14
朝。
目が覚めた俺は、アレドラントに言われた通りに、魔法師団の制服に着替えた。
外はまだ、薄暗く、陽は昇っていなかった。
一階に降りると、アレドラントはソファーの上でぐっすりお休み中であった。
「あんな態度のアレドラントでさえ、寝顔は素直だよな…」
良い夢でも見ているのだろうか、顔はへにょんへにょんに、綻んでいた。
今日、いよいよ帰れるんだな…一時的にだけど。
あの家から、持ち出す必要がある物は幾つかあったな。
例えば、俺自身のローブ。俺は魔法師団団長だから、そのローブは俺専用の特注品だ。
何故、俺専用の特注品かと言うと、他の人達のローブにはフードが付いていないが、俺には付いていたりする。少し、他者の物とは仕様が違うのだ。
あとは、魔法書とかかな。多少、持ち出す程度。
三年位しか住んでいなかったが、それでもやはり、自分の家は自分の家なのだ。懐かしく感じる事だろう。
「…ああ、起きてたのか」
アレドラントのお目覚めだ。
「お前の寝顔をじっくり観察させて貰った」
「な、何だと!?おい、貴様!記憶から抹消しろ!」
アレドラントは顔を赤らめている。恥ずかしくて、照れているんだな。照れ屋な奴め。
「…制服は着ているようだな…」
アレドラントは俺の格好を見ている。まるで、日本で言う、学校の制服等の身嗜みをチェックする先生の様な感じだ。
「なあ、早く朝食を…」
俺はアレドラントに言った。お腹空いてるからな。
「ああ、そうだな」
アレドラントはキッチンに行き、調理を始めた。
数分も経たない内に完成し、食べ始めた。
「…旨かった」
「そりゃ、どうも」
朝食は食べ終わった事だし、いざ、帰宅!
アレドラントがテキパキと、皿とかを片付け、この、メルヴェルの自宅の外に出た。
俺とアレドラントは歩いている道中、会話をしている。
「なあ」
「何だ、貴様」
「団長殿の御自宅は、鍵とか掛かっていないのか?」
「勿論、掛かっている」
まあ、あの家の鍵は俺自身の魔力だけどね。だけど…しかし、俺の居ない時にガードラーレなど他の者が、俺の家に入る事が出来るんだ?
防犯対策はバッチリだった筈なのに。
「解錠とかどうしているんだ?」
真相はいかに!?
「これだ」
アレドラントの手に乗っているのは、指輪だった。
この指輪は、魔力を貯めておける魔法道具だ。
ある年の誕生日の祝いに貰った父親からのプレゼントだった。
貰った時に指輪の許容量まで魔力を貯めたきり。俺は無限に魔力がある為、少々、意味が無かった物でもあった。
「その指輪をどうするんだ?」
「これに入っている団長殿の魔力を鍵として、解錠してきた。僅かしか貯められた魔力が残っていない。だから、行く為に申請が必要となっている」
その指輪の魔力だけで、一つの軍隊を滅ぼす事が出来る位、入っていた筈なんだがな…。
どの位の人数の人が、俺の家に侵入しているんだよ。
それに、鍵として使われる魔力量は微々たる量でしかないのに。
「ちょっと見せて」
「丁重に扱えよ」
アレドラントから指輪を受け取った。
本当に魔力が僅かにしか残っていなかった。
…こりゃ、次は使えないな。多分、今回、入る時だけ分しか無いだろう。
出る時はどうするんだろうか…。
鍵は入る時、出る時に必要で、侵入者が逃げようとしたときに、家に閉じ込めておくのだ。
俺はアレドラントに指輪を返した。
俺の自宅前に着いた。先にアレドラントが言い放つ。
「…着いたようだな」
「そりゃ、王都内にあるから、直ぐに着くだろう?」
俺は会話に応える様に返した。
本当に久し振りだよ、我がマイホーム…。
「今から解錠する。彼の物に力を分け与えよ《魔力譲渡》」
アレドラントの手のひらにある指輪から、家のドアへ魔力を譲渡をする。
『彼の物/者(時と場合による)に力を分け与えよ』が、《魔力譲渡》の詠唱ね。
俺の場合は無詠唱だが、この場合の解錠はドアに手を触れさせるだけで十分なのだ。
「開いた様だな。入るぞ」
アレドラントは緊張な面持ちで俺の腕を引っ張る。
「何故、そんなに急ぐ?」
「何って、一分したら扉が閉まるからであろう?」
お前、何言ってんだ?って顔をしながら、質問を質問で返された。
一分したらドアが閉まる?そんな設定はしていない筈。一度、故意的に閉めれば施錠する様になっていた筈なんだが。
「うわ…本当に一分で勝手に閉まった」
「だろう?」
本当に一分で勝手に閉まったのだ。
考えられるのは、魔力に他者の魔力が混ざっているからだろうか。
よし、考えるのは中断して…。
「アレドラント、別行動…」
「不許可だ。勝手な事をして、物を壊されたりでもしたら、責任問題となる」
えぇ…。
「かと言って、今回は貴様の自由行動は認める。しかし、私は後ろから監視する事が条件としてな」
まあ、いっか…。それぐらいなら。
まず先に、俺は書斎へと向かった。
ここと、魔法師団本部にある団長執務室に俺専用のローブがあるのだ。全二枚。
机の一番下の引き出しの中に、一枚、ローブがあり、それを取ろうとした、その時――。
「おい、貴様!何をしている!?」
「何って、ローブを取っただけだが?」
「それを手に取れば、更に強い魔力酔いを引き起こすぞ!以前、手に取った者が、強い魔力酔いを引き起こし、終いにはこの世を去った!」
あー、家なんかよりも、高濃度に魔力が蔓延しているもんねー、特にローブは。
て言うか、この家で死者が居たんだねー?
「大丈夫だ」
「そんなに看過していると、命が足りぬぞ!」
俺はローブを手に取る。
「…ほら、大丈夫だったろう?」
「何故…」
何ででしょうかー?何てな。
「と言うか、ここ、気味が悪すぎる」
実は、この家に入った時から、人ならざる何かが、うようよしている感じがしていた。
特に気にする事も無いだろうと思い、全く気にする事もなく、今に至っている。
「魔力酔いか?」
アレドラントが俺に聞いてきた。
「気持ち悪いんじゃなくて、気味が悪いだ。そうだな…人ではなく、屍体が沢山居るような感じだな」
俺は先程、人ならざる何かと言ったが、予想として屍体と言っておいた。
屍体とは、ざっくり死体が動いている奴の事である。
屍体は魔獣や魔族に含まれる。但し、奴等は自我を持たない為、魔獣で良いだろう。
「ア、屍体…だと?そんな気配は少しも…」
アレドラントはそう言った。
「そうか…?じゃあ、死霊か?」
死霊は、死体から出た魂体みたいなもの。これも、また、自我を持たないとされている。
「貴様は、そんな話をしながら、団長殿の魔法書を物色するのは如何なものか、分かるか!?」
「え?」
「え?じゃない!」
アレドラントの言う通り、俺は屍体とか死霊とかの話をしながら、俺の魔法書を物色していた。
あと、実家から持ち出していた、古い文献なども。
「あー、これとか良さそうだな」
ガッサガッサと、本棚から取り出していく。
「き、貴様!国宝を、そんなに粗末に扱うなど…!」
「えー?こんな魔法書が、国宝??う、嘘だろう…?」
本当に驚いた。
魔法書は、思い付いたオリジナル魔法をメモ書きするだけの落書きにしか、思っていなかったからな。
「貴様、罰が当たって、団長殿に殺されるぞ!」
何言ってんだか。取り敢えず、自殺って事だよな?
「アレドラント、ここでの用はだいたい済んだ」
「貴様、団長殿のローブや書物を持ち帰るのか!?」
「ん?そうだが?」
「はぁ…貴様には手の付けようが無い」
アレドラントは項垂れているのだろうか。頭に手を当てて、物凄い長い溜息をしている。
用件は全てでは無いものの、帰る為に俺達は玄関まで行った。
そして、俺達はドアの目の前で止まった。それは、鍵の解錠をする為である。
「今から解錠する」
アレドラントはそう言い、例の指輪を出した。
「彼の物に力を分け与えよ《魔力譲渡》」
《魔力譲渡》の効果によって、指輪内にある魔力をドアへと…。
魔力の動きが全く無い。
「なあ、その指輪、魔力切れたんじゃないの?」
俺はアレドラントに聞いた。
「ああ…そのようだ」
「出れねぇんだろう?」
「ああ…永遠に、な」
アレドラントは意気消沈していた。
て言うか、永遠に出れない訳じゃないけどさ。だって、俺の魔力で出れるんだもん。
「ま、一旦、ソファーとか何処かに座るか?」
「ああ…」
白くなっているアレドラントは頷いた。
アレドラントの腕を俺の肩の上に回し、ソファーの場所まで移動させ、そのまま座らせた。
「帰れ…ない…」
何故、指輪に魔力が残っていないと解った瞬間に、廃人の様になったんだ?
アレドラントの様な状態の時、こんな感じの効果音があったな。確か『ちーん』だったか?
まあ…効果音とかは、どうでも良いか。
先に指輪の方の魔力充填をしておくか。
「《魔力譲渡》」
指輪の許容量まで魔力を注いだ。
取り敢えず、アレドラントが落ち着いたら帰れるな。
「貴方は何者なんですかー?」
俺の目の前に少女が現れた。
その少女は目の周りを黒い仮面で隠している。服装は、メイド服。
そして、魔族の特徴と思わしき羽と尻尾が生えていた。
「魔族…か」
「そうです、高貴なる魔族です。下等な人間とは違います。それで、私は魔王様に仕えるメイドのメーディです…って、聞いてますかー?」
俺は魔法書を読み、アレドラントが落ち着くのを待っている。
なので、聞いていない。否、読み進めながら、少し、聞いてる。あと、高貴なる魔族とか知ったこっちゃないね。
「私の魔法で気絶など全くしない貴方は何なんですか?ああ…この男には効いてるのに」
メーディと名乗った魔族のメイド少女は、アレドラントを指差している。
「あ、これ、魔法だったの?なら、早く言えよ《魔法削除》」
無属性魔法の《魔法削除》は、込める魔力量によって効果が強くなったり、弱くなったりする。効果はその名の通り、魔法を削除―消す為だけの魔法である。
多めの魔力を込めてみた。まあ、何となくだけど。
「人間如きに魔法が消せる訳が無いですよー」
「いや、消せてるな」
「いやいや…」
「…あ?私は一体、何を…」
アレドラントはいつも通りの顔に戻っていた。
「何重にも掛けた魔法を削除するなんて…本当に貴方は何者なんですか?」
「んー?俺?俺は普通の人間だが?」
普通の人間だよな?と言うか、そうだと思うし、そうだと信じていたい。
「ちっ…まあ、良いでしょう。ここにある人間の亡者の魂を回収したら、私は去りますよ。勝ったなんて思わないで下さいね」
メーディは何処かに行ってしまった。
まあ、何処かなんて、この家の別の部屋なんだが。
「アレドラント、落ち着いたか?」
「…まあ、な。だが、このままでは帰れまい。鍵はもう、無いのだからな…」
「取り敢えず、もう一度解錠を試みれば良いだろう」
「何を根拠に…」
それでも試みようと玄関まで足を運ぶよな、お前は。
魔力は十分に補充してやったからよ、解錠は出来るがな!有り難く思え!で、良いのか…?
兎に角、俺はローブと魔法書を持ち、玄関先へと向かったアレドラントの後ろを追った。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談(飛ばしても大丈夫です!)
少し時を遡り、とある日の王宮内での出来事。
アレドラントは、メルヴェルに団長の自宅に行く許可を貰いに来ていた。
「――そうか、この間の決闘の対価で…成る程、許可しよう」
「有り難うございます、メルヴェル殿」
「これが、団長殿の御自宅の鍵だ。呉々も、無くさぬよう…」
「重々、承知しております!」
アレドラントは深めの礼をして、この場を逃げる様にして去って行った。
メルヴェルはアレドラントが去った後、一人、こう思ったのだ。
(私が!私が!団長殿と一緒に行きたかったものを…!あの、若造め…)
メルヴェルがその日はとても不機嫌となり、王宮内はメルヴェルの機嫌取りに忙しくなったとか。
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さてさて、次の更新は9月4日の予定です。




