高年位の髭を生やした男性が叫んだ。
「そちらこそ無礼である!このお方を誰と存じる!?」
メルヴェルが透かさず、そう言った。
「メルヴェル、言わなくても良い」
「ランドメントル、少し五月蝿いぞ」
俺はメルヴェルに、ヴァールデンは髭を生やした男性ランドメントルに言った。
二人はそれぞれ、謝罪をして後ろに一歩下がる形態となった。
「それで、我が名を呼び捨てにする者、名を申せ」
「王と言えど、無礼で…」
「メルヴェル??命令を無視するのか?」
「はっ、いえ、とんでもございません!」
「俺はアヴィル・リヴァーフォールズだ」
取り敢えず、ヴァールデンは俺の名前を思い出せなさそうなので名乗っておくことにした。
「アヴィル、アヴィル、アヴィル…主、あのアヴィルか!?」
思い出した様だ。てか、あのとは何だ、失礼な。
「いや…そんな筈は無いか…」
そんな筈とはどんな筈だ。
「アヴィルでさえ、六十五歳の筈…そんな若い訳が無いっ!」
そうだよなぁ…。
お前の立場なら、そう思うよなぁ…。
メルヴェルや、ガードラーレが異常なのだ。反応はヴァールデンが正解としておこう。
「あー、俺は異世界に《転移》したんだよ。向こうの世界で三年後に勇者召喚で帰ってきたってわけ」
「勇者召喚って…有り得ない。それに、勇者の中に居なかった…」
「んー?水晶を割ったら、何かシスナータ王女だっけ?に、牢屋に入れられた。まあ、その日の内に脱獄したから良いけどさ」
良くは無いんだがな。
徐々にヴァールデンの顔に青筋が立ってきた。やがて、身体中を震わせて冷や汗をダラダラ流し始めた。
まるで、何かに怯えている様に。まるで、取り返しのつかないような不味い事をしてしまった様に。
「こ、国王陛下!?」
ランドメントルはヴァールデンの変わり様に混乱している。
「な、何でも無い…」
「ですが!」
「王である我が言うのだ。何でも無いとな」
踏ん張りの効いているのか判らないが、大丈夫らしい。心配するランドメントルの気持ちは解らなくも無い。
「でも、アヴィル。若すぎないか?」
「ここの世界と向こうの世界では、大きなタイムラグがある様でな」
「成る程…ではなくて、何の用事でここに?」
やっと本題に入れる。
「大きく別けて二つ話がある」
魔王含めた魔族の話と、俺がリヴァーフォールズ家を引き継いだと言う話。
「…一つ目を話してみよ」
「魔王が住む場所が分かった事だ」
ヴァールデンとランドメントル、メルヴェルなどは目をかっぴらいて、口も大きく開けている。そして、そのまま固まっている。…この驚いた様な顔、好きだわ。
ナシェリアや、ジョン、グランツは話の内容すら解り得ず、そう言った反応が出来ていなかった。
「話を続けるぞ。帰省の道中に遭遇した魔族に聞いた話だ。その魔族と言うのがコイツだ《取り出し》」
万物を収納する魔法に相反する魔法である《取り出し》で、あの時の魔族ロプスアの死体を出した。
この場に居る全員は今までに血を何度も見てきた者達だ。少し動揺する者は居たが、失神する者は居なかった。唯一、声を張り上げたのは、ランドメントルだった。
「国王陛下にこんなものをっ…!」
ヴァールデンがランドメントルを抑えた。ランドメントルは何も発せずにヴァールデンに少し深めのお辞儀をした。
そんな事は、俺にはどうでも良かった。だが、ランドメントルが俺に言いたかった事ぐらいは解る。血抜きを全くせず、王宮の謁見の間をロプスアの血で汚していっているからな。まあ、腐っていないだけ有り難く思え。
さて、血で汚れまいがお構い無しに、次の話を始めよう。まだ、魔族関連だからな。話は長くなるぞ…。
「次の話題に入る。この頃、魔獣大量異常発生が各地で起こっているのだろう?」
意中を突かれたように、ヴァールデンとメルヴェルは俺を見詰める。また、凝視しているとも言う。
「スタンピードが起きている事を知っている様だな?メルヴェルに、ヴァールデン?」
俺は少し面白がって二人に問う。
そして、口を開いたのはメルヴェルの方だった。
「発言をお許し下さい」
「許す」
態々、許しを得なくても良いのに。唯、他の人に上から目線で俺を持ち上げるような事をするなと言っているだけなのに…。
「発言を許してくださり有り難うございます。この前、複数ある勇者パーティーの内の一つのパーティーが、ラフターレ付近でオークの大軍を発見したと報告がありまして…」
ラフターレ付近…?
オークの大軍…何か身に覚えが有る気が…。
「団長殿にはご存知かも知れませんが、マサヨシ=アリタ、カツオミ=ハラダ、サリナ=オギワラ、ナナ=シラトリの四人のパーティーが報告してきました」
有田に原田、白鳥さんに…荻原さんって誰だっけ?まあ、良いや。
て、事は…俺が手助けして、一応惨滅をしてきたオークの大軍じゃん…。
死体が腐敗して、周辺が臭わない様にして来やした。
「のう、アヴィル」
「何だ、ナシェリア」
「ぐぬぬ…私の団長殿の名前を呼び捨てに…」
「すみません…メルヴェル殿」
「あーナシェリア?気にするな」
てか、私の団長殿って何やねん。いつの間に、俺はメルヴェルのものになってたの?
「そうか…?」
俺は首肯く。
「あのオークの大軍って、妾達が知ってる大軍じゃないのか?」
「そうだと思うぞ」
あの場にナシェリアも居たからなぁ…。
「やはり団長殿でしたか」
「やはり?」
「はい。勇者達はフード付きで魔法師団高等団員の証の刺繍が施されているローブの男が倒したと言っていたので、もしやと思いまして」
あちゃー、勇者達には判らなくても、メルヴェルには判っちゃうかぁー。
「それで、その男が俺だと教えてしまったか?」
一応ね、一応。保険だよ、保険。
「いえ、一切話しておりません」
「誉めて使わす」
有り難う、メルヴェル。
「いえ…私には勿体無いお言葉…」
そこまで、勿体無くは無いと思うのだがな。
「ゴホン、ゴホン…!」
突然、ヴァールデンが咳払いをした。
「どうした、ヴァールデン」
「あ、いや…他にも話があるのだろう?」
「そりゃ、そうだろ。まだ、大きく別けた内の一つしか話してないんだから」
多分、これから話す事の方が重要だったりするんだよな。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
アヴィルくんの父親が宮廷筆頭魔法師を結婚を期に辞めました。理由は、王宮に住み込みであった事だけでした。
当時の国王も含める王宮内の主要人物達は止めましたが、それも上回る実力で蹴散らし、王宮を去っていきました。
また、アヴィルくんの母親も同じ様にして、当時所属していた近衛騎士団を辞めました。
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次の更新は10月27日です。




