13
メルヴェルの自宅に帰ってきたのは、朝日が昇り切った後で、もう、すっかり明るく、人が起き始めた頃位の時間だろう。
「おい、貴様!何処へほっつき歩いていた!」
ドアを開けた瞬間にアレドラントが飛び出して来た。
お怒りのご様子…。
「それに、昨晩も居なかったではないか!」
あー…そんな感じだったような?
「明日だ」
「何の話だ?アレドラントよ」
急に「明日だ」とか言わんといてや。
「はぁ…団長殿の御自宅に行かす約束だ」
おお!遂に行けるのか!マイホーム!
「服装は魔法師団の制服を着ていけよ」
「ん?何でだ?」
「団長殿の御自宅だ。団員として、部下として行く身でもあるからだ」
「…意味が解らん」
団員として、部下として?何故、俺の家にそんな気持ちで行かなきゃならん?
「兎に角だ。制服を着ろ。良いな?」
「はいはい」
アレドラントの何故か絶妙に上達していっている、料理を平らげた。
今日は一日、寝よう。つーか、眠い。
昨日から殆んど寝ていないに等しいしな。
アレドラントはいつもの様に外に出ていった。俺は三階に上がり、寝室のベッドに寝そべる。
俺は眠りに就くのであった。
***
メルヴェルSide
今日はいつもの様に勇者達に…と言う訳にはいかなかった。
昨日、自我があり、人語を話す魔獣を魔族と言う事を知った。
今日は、一旦、自宅に帰り、団長殿にご報告しなければならないと思ったからである。
「ん…?アレは…?」
早歩き気味で歩いていた道中、横たわっている男が三人居た。不自然に積み重ねてあった。
…寝ているだけなら、あんな風には積み重ならない筈…。
不審に思った私は、近寄って見てみた。
「…死体?」
そう、男三人の死体が積み重ねてあったのだ。
とは言え、一人、人間とも言い難い男の死体がある。それは、羽と尻尾が生えた男であった。
他の男の二人の死体には、そんなものは生えて無かった。
…取り敢えず、引き取っておきましょう。この死体、何故か、団長殿の魔法の痕跡―魔力波動があるし。
丁度良い。団長殿にご報告も兼ねて、聞いてみるとしましょうか。
それなら、急がなくてはなりませんね、団長殿。
私は、猛スピードで自宅へと向かった。死体三体担いで。
***
寝始めて一時間も経っていない頃、眠かった俺はすっかり目が覚めてしまった。
「…やっぱり、明るいからか?」
そんな事を思ったが、記憶を辿ると違った。
日本に居た頃、陽射しの射し込む教室でぐっすりだったのを、覚えていた。
特に春と言う季節は酷だった。眠気がやばかった。
仕方ない、一階にでも降りて、ダラダラするか…。
一階に降り、ダラダラし始めた。
「団長殿、只今、帰りました!」
活気よく、メルヴェルが帰ってきたのである。
急いで、体勢を正した。
「団長殿…初めて見るお姿ですね?」
今、俺が王都の服屋で新たに購入した服を着ている。だから、メルヴェルにとって初見であるかも知れない。
実は、王都散策時に買った服は内緒にして、三階のクローゼットに隠してあるからでもある。
「この前、買ったんだ。良いだろう?」
「ええ、とても良く、お似合いです」
服装で誉めて貰いました。やったー。
何か嬉しい、俺であった。
「あれ?メルヴェル、何を担いでいるんだ?」
今、気付いた事だが、何かをメルヴェルは担いで帰ってきていた。
「ああ…これですか?」
メルヴェルは担いでものを降ろした。
それは…昨晩から明朝に駆けて俺が倒した男二人組と、魔族のイステアの死体であった。
「まず、ご報告です」
メルヴェルが真剣な顔で、そう言った。
俺は唾を飲み込んだ。
「報告…とは?」
「自我を持った魔獣の事なんですが、過去の文献によると、魔族と言う種族になる事が判明しました」
魔族…。
あの時の金色のドラゴンや、気持ち悪い人形の魔獣も、イステアと同じ、魔族なんだ…。
「メルヴェル、魔族と魔獣は違うんだな?」
「ええ、自我がある分、とても脅威なものとなっております」
「魔族とやらも、魔王が創り出すものなのか?」
「全ての魔族は魔王に創り出されるか、されるかです」
される??
「言葉が足りませんでしたね…人間が魔族にされる、です」
人間が人ならざる者に…。
「魔力とかが格段に上がったりするのか?」
「その様です」
ふむ…。
「団長殿、聞きたい事がございます」
「何だ?」
聞きたい事とは何なんだろうか。真剣な顔をしているし、とても大切な事なのだろう。
「私が担いで来ました死体、何かご存知ですか?何者なのか…とか」
メルヴェルが担いで帰ってきていたものについて聞いてきた。
「ああ…羽の無い男二人の方は、この家に忍び込み、窃盗を働いた盗っ人だ。羽のある男は、魔族と名乗り、名はイステアと言っていた」
「今までの魔族とは違う特徴ですね…羽に、先端が三角形の様に尖った尻尾ですか…名前まであるとは」
「人間によく似た魔族を創れるまで魔王が力を付けてきているんだな…」
魔王がどれくらい力を持ったかの具合いは、創られた魔獣の強さによる。魔獣よりも強い魔族を創り、人間に寄ってきた。とても脅威な程に力を付けているのだ。(一般論)
「勇者達は、まだ、草と言う程に弱いです。今、魔王が人間我々の住む場所に進攻してしまえば、一溜りもありません」
「そうか…」
勇者達では、まだ、弱いか…。
「所でなんですが…この家に泥棒が入り込んだのですか?団長殿」
魔王の話は大切だが、自分の家に泥棒が来ていたら大騒動である。
「そこの魔族以外の男二人が、俺に支給してくれた小遣いや、俺の水晶、俺の玩具を盗んでいった」
気付けば、泥棒共は俺の物だけ盗んでいったな。
「そうですか、団長殿の物を盗んだ、と…それは、当然の仕打ちの様に感じられます」
少し怒っている顔のメルヴェルは視線を下に降ろし、男二人の死体を見て、スッキリした顔になっていた。
「この男二人はイステアと契約をしていたみたいだった」
「イステア…と言うと、この魔族の名前ですよね。人間と魔族が契約…」
「そこらは、調べる必要がある。俺が言うのもなんだが、頑張ってくれ」
「勿論です!団長殿のご期待に沿えるよう、このメルヴェル、頑張らせていただきます!」
メルヴェルは歳を感じさせないなぁ…。
メルヴェルは死体三体を担ぎ、出ていってしまった。
そう言えば、過去の文献に魔族が載っていたんだよな?
俺の自宅や実家にそう言う、古い書物が沢山あったっけな。確認しよう。
そして、あっという間に夜になり、アレドラントが料理しに来た。
「貴様は大丈夫なのか?」
アレドラントは急にそんな事を聞いてきた。
「何が?」
「明日、団長殿の御自宅へ行くだろう?」
「それが何か」
「御自宅には魔力が高濃度で蔓延している。魔力酔いを引き起こすぞ」
は?魔力が高濃度で蔓延?
「それで、何を心配しているんだ?アレドラントよ」
「貴様がぶっ倒れたりでもしたら、大変だからな」
俺よりも遥かに高い魔力と言うのは、お初にお目にかかる…。と言うか、俺よりも魔力が高い事があるのかよ?
俺の家…どうなっちゃってんの?
「魔力酔いなら、アレドラント。お前の方が大丈夫なのかよ」
言われっぱなしは嫌だからな。少し、煽りを入れて言ってみた。
「私は少し気分を害する程度だ。心配されるまでではない」
へぇー。随分と細かく言う。
「お前、行った事があるのか?」
「ああ。副団長就任時に一回、言ったことがある。それきりだ」
「同行者は?」
流石に一人では行っていないだろう。
「前副団長のガードラーレ殿だ」
ガードラーレの後任だったのね、アレドラントは。
「それで、ガードラーレはどんな様子だった?」
「殿!殿を付けろ、貴様!…はぁ、罰当りな奴め。とても元気そうだった、が…何か関係あるのか?」
「内緒だ」
ガードラーレは魔力酔いを起こさない、と…。ならば、俺は絶対に酔わないな。安心、安心。
「なあ、団長殿?の自宅は、何故、王国が管理しているんだ?」
されていなかったら、行くのに。
「五十年前、行方不明になられた団長殿の住まいだ。管理者が居なければ、団長殿に失礼だろう」
いや…失礼ではないが…。
逆に、人ん家に勝手に上がられて、恥ずかしいと言わんばかりだ。
「本当は失礼などとは思わずに、余計なお世話だと思っているかも知れないぞ?」
「熟、失礼な奴だな、貴様は」
実際に余計なお世話だと思っているんだがな、本人である俺が。
「食べ終わったのなら、さっさと寝ろ。寝不足で、勿体無い事をせぬようにな」
別にそんな事は無いとは思うが…ここは、珍しいアレドラントの厚意に乗ろうではないか。
「それじゃあ、(寝室の)ベッドを使わせて貰う」
「ああ、使え使え」
俺は寝室に向かった。
明日、自宅へと行くが、近頃、実家へ帰る事にしたいとも思っている。
古い書物が沢山あった様な記憶から。
それと、家族は元気だろうか。俺が魔法師団に入ってからは会えていないのだ。
俺にとっては、十年位会っていないのだが、向こうからしたら、五十年以上、会っていない事になるからな。心配を超えているだろう。
実家は山を幾つか越えた先の辺境にある。馬車等使っても、半月は掛かる。更には山に馬車は通っていないから、それ分も併せて半月なのだ。
そして、いつ、魔法師団としての遠征があるかは判らない。往復一ヶ月掛かる様な場所に安易には行けないし、行かせようとはしない。もっと言うと、行くなレベルである事は確か。
五十年経っても子供―青年の姿である俺を、受け入れられるか、分からない。年をとった両親が腰を抜かすかも知れない…。
ああ、いつの日かメルヴェルを両親に紹介したかったと、思った日があったっけな…。未だに紹介していなかったな。まあ、両親とメルヴェルが会った事があるのかも知れないけれど。俺の知らない内に。
それはそうと、俺は眠気には逆らえず、いつの間にか気付かない内に、眠りに就いていたのである。
ここまで読んでくださり有り難うございます。
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余談
この世界の若い人よりも御老人の方達の方が驚くほど元気です。
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次の更新は9月1日の予定です。




