表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜族急報伝令役  作者: 坂東智樹
7/15

画竜点睛1

 あの日以来、タツノリが日本に対して抱く感情は、複雑極まりないものになった。

 竜族になると決めた日は同時に、タツノリが罪悪感に苛まれる日々の始まりでもあった。

 今こうしている間も、自分は家族、友人、故郷を裏切り続けている。その事実を突きつけられるのが嫌で、なるべく考えないようにしていた。

「なぜこの時期に日本なんだ……」

 タツノリにもその理由に大方の予想はついた。帝国は数年前に日本に遠征したもののすぐに撤退している。今回は再挑戦ということだろう。しかも、竜族を投入してのだ。タツノリの脳裏には蹂躙される故郷の姿がありありと浮かんだ。竜を相手にしては、日本に勝ち目はない。

「一緒に、故郷を救おう」

 タツノリははっとした。空耳だ。

 今の声は、あれは、ナオマサの声だ。これだけ会っていなくても、はっきり分かった。

「そうだ、ナオマサも、おれのこと許してはいないよな……」

 眠りに入ろうかというときに幼馴染みの声を聞いたので、タツノリの意識はだんだん記憶の深層へと沈んでいった。


 降り注ぐ蝉時雨に、小魚の跳ねる音が交じった。まぶしい陽光を反射する、清冽なイタチ川の流れ。

 幼い頃、タツノリは暑くなると涼を求めてよくこの川に出掛けた。そのときは川には入らず、川原で石を積んで遊んだ。

 ナオマサとは、いつどのようにして仲良くなったのか、よく覚えていない。気づけば隣にいて、一緒に行動するようになっていた。

 二人は十になると、仏門に入れられた。同じ時間を過ごすうちに、一気に距離が縮まった。よく修行の合間にイタチ川に行って、今度は川の中に入って遊ぶようになった。同じ寺に入らなければ、ここまで仲良くはならなかっただろう。友人を作るのが苦手だったタツノリにとって、ナオマサの存在は貴重だった。

 このときは、多少ぎこちなくても、この関係が続くと思っていた。

 だが、運命に翻弄されるように、二人を取り巻く状況は変わっていく。

 この頃から、都で政権をめぐる大きな争乱が起こり、戦禍はタツノリの故郷にも及んだ。さらに、天災や疫病、飢饉などが相次いで発生した。増水したイタチ川の激流に阻まれて、逃げ延びられなかった敗将の怨霊の仕業だといわれた。

 このような不安定な世の情勢を受けて、新しい寺社の造営が計画された。その費用は、大陸との貿易で得ることになった。さらに大陸の仏教を学ぶため、貿易船とともに海を渡る僧侶に、タツノリとナオマサのいる寺の住職が選ばれた。弟子を数名連れて行くことになり、寺で修行する少年たちが集められた。まず指名されたのは、ナオマサだった。ナオマサは威勢良く返事をした。誰もが認める人選だった。

「あと一人、誰がいいかな」

 住職の問いに、ナオマサが答えた。

「タツノリがいいと思います」

 急に指名されて、タツノリはたじろいだ。だが、タツノリには妙な自信があった。寺での成績は、悪いものではなかったからだ。特に語学は、誰にも引けを取らなかった。

「ぼくでよければ……」

 こういうとき、ぜひ行かせてください、と言えない気弱な自分が、恨めしくて仕方がなかった。

 その晩、タツノリは枕を並べて寝るナオマサに、ふいに尋ねられた。

「なあ、タツノリ」

「なに」

「お前、寺に入ったこと、後悔しているか」

 タツノリは返事に詰まった。

「なんだよ、いきなり……」

「おれはしていない。兵士になるよりましだ。殺し合いなんて、御免だからな」

 タツノリはなるほど、とナオマサの考えに納得させられた。そんな考え方もあるのか。

「なあ、タツノリ」

「なに」

「おれたち、立派な僧になって、必ず故郷を救おうな」

「……うん」

 タツノリとナオマサは誓い合った。そのときは、決して守られない約束になるとは、夢にも思っていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ