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竜族急報伝令役  作者: 坂東智樹
12/15

画竜点睛3‐4

 ロビンは今日も、見張り塔から城外の空を眺めることを欠かさない。竜族が集まれば、狼煙が上がるはずだ。だが、今日もその合図は見当たらない。

「まだなのか……」

 焦りは募る一方だった。こればかりは、竜族を信じて待つしかない。ロビンは河をはさんだ北の街に目を移す。すぐに、異変に気づいた。

 北の街に巨大な石が降り注いでいる。投石機の姿は見えないが、ロビンは聞いたことがある。大陸の西のほうで、はるか遠くから石の弾を撃ち出せる投石機が開発された、と。次々に降りかかる弾が城壁を破壊し、兵士たちの悲鳴が聞こえた。

 戦意を失った街は帝国軍に突入され、あっという間に制圧されてしまった。

 ロビンはふるえあがった。次はこの街の番だ。このままなす術なく滅ぼされてしまうのか。

 そのとき、西の空に狼煙が上がっているのが見えた。

「やっと来たか」

 ロビンは直ちに準備に取りかかった。返しの狼煙を上げ、こちらも合図を送る。分厚い鎧を着込み、竜に乗り、城外へ出た。取り囲む帝国軍にどよめきが広がる。

「はあっ」

 掛け声で自らを鼓舞し、土塁に突っ込んだ。すぐに他の竜族がやってくる。ロビンたちは巧みに連携を取り、敵の兵士たちを掃討していく。

 ロビンたちは敵の半分、南側を包囲していた兵士たちは片付けることができたが、河を渡って逃げた兵は仕留め損ねた。船がないと竜は河を越えられない。それでも、包囲網を崩せたのは大きい。ロビンは河を越えて戦える水軍の派遣を要請するため、首都へ向かった。

 今回の任務は特に神経をすり減らした。もし竜族の結集が間に合わなかったらと思うとぞっとする。帝国軍の撃退に成功はしたが課題は残った。竜族の力も分散させては敵の脅威にならない。首都に着いたら、今の待遇の悪さを訴えるつもりだ。

「これ以上報酬を払えだと。ならん」

 宰相の第一声は、ロビンの要求を拒否するものだった。

「ですが、今回は上手くいきましたが、もし竜族の結集があと少し遅れていれば、任務は遂行できませんでした。北部の都市は帝国の手に落ち、この首都も攻め滅ぼされていたかもしれません」

「お前たちがこの国のために働くのは当然のことなのだ。どこの馬の骨とも分からぬ連中を使ってやっているのだぞ。それだけでもありがたく思え」

 ロビンは納得がいかなかった。今回の戦の功労者にこの扱いは、あまりに手ひどいではないか。

「そんなことより、最後の仕上げだ。水軍を出すから、お前たちも加勢しろ。これで、忌々しい帝国を追い払えるわ」

 ロビンは宰相の前を辞したあと、暗澹たる気分で街をぶらついた。このままでは、せっかく集まってくれた仲間にも申し訳が立たない。一人で頭を抱えていたところ、不審な男が目の前に現れた。

「宰相に直談判は、うまくいかなかったようですね」

「なんだ、お前は」

「失礼しました。私は、帝国の使者です。あなた様にお願いがあって参りました」

「帝国だと。こんなところで、私に何の用だ」

「率直に申し上げます。我々に雇われる気はありませんか。傭兵集団竜族の長、ロビンどの」

 男の話には興味をそそられた。ちょうど雇い主を変えるべきか悩んでいたところだ。

「帝国と竜族、我々が手を組めば、あらゆる国を従えることができるでしょう。世界中の富が集結する、空前の大帝国ができあがるのです。あなた方にも、もっとゆとりある暮らしを約束できます。竜の巣に住み続けることにこだわるなら、もちろんそれも保証します。陛下は、竜族が来ずともあの都市を守り続けたあなたの手腕を高く評価しています。もちろん、他の竜族の皆様も、喜んでお迎えいたします」

 ロビンは半信半疑で男の話を聞き終わった。

「……竜族について、よく調べあげたものだ」

「我々は竜族に対する認識が甘かったので、勉強させていただきました」

「少し、考える時間をいただきたい」

「あの宰相を裏切ることに、ためらっておられるのですか」

「そうかもしれないな」

「では、こういうのはどうでしょう。我々はすでに、あの投石機を北の街に設置しています。いつでも南の街を狙えるわけです。大国の水軍が我々に敵わなければ、この投石機を止める術がなくなります。竜でも防げないでしょう。そこで竜族は、脅されて仕方なく帝国についた、と」

「我々が散々痛めつけたのに、帝国は勝てるのかな」

「勝ってみせます。陛下のためにも」

「陛下、か……」

 ロビンは俄然興味が湧いた。どういった男なのだろう。

「仲間と相談してからでもいいか」

 男はうなずく。一人で決めていい問題ではないだろう。ロビンは竜に乗り、仲間の守る南の街に向かった。別れ際に、男は言ってきた。

「我々は、竜族を飼い殺しにはしません。そのことを、お忘れなく」

 ロビンは一つの希望が見えた気がして、顔がほころんだ。


 ワケツコが率いる水軍と、帝国の水軍は北部の都市の周りを流れる河で激突した。

 ロビンら竜族は戦闘に参加しようとはせず、黙って様子を見守った。

 結果は果たして、帝国軍の圧勝だった。帝国がひそかに鍛えていた水軍は想像以上に強かった。ワケツコは命からがら逃げ帰り、責任を問われた宰相は苦しい立場に追い込まれた。そして、ロビンのもとに降伏勧告が届く。

「賭けてみるか、帝国に」

 竜族を味方につけた帝国は大胆に南の大国内を進軍し、首都を陥落させた。南の大国は降伏し、その歴史に幕を下ろした。

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