19
オークの大軍を一掃した日の夕食。
宿で寝てたら、良い頃合いに夜になっていた。
「アヴィルの好きな店で良いと言ったが…まさか、魚料理店だとは…」
「最近、どうも肉料理ばっかでな。魚、食いてー、と思った訳だ」
俺達はラフターレの街にある、魚料理店に行った。理由は、俺の好きな店で良いと、ナシェリアが言っていたからである。
まあ…明日、ラフターレを旅立つ俺達の最後の晩餐が、肉料理では無い為、ナシェリアは気落ちをしているのだ。
明日が、次の中継地点に行く馬車が出発するからな。だから、ラフターレを旅立つ。
「のう、アヴィル」
「何だ?」
「…妾は魚は苦手…」
何だ、そんな事か。
「肉は食うだろ?」
「うむ!大好物だ!」
ぬおぅっ!?肉の話をしたら、滅茶、元気になった。
「魚も肉だろう?」
「…そんな訳、無かろう!さ、魚も肉!?」
「魚肉って言わないか?」
魚に肉って書いて魚肉…。
いつも、上から目線のナシェリアが、ここまで嫌がるとは…恐るべき魚…!凄いな、魚ァッ!
「現に、魚料理の店だと忘れて、ハンバーグを頼んだんだろ?」
魚肉ハンバーグだよ。魚料理店ならでは。
「うぐっ…魚料理店が珍しく、肉料理を出しているな、とは思ったが…魚料理店を甘く見ていた!まさか、このハンバーグでさえも、魚料理とは…!」
「それも、気付かずに殆んど食べ終わっている所が凄いと思うぞ」
率直な感想と共にお送りしましたー。なんちゃって。
「ナシェリア、明日の朝、早いからな。忘れるなよ」
「む…?妾が毎日、寝坊してるような言いぐさは止めんか」
「早く寝てくれ。と言う意味なんだが…」
「それなら気にするでないぞ?」
「なら、良いけどさ。二人とも食べ終わったみたいだし、宿に戻るか」
「て、手を…繋いでやっても良いのだぞ?」
何だ、急に。
因みに、料理の代金は前払いね。
「昨日とか、手を繋いで無いだろう?」
「うぐっ…わ、妾が手を繋ぎたいだけだ!」
開き直った。自棄に顔が真っ赤だな。
そして、周りの老若男女の人々はニヤついている。ある人は「手を繋げ!」とか、「早くしろ!」だの、「羨ましい奴だ!憎らしい!」とか叫んでいる。
「はぁ…分かった、手を繋げば良いんだろう?」
俺はいつから周りに流される様になったんだろうか?それとも、元から?
渋々、ナシェリアに手を差し出すと、パアッと笑顔になった。
そうすると、憎みを含んだ視線と、見守りの視線が交わる変な視線が感じ取れる様になった。
俺達は宿に、手を繋ぎながら戻った。
身長差のせいで、俺にとっては子供と手を繋いでいる感覚があった。
アレと一緒。
高校の課外活動で、幼稚園と言うものに行った時に幼児と手を繋ぐ感覚。
俺達は宿に戻った後、就寝した。
ナシェリアは、手を繋いだ後の余韻に浸っていたが、その後、直ぐに寝付いたのだと。
***
そして、このラフターレを立つ日の朝がやって来た。
この宿ともおさらばだ。多分、帰りも寄ると思うけど。
そして、持ち物全てを纏め、ナシェリアと一緒に乗り合い馬車に乗った。次の中継地点行きの。
「ナシェリア、俺はこれから寝る。邪魔するな」
「話し相手になっとくれよ~…」
ナシェリアが涙目で、縮こまった。
ただをこねる子供の様…。
「騙されないぞ」
「でも、これから二日間はずっと馬車の中。頼むから!何でもする!」
「…何でもする、って言ったな?しょうがない、話し相手になっといてやる。夜は寝るがな」
「有り難く思うぞ、アヴィル!」
二日間の馬車でナシェリアの話し相手となった。いや、多分、これからもだ。
そう言えば、出会った時に、ナシェリアが付いてきた理由は、話し相手になって欲しいからだったな。
「んで、話の題材は?」
「改めて自己紹介とかはどうだ?互いに名だけしか知らぬしな」
なるほど…自己紹介か。深入れは止めとこう。
取り敢えず、ナシェリアのを聞いて、何を言うのか決めよう。
「妾が先で良いな?」
「ああ」
「妾の名は知っての通り、ナシェリア・ランドゥルフ。しがない、魔法師だ」
意外にもアッサリとした自己紹介だった。
「俺はアヴィル。家名は…その内、解るだろう」
どうせ、俺の実家のある村までご一緒なのだから。
俺は自己紹介を続ける。
「俺は、魔法師の端くれだ」
「まあ、そうだろうなぁ…妾も結構、凄い魔法師なのだが…嫌味のつもりか?妾とて、自信を失うぞ?」
全然、嫌味ではありません、が…。
「嫌味か。散々、言われた言葉だな」
「どれだけの人々の自信を失わせていったのだ?アヴィルは」
ナシェリアは溜息を吐いている。
「…それに、何時になったら家名を名乗るのだ?妾は(将来の名字が)気になって仕方ないのだぞ?」
「言っただろ?その内、解るって」
「その内に解るものなのか…?」
…多分な。本来なら、そうならない事を願ってるが、そうなりそうな気がする。それに…何故、そこまで気になる?
兎に角、俺はナシェリアのその問いには答える事は無かった。
「まあ、その内、解ることを期待して――」
期待しなくて良い。
「次だ。アヴィルのMrは何だ?光属性の魔法以外の属性の魔法をも使えるのだろう?」
「一応、全属性だな。ナシェリアは?」
「ぜ、全属性…やはり大物だな、アヴィルは。妾は、火と水と闇だな」
「三つか…中々、凄いな」
「…アヴィルに言われると嫌味にしか聞こえぬぞ」
俺には嫌味を言っている感覚は無いな。先程から、ずっと。
一応、進言しておこう。
「まあ、気にしてたら、何も進まないぞ」
「騎士も魔法師も、切磋琢磨する上で、自分自身の力を気にするものなのだ。悔しいから強くなるのだぞ、アヴィル。そんな気持ち、感じた事はあるか?」
何かスゲー事言い出した…。
切磋琢磨する上で…か。悔しいから強くなるのか。
イマイチ、よく解らない事だな。
「無いと思う」
「まあ、そんな事だろうとは思った。これはな、妾のリスペクトする御方の教えなのだ」
「ナシェリアには解ったのか?後、リスペクトって言う意味も」
「リスペクト位は解るわ!妾を何と思っている?」
「さあな」
「まあ、良い…それに、御方の教えは、最近になってようやく、理解出来――」
『ガタッ』
馬車が急停止した。
「魔獣が出たぞー!」
一緒の馬車に乗っていた一人の男が叫ぶ。
「安心して!このBランク冒険者パーティーの私達が居るからね!」
武装した女性四人組の冒険者パーティーが馬車から飛び降りた。
足元が掬われたり、腰が抜けてて立てなさそうに無い者達が、「安泰だ!」とか「助かった!」とか言っている。
「のう、アヴィル」
「何だ?」
「妾達も行った方が良さそうな予感がするぞ…」
「ああ…そうだな。あの冒険者パーティーじゃ、ちょっとヤバそうだしな」
俺とナシェリアも馬車から飛び降りた。
外では既に冒険者パーティーは飛ばされた後だった。
「先程、飛び出して行った女子達が、血だらけだぞ!?」
「ナシェリアは魔獣を頼むぞ。俺は冒険者パーティーの治療をする!」
「任せたぞ」
「おう!《広範囲・超回復》」
範囲は、この冒険者パーティーのみ。
虫の息に血がドバドバだった冒険者達は、息は整い、血は止まり、怪我は綺麗さっぱり。
冒険者パーティーは、静かな寝息を立てて寝ている。もしくは、気絶している。
「ナシェリア、そっちはどんな感じだ?」
ナシェリアは魔獣に魔法を放っている。
「駄目だ、全然効かぬ」
色んな魔法を放っているみたいだが、それ一つすら、ダメージが無いらしい。
「それにのう…この魔獣が、人の言葉を喋っておるのだ…」
は?
『遂に現れたな、強者』
魔獣の種類名サイクロプスが喋った。
「ああ、喋ってるな」
「だろう?」
ここで喋る魔獣…否、魔族に会うとは。
『我が戦友、イステアを倒した強者よ。我と戦え…!』
イステア?イステア、イステア…。
「…ああ!イステアか!」
「話の道筋がよく解らぬのだが…知り合いなのか?」
「知り合いにこんな奴が居たら困る」
『奇遇だな、アヴィルよ』
俺は目の前に居る魔族を睨む。
「何故、俺の名前を知っている?」
『魔王様から聞かされている。本物の強者はアヴィルだと』
俺って、魔王にも名前が知れているのな。人気者だなぁー俺は。ある意味、魔王に俺の名前が知られているのは、それはそれで嫌だなぁ…。
「今、どんな状況になっているのか、誰か教えてくれんかのう…」
「ナシェリア、一旦、馬車に戻ってくれるか?」
「わ、判った…くれぐれも死ぬのだけは避けるのだぞ?」
俺は首を縦に振って、肯定。まあ、この場で死ぬ事は無いだろうけど。
ナシェリアは馬車に戻った。
「お前、名前は?」
『何故、それを聞く』
「名前を持つ魔族が居るだろ?イステアやメーディが良い例だ。それに、俺の名前だけお前が知っているのはズルいだろ?」
『そうだな。我の名はロプスア。強者を求めて放浪している者だ』
放浪しているのかよ…。
それで良いのかよ、魔王。お前が創ったであろう、コイツは放浪してやがるぞ。
「なあ、ロプスア」
『何だ、アヴィル』
「魔王の住む所を教えろ」
ド直球で聞いてみた。
何か最近、メルヴェルが死物狂いで捜索していると聞いたからな。(アレドラント情報)
『教えんことも無いが…我に勝ったら教えてやろう!』
うん。まあ、そんな事だろうとは思ってたけどよ。
「じゃあさ、イステアとお前、どっちが強いわけ?」
『戦友で良きライバルであるが、無論、我だ。我が全勝している』
「それってライバルと言うのかよ…」
『イステアは強がりでな。我はどちらでも良いのだが、ずっと「お前だけは倒す!」と言いながら、戦闘を挑んで来るのだ。それを、我が全て跳ね返すだけだな』
へぇー。
要は、イステアが馬鹿だった訳だ。
『話とやらは終わりか?なら、始まりだ!』
「魔王の住み処を教えて貰うために勝つしかないか」
『人間は直ぐに忘れてしまうが、これは殺し合いではないぞ?これは戦いだ!』
「それぐらいは承知している。そうでもしないと、聞きたい事が聞けないからな」
俺と魔族のロプスアの戦いが始まったのだ。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。
***
余談(飛ばしても大丈夫です!)
ロプスアとイステア(ロプスアSide only)
我、ロプスアと良き友イステアは、魔王様にほぼ同時刻に創られた。
我と友に各々のコンセプト的なものがあった。我は武力、イステアは知力。
イステアは知識が豊富で、地頭は良かったが、それ以外になると阿呆だった。我は知識は無く、馬鹿なのだろうが、学んでいく事は容易い。
我が友イステアは、よく我に戦いを挑んできた。
後ろから不覚を取られたとしても、振り払えてしまう程に弱かった。だが、我はそんな何気無い事が楽しかったのだろう。
勝てないと解っていながら、何度も挑むイステアは、いつか魔王様の御側に立つことだろう。…武力ではなく、知力で。
ある日、魔王様から告げられた一言で、我は強者を求めて放浪する事になる。それは…。
―イステアが倒されました。いつか、出会うでしょう、イステアを倒した人間に。言っておきます、本当の強者はアヴィル。イステアを倒した者の名前でもあります――と。
我が強者を求めて放浪しているのではなく、我が友を倒した人間を探して放浪していたのだ。
遂に、会えた。我が友の仇を討つぞ。
***
次の更新は9月22日の予定です。




