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 俺は着く頃合いを見て、起きる。


 「…すげぇ、着いたタイミング丁度で、起きた…」

 「すげぇに決まっているだろう!救世主なんだからよ!」


 まだ、言われていた。

 盗賊の男三人を気絶させ、取られた物を取り返してくれたから、救世主と呼んでいるらしい。



 この乗り合い馬車は前払いで、既に払っている為、そのまま降りる。

 さて、宿を探さないと…。


 「そこの()の子。待て」


 後ろから呼び止められた。振り返れば、馬車に乗っていた幼女であった。


 「何だ?」

 「助けてくれた礼を言う。有り難う」


 うわー、自棄に上から目線の幼女だなー…。


 「別に助けた訳じゃない。自分の為にやったまで」

 「謙遜するでない。妾の名はナシェリア・ランドゥルフだ。男の子、名は?」


 何で名乗る必要があるのかね…。

 家名は名乗らない派の俺である。別に家名が気に食わないとか、嫌いだとかそう言った感情は無いけれど。


 「あー、俺はアヴィル。呼び捨てで構わない」

 「アヴィルと言うのかー!良い名だな。妾の事も呼び捨てで構わぬ」

 「ふーん」

 「所で、アヴィルは宿を取っておるのか?」

 「これからだが?」

 「ならば、付いてくるが良い!」


 ナシェリアに言われるがまま、着いて行くことにした。



 「アヴィルは何の為にここに来たのだ?」

 「俺は帰省をする為だ。ここは中間点にしかならない」

 「行く先の中間点か!妾も同じ様な感じだ!何処まで行く感じなのだ?」


 俺の行く所は…実家のある村。家が辺境伯家であったから…。


 「リヴァーフォールズ辺境伯領の村に行く」


 忘れている人もいると思うが、俺の家名はリヴァーフォールズである。


 「偶然だな、妾も同じ場所に向かっていた所だぞ。丁度良い。妾もアヴィルに同行しよう」

 「何でだ?」

 「良いではないか。何、話し相手が欲しいのだよ」


 外見以上に年上な様な感じで話しているな…。




 「着いたぞ、ここだ」


 着いた場所は【ラム・アリエス亭】と看板に書かれた宿だ。

 少し大きめの木造建築の宿である。


 「アヴィル、次乗るべき馬車は四日後だ。それまで、いや、王都に帰るまでの宿泊費を全額、妾に出させてくれまいか?」

 「ああ、願ったり叶ったりだが…良いのか?」

 「別に金銭面には苦労しておらんよ」


 何と、ナシェリアがこれからの宿泊費全額出してくれることになった。

 後、断ったら、駄々こねられそうで怖かった。


 「しかし、年下に宿泊費を出してもらう日が来るとはな…」


 一応、メルヴェルは俺よりも年上だったから考えない。


 「そうか、妾が年下に見えるか…誉め言葉が上手いなアヴィルは。妾は一応、三十路を過ぎておる。どちらかと言うと、アヴィルの方が年下だな」


 何と三十歳超えの外見少女だった。

 待て待て…俺は精神共に十八歳だ。この世界に合わせると、六十五歳である。

 俺の生まれはナシェリアよりも、年上になる。しかし、自分としては、十八歳なので、年下としておこう。うん、そうしよう。


 「ああ…その様だ。ナシェリアの歳を二で割った歳位だからな」

 「随分、年下だったな…。一応聞いておくが、年上の人でもその態度なのか?アヴィルは」

 「確かにそうだな。メルヴェルや、ガードラーレとか…」

 「アヴィルは一体、何者なのだ…?メルヴェル殿や、ガードラーレ殿までもタメ口且つ、呼び捨てとは…流石、アヴィルと言うべきか?」

 「んー?誉め言葉として、受け取っておいた方が良いのか?」

 「誉めてはいないがな…話している合間に、部屋を借りた。聞いて喜ぶが良いぞ、アヴィル」


 聞いて驚くじゃないのかよ…。


 「部屋を同じにしておいたぞ!嬉しい事に、シングルだ!」

 「シングル??」

 「何を寝惚けているのだ?ベッドのサイズに決まっておろう?」


 待て。俺が女の人と同じベッドで寝るの、母親を抜けば初めてじゃね?


 「まだやっていなさそうだと思ったが、若すぎる。初めてはお預けにしといてやるから、部屋へ行くぞ!」


 やる、とは…。

 俺は今までの記憶を総ざらいしている。日本で見聞きした事など。

 この場合の「やる」は、高確率で性行為(セックス)…Oh…。

 俺の頭に血が上り、火照り始めた。


 「む?どうしたのだ?アヴィル。顔が赤いぞ?」


 ナシェリアに言われるまで気付かなかったが、多分、俺は恥ずかしがっている。


 ――今日、やる訳では無いのに――。


 俺は心臓の高鳴りが収まらないまま、就寝した。

 熟睡出来るまでに、数分掛かった。

***

 朝。目が覚めると、既にナシェリアは起きていた。


 「おお、目が覚めたか」

 「まあ、な」

 「先ずは…おはよう、アヴィル」

 「ああ、おはよう」


 朝の挨拶をした俺は、トイレに着替え…魔法師団の制服を持って入り、着替え始めた。


 「態々(わざわざ)、トイレで着替える事はないのだぞ?」


 トイレのドア越しにナシェリアが話し掛けてきた。


 「TPOに(のっと)った結果だ」

 「てぃーぴーおー?何なのだ?それは」


 あ…TPOは、日本での知識だった…。

 ナシェリアが知っている筈が無いな。俺だって、日本に転移される前は知らなかった訳だし。

 簡要に説明してやらんでもない。


 「TPOってのは、時と場所と場合に応じて服装や、行動を考える事だ」

 「…よく解らぬが、そうなのか?」

 「ああ。後もう少しで、着替え終わるから待て」


 俺は着替え終わり、トイレから出てきた。


 「昨日も見てたが、アヴィルは魔法師団の者なのだな」

 「ん?まあ、そんなとこだな」

 「こんな若さで…余程、魔法の才能があったのだな」


 そうだろうか?

 俺専用のローブを取り出そう。


 「《取り出し》」


 無属性魔法のこれは、《収納》で入れた物を取り出す魔法。


 「よし、着替えは終わったぞ」

 「のう、アヴィル。この都市を散策しないか?」

 「まあ…暇だしな。都市の散策、乗った」

 「うむ。先ずは、朝食だ」


 俺とナシェリアは宿にある食堂へと向かった。

 食事スタイルはビュッフェだった。好きなものを好きなだけ取る。


 「ナシェリア…大丈夫か?栄養バランスが物凄く偏ってるが?」

 「良いのだ!と言うか、ビュッフェスタイルの食堂が悪いのだ!」


 ナシェリアの取った料理が、ハンバーグ、ステーキ、ローストビーフ、ベーコンステーキ…など、全て肉料理だった。

 野菜?そんな物は知らないとでも言うのかの様に。


 「それにしては、アヴィル。普通過ぎないか?」

 「ちゃんと考えての結果だ」


 俺は栄養バランスを重視して、料理を取っている。分量も。


 「つまらぬ人生を送っておるな?」


 しょうがないだろう。日本と言う場所に無一文で転移されたんだから。

 それに、日本の高校の学食、こんな感じだよ。美味しかったな。


 「ナシェリア、野菜は取らなくて良いのか?口内炎になるぞ」

 「何を言う。口内炎なんぞ、口に沢山出来ておるわ。まあ、幼い頃からずっとだからな。痛みは慣れた。もし、耐えられない程のが出来たら、《回復》とかで治して貰えば良い」

 「何を誇ってんだ?自慢になんねーよ」


 俺とナシェリアは朝食を食べ終わり、宿の外に出ていた。


 「アヴィル、何処行こうかのう…」

 「うーん…何処が良いんだろう?」

 「ちょい、ちょい。そこのカップルよ」


 俺とナシェリアに地元の老人らしき男が、声を掛けていた。

 その爺さんが、俺達をカップルと呼んだ。

 断固としてカップルではない。…傍迷惑な爺さんだ。


 「アヴィル!妾達をカップルと!」


 何故か、ナシェリアは大喜びをしている。


 「微笑ましいの…神殿に行ってみたらどうじゃ?この街の神殿で祀られておるのは、結びの神様じゃよ」


 まさかの!?


 「アヴィル!行くぞ!」


 ナシェリアは俺の腕を引っ張り、風の様に速かった。



 ナシェリアの全速力により、俺達が居た場所より、数キロ離れた神殿に辿り着いた。俺は引き摺られて来た。数ミリ浮いてたと言うのが、記憶に新しい。

 結びの神か…。結婚とかを願うんだよなぁ…。


 「ここが神殿…」


 俺が呟く。ナシェリアと言うと、息を切らしていた。


 「ナシェリア、一旦、休むか?」

 「妾は大丈夫だ。このまま進もうぞ」

 「そう?」


 数秒したら、ナシェリアはけろっとしていた。息など切れていない状態に戻っている。余程、縁結びを願いたいらしい。

 神殿は少し薄暗かった。

 祀られている結びの神とやらの御神体は、ずっと奥である。

 往復して帰れるのは、早くて半日、遅くて三日らしい。神殿の説明が書いてある看板に、そう書いてあった。

 ナシェリアに《瞬間移動》を使って、御神体前まで行こうと提案したが、あえなく却下された。


 「《瞬間移動》?そんなものは神様に無礼であろう!?却下だ、却下」と言われたのである。



 なので、ずっと続く長い通路を歩いている。


 「なあ」


 俺はナシェリアに声を掛ける。


 「何だ?」

 「ナシェリアは、何故、結びの神にそんなにも嬉しそうなんだ?」

 「こんなにも美芳の妾でさえ、縁を求めるのは当然であろう?」

 「ふーん…」


 自分から美芳って言った…。

 縁を求める、か。


 『ピィィィッッ!!』

 「何事だ!?」


 響く高い音。耳鳴りが酷く残るような音波。

 薄暗い神殿の天井に無数の黒い物体がぶら下がっている。

 これは、コウモリに似た魔獣である。


 「こんなにいっぱい…現れるとは思ってもいなかったぞ」

 「ナシェリア!手分けして倒していくぞ!」

 「うむ!半分任せたぞ!」

 「おう!」


 …なんて返事して上手いこと言ったが、これ位のコウモリの大群、俺なら一掃出来る。

 しかし、ナシェリアの居る前では止めといた方が良いと、本能的に判断した為である。


 『ピィィィッッ!!』


 高音の音波の様な鳴き声をしながら、大群(半分でも結構、大群)が俺に向かって襲う。

 コウモリの様な魔獣の攻撃を避けながらナシェリアの方を見守る。


 「水の精霊よ。我に力を!《低温火傷》!」


 ナシェリアの《低温火傷》は、大群コウモリ魔獣の内、十五匹が地面に叩き付けられる。

 十五匹が落ちてきたのは、《低温火傷》の痛みで飛ぶや、ぶら下がる事が出来なくなっていたからだ。

 大群はその八倍以上は居る。十五匹ずつだと、遅いのである。

 しょうがない…。後で記憶を操作するとして、今は俺が倒してしまおう。


 「《雷撃》」


 俺はナシェリア分の大群コウモリ魔獣と、俺分の大群コウモリ魔獣に一斉攻撃した。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。

***

余談(飛ばしても大丈夫です!)

 乗り合い馬車に同乗していた、とある貴族令嬢Side



 私は有名でも、貧乏でもない、中位の貴族家の令嬢。一応、家は馬車を一台は持ってはいるが、今回はお忍びなので、乗り合い馬車を利用している。

 お忍びとは言え、一人の従者を連れている。私の護衛役謙教育係である。とても頼りにしている従者なの。



 私の従者でも抵抗出来ない様な、手強い盗賊集団が襲撃してきた。私のお母様から頂いた大切な少し高価な装飾がされた、ペンダントを呆気なく盗られてしまった。

 …ああ、私とお母様を繋ぐ、世界に一つだけの代物を…。



 私が涙を流し、俯いていると、盗賊達は悲鳴を上げ、その場で気絶していた。

 盗賊達を倒した人は直ぐに判った。私と同じ位の年齢の男の子であり、魔法師団の人だった。周りから、救世主と呼ばれ、何だか嫌な顔をしていた。

 その人は、席に座り、寝直してしまった。

 貴方が救世主と呼ばれるのが嫌でも、私の大切な物を取り返してくれたのです。私にとっても、貴方は救世主なのです。



***

次の更新は9月11日の予定です。

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