その1
「はーい君も服脱いでねー」
目の前にいるお姉さんが言った。
周りを見ると俺と同じくらいの子供が無言で立っている。
......子供?
何か引っかかったが頭が回らない。
それよりもこの暗い保健所みたいな場所にいると息が詰まる。
「はーい君も大丈夫だよー。次の子きてー」
部屋の入口にいる銃をもった巨漢が目に入ると不意に緊張が走る。
そういえばなんで俺はここにいるんだっけ。
久しぶりに起きたばかりでまだ頭がボーっとしている。
――ッと次の瞬間窓ガラスが割れでかい物体が部屋に入ってきた。
(これは......車??)
車が俺に向かって飛んできている。耳を塞ぎたいほどガラスと車の音が
うるさいが、それよりもこの光景を呆然と走馬灯のように記憶がフラッシュ
バックしていた。
(......俺は死ぬのか?......いや死んだのか?)
俺は死を覚悟していた。
あれからどれだけ時間が流れたのか。
実際は数秒だと思うが、時が止まったみたいだ。
(生きてた.....?)
目の前が眩しくて目が開けずらいが、これは多分車のライトだろう。
ギリギリ助かったみたいだ。
「手を挙げて車から降りろ!」
さっき入口にいた巨漢が銃を構えながらこちらに近づいている。
車のドアが開いた瞬間美少女が俺に走ってきて
「この子が撃たれたくなかったら銃を下ろしな!」
美少女が俺のこめかみに銃を突き付けてきた。
どうやら俺は人質になったらしい。
するとそのまま俺は美少女に車の中へ連れ込まれた。
「よう」
運転席にはモヒカンの男が乗っていた。
「早く!出して!」
美少女が言葉を放った瞬間に車は猛スピードで動き出した。
巨漢はこちらに向かって発砲してくる。
またガラスをぶち破って今度は広い場所に出た。
(......外か?)
景色は夕方のような薄暗さだった。
それよりもかなり遠くの方で大仏のようなでかさの美女が光って
いるのは気のせいだろうか。
「ごめんね!人質みたいに扱っちゃって。後でちゃんと謝るから!」
「いえ、大丈夫ですよ」
「ところで君はあそこで何してたの?8歳くらいの子ばっかだったけど」
そうだよ。まだわからないことばかりなのにさらにカオスになったじゃ
ないか。
ただ車に轢かれそうになる瞬間に色んなことを思い出した。
過去のこと。記憶。
「特に何もしていません。健康診断受けてました」
それっぽい嘘をついたが、ばれたら怒らせないだろうか。
「そうなんだ。君、親はいるの?」
まずいことを聞かれた。これはどう返すか。
「あんまベラベラ聞くもんじゃねーぜ。そういうことは」
モヒカンの男が言った。銃を向けられた時は極悪な強盗犯かと思ったが
案外話がわかる人達かもしれない。
「親はいません。帰る場所もありません」
俺はつい言ってしまったが、さっきの暗い保健所に戻るのはすごく嫌な
予感がした。
「ほんと!?じゃあうちのアジトこない?」
「おいおい待て待て。何でお前はいつも突拍子もないこと言うんだ」
「だったらここでこの子を降ろすの?今の時間帯だと危ないわよ」
窓の外を見るとかなり暗くなっていた。道端には煙草の吸殻やゴミが
散乱している。歩行者はいないが、痩せこけた犬がうろついている。
そして一番驚いたのがさっき遠くで光って見えていた場所に色んな文字や
ロゴやモデルのようなものが宙に浮いてる電子みたいにはっきり見えた。
ここは日本じゃないのか?
するとモヒカンの男は言った。
「君はどうする?拉致っておいて言うのもなんだが、帰る場所もないなら
俺らんとこ来る?」
正直いうと不安はもちもんあるのだがこんなわけのわからないとこで
降ろされても困るので、まずは情報収集のためについていくか。
「はい。いきます」
「やったぁ!」
「何でお前はそんなに嬉しそうなんだよ」
「えーだってこんなにかわいいじゃん」
「ショタコン?」
前に座っている二人が話している内容も気になるが、また意識が朦朧と
してきた。これは睡魔か。
――だめだ眠くなってきた......。
■
――将ちゃん――将ちゃん
ん?この声は......お母さん?
そうか俺は夢を見ていたのか。
あったかい。そしてやわらかいものが手に当たる。
この感触は......。
俺は目を開けてそれを見た。
「あ、起きた!」
顔を見るとさっきの美少女だった。
そして俺の右手はその人の胸を揉んでしまっていた。
「す、すいません!」
俺は飛び跳ねるようにしてその人から離れた。
「いいっていいって!ほら、こっちおいで」
美少女は俺を抱きしめると頭をゆっくりと撫でた。
胸に顔がうもれているのでうまく息ができない。
しかしこの温かさは、母親のようなものを感じたのはこれだったか。
「窒息死するんじゃねーのか、ショタコン」
この声はモヒカン男か。
「うるさい!私はショタコンじゃなくて礼儀正しい落ち着いた子
が好きなの。生意気な子は好きじゃないわ」
抱きしめる力が弱まったと思ったら美少女の顔が目の前にあった。
「君、名前なんていうの?」
不意にかわいらしい笑顔を見せられてドキッとしてしまった。
「ショ......ショーライです」
「そっか!ショーライ君か!」
このままでいると胸が張り裂けそうになる。
するとまた胸に埋もれて抱きしめられた。
「かーわーいー!!!あ、そうだ。さっきはひどいことしてごめんね!」
「あ、いえ、大丈夫です」
「ありがとう!優しくていい子だねぇ」
優しく俺の頭を撫でる。
「私の名前はミライ!そしてここが私たちのアジトよ。よろしくね!」
そういえばここがどこかわかっていなかった。
彼女の母親のような安心感で何も気にしてなかった。
周りを見渡すと薄暗い中色んな機械が動いており光を放っている。
そしてモヒカン男と暗くてよく見えないがもう一人女性が座っていた。
「よ、よろしくお願いします」
美少女、いやミライは子供のように無邪気に笑うとまた俺を抱きしめた。
俺は抱きしめられながら色んな考えを巡らせていた。
過去のこと。前世の記憶。そして俺はすでに死んでしまっていたことを。
よろしくお願いします。