第十四話〜白虎の想い〜
白虎はそっと部屋を出てゆく。それを見て麒麟が後を追う。
「何じゃ…あれほど固執しておったに赤子になったとたん用なしか?」
少し意地悪に白虎に聞く。
「うっせぇ!ガキぼうず!」
肩から背中にかけて真っ赤に染まった身体で、足早に建物を出て行こうとする。
かなりの深手だ。一部は骨まで見えている。白虎が歩く後には血のあとがぼとぼととついている。
傷の痛みのせいなのか息が少し上がっている。
「ちょっとまちいや!傷の手当をしてやろうというに。その傷…痛くないわけがなかろう」
歩幅が違うので、白虎のペースについてゆけず、ちょっとあせって手を伸ばす。
つんと引っ張る服の裾に気がつき、立ち止まって振り返る白虎。そこには麒麟が着物を足に引っかけ、つまづき白虎の着物にぶら下がっていた。
襟首をつかまれ軽々と持ち上げられる麒麟。視線が同じになり見つめあう。
麒麟はその間に傷口に手をかざし手当てを始める。
「宝珠もセオングも白虎も昔とちっとも変わらん。あのふたりの間に割って入れぬことくらい学習せいや」
少し怒ったように説教する。
えぐられた肉が、削られた骨が、急速に再生する。麒麟の力もあるが、白虎は自然治癒の再生能力が桁はずれているのだ。
「さっきからお前オレのこと知った風に話すがオレはお前のことは知らんぞ!!昔々って何のことだ!」
「そりゃ知っておるわけなかろう。我はまだ8つじゃし今の身体では会った事はないからのう。北から出たのもこれが初めてじゃ。しかし玄武の器というものは歴代の玄武の器の記憶も共に受け継ぐでの。知識としては軽ーく何千才かは越えるかの。だから今までにセオングや宝珠や白虎…皆の魂とは何度も出会っておる。」
「それがお前の能力か…」
そういいながら麒麟を下に下ろそうとする。
「まだじゃ。まだ治療できてない。あのエネルギーに触れた傷じゃ、普通にしておってもきっちりとは直らんぞ。」
「…重いんだよ!…チッ…しかたねぇなぁ・・・着物が汚れたって文句たれるなよ」
そういうと傷を受けていないほうの片腕で麒麟を抱っこする。
「な…だ…抱っこなど…」
真っ赤になって麒麟が抵抗する。3歳のとき器交代してからは、皆、麒麟のことを大人扱いや先生扱いしていたので、子供のように抱っこされることなどなかった。見た目の年相応に扱われることなどないのだ。
「じゃどうしろってんだ? ガキはガキらしく抱っこされてろよ」
「ガキではない! 麒麟じゃ!!」
傷を治すと、立ち去ろうとする白虎を引き止める麒麟。
「何でオレがあいつのところに帰んなきゃなんねぇんだよ」
「結界を張っていたとはいえあの大きな波動は外へと伝わっただろう。朱雀でさえあの魔物を封じられなかった。それどころか3つの魂をひとつにしてしまった。宝珠に魔の魂が少しでも感じられれば、これから執拗な追手がかかるだろう」
「宝珠を守るには我らだけでは無理がある。白虎…お前の力も借りたいのだ」
「……」
白虎が愛した宝珠はもういないのだ。
白虎にだって宝珠が本当にすきなのは誰かなんてわかっていた。
ただ本当に離したくなかった。
だから宝珠が白虎の愛に応えてくれたときは、本当にうれしかったのだ。
白虎がストレートに愛情を表現すると、はにかんで下を向き顔を赤らめるところとか、笑わせると、とても幸せそうな顔で笑ってくれるところとか、白虎を見て少し首をかしげてにっこりと微笑むくせとか…すべてが思い出される。
さっきの部屋に帰れば小さくなった宝珠が別の男(宝珠の想い人)に抱かれて眠っているのだ。
「…着物が汚れたのは白虎のせいじゃ。きっちり借りは返してもらおうとするかの」
麒麟は突然着物の話しをはじめる。
白虎は汚れぬようできるだけ血のついていないところで麒麟を抱いたつもりだったが、かなりの血の量で少しだけ着物の裾についてしまっているのだ。
「…はぁ?断りは入れたぞ!」
「許可は出しておらん」
「な!お前が勝手に傷を治すからって言うから…!!」
「ほう…そうじゃったな…では治療費もはらってもらわねばな…我は長老だから高いぞ!」
ふふんと鼻を鳴らしながら横目で白虎を見る。