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アヤメ  作者: 魔天光殺法
第一章
2/4

告別式

 


「お悔やみ申し上げます…」

「……どうも」



 先日、両親が死んだ。


 深夜の1時を過ぎた頃。鍵が開いたままの玄関から何者かが侵入し、寝室にいる2人を刺殺した。


 遺体の至る箇所に、刃物で刺された跡があり、とても無残だった。


 なぜ僕が生きているのか。幸運にも、湯船に浸かったまま、居眠っていたからだ。

 犯人は、物音一つしない風呂場に、人がいるとは思わなかったのだろう。


 しかし、これを幸運と呼んでもいいものなのかは分からない。


 生憎、両親の祖父母は数年前に他界しており、一昨年に他県から引っ越して来た為、僕を家に置いてくれるような親戚もいない。


 一人息子である僕は、行く宛がなくなってしまった。


 現在16歳の僕は、恐らく児童養護施設にでも入れられるのだろう。


 こうなったのも全て僕のせいだ。

 塾から帰った時に家の鍵を閉め忘れていなければ…。


 気づいてはいたものの、“まぁいいか”と安易な気持ちでそのままにしていた。


 通り魔事件などが目立つ今世だが、身近で起きたわけではないし、そんな事はそうそう起こらないだろうと思って油断していた。


 面倒臭がらずにちゃんと閉めていれば、きっとこんなことにはならかった。


 今さら後悔したって意味はないのに。



「──……ーい。おいおいおーい」


「…っ?!」



 心ここに在らずの僕を我に返らせたのは、見ず知らずの女の子だった。


 ショートボブヘアーで、僕が通っている学校とは違う、ブレザーの制服を身にまとっている。



「犯人、まだ捕まってないんだってね」



 彼女は、不謹慎にも陽気に話しかけてきた。


 参列に来た誰もが沈痛な表情を浮かべる中、彼女だけはとても晴れ晴れしく笑っているように見える。



「……誰?」


「君のご両親にお世話になっていた者でーす」


「……そう」



 僕の両親は、サバイバルグッズの製造販売をしていた。


 多分、この子の親がうちの両親と何かしらの関わりを持っていた、というだけなのだろう。


 周りを見る限り、僕と歳が近いのはこの子だけだった。

 だからといって、慣れ親しむ必要はない。


 そう思い、その場を離れようとした時、背後から聞こえた彼女の言葉により足を止めざるを得なくなった。



「──犯人、殺してあげよっか」



 思わず振り向くも、そこに彼女の姿はなく、また背後から声がした。



「……瞬間移動?」



 思わずそう呟いてしまった。



「そう、すごいでしょ」


「………」


「はいはい、嘘です嘘でーす。君の視線に合わせて、視界に入らないように動いただけでーす」



 恐らく彼女はこう思っているのだろう。


 “両親がサバイバルグッズの製造販売をしてるのに、サバイバルについては何も知らないんだな”


 正直、サバイバルに興味はない。故に両親の仕事にも関心はない。


 いかにも興味なさげな顔をする僕を見て、彼女は察したように話を変えた。



「君は犯人が憎くないの?」


「べつに、憎いとかそんなこと…」


「そう。でも、君の両親を殺した犯人は、今この瞬間ものうのうと生きていて、君の両親がもう二度と見れないような景色を見て、君と同じように息をして、飯食ってクソしてまた誰かを殺そうとしている。

 それでも、君は憎悪を抱かないの?素晴らしい心の持ち主だね」



 同情されるのかと思いきや、煽られているようだった。


 憎んでいないわけではない。寧ろ、憎くて仕方がない。両親を殺した犯人に対してだけではなく、生きている自分に対しても、だ。



「嘘つくの、下手だね」


「えっ…?」


「殺気がむんむんしてるよ」


「そんなことは…」


「そんなに殺意が湧いてんなら、殺しゃいいのに」


「……簡単に言ってくれるね」


「簡単だもん」


「………」



 話にならない。


 人を殺すのが簡単?だとしたら僕の両親は、人情の欠片もないクソ野郎に、簡単に殺されてしまったってこと?



「まっ、“私なら”の話だけど」


「……どういうこと?」



 そう問うと、彼女は怪しく微笑んだ。



「今は教えてあげな〜い」


「はぁ…?」


「まぁ、そのうち分かる分かる〜。んじゃあね〜」


「あっ、ちょっと…!」



 彼女はひらひらと手を振りながら、会場から出て行った。


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