画竜点睛3‐1
竜族の日本遠征が決まってからというもの、タツノリは言い知れぬ不安や恐怖に襲われていた。
それらを少しでも振り払うために、キトに相談してみることにした。
いざとなると何を言っていいのか分からず、まずはこのごろ頻繁に見る夢のことから話し始めた。
自分の過去を話すことに、思ったほど抵抗はなかった。それでも、恥ずかしいことに変わりはなかった。
話し終えると、キトは長い溜め息をついた。
「タツノリにもいろいろあるのですね」
「なあ、どう思う。おれは一体、どうすればいい」
「そうですね……。わたしは、逃げずに向き合うときが来たんだって思います」
「おれが、逃げてるって」
「そうです。タツノリはそのナオマサって人のことを信頼しているのでしょう。そこまでの親友なら、竜族になったことを話すべきです」
「信頼、してるのかな……。今となっては、わからないよ」
「これを見てください」
キトが一枚の紙を差し出した。
「父が帝都でもらったそうです」
そこに描かれていたのは、タツノリの顔だった。
タツノリは察した。
「ナオマサが描いたんだ……。あいつ、絵が得意だったから……」
「やっぱり、そこに描かれているのはタツノリだったんですね。父の話では、配っていたのはタツノリと変わらないくらいの年の子だったと」
ナオマサが捜している。タツノリは複雑な気持ちになった。
「おそらく、これから日本との関係が悪化するのを見越して、一緒に帰ろうとしているのではないですか」
「キトは、おれを日本に帰らせたいのか」
「そうは言ってませんが……。ここまでしてくれる人を信じないのは、もったいないですよ」
するとそこへ、ウーダラが帰ってきた。キトは話を中断して玄関に向かう。
「お疲れさま。ちょうど作り置きしたものがありますよ。ご飯にしますか」
「ああ」
ウーダラは机の上に置かれたタツノリの似顔絵に目をやる。
「ナオマサか」
「え……ああ。今、キトと話していて……。ナオマサが捜しているって」
「これを機に、日本へ帰るか」
タツノリは返答に窮する。まだ考えがまとまっていなかった。
「まだ……まだ竜に乗れてない」
「そうか。まあ、じっくり考えるといい」
「お待ちどおさま」
キトが料理を運んできて、食事の用意を始めた。タツノリも取り分けるのを手伝う。三人での食事は久しぶりだ。
「聞いてください。この肉、ただで手に入ったんですよ。よく来る商人がこの間のお詫びにと」
「なんだよ、お詫びって」
「ほら、タツノリがなぐられた……」
「ああ、あれね……」
「どういうことだ、それは」
ウーダラが話題に食いつく。
「もういいよ、その話は」
こうして食卓を囲んでいると、タツノリは故郷の家族を思い出した。まだ小さかったころ、同じように両親や兄弟たちと食事をした。もう二度と踏むことはないと決めた土地。そこに自分は再び立つのか。そんなことは果たして許されるのだろうか。
やがて話題が尽き、料理もなくなると、三人の視線は改めて机の上の似顔絵に注がれた。
「この顔、今のタツノリの顔と比べると少し幼いですよね」
「ナオマサにとっておれは、あの日のままなんだな……」
「なんだか、タツノリが初めてここへ来た日のことを思い出しました。タツノリは覚えていますか」
「うーん。あんまり……」
「ちょうど帝国が南の大国と争っていたときだったな」
ウーダラが続けて言う。
「竜族が帝国に鞍替えしたことで南の大国の命運は尽きた」
「そこのところ、記憶が曖昧なんだよな。詳しく聞かせてほしい。何がどうなって、帝国側につくに至ったのか」
「わたしは父から少し聞きました」
「えっ。じゃあ、答え合わせしないか。ウーダラ」
ウーダラはやれやれ、といったふうにかぶとを脱いだ。了承したしるしだ。
それから三人はそれぞれの記憶を、欠落した部分を埋めながら、ひとつの物語に仕上げていく。




