第十五話 〜魔王〜
イーテオンの町に着くとひとまず宿を取った。
町にあまり変わった様子はない。
宝珠は旅の途中も眠ったままで、もう1週間を迎えている。
水分や栄養は途中途中眠ったまま与えている。
麒麟は鋭気を養っているだけだというがあまりにも長い眠りだ。
セオングは一旦実家に戻り、李家と解かれた封印の様子を見てくることになった。
宝珠と離れるのは後ろ髪を惹かれる思いなのだが、李家には、すきあらばと刺客を送るような義母がいるので、一緒に連れて行くわけにも行かない。
「すぐ戻るからな…宝珠」
蓮華に抱かれている宝珠はまだ眠ったまま。
その横に白虎は立っている。おしめの一件で懲りたのかちょっとした距離を保っているのだ。
「後は頼む」
みんなに向かってそういい、白虎には目で合図を送ると扉を開け出て行く。
〜〜李家〜〜
久しぶりの李家は雰囲気がどことなく変わっていた。
知った侍女は一人もおらず、義母は久しぶりに帰ったセオングを歓迎し、迎えてくれた。
「何か…あったのですか?」
義母の人が変わったような態度に怪訝そうにたずねるセオング。
この義母はセオングのことがが邪魔で小さなころから何度も命を狙っているのだ。
「何を言ってるの。何にもないわ。長い間帰らなかった息子を歓迎して何か不都合でもあるの?」
「…いえ…父上は…?」
「今、町の外れまで出ているわ。もう少しで帰ると思うのだけれど」
気持ちの悪いくらい人当たりのよくなっている義母に少し不気味さを感じた。
侍女が部屋の外で声をかける。
李家の主人が帰ってきたのだ。
どかどかといくつかの靴音。何人か一緒にいるようだ。
ガチャリと扉を開け入ってくる。
「セオングか!帰っておったとは!」
入ってくるなり、セオングを見つけてがっしりと抱擁する。帰ってきた父は剣を携えていた。
いつも通りの笑顔。優しい中に豪快さが同居している不思議な存在なのだ。
後ろには兄のホジュと、見たことのない目つきの鋭い若者が2人。
セオングは一通りの挨拶を済ませると最近のイーテオンの町の様子を尋ねる。
「そんなことより…お前鳳家のお嬢さんをつれて歩いているそうだな…うわさはここまで届いているぞ!」
セオングは少し驚き、視線を止める…が、何もなかったようににこやかに笑顔を作る。
「いきなりその話しをされるとは思っていませんでした…父上…」
「回りくどい話は嫌いだからな。その娘はどこにいるのだ?お前の嫁ならば迎えなくてはな!」
「よ…嫁では…訳あって共に旅をしていただけで…」
嫁かと問われ、少しあせるセオング。
「まあいい…その娘連れてきなさい。お前の友人なら歓迎せねば!な!」
「彼女は…途中でいなくなりました。私が頼りないのであきれたのでしょう」
少し照れたように笑いを作りながらも少し心に棘のような引っかかるものがあった。宝珠のことを思う。セオングは宝珠のことを愛していたのだが、一方通行だったのだ。今はもう小さなぬくもりだけで、あの宝珠はもういない。
宝珠のことは説明も難しいので、とっさに居ないことにしてしまった。
「そうか…」
そういい、父はホジュと側近の2人に合図をする。
ホジュがセオングの後ろにまわりこみ、後の二人は前のほうから剣を抜き構える。
セオングがゆっくりと剣に手をかける。
「これは一体どういうことでしょうか?父上…」
「おとなしく娘の居所を言えばいいものを…」
「父上…?」
だんだんと父の表情がかわってゆく。
それは父ではなく別の人物に変わって行く。
赤い髪に赤い目。耳は獣のような長い耳、爪は長く黒く染まっている。
「きさま…父上をどうしたのだ!」
「取り込んで生かしてやろうと思っていたのだが抵抗するものでな…あっけなかったぞ・・・」
にやりと笑ってセオングを見る。
「きさま〜〜!!」
切りかかろうと動くセオングに、ホジュが切りかかる。
セオングは振り向きもせず、身体をずらし剣を交わす。
ほかの二人も同時に切りかかってくる。それをすばやく交わし、当身で倒すと同時に、剣を跳ね後ろの柱に3本が次々に突きささる。
そして父だった男に切りかかろうとしたとき、ビリビリと震えるような波動が体中を包み込み、1歩も動くことができなくなった。
「無駄なことを…」
そういいながらセオングに近寄る。
「お前は殺さない…身体を貸してもらおう…娘の居所を知っているだろう?」
身体をのっとって記憶を読むつもりなのだ。
「…お前に身体をやるくらいなら死んだほうがましだ!」
「お前は青龍の器…死ぬことはかなわぬはず…」
にやりと笑う男。
そこまで知っているこの男は何者なのか?
気がつくと男はセオングの目の前にいて胸に手を当てている。
とっさに剣に手をかけるが、時すでに遅し、とたんに真っ黒なエネルギーが身体の中に入ってくる。
自分が2つに引き裂かれるような感覚。
「うわあぁぁぁぁぁ〜〜〜」
だんだん意識が保っていられなくなる。
目から生気が消えていく。