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メルヴェルの自宅は、結構綺麗な木造の三階建ての一軒家だ。
「私、この歳ですし、二階までならまだしも、三階まで登るのは辛いのですよ。三階を、団長殿がご自由にご使用下さい。食事等も三階で取っても構いませんが…」
「それなら、毎食、一階に降りてこよう」
「本当ですか?」
「ああ」
こう言う会話をした。
それで、今、一階のダイニングに居る。夕食の時間、と言うことだ。
約束は、出来る限り守る男だからな。
「異世界に転移させられた後、もう、帰ってこないと思いました」
メルヴェルは胸に手を当て、ホッとしたように、撫で下ろした。
「俺も、帰れないかと思ったな。まさか、勇者召喚に巻き込まれるとは…」
「団長殿も勇者様!?」
メルヴェルは驚いたように、立ち上がった。少し、訂正を入れておくか。
「俺は勇者召喚で帰られただけだ。魔法師団にあった水晶でステータスを確認したが、称号には『勇者』と一言一句、書かれてなかった。」
「そうなのですか…」
「そう言えば…王城に水晶が有ったが、何でだ?王家に寄贈した記憶なんて無いんだが」
これは、是非、聞きたかった事なんだ!こちらに帰ってきてから、ずっと謎に思ってたからな。
「それは…元々、団長殿が魔法師団の為に創られた物です」
「それが何故、王家の手に?」
「王家の使いの者が奪っていったのです。ですが、私達の精進の為には水晶が必要不可欠。なので、団長殿の水晶を使わせていただいていました」
そんな事が起きたんだ…俺の転移後に。
「王城に有る水晶は、もう、取り返せません」
「それは、割られたからだろう?」
勇者の育成をしに、王城に出向くメルヴェルだ。知ってるだろう。
「な、何故それをっ!?あ、団長殿は勇者様達と一緒に召喚されたんでしたっけ?」
「あ、うん。俺が、割った。水晶を」
メルヴェルは驚いていたが、落ち着いた。
「そうなんですね…団長殿以外が割ったのなら倒しに行きますが、団長殿ですから怒る理由が有りませんね。元々、団長殿が創られた物を本人が割っても別に良いですもんね」
メルヴェルは分かってるね。うんうん。
「メルヴェル」
「はい、何でしょうか?団長殿」
「魔法師団の本部に有る水晶は、引き続き使ってくれて構わない」
「それでは、団長殿が!」
「あー、俺は自分用をもう一回、創り直すよ。だから、安心しろ」
メルヴェルは嬉しそうに「はいっ」と言った。顔のシワが気にならない位の素敵な笑顔だった。
あれから、俺達は夕食を食べ終わり、俺は三階のある部屋に居た。
三階の部屋は暮らすには不便は無い。書斎と寝室だからな。
ある部屋とは、書斎の事である。
俺は作業に勤しむ。
作業は水晶創り。
新しく創るんだ、過去に創った物よりも、更に性能の良い物を創ろう。
***
俺は一晩中、水晶創りをしていた。多分、一睡もしてない。
「団長殿、おはようございます」
「ああ、おはよう」
朝食ということで、一階に降りてきていた。創った水晶を持って。水晶は大小で二つ創ったんだよね。
「それは…新しい水晶ですか?」
「そうだ。大きい方は俺専用の水晶。過去に創った物よりも、更に性能がパワーアップしているぞ。因みに、小さい方は王家に寄贈する」
「王家に…!?」
驚いてるな。
「性能ダウンした水晶だ。試しに触れてみてくれ。両方共に」
「試しても宜しいんですか?」
「ああ」
メルヴェルは小さい水晶から触れた。
ーーー
Name:メルヴェル・アディブルワ Lv:310
Mr:火、水、光 Job:魔法師
ーーー
「確かにそうですね。記述内容がとても少ないですね」
メルヴェルは次に大きい水晶に触れた。
ーーー
Name:メルヴェル・アディブルワ Age:75
Lv:310 Mr:火、水、光
HP:80000/80000 MP:560000/560000
Job:第二階級魔法師
Title:元魔法師団高等団員及び団長補佐
ーーー
「今までよりも少し詳しく出ますね。性能の差がこんなにも違うなんて…」
「その小さい方を、王家に寄贈してきてくれないか?」
「何故、私なんですか?」
「今日も、王城に出向くんだろう?」
「そうですね、分かりました。私が責任を持って寄贈してきます!」
嬉しそうに、小さい水晶を抱え、メルヴェルは出ていった。
そう言えば、クラスメイト達は今頃、何をしているのかな?
***
王城の朝。
「ナナ様、おはようございます」
アヴィルに転移後に話し掛けた唯一のクラスメイトである奈菜の部屋である。
勇者一人一人に専属メイドが一人付いてきた。そのメイドから挨拶をされたのだ。
「おはようございます」
奈菜はちゃんと返事を返した。
専属メイドを引き連れ、向かう先は食堂。朝食の時間である。
そして、アヴィルを除いた全員が集合した時、シスナータ王女がこう言った。
「おはようございます、勇者様達。今日から本格的に優秀な魔法師の方達による指導が始まります。皆様、頑張って下さいませ」
そうすると、勇者達は一致団結をした感じになった。
(私も頑張らないと…!何せ、私は聖女何だから!)
朝食を食べ終わった勇者達は外に集まっている。勿論、メルヴェルを含む魔法師達も。
これから、苦しい、辛い教育が始まる事も知らない、勇者達は呑気にメルヴェル達を死直前の年寄り扱いをしていた。
メルヴェル達魔法師が怒っている事も知らずに。
***
俺は魔法師団の本部に出向こうと思う。
昨日の門番に話を通してもらえば…いけると思うよな?
「あっ、団長殿!?」
門番は昨日と相変わらず、立っている。
「俺は魔法師団として、遠征に出向きたいと思っている。団長と言うのは隠して欲しい。出来るか?」
「ええ…出来るとは思いますが、魔法師団の制服を着て貰っても?」
…日本の高校の制服のままだったな…。
「魔法師団の制服は、団長執務室に有る筈だ。入れてくれるだろうか?」
「執務室は…俺の一存では無理ですね。副団長殿に話を通さなければ…」
今の副団長は誰だろうか。
「しょうがない。制服予備から、制服を用意してくれるか?」
「はい、お待ちィっっ!!」
敬礼をして、走って取ってきた。速い、速い。
制服は男女共に暗めの紺を基調とした、セーラーブレザーにボタンがダブルタイプで、紺のネクタイ。そして、黒色のローブである。男性はズボン、女性はスカート。どちらも暗めの紺である。
団長、副団長、団長補佐などの高等団員に限っては、ローブに金色の刺繍が淵に施されている。
俺が受け取った制服は、勿論、ローブには何も施されてなど居ない。それでも、折角、用意してくれた物だ。
「有り難う」
「いえいえ!お、俺には…勿体無いお言葉です!」
制服を腕に通した。
「団長殿、遠征先は何処へ?」
あっ、やべっ。
「決めてなかったな…」
「えっ!?」
そんなに驚く程なのか?
「そうだな…遠征と見せ掛けて、俺の自由奔放な旅ってのは、どうだ?」
提案。こんな提案を、一団員の一門番の男性魔法師にするものなのか。
「良い案だとは思いますが…」
「何か問題でも?」
「あっ…いえ、何でも有りません。ご旅行、楽しんできてください!」
久々の故郷を旅するのは、悪くないな。
俺は魔法師団の本部を出た。
「《飛行》」
俺は人目に付かない所で魔法を発動させた。空を飛ぶ魔法なんて人に見られたら一大事だもんな。
物凄いスピードで上空に上がった。
何処へ行こうか…。
流石に、夕食と朝食はメルヴェルの家で食べなければならないからな…。一日に何回も帰ってきて、旅と言えるのだろうか?ならば、一層、拠点をメルヴェルの自宅にして食事の時間以外は遠くに行く。《瞬間移動》と言う魔法で。
《瞬間移動》と言うのは、ある場からある場へと瞬時に対象物を移動させる魔法。俺を転移させたあの魔法とは違い、異世界へは行けないと言う制限がある。
これで、解決か。
さて、何処へ行こうか。
う~ん…。
ダンジョンにでも潜るか…。
ダンジョンには沢山の魔獣が潜んでいる。魔法師、騎士、冒険者の先頭能力向上の為の訓練場になる事が多い。
初心者向けの簡単なダンジョンに潜ろうかな。
俺は比較的簡単なレベルの低いダンジョンへと向かった。
レベルの低い高いが判るのは、ダンジョンの扉に違いがあるからである。
ダンジョンの扉を開け、いざ出発!
薄暗いダンジョンの中を進む。
『GAAA!!!』
ダンジョンで初めての魔獣登場。
日本で言う、蜘蛛のデカイバージョン。目はでかく、赤い。全身、黒い。
「それでも弱いんだよな…《砂埃》」
魔法の属性が地の魔法、《砂埃》を発動させた。本来、砂を軽く巻き上げる程度の魔法だが、俺の場合、軽くも何もなく…魔獣は息絶えていた。
その後も、同じ様に《砂埃》で倒した。
階層を進み、進み、進んだ。
…?
奥に人が居る?
ダンジョンで初めて人の声を聞いた。
走って近付き、気付かれないように見てみる。
「っ…。ひ、光の精霊よ、我に力を!《回復》!」
四人のパーティーか。
魔獣との戦闘中に負傷した味方を治療しているところなのか。
魔法の属性は光である《回復》を酷使している男性は辛そうだな。もう少しで、魔力が枯渇しそうだな。
「ぐっ…」
「頑張って!」
「耐えろっ!」
男性三人と女性一人の四人パーティー。見たところ、冒険者。それも超初心者。
基本パーティーの組み合わせとして、『剣士』『魔法使い』『僧侶』が均等な力になるように組む。
《回復》を使った男性が僧侶だろう。
ああ、因みに魔法使いと言うのは魔法師の下位職業であり、また、剣士も騎士の下位職業である。
僧侶は聖女か、神官とかの下位職業じゃなかったっけ?
いやー、修羅場っすね…。
ここは手助けすべき?
あーでもな…。
剣士が女性か。凄い気難しそう。(イメージ)
残りの男性二人は魔法使いです、多分。
…だったら、魔力を分けるべきじゃね?
よし、一向に治療が終わらなそうだし、俺が治療してやる。(少し遠くから)
俺は魔法を発動させる。
「《超回復》」とな。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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次の更新は8月4日の予定です。




