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「ここは魔法師の方達にとってはあると嬉しい、魔法師団ルヴァフガンデ支部です。何でも、魔法師団の団長様が御自身でお創りになられたらしいので、魔法師の方達にとっては聖地に等しいらしいのです」
何とここは、俺が創った魔法師団の支部でした。
帰省の度に留まるルヴァフガンデにあれば良いな、と思い、その場の勢いで創ったものだ。
メルヴェルや他の団員達からは、何も怒られる事など一切、無かった。多少、怒られるかなー、なんて思ったのに。ビックリだ。
逆に崇められた。
いやー、困っちゃうね。
「おおっー!魔力が充満に拡がっておるー!」
その様に設計されているからね。
魔法師の治療で足りないものは疲労。つまり、魔力不足だ。
幾つもある魔法師団の支部の内で、入っただけで魔力回復出来るのはここだけだな。
「アヴィルも凄いと思っただろう?」
「あ、ああ…まあな」
驚きはしないよ。流石に俺が創った物には。
でも、こんなに綺麗に残っているなんて…そこに凄さを思った位に。
「ここは、一才、掃除をしなくても、綺麗なんですよ」
そんな機能を付けた覚えは無い筈だ。どうなっているんだ??
「確かに、埃も無いな!」
ナシェリアは、角とか埃が溜まりそうな所を見て、そう言った。
「はい。ここ、ルヴァフガンデで祀られる鉱石の双神の二柱様達の加護によって、汚れる事は無いのですよ」
「神様の加護のお陰か…本当に聖地だな」
ナシェリアが呟く。
そんなに凄い場所になっていたなんて思わなかったけども。
「次、行きましょうか」
サンディーは俺達を次の場所に案内してくれるらしい。
魔法師団のルヴァフガンデ支部を出て街の中央を歩いている。教会から来た道と違う道だ。
商業など様々な面で発展しているだけあって、色んな方言が聞こえて来ている。
「本当に、色んな人が居るぞ…」
「本当に色んな場所から色んな人達が集まりますからね、ルヴァフガンデは」
俺はナシェリアとサンディーの話を聞き流す。
「――着きました」
「ここは、レストランか?」
「ええ、お勧めの飲食店です。丁度、お昼時ですのでどうですか?」
「私の奢りですので」とサンディーは付け加える。
サンディーが案内したレストランは、スパイス料理店だった。
「最近、召喚された勇者様がこの街へ訪れた際に、勇者様の世界の料理を教授してくれたそうです。ですので、新しい料理が増えたのですよ。もう、それがとても、とても美味しくって…人気なのです」
ここに勇者が既に来た後か。
多少、知っている料理が増えているかも知れない。
「妾はその人気の新料理を食べてみたいのだ」
「じゃあ、俺も」
スパイス料理店の店内に入り、席に着く。
サンディーは店員に料理を注文している。
「別世界の料理となるのだろう?どんな料理なのか気になり過ぎて、わくわくが止まらないぞ…!」
「お待たせしましたー、異世界名物カレーとナンです」
そうそう、カレーライス…は?ナン!?
勇者はライスではなく、ナンの方を教えたのか!?
一応、この世界にも米はあるものを…。まさか、米がある事を知らないのか?
「これ、どうやって食べるのだ?」
ナシェリアには食べ方が解らないらしい。初めは誰だって、そうだよな。
「私は一回だけですが、食べたことはあります。食べ方をお教えしましょうか?」
サンディーはナンを一口大にちぎり、カレーを浸けて食べた。
「―こうやって食べるらしいのです」
「こうか?」
ナシェリアもサンディーを真似て、カレーを浸けたナンを頬張る。
「アヴィルも食べてみろ!この上無い、美味だぞ!」
「そうか。では」
俺も食べた。
「…旨い」
誰だ、このカレーとナンのレシピを教えた奴は!
絶妙なスパイスが利いた、癖になる辛さ…最高!
「どうですか?美味しいでしょう?勇者様達は良いですよね、こんなにも美味しい料理に囲まれて…」
俺達のカレーの入った皿は、いつの間にか綺麗になっていた。
「〆のカレースープです」
店員は別の料理も持ってきた。
「サンディーよ、こんなものまで、頼んでいたのか!?」
「カレーとナンの料理に付いてくるものなのですよ」
「成る程、セットと言う訳か…う~ん、これもまた、美味!」
ナシェリア…食べるか、喋るかどちらかにしろ…。
俺も、カレースープを頂く。
先程のカレーと同様に目茶苦茶、美味しかった。
「――さて、次を案内しましょうか」
サンディーに続いて俺とナシェリアも席から立ち、レストランを後にした。
「また、このカレー?と言うものを食べたいぞ…」
歩いている途中、ナシェリアが呟いた。未だに、カレーの美味しさに浸っていた様だった。
「この街にまたお越ししてくれれば、いつでも食べれますよ」
「どうせ、帰りもここに寄るんだ。また、食べられる」
多分な。
何か起これば、向こうから《瞬間転移》で王都まで帰ってこられてしまえるからな。
俺はこの事を付け足して言わなかった。
「その時はまた、奢りますよ」
サンディーは、奢ることが好きなのかも知れない。
「アヴィルの分は妾が今度こそ、払うけどな」
「何を仰有っているんですか?アヴィルの分も私が払いますよ?」
何を言い争っている…。
そして、ここへ第三者…。
「間を取って、俺は俺自身で支払う」
「それだけは無しだ!」
「そうです!それだけは無しです!」
ナシェリアとサンディーの考えている事が一致。
「…話していると、いつの間にか時間は過ぎてしまいますよね…着きましたよ。加護付与の間です」
は?
俺達、街路を歩いてたよな??
いつの間に…。
「加護付与の間と言う事は…教会なのか?ここは…」
「いいえ、違います。ここは、加護付与する為だけに創られた洞窟です」
洞窟に入って行った記憶すら無いんだけど?
「い、いつの間に、妾達は洞窟に!?」
まあ、そうなるわな。俺もなったわ。
「あるルートで街路を歩いていけば、ここに《転移》します」
「異世界とか、そう言う訳では無いよな?」
俺はサンディーに聞いた。
ガードラーレに《転移》で異世界に飛ばされたんだから。
「そ、そんな訳、ある訳無いじゃないですか!《転移》で異世界に行けるのはガードラーレ様ぐらいですよ」
あれ?そうだったかな?無属性魔法の《転移》は、異世界に移動する魔法だった筈だが?
「それに…正式名称は《加護付与の間》です。《転移》ではなくて、加護付与の間と言う空間が街路に出来るのです。私達は今、街路に居ます。街路を通る人々からは、私達の事を認知出来ませんけどね」
「やはり、妾達は洞窟に入っていないのが、正しかったのか…しかし、そんな魔法が存在しているとは」
結構、魔法を知り尽くしているであろう俺でさえ、初耳だ。ましてや、この魔法はサンディー自身のオリジナル魔法でも無さそうだし。
「魔法かどうかは判明していないんですよ…この地に神話時代から存在するので」
神話時代とは、我々人間が生きるより遥かに昔の時代の事を指す。もう、その殆どがフィクションと言われるほどに昔。
そうなると、魔法が確立するよりも昔からある可能性があり、魔法ではない事も有り得ると…。
「兎に角、妾達をここに連れて来たのにも理由があるのだろう?サンディーよ」
「あ、ああ…そうでした。ナシェリアとアヴィルに私達の神様の御加護を、と思いまして…」
ルヴァフガンデ街の神の加護を俺達に付与したいらしい。
「因みに聞いてもいいか?」
「はい、どうぞ」
「これから加護を付与される神はどっちなんだ?」
何せ、ここはルヴァフガンデ。二柱の神を信仰する珍しい地域だからな。
「アラル火山を司ります、鉱石の男神フューガンディー様です。私のこの身に降ろします」
明日、そのアラル火山を山越える。
ふと、俺はナシェリアの方を見た。
「…嬉しくないのか?」
俺は少し暗い顔をしていたナシェリアに聞いた。
「いや…妾は神様の加護が貰えるのはこの上無い、喜びだ。しかし、アヴィルは…」
俺の事を心配してくれていたようだ。
前の中継地点であったパワレント村の神からの加護付与に失敗している。多分だが、今回も同じ理由で失敗するだろう。
「じゃあ、サンディー。ナシェリアだけに加護付与を頼めるか?」
「アヴィルはいらないのですか!?」
「…俺は別に大丈夫」
「アヴィル、無理はしなくても良いのだぞ!無理をしているのなら…妾も」
「気にするな」
俺はナシェリアとサンディーにそう答えた。
「分かりましたよ?後悔しないでくださいね?」
どうせ、後悔して加護くれと言ったら、くれる癖に…奢り魔が何を言う。
「本当に良いのか?妾だけで…」
「ああ」
「それでは始めさせて頂きます。――我がルヴァフガンデに祀られし鉱石の神フューガンディー様よ。我の身体にその御身を降ろし、かの者ナシェリアに祝福せよ――」
降りてくる、降りてくる。
「もう、始まるのか?」
ナシェリアは少しオロオロしている。
「既に始まってるぞ」
俺は答える。
「み、身なりを全く、整えておらぬと言うのにっ…!」
「はっはっは…!オレの前で身なりを整えるのは不要だ!何せ、オレはずっとこの方、雑な野郎と言われ続けて来たのだからな!全然、気にしてないぞ」
気にしろよ、雑な野郎。つーか、自分で言うな。開き直るな!
あーあ、大声で心の叫びを言いたいっ…!
「…??」
ナシェリアがショートしてしまいました。
「そんで、オレが加護付与する人の子ってのは、どっちなんだ?」
俺はフューガンディーに答える様にして、静かにショート中のナシェリアに指を指す。
「そうか。それじゃあ、加護付与するぞ」
フューガンディーが入ったサンディーは、ナシェリアの額に手を翳した。
ナシェリアの身体の周りが瞬間的に神々しく光った。これが、加護付与が成功した証拠なのだろう。初めて見た光景だから俺から見れば不確か。
「成功したぜ。序でにお前も、加護付与してやるぞ?」
「…お前って俺?」
「そうだ」と言いながら、フューガンディーの手は俺の額にも翳すのである。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
ルヴァフガンデ支部創立
約五十年前
ティリー鉱山を越え、今回も来た。
毎回、帰省の度に通るルヴァフガンデは商業や旅行業、登山業など様々な業界において盛んな街だ。しかし、ここには無い物がある。それは、魔法師団の支部だ。
こんな辺境(実家と比べればまだ王都に近いが)、魔法師団の遠征で寄る事もあるだろう。
「―――よし、創るとするか!」
一つの建築物は普通、一年以上何人もの大人数で大掛かりで創るものなのだが……まあ、魔法を使えば、一晩足らず俺一人で創り上げる事は可能だろう。
街の中心から少し離れた所まで行った。
そこは更地で、ここに建てようと思う。
勝手に建てて良いものなのか…権力振り回して、取り敢えずここに建てようか。
後でこっぴどく怒られようが構わない。《魔法削除》で消える、消える。魔法で創るのだから。
とは言え、どんな建築物にしようか。
取り敢えずここに来るのは疲労が溜まった魔法師としよう。魔法師の疲労が溜まる原因は魔力不足。回復しきれない部分もある。
魔力が充満しやすい設計にするか。
そうなると、態と魔力溜りを作る必要がある。まあ、そんなもの簡単に出来る。
俺に掛かれば、雑作もない。
創った事は事後報告で。
頭の中で全て(外装や内装、全部屋など)の構想を丁寧に組み立て……いざ!
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俺は創造した建築物の中に椅子を置き、一人で休憩をしている。
創り終えてから、五時間以上経って陽が昇った。
ここに居座ってから五時間以上、とても良い気分だ。何せ、魔力酔いを起こさない程の程好い量の魔力が充満しているからだ。
・・・まあ、俺以外の者が必ずしも魔力酔いを起こさないとは言えないが。
陽が昇ったのを視認し、俺は建築物―ルヴァフガンデ支部を出た。
※※※
後日
帰省から王都に戻り、ルヴァフガンデ支部創立の事後報告をメルヴェルにした。
怒られるかと思えば、褒め称え崇められたのだった。
俺がルヴァフガンデ支部に立ち寄ったのはあれきりだが、知らぬ間に魔法師達の神聖な聖地と化し、ルヴァフガンデの二つの神からも加護されたのだった。本当に何があったんだか…この五十年間に。
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次の更新は10月16日の予定です。




