第一話:転生してしまいました。
「ねぇ聞いて明日香、私もうラブアノクリアしちゃった!もう王子たちがほんっとかっこよくて……。お願い、一回でいいからやってみて!?誰かと語りたい〜!」
「はいはい、また今度ね」
恒例となってしまった親友の話を聞き流す。
何やら乙女ゲームと呼ばれるものの話だそうだが、興味がない。私は男が嫌いなんだよ、気づいておくれ親友。
未だ語り続けられる乙女ゲームの話をいなし前を向くと、小さな子供が一人。その子はボールを追いかけ車道に入り–––––––––
「危ない!!」
* * *
という私の記憶が戻ったのはついさっき。お察しの通り、私は車に轢かれて死んだ。十七歳春。まだ彼女作ってなかったのに……。
いい加減現実に目を向けよう。私今が立っているのはパーティー会場。キラリと光るシャンデリアに、たくさんの大人たち。ドウシテコウナッタ。
いや大丈夫、まだ挽回できる。こういう時に大事なのは、落ち着いて状況を考えることだ。ヒッヒッフーひっひっふー。
私の名前はルベア・ダーニズ。歳は十歳。
世界一大きな国、アノベルト王国の上級貴族の娘であり、将来を約束されたエリートだ。そのはずなのに……。
流れる膨大な記憶。
全く違う世界に、知らないはずの家族に友人。なのにどこか懐かしさを感じる人達。混乱しない方がおかしいと思う。パーティーで叫び出さずにすんだことを褒めて欲しい。いや本当に。
かくして記憶を取り戻した私は、気づいてしまった。
ここは乙女ゲームの世界だということに–––––––––
……うん自分でも分かってる。何言ってんだこいつみたいな感じよね。私も認めたくない。だって私は、親友に見せられた乙女ゲームの悪役令嬢と、そっくりの姿をしていたから。
少し済ました顔に細められた黒の瞳。きらきらしい水色の髪。見た目がもう悪役だ。悪役令嬢の名前は確か、ルベア・ダーニズ。
……確定ですかありがとうございます。
「うう〜ん……」
バタッ。
キャパオーバーだ。もう何も考えられない。全て投げ出してふかふかベッドで眠りたい。
「……様、大丈夫ですか。お嬢様?!」
誰かの焦った声を聞きながら、私の意識は遠のいていった……。