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竜族急報伝令役  作者: 坂東智樹
9/15

画竜点睛3‐1

 竜族の日本遠征が決まってからというもの、タツノリは言い知れぬ不安や恐怖に襲われていた。

 それらを少しでも振り払うために、キトに相談してみることにした。

 いざとなると何を言っていいのか分からず、まずはこのごろ頻繁に見る夢のことから話し始めた。

 自分の過去を話すことに、思ったほど抵抗はなかった。それでも、恥ずかしいことに変わりはなかった。

 話し終えると、キトは長い溜め息をついた。

「タツノリにもいろいろあるのですね」

「なあ、どう思う。おれは一体、どうすればいい」

「そうですね……。わたしは、逃げずに向き合うときが来たんだって思います」

「おれが、逃げてるって」

「そうです。タツノリはそのナオマサって人のことを信頼しているのでしょう。そこまでの親友なら、竜族になったことを話すべきです」

「信頼、してるのかな……。今となっては、わからないよ」

「これを見てください」

 キトが一枚の紙を差し出した。

「父が帝都でもらったそうです」

 そこに描かれていたのは、タツノリの顔だった。

 タツノリは察した。

「ナオマサが描いたんだ……。あいつ、絵が得意だったから……」

「やっぱり、そこに描かれているのはタツノリだったんですね。父の話では、配っていたのはタツノリと変わらないくらいの年の子だったと」

 ナオマサが捜している。タツノリは複雑な気持ちになった。

「おそらく、これから日本との関係が悪化するのを見越して、一緒に帰ろうとしているのではないですか」

「キトは、おれを日本に帰らせたいのか」

「そうは言ってませんが……。ここまでしてくれる人を信じないのは、もったいないですよ」

 するとそこへ、ウーダラが帰ってきた。キトは話を中断して玄関に向かう。

「お疲れさま。ちょうど作り置きしたものがありますよ。ご飯にしますか」

「ああ」

 ウーダラは机の上に置かれたタツノリの似顔絵に目をやる。

「ナオマサか」

「え……ああ。今、キトと話していて……。ナオマサが捜しているって」

「これを機に、日本へ帰るか」

 タツノリは返答に窮する。まだ考えがまとまっていなかった。

「まだ……まだ竜に乗れてない」

「そうか。まあ、じっくり考えるといい」

「お待ちどおさま」

 キトが料理を運んできて、食事の用意を始めた。タツノリも取り分けるのを手伝う。三人での食事は久しぶりだ。

「聞いてください。この肉、ただで手に入ったんですよ。よく来る商人がこの間のお詫びにと」

「なんだよ、お詫びって」

「ほら、タツノリがなぐられた……」

「ああ、あれね……」

「どういうことだ、それは」

 ウーダラが話題に食いつく。

「もういいよ、その話は」

 こうして食卓を囲んでいると、タツノリは故郷の家族を思い出した。まだ小さかったころ、同じように両親や兄弟たちと食事をした。もう二度と踏むことはないと決めた土地。そこに自分は再び立つのか。そんなことは果たして許されるのだろうか。

 やがて話題が尽き、料理もなくなると、三人の視線は改めて机の上の似顔絵に注がれた。

「この顔、今のタツノリの顔と比べると少し幼いですよね」

「ナオマサにとっておれは、あの日のままなんだな……」

「なんだか、タツノリが初めてここへ来た日のことを思い出しました。タツノリは覚えていますか」

「うーん。あんまり……」

「ちょうど帝国が南の大国と争っていたときだったな」

 ウーダラが続けて言う。

「竜族が帝国に鞍替えしたことで南の大国の命運は尽きた」

「そこのところ、記憶が曖昧なんだよな。詳しく聞かせてほしい。何がどうなって、帝国側につくに至ったのか」

「わたしは父から少し聞きました」

「えっ。じゃあ、答え合わせしないか。ウーダラ」

 ウーダラはやれやれ、といったふうにかぶとを脱いだ。了承したしるしだ。

 それから三人はそれぞれの記憶を、欠落した部分を埋めながら、ひとつの物語に仕上げていく。

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