登竜門2
沈みゆく夕日を追いかけるようにして、竜と馬は走っていた。キャラバンと別れた街から少し離れたところに、竜族の住む崖はある。別名、竜の巣。竜族の家は、崖に穴を掘って作られている。その中で、ウーダラの家は崖の端の方の、下あごが突き出たような部分に作られてある。ウーダラは家の横に作られた穴へ竜を休ませに行った。タツノリは共同の馬小屋に馬を置くと、急いでウーダラのもとへ向かった。竜の世話を手伝うためだ。といっても、ウーダラはタツノリにほとんど何もやらせない。タツノリはウーダラが竜に水を与えるのを見ているだけだった。
すべての作業が終わる頃には、もうすっかり日は落ちていた。二人が家の入り口に向かうと、一人の少女が出迎えた。少女の名はキト。キトは二人の姿を認めると、静かに口を開いた。
「お客ですよ、ウーダラ」
家の中を見ると、薄明かりで人影がぼうっと浮かんでいる。
「やあ」
そこにいたのはロビンだった。ロビンはウーダラが椅子に腰掛けるのを待ってから、おもむろに切り出した。
「次の遠征先が決まったぞ」
「どこだ」
「西だ」
向かい合う二人の息が机の上の明かりにかかる。壁に映し出された影が揺れた。
「長くなりそうだな」
「そこでだ」
ロビンは間を置いて続けた。
「ウーダラに伝令役を頼みたい」
ウーダラはしばらくロビンを見つめていたが、やがて、わかった、と返事をした。
「待ってください、ロビンさん」
ウーダラの家を後にして夜道を行くロビンをタツノリは呼び止めた。
「その、いつになったら、おれは竜に乗れますか」
「ウーダラは何も言ってくれないか」
「はい……竜の世話も手伝わせてくれません」
「こればっかりはなあ……その時が来るのを待つしかない」
「その時……」
その時とはどういう意味だろうか。ウーダラが認めてくれた時、ということだろうか。
「ああ、いや、なんでもない。そうだな……」
「ときどき不安になるんです。このままウーダラについていていいのかって」
「んん、そうだな……」
タツノリがロビンの次の言葉を待っていると、思わぬところから誰かに声をかけられた。
「よかった……まだ遠くに行ってなくて」
タツノリはすぐに月明かりで姿を確認する。
「なんだキトか。驚かすなよ」
「忘れ物を届けに来ました。これを」
キトがロビンに一本の棒状のものを手渡す。ロビンはそれを受け取ると、しっかりと握りしめた。
「ありがとう、キト」
「じゃあね、お父さん」
そう言って去ろうとしたキトを、ロビンは名前を呼んで振り返らせた。
「ウーダラを頼む」
キトは手を振って応え、向き直って来た道を戻っていった。キトの姿は、まもなく見えなくなった。ロビンは、その姿を、見えなくなったあとも、キトの来た道を、いつまでも見ていた。
「なんですか、今の」
「なあに、いつものやりとりだ」
ロビンが改めてタツノリの方へ向き直る。
「少し、昔の話をしようか」
「昔話、ですか……」
「そう怪訝な顔をせず聞いてくれ。ウーダラの名誉のためだ」
タツノリは聞くことにした。謎に包まれたウーダラの過去を知りたくなったからだ。
「あれはまだキトが生まれる前のことだ……」
ロビンはそう前置きして語り始めた。
「あの頃の私は、故郷を追われ、本当の故郷とは何か、本当の仲間とは……そんなことばかり考えていた。そんなとき、出会ったんだ、竜に……ウーダラにな」




