第五話〜家族の意味〜
それから白虎とふたり、洞窟で暮らす生活が始まった。
どんなに帰してくれと頼んでも、逃げようとしても、虎に変身した白虎は、鼻が利き、すぐに追いつかれつかまってしまうのだ。
洞窟に帰り、暗い顔をして落ち込む宝珠に、明るくいろんな話をしてくれた。それは宝珠が笑うまで続いた。
宝珠は、さらわれて監禁されているようなものなのだが、明るく宝珠を気遣う白虎を、憎むことはできなかった。
白虎はべたべたしてくるが、それ以上のことはしない。
本能に忠実ではあるが、約束はちゃんと守っていて ”嫌がる女を抱く気はない” らしい。
その代わり ”お前のこと好きだよ。キスしてもいい?” と聞いてはいつも宝珠に断られ、
「いいんだ…待ってるから…宝珠がオレの事好きになるまで」
そういって宝珠を抱きしめるのだ。
「白虎様…お願いです…恥ずかしいので…その…抱きつくのをやめていただけませんか?」
宝珠は抱きしめられると、いつも真っ赤になって下を向き、両手を突っ張って抵抗する。
「…白虎様はないだろ。それじゃ他人みたいじゃないか」
宝珠は目をぱちくりとさせる。名前を呼ぶときはいつも敬意と親愛の意味をこめて様をつけているのだがその事で他人のようだと言われたことはないのだ。
「親愛の情をこめて白虎様と呼ばせていただいているのですが…じゃ…白虎お兄様?」
「にいさま?!やめてくれよ。オレとお前、ゆくゆくは家族になるんだから白虎って呼び捨てでいいさ」
「か…家族…?」
宝珠は丸い目をもっと丸くする。
「ああ…オレたちが結婚して、夫婦になって、宝珠は子供をいっぱい生むのさ。な…家族だろ?」
にぱっと満面の笑みを浮かべながら宝珠に話す。
「ふ…夫婦…子供…?家族ってそういうことですの?」
白虎が言う家族という言葉を聞き、宝珠はセオングのことを思い出した。
《そばにいるから…これからはずっとそばにいるから…私が宝珠の家族になるから…》
《俺は…宝珠にとって兄でしかないのか?…》
セオングの言っていた家族の意味は自分が考えていたものとは違っていたのかもしれない…と気がつく。
いつもとても優しくて包み込むように護ってくれているセオング…妹としてみているから、そんなに優しくしてくれるのだと思っていた。だから兄だという思い以上のものを考えないようにしてきたのだ。
宝珠の胸がぎゅっと痛む。
「家族…」
セオングのことを思いながらそうつぶやくと
「家族になろうな♪」
宝珠が同意したかと勘違いし、抱きしめていた宝珠の顔を引き寄せキスをしようとする。
宝珠はいきなり迫ってきた白虎をよけようと顔を手で覆う。
「…?宝珠??」
「私…私…セオングお兄様のところに帰ります!!」
宝珠はセオングにあの時言った”家族”の意味を聞きたいと思った。
そして自分の発作とは違う、胸が苦しくなる意味も、知りたいと思った。
それからなだめても、すかしても、頑固として帰るといい張って聞かなくなった宝珠に、白虎はむくれてしまい話さなくなった。
その夜、久々に悪夢を見る。
あの…家族を自分の手で差して殺してしまう夢。
うなされ叫び声を上げ起きる。
起きるとあたりは暗く、自分がどこに存在しているのかさえもあいまいで不安になり、がたがたと震え、それが発作に変わってゆく。
息が上がり、震えが止まらず永遠に続くかのような発作…
思わず宝珠はセオングの名前を呼んでいた。
「お…に…い様 はぁ…はぁ…セオング兄様…」
「大丈夫か?」
ずっと名前を呼んでいると暗闇の中、白虎がそばによって来て宝珠を抱きしめる。
「お…にい様…??はぁ…はぁ…セオング兄様??」
宝珠は勘違いして思わずセオングの名を呼んだ。
優しく抱きしめられていた手が止まり、乱暴に振りほどかれ両方の手首をつかまれると、布団の上に押し付けられ、唇をふさがれる。
「ん…っうん…」
逃げようとしても身体は震え逃げられない。唇がふさがれ息ができず、意識を失いかける宝珠。
「オレの前で…ほかの男の名前を呼ぶな!」
唇が開放されたと思ったら、いつもの明るくまっすぐな言い方とは違い、乱暴な怒鳴り声。白虎の声だ。
びっくりして、何がおこっているのかわからずにいると、片手が離され、着物が乱暴に引き裂かれ脱がされてゆく。
白虎の荒い息使いが聞こえ、いつもとは違う白虎に、鬼気迫るものを感じ、叫び声をあげる宝珠。
そのとたん白虎の手が止まり
「ごめん…」
とひとことだけ言って離れる。
宝珠はまだ発作がおさまらず、震える身体を丸く縮め、セオングを思い出し、顔をぐちゃぐちゃにして泣き始める。そして発作と泣きつかれでいつの間にか寝ていた。
朝になり気がつくと、白虎は虎に変身し、宝珠を暖めるかのように包み込んでいた。




