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「村としては、人の気配がしないぞ…」
ナシェリアは呟いている。
「そうみたいだな」
俺は、ナシェリアの呟きに答える様にして言った。
ここは俺の故郷の村。既に夕暮れを通り越して、夜になっていたが、あまりにも静かすぎていた。それは異様な程に。
俺とナシェリアは、村に入り、奥へと歩き進める。村の奥にある、リヴァーフォールズ邸を目指して。
街路の途中。
『ベチャッ』
何やら違和感と変な感じのする音がした。
水溜まりでも踏み外したのかと思ったが、直ぐに違うのだと解った。
それは、血生臭い臭いが漂っているからである。
「なあ、ナシェリア」
「ん?何だ?」
ナシェリアは俺が感じた違和感には気付かずに、足を止めていなかった。なので…。
「俺、急用が出来た。先にリヴァーフォールズ邸へ行っててくれ」
「何がどうしたのかが分からないが…急用なら仕方無い。やむを得ないのだろう。アヴィル、早く追い付くのだぞ」
「わかってる」
ナシェリアは先へ進んで行った。
さて、この村の様子はどうも変すぎる。
俺は領民の家を全て廻った。《瞬間移動》で。
誰一人として見付けることは無かった。そして、全ての家で血で汚れていた。
…こんな事が?廃村状態?いや、本当に廃村じゃないか。
俺は領主である父親に現状を聞くため、ナシェリアが向かった俺の実家――リヴァーフォールズ邸に《瞬間移動》で向かった。
***
ナシェリアSide
妾はこの旅の最大の目的である、リヴァーフォールズ辺境伯爵に会いに来ている。
「旦那はこちらに居ます」
この年老いた女性は、かつて、剣姫と呼ばれるほどの剣の腕前を持ち、リヴァーフォールズ辺境伯爵の奥方である。名はレアーナ・リヴァーフォールズと言う。とても、有名なお方であり、知らぬ者は居ない。
レアーナさんは、妾を辺境伯爵のところまで案内してくれた。
妾はレアーナさんにお礼をし、辺境伯爵の居る部屋へと入室する。
先ず先に、名乗らなくてはな。アヴィルも知らない事も含まれるが、ここにはアヴィルは居ないから気にする事も無い。
「妾は宮廷筆頭魔法師ナシェリア・ランドゥルフ。リヴァーフォールズ辺境伯爵に王からの勅命により、この地に来た」
「そうか…それで、俺の二代後の宮廷筆頭魔法師さんは何のご用事で?」
妾の自己紹介に答えてくれたのは、勿論、辺境伯爵。椅子に座り、静かに聞いてきた。
「辺境伯爵はご高齢であらせられる。次代のリヴァーフォールズ辺境伯爵はどうするのかについてと、領内の現状について聞きに来た」
「次代の…ね」
「はい、聞けば辺境伯爵。次代を継げる男の子が二人居たとか」
「愚息らは何処で何をしているか分からない。音沙汰が一切、無いからね」
兄弟揃って行方不明か。
「上は丁度五十年前、下は五十三年前から行方知らずで。後を継げる者は居なくなった」
「それは…」
リヴァーフォールズ家の衰退と共に滅亡。
国を脅かすもの達から多大な国民達を救ったと言う、最強一族の滅亡は国の危機と同じ。
ヤバいぞ…。
「領内の現状について聞きに来たと言ったが、具体的にはどういうことを聞きに来たんだ?」
「領内はいつも通りかどうかだ」
「…それは――」
『DONDON!』
ドアを強く叩く音が、辺境伯爵の声を消し去った。
「に、逃げ…て」
レアーナさんはドアを勢い良く開いたかと思えば、そのまま倒れふし、後ろに居た何者かに魂ごと食べられてしまった。
「レアーナっ!」
妾は恐怖のあまり、身体が動かない…。
「レアーナをよくも…光の精霊よ――《雷撃》!」
凄い…詠唱は一語のみ。
辺境伯爵の撃った《雷撃》は、とても大きく、強威力である。
「愚息よりも威力は少ないが、どうだ?」
この威力で辺境伯爵の息子よりも少ないのか…。
レアーナさんを殺した顔を黒い仮面で被った男の子は、無傷であった。
その仮面の男の子は、無言で辺境伯爵に近付いた。
「ぐっ…ぐはっ」
辺境伯爵は吐血してしまった。
妾は勇気を振り絞って、辺境伯爵の元へと向かおうとしたが、身体が全く動かない。まるで、何かに縛られているかのように。
「もしかして…まさか、お前…ぐっ…なのか…?」
そして、辺境伯爵は動かなくなり、仮面の男の子に食べられる。
「――何が起きてるんだ?」
辺境伯爵が食べられている途中、最近とてもよく聞く男の子の声が聞こえた。
妾の事を一切、見もしなかった仮面の男の子は、その男の子の顔を見た。そして、辺境伯爵の遺体を持って、何処かへ飛び出して行ってしまった。
***
俺は《瞬間移動》で実家に向かい、父親が居るであろう、部屋へと向かった。
廊下に、真新しい血が落ちている。
誰の血だ?
そして、その血は俺の向かう方向へと続いていき、その部屋のドアまでも血で汚れていた。
そして、俺は部屋へと入り、その部屋で何が起きているのかが解らず、こう呟いた。
「何が起きてるんだ?」と。
仮面の男が人の身体と魂を喰らっていて、その場に居るナシェリアは涙目で立ち竦んでいる。
いや、ナシェリアの方は少し違うか。
そして、男は俺の顔を見るなり、食べている人の身体ごと持ち去って行った。
「ナシェリア?」
「…辺境伯爵とレアーナさんが…」
ボロ泣きのナシェリア。その場から一歩も動かない。
辺境伯爵とレアーナさんって言ったか?まさか、あの男、父親と母親を…!?
取り敢えず、動けないのは不便なので、ナシェリアに掛けられていた魔法を解くか。
「《魔法削除》」
実は、ナシェリアが動けないのは、《拘束》と言う魔法が掛けられていたからである。
「…あれ?動けるように…あ、アヴィルは何故ここに!?」
「領内の異常事態を聞きに」
「異常事態?」
「それももう、出来ないのか」
父親と母親が居ないのだから。
「アヴィル、このリヴァーフォールズ家は途絶えてしまった。家族の様な間柄だったのだろう?妾がこの場に居ながら!何も出来ずに…」
本当の家族なんですけどね。
それに、《拘束》が掛けられていたのだから、ナシェリアは何も悪くない。
でも…。
「リヴァーフォールズ家が途絶える?いや、途絶えては無い」
「そんな訳が無いっ!妾は確かに、この目で…」
「現辺境伯爵が亡くなった今、嫡男である俺が引き継げば良い話だ」
本当は嫌なんだけど。責任とか?そう言う類いのはあんまり…。魔法師団団長は別。
「アヴィルが?リヴァーフォールズ辺境伯爵家の嫡男?嘘も程々に…」
「ん?言ってなかったな。俺の家名。俺はアヴィル・リヴァーフォールズだ」
ナシェリアは何も言わない。ただ、ずっと、口を開けて固まっている。
「あーあ、久し振りに会える前に、殺されるとは…」
「仮に嫡男だとして…」
「現に、何だが?」
「信じ難いが…目の前で実の両親?が亡くなったのだぞ!?涙の一滴も流さないのだ?」
そう言えば、両親が殺され、怒り狂っている筈なのに、悲しい筈なのに、目が渇ききっている。何でだろう?
でも、そう言えば。
「昔から、血も涙も無いと言われた事があったな」
幼少期、弟と隠れて生き物を飼っていて、その生き物が亡くなった時、弟はボロ泣きだったが、俺は全く泣くことなく、埋葬した記憶がある。埋葬の仕方は、母親に聞いた。
「生き物を大切にする事は良い事よ。だけど、隠れて飼っていたのは良くない事よ」と、軽く叱責して、後は優しく教えてくれた。
「アヴィル?大丈夫か?ボーッとしてたが…」
「んや?懐かしい思い出が蘇っただけだ」
「両親との思い出か?」
「違う。幼い頃に死んだペットの亡くなった時の思い出」
「え…?」
「そもそも俺、七歳の時に親元離れて王都に上京してるし。思い出とか言われても…」
「それもどうかと思うが…そうなると、年齢が合わないぞ?」
ナシェリアは混乱しているようだ。まあ、そりゃそうだよな。この際、話してしまおうか。
俺はナシェリアに、勇者達の居た世界に転移させられた事や、向こうの世界とここの世界との時の流れの違いなど包み隠さず、話すことにした。
そして、俺が魔法師団団長であることも。
「まさか、歴代最強の魔法師団団長であったとは…うむ、あの強さなら、頷ける。…アヴィルに妾の秘密を言おう」
ナシェリアに秘密が?
「妾は宮廷筆頭魔法師だ。別に隠す必要は無かったのだが」
「父さんの後任か」
「二代後ではあるがな」
「へー」
「へーってだけで片付けられてしまうのか?」
どうした、ナシェリア。
「まあ、それは置いといて」
「置いとかれる話題だったのか…」
「取り敢えず、急いで帰ろうか」
「帰るってどこに」
「帰るって言ったら、王都にだろう?」
「ここから王都に急いでだと?それでも二週間、半月は掛かる場所だぞ?」
《瞬間移動》と言う超便利な魔法を使うので結構です。
「まあ、慌てるな」
「慌てるなと言われて落ち着けるか。こんな時に」
「取り敢えず、ここにある幾つかの本を持ち出そうと思うが」
「持ち出そうって…急いで帰るって言ってただろう?何か矛盾してぬか?」
そうか?気のせいだろう?
さて、魔王・魔族関連の書籍は無いかな~?
五分後。
「だいたい、こんなもんだろう。《収納》」
「その大量の本…何か関係性があるのか?」
「まあね」
「よくその短時間で判ったな…」
「王都に上京する前に、この家にある本全てを読み漁ったんだよ」
全て一回ずつ、浅ーく…。読み漁るの域に入るかは知らないが。
ナシェリアは俺の顔をじっ、と見て言った。
「圧倒的記憶力に驚いた」
「じゃあ、ナシェリアの用事?も終わっている事だろうし、帰るとするか」
「妾は空を飛べぬぞ?」
「ナシェリア、手を」
俺はナシェリアに手を差しのべる。
すると、ナシェリアの顔はほんのり赤みを増した。熱でもあるのだろうか。
「大丈夫か?」
「だ、だ、大丈夫だ!ええと…手!手だな!?」
「ああ、そうだが?」
「…優しく握って欲しいぞ。はい」
ナシェリアは無事、俺と手を繋いだ。
《瞬間移動》で他人も移動する時、その他人と手を繋ぐのが一番の近道だ。
「よし、繋いだな。それじゃあ…《瞬間移動》」
そうして、
俺とナシェリアは一瞬にして、王都に帰ってきたのである。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
領民の家を巡回中
俺は領民の家一つ一つに行っている。誰か一人でも見つかれば良いが。
この家に誰も居なければ次の家に《瞬間移動》で行く。
日本だと不法侵入だっけ?まあ、ここじゃ、そんな法律は関係無いけど。
一軒目。誰も居ない。人の血が垂れているだけ。
二軒目も同じだった。
三軒目、四軒目、五軒目……も、同じだった。蛻の殻だった。
今、最後の家の玄関に立っている。
今まで見てきた全ての家は同じ様に誰も居なかった。そして、血で床とか汚れていた。
この家ももしかすると、同じ様に誰も居ず、血で汚れているのかもな…。
……………。
うん。誰も居ないし、血で汚れてる。
何で血で汚れてるのに、誰も居ないんだ?最悪、遺体ぐらいは在っても良いのに。
よし、次の家も見に行くか。どうせ、大して変わらない状態なんだろうけど。
《瞬間移動》
俺は全ての家を廻ったのだった。
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次の更新は10月23日の予定です。




