表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/83

14

 朝。

 目が覚めた俺は、アレドラントに言われた通りに、魔法師団の制服に着替えた。

 外はまだ、薄暗く、陽は昇っていなかった。



 一階に降りると、アレドラントはソファーの上でぐっすりお休み中であった。


 「あんな態度のアレドラントでさえ、寝顔は素直だよな…」


 良い夢でも見ているのだろうか、顔はへにょんへにょんに、綻んでいた。



 今日、いよいよ帰れるんだな…一時的にだけど。

 あの家から、持ち出す必要がある物は幾つかあったな。

 例えば、俺自身のローブ。俺は魔法師団団長だから、そのローブは俺専用の特注品だ。

 何故、俺専用の特注品かと言うと、他の人達のローブにはフードが付いていないが、俺には付いていたりする。少し、他者の物とは仕様が違うのだ。

 あとは、魔法書とかかな。多少、持ち出す程度。

 三年位しか住んでいなかったが、それでもやはり、自分の家は自分の家なのだ。懐かしく感じる事だろう。


 「…ああ、起きてたのか」


 アレドラントのお目覚めだ。


 「お前の寝顔をじっくり観察させて貰った」

 「な、何だと!?おい、貴様!記憶から抹消しろ!」


 アレドラントは顔を赤らめている。恥ずかしくて、照れているんだな。照れ屋な奴め。


 「…制服は着ているようだな…」


 アレドラントは俺の格好を見ている。まるで、日本で言う、学校の制服等の身嗜(みだしな)みをチェックする先生の様な感じだ。


 「なあ、早く朝食を…」


 俺はアレドラントに言った。お腹空いてるからな。


 「ああ、そうだな」


 アレドラントはキッチンに行き、調理を始めた。

 数分も経たない内に完成し、食べ始めた。


 「…旨かった」

 「そりゃ、どうも」


 朝食は食べ終わった事だし、いざ、帰宅!

 アレドラントがテキパキと、皿とかを片付け、この、メルヴェルの自宅の外に出た。

 俺とアレドラントは歩いている道中、会話をしている。


 「なあ」

 「何だ、貴様」

 「団長殿()の御自宅は、鍵とか掛かっていないのか?」

 「勿論、掛かっている」


 まあ、あの家の鍵は俺自身の魔力だけどね。だけど…しかし、俺の居ない時にガードラーレなど他の者が、俺の家に入る事が出来るんだ?

 防犯対策はバッチリだった筈なのに。


 「解錠とかどうしているんだ?」


 真相はいかに!?


 「これだ」


 アレドラントの手に乗っているのは、指輪だった。

 この指輪は、魔力を貯めておける魔法道具だ。

 ある年の誕生日の祝いに貰った父親からのプレゼントだった。

 貰った時に指輪の許容量まで魔力を貯めたきり。俺は無限に魔力がある為、少々、意味が無かった物でもあった。


 「その指輪をどうするんだ?」

 「これに入っている団長殿の魔力を鍵として、解錠してきた。僅かしか貯められた魔力が残っていない。だから、行く為に申請が必要となっている」


 その指輪の魔力だけで、一つの軍隊を滅ぼす事が出来る位、入っていた筈なんだがな…。

 どの位の人数の人が、俺の家に侵入しているんだよ。

 それに、鍵として使われる魔力量は微々たる量でしかないのに。


 「ちょっと見せて」

 「丁重に扱えよ」


 アレドラントから指輪を受け取った。

 本当に魔力が僅かにしか残っていなかった。

 …こりゃ、次は使えないな。多分、今回、入る時だけ分しか無いだろう。

 出る時はどうするんだろうか…。

 鍵は入る時、出る時に必要で、侵入者が逃げようとしたときに、家に閉じ込めておくのだ。

 俺はアレドラントに指輪を返した。

 俺の自宅前に着いた。先にアレドラントが言い放つ。


 「…着いたようだな」

 「そりゃ、王都内にあるから、直ぐに着くだろう?」


 俺は会話に応える様に返した。

 本当に久し振りだよ、我がマイホーム…。


 「今から解錠する。彼の物に力を分け与えよ《魔力譲渡》」


 アレドラントの手のひらにある指輪から、家のドアへ魔力を譲渡をする。

 『彼の物/者(時と場合による)に力を分け与えよ』が、《魔力譲渡》の詠唱ね。

 俺の場合は無詠唱だが、この場合の解錠はドアに手を触れさせるだけで十分なのだ。


 「開いた様だな。入るぞ」


 アレドラントは緊張な面持ちで俺の腕を引っ張る。


 「何故、そんなに急ぐ?」

 「何って、一分したら扉が閉まるからであろう?」


 お前、何言ってんだ?って顔をしながら、質問を質問で返された。

 一分したらドアが閉まる?そんな設定はしていない筈。一度、故意的に閉めれば施錠する様になっていた筈なんだが。


 「うわ…本当に一分で勝手に閉まった」

 「だろう?」


 本当に一分で勝手に閉まったのだ。

 考えられるのは、魔力に他者の魔力が混ざっているからだろうか。

 よし、考えるのは中断して…。


 「アレドラント、別行動…」

 「不許可だ。勝手な事をして、物を壊されたりでもしたら、責任問題となる」


 えぇ…。


 「かと言って、今回は貴様の自由行動は認める。しかし、私は後ろから監視する事が条件としてな」


 まあ、いっか…。それぐらいなら。

 まず先に、俺は書斎へと向かった。

 ここと、魔法師団本部にある団長執務室に俺専用のローブがあるのだ。全二枚。

 机の一番下の引き出しの中に、一枚、ローブがあり、それを取ろうとした、その時――。


 「おい、貴様!何をしている!?」

 「何って、ローブを取っただけだが?」

 「それを手に取れば、更に強い魔力酔いを引き起こすぞ!以前、手に取った者が、強い魔力酔いを引き起こし、終いにはこの世を去った!」


 あー、家なんかよりも、高濃度に魔力が蔓延しているもんねー、特にローブは。

 て言うか、この家で死者が居たんだねー?


 「大丈夫だ」

 「そんなに看過していると、命が足りぬぞ!」


 俺はローブを手に取る。


 「…ほら、大丈夫だったろう?」

 「何故…」


 何ででしょうかー?何てな。


 「と言うか、ここ、気味が悪すぎる」


 実は、この家に入った時から、人ならざる何かが、うようよしている感じがしていた。

 特に気にする事も無いだろうと思い、全く気にする事もなく、今に至っている。


 「魔力酔いか?」


 アレドラントが俺に聞いてきた。


 「気持ち悪いんじゃなくて、気味が悪いだ。そうだな…人ではなく、屍体(アンデッド)が沢山居るような感じだな」


 俺は先程、人ならざる何かと言ったが、予想として屍体と言っておいた。

 屍体とは、ざっくり死体が動いている奴の事である。

 屍体は魔獣や魔族に含まれる。但し、奴等は自我を持たない為、魔獣で良いだろう。


 「ア、屍体…だと?そんな気配は少しも…」


 アレドラントはそう言った。


 「そうか…?じゃあ、死霊(ゴースト)か?」


 死霊は、死体から出た魂体みたいなもの。これも、また、自我を持たないとされている。


 「貴様は、そんな話をしながら、団長殿の魔法書を物色するのは如何なものか、分かるか!?」

 「え?」

 「え?じゃない!」


 アレドラントの言う通り、俺は屍体とか死霊とかの話をしながら、俺の魔法書を物色していた。

 あと、実家から持ち出していた、古い文献なども。


 「あー、これとか良さそうだな」


 ガッサガッサと、本棚から取り出していく。


 「き、貴様!国宝を、そんなに粗末に扱うなど…!」

 「えー?こんな魔法書(落書き)が、国宝??う、嘘だろう…?」


 本当に驚いた。

 魔法書は、思い付いたオリジナル魔法をメモ書きするだけの落書きにしか、思っていなかったからな。


 「貴様、罰が当たって、団長殿に殺されるぞ!」


 何言ってんだか。取り敢えず、自殺って事だよな?


 「アレドラント、ここでの用はだいたい済んだ」

 「貴様、団長殿のローブや書物を持ち帰るのか!?」

 「ん?そうだが?」

 「はぁ…貴様には手の付けようが無い」


 アレドラントは項垂れているのだろうか。頭に手を当てて、物凄い長い溜息をしている。




 用件は全てでは無いものの、()()為に俺達は玄関まで行った。

 そして、俺達はドアの目の前で止まった。それは、鍵の解錠をする為である。


 「今から解錠する」


 アレドラントはそう言い、例の指輪を出した。


 「彼の物に力を分け与えよ《魔力譲渡》」


 《魔力譲渡》の効果によって、指輪内にある魔力をドアへと…。

 魔力の動きが全く無い。


 「なあ、その指輪、魔力切れたんじゃないの?」


 俺はアレドラントに聞いた。


 「ああ…そのようだ」

 「出れねぇんだろう?」

 「ああ…永遠に、な」


 アレドラントは意気消沈していた。

 て言うか、永遠に出れない訳じゃないけどさ。だって、俺の魔力で出れるんだもん。


 「ま、一旦、ソファーとか何処かに座るか?」

 「ああ…」


 白くなっているアレドラントは頷いた。

 アレドラントの腕を俺の肩の上に回し、ソファーの場所まで移動させ、そのまま座らせた。


 「帰れ…ない…」


 何故、指輪に魔力が残っていないと解った瞬間に、廃人の様になったんだ?

 アレドラントの様な状態の時、こんな感じの効果音があったな。確か『ちーん』だったか?

 まあ…効果音とかは、どうでも良いか。

 先に指輪の方の魔力充填をしておくか。


 「《魔力譲渡》」


 指輪の許容量まで魔力を注いだ。

 取り敢えず、アレドラントが落ち着いたら帰れるな。


 「貴方は何者なんですかー?」


 俺の目の前に少女が現れた。

 その少女は目の周りを黒い仮面で隠している。服装は、メイド服。

 そして、魔族の特徴と思わしき羽と尻尾が生えていた。


 「魔族…か」

 「そうです、高貴なる魔族です。下等な人間とは違います。それで、私は魔王様に仕えるメイドのメーディです…って、聞いてますかー?」


 俺は魔法書を読み、アレドラントが落ち着くのを待っている。

 なので、聞いていない。否、読み進めながら、少し、聞いてる。あと、高貴なる魔族とか知ったこっちゃないね。


 「私の魔法で気絶など全くしない貴方は何なんですか?ああ…この男には効いてるのに」


 メーディと名乗った魔族のメイド少女は、アレドラントを指差している。


 「あ、これ、魔法だったの?なら、早く言えよ《魔法削除》」


 無属性魔法の《魔法削除》は、込める魔力量によって効果が強くなったり、弱くなったりする。効果はその名の通り、魔法を削除―消す為だけの魔法である。

 多めの魔力を込めてみた。まあ、何となくだけど。


 「人間如きに魔法が消せる訳が無いですよー」

 「いや、消せてるな」

 「いやいや…」

 「…あ?私は一体、何を…」


 アレドラントはいつも通りの顔に戻っていた。


 「何重にも掛けた魔法を削除するなんて…本当に貴方は何者なんですか?」

 「んー?俺?俺は普通の人間だが?」


 普通の人間だよな?と言うか、そうだと思うし、そうだと信じていたい。


 「ちっ…まあ、良いでしょう。ここにある人間の亡者の魂を回収したら、私は去りますよ。勝ったなんて思わないで下さいね」


 メーディは何処かに行ってしまった。

 まあ、何処かなんて、この家の別の部屋なんだが。


 「アレドラント、落ち着いたか?」

 「…まあ、な。だが、このままでは帰れまい。鍵はもう、無いのだからな…」

 「取り敢えず、もう一度解錠を試みれば良いだろう」

 「何を根拠に…」


 それでも試みようと玄関まで足を運ぶよな、お前は。

 魔力は十分に補充してやったからよ、解錠は出来るがな!有り難く思え!で、良いのか…?



 兎に角、俺はローブと魔法書を持ち、玄関先へと向かったアレドラントの後ろを追った。

ここまで読んでくださり有り難うございます。

誤字脱字の指摘、感想、ブックマーク、評価、レビューをくれると幸いです。

***

余談(飛ばしても大丈夫です!)


 少し時を遡り、とある日の王宮内での出来事。



 アレドラントは、メルヴェルに団長の自宅に行く許可を貰いに来ていた。


 「――そうか、この間の決闘の対価で…成る程、許可しよう」

 「有り難うございます、メルヴェル殿」

 「これが、団長殿の御自宅の鍵だ。呉々も、無くさぬよう…」

 「重々、承知しております!」


 アレドラントは深めの礼をして、この場を逃げる様にして去って行った。

 メルヴェルはアレドラントが去った後、一人、こう思ったのだ。


 (私が!私が!団長殿と一緒に行きたかったものを…!あの、若造め…)


 メルヴェルがその日はとても不機嫌となり、王宮内はメルヴェルの機嫌取りに忙しくなったとか。

***

さてさて、次の更新は9月4日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ