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竜族急報伝令役  作者: 坂東智樹
2/15

登竜門2

 沈みゆく夕日を追いかけるようにして、竜と馬は走っていた。キャラバンと別れた街から少し離れたところに、竜族の住む崖はある。別名、竜の巣。竜族の家は、崖に穴を掘って作られている。その中で、ウーダラの家は崖の端の方の、下あごが突き出たような部分に作られてある。ウーダラは家の横に作られた穴へ竜を休ませに行った。タツノリは共同の馬小屋に馬を置くと、急いでウーダラのもとへ向かった。竜の世話を手伝うためだ。といっても、ウーダラはタツノリにほとんど何もやらせない。タツノリはウーダラが竜に水を与えるのを見ているだけだった。

 すべての作業が終わる頃には、もうすっかり日は落ちていた。二人が家の入り口に向かうと、一人の少女が出迎えた。少女の名はキト。キトは二人の姿を認めると、静かに口を開いた。

「お客ですよ、ウーダラ」

 家の中を見ると、薄明かりで人影がぼうっと浮かんでいる。

「やあ」

 そこにいたのはロビンだった。ロビンはウーダラが椅子に腰掛けるのを待ってから、おもむろに切り出した。

「次の遠征先が決まったぞ」

「どこだ」

「西だ」

 向かい合う二人の息が机の上の明かりにかかる。壁に映し出された影が揺れた。

「長くなりそうだな」

「そこでだ」

 ロビンは間を置いて続けた。

「ウーダラに伝令役を頼みたい」

 ウーダラはしばらくロビンを見つめていたが、やがて、わかった、と返事をした。


「待ってください、ロビンさん」

 ウーダラの家を後にして夜道を行くロビンをタツノリは呼び止めた。

「その、いつになったら、おれは竜に乗れますか」

「ウーダラは何も言ってくれないか」

「はい……竜の世話も手伝わせてくれません」

「こればっかりはなあ……その時が来るのを待つしかない」

「その時……」

 その時とはどういう意味だろうか。ウーダラが認めてくれた時、ということだろうか。

「ああ、いや、なんでもない。そうだな……」

「ときどき不安になるんです。このままウーダラについていていいのかって」

「んん、そうだな……」

 タツノリがロビンの次の言葉を待っていると、思わぬところから誰かに声をかけられた。

「よかった……まだ遠くに行ってなくて」

 タツノリはすぐに月明かりで姿を確認する。

「なんだキトか。驚かすなよ」

「忘れ物を届けに来ました。これを」

 キトがロビンに一本の棒状のものを手渡す。ロビンはそれを受け取ると、しっかりと握りしめた。

「ありがとう、キト」

「じゃあね、お父さん」

 そう言って去ろうとしたキトを、ロビンは名前を呼んで振り返らせた。

「ウーダラを頼む」

 キトは手を振って応え、向き直って来た道を戻っていった。キトの姿は、まもなく見えなくなった。ロビンは、その姿を、見えなくなったあとも、キトの来た道を、いつまでも見ていた。

「なんですか、今の」

「なあに、いつものやりとりだ」

 ロビンが改めてタツノリの方へ向き直る。

「少し、昔の話をしようか」

「昔話、ですか……」

「そう怪訝な顔をせず聞いてくれ。ウーダラの名誉のためだ」

 タツノリは聞くことにした。謎に包まれたウーダラの過去を知りたくなったからだ。

「あれはまだキトが生まれる前のことだ……」

 ロビンはそう前置きして語り始めた。

「あの頃の私は、故郷を追われ、本当の故郷とは何か、本当の仲間とは……そんなことばかり考えていた。そんなとき、出会ったんだ、竜に……ウーダラにな」

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