迎えた朝、決意の『審判』
天井はなく永遠と闇の続く世界。地面は炎が包み込んでいる。周囲を炎に囲まれ、シンは身動きがとれない。あちらこちらから、仲間の悲鳴が聞こえる。高く上る炎の隙間から、吐き気を催すような異形が大量にうごめいている。永遠とも思える時を、炎に焼かれる。長い長い間、大事な仲間が引き裂かれ、喰われるおぞましい音を聞きながら――――
「はっ!」
飛び起きるシン。布団の上にいることに安堵する。心臓が激しく鳴っている。ふと見慣れない広い部屋にいることに気づき辺りを見渡す。フウやヒル、それからテンとミカミの布団が横一列に並んでいる。大部屋の向こう側には、テイとノワが布団をくっつけて敷いていた。
ブラインドの隙間から日が差している。
皆が起きていて、昨日のあまりのショックに放心していた。
「そろそろ布団畳むか」
前髪を書き上げながら、眉をひそめてヒルが言う。そうして怠そうに立ち上がると、掛け布団を四つ折りにした。その後からテンとフウもぼんやりとした顔で布団を畳む。シンはそこまで見守ってから、重い腰を上げた。やはり手足に痺れが残っていた。布団を四つ折りにしながら隣のミカミの様子を盗み見る。相変わらずディスカウントショップで買ったような死神の面を付けている。夜は明かりを消すまで面を付けていたが、朝も既に面が付いている。
何で顔を見せたくないんだろう。シンは一年生の一学期を思い出す。幸の薄そうな顔をしていて、自分からは何も話さない。しかし授業で当てられたら声を出して答えていたはずだ。特に印象も無いまま、二学期には来なくなった。それから一年経った今。彼に何があったのだろう。可笑しな面、そして一言も喋らない。
そうこうしている内に皆布団を畳み終わり、今度は壁一面の押し入れを開けて、次々と布団を積み重ねて仕舞っていく。シンが布団を仕舞う順番を待っていると、隣に布団を抱えたテイが並んだ。その目は視点が合っていない。
いつもは嫌がっても構ってくるテイが話しかけてこないことで、シンは寂しげに心臓の辺りを押さえた。トワの死が、全てを変えた。
「……じゃあ、どうすりゃ良かったんだ……」
シンは微かな声で呟いた。後悔先に立たず。シンは自分の布団を上げると、片手を包帯巻きにしたテイから布団を無言で奪い取り押し入れに仕舞った。
押し入れの戸を閉めたシンが振り返ると、ヒルが畳の上に胡座を掻いて座っている。全員がなんとなく、輪を囲む様に座った。
「家に帰るやつ、手ぇ挙げろ」
ヒルの言葉に、シンは昨日テンが言ったことを思い出す。帰りたい人は、この宿を出たら帰る。自分はどうしようかと、周りを伺う。誰一人手を挙げてはいない。
「気ぃ使わなくていいから。帰る奴――」
「帰る人は居ないみたいだね」
テンがヒルに微笑みかける。ヒルは目を見開いて何か言おうとしたが、口を閉じる。
「役には立てないかも知れないけど、最後まで見届けたいから」
テイが言う。疲れたような笑顔だ。
「私もっ……皆を見捨てて帰れないよう……」
膝を抱えながら、ノワが今にも泣き出しそうに言った。
「誰も死ぬなよ」
ヒルの一言でその場が静かになる。
「ふえぇ……トワぁ……ひっぐ!」
ノワは膝を抱えたまま、髪を乱して泣いた。その背中にそっとテイが手を添える。
「トワのことは、タロットの研究が進んで、蘇生の術を使える人が出たら、生き返らせてもらおう。それまでは眠っていてもらうの。ね? ちょっとの間待つだけだよ。きっと……きっと蘇生の術が使えるタロットがっ、あって……!」
何度も頷くノワ。テイは自分も悲しいだろうに、精一杯の笑顔でいる。それを見たシンの目に、確かな決心が宿っていた。
大部屋を出ると、店主が狭い廊下を箒で掃いていた。
「あんがと。お代は後で払う。ちょっくら用事を済ませたらまた来る」
店主は廊下に置いてある物たちを片手で持ち上げては、もう片方の手に持った箒で掃いて元に戻す。
「無茶できるのも若いうちだけだが、命は戻って来ないからな」
命は戻ってこない。ノワは咄嗟に耳を塞ごうとした。全員が複雑な顔をしたが、誰もこの店主に意見をすることは無かった。
裏口から、再び裏通りに出る。店主はその後見送りをしてはくれず、再び行き先を見据える全員の顔が、昨日の夜と比べいくらか落ち着いていた。
通りを歩き始める。シンの横を、自然な様子でフウが並んで歩く。トルカを連れ去った犯人を追い始めてから、初めてフウを近くで見た様にシンは思った。
「今頃大騒ぎだろうな」
フウが僅かに笑った。
「見つからないと良いな」
仏頂面のままシンは答える。
「うーん? 俺らの居場所が親とか先生とか、警察に見つかったらどうなるんだ?」
まん丸な目を瞬かせるフウ。
「はぁ……。いくら警察でもトルカ探しに動くことになる。警察が動いたのが知れたら?」
「あいつらがキレる」
フウが緊張を含んだ顔つきになる。
「そういうことだよ、鈍感」
言い捨てるとシンは、再び黙った。




