第十三話 〜小さな宝珠〜
宝珠の指がぴくんと動く。
宝珠が目を開ける。
「ほう…じゅ…」
セオングがほっとした表情で見つめる。
目を開けた宝珠はセオングを見つめにっこりと微笑む。
そのときだった…宝珠が赤く光り、だんだんと小さくなってゆく。
セオングは宝珠を落とすまいと、必死にバランスをとる。
宝珠が着ていた服がまるで誰も袖を通していないかのように垂れ下がる。
セオングは服だけを抱えている形で、何が起こったのかわからないような顔をしている。
しかし確かな重みを感じる。
中を覗くと小さな赤ちゃんが寝ている。
「…赤ん坊…?」
驚きながら宝珠が着ていた服で包み込むように抱くセオング。
赤い光がその赤ちゃんの額から出てくる。
すけるように薄く赤い光は羽根を広げる。
朱雀だ。
『すまない…宝珠をそのまま救うことは出来なかった。
宝珠の意識はほとんど残っていなかったのだ…すべてを私にささげて…
そして刀傷の中に閉じ込めてあった魔を外に出した時に余計なものまで目覚めさせてしまった。
宝珠の中に脈々と受け継がれてきた魔の血が・・・』
「魔…の血?」
セオングがつぶやく
「そう…宝珠の先祖は魔と契りを交わし、魔族の血が入っておるのじゃ。それも魔王の血が…」
麒麟が説明をする。
「それがわかったときに、当時の朱雀の器と相談をして、その子供を器とすると同時に魔族の血を封印したのじゃ」
「それで今、宝珠はどうなってんだ?」
白虎が宝珠の心配をする。
『魔を消滅させ宝珠を助けるには、宝珠を形どるほど意識が残っておらなんだ。そして魔を完全に封印するほどの力も私には残ってなかった…』
『宝珠を器としてではなく私と融合させた。魔を封印し宝珠を助けるにはこの方法しか思いつかなかった。しかし完全に封印することも出来ず、すべてをひとつにするしかなかった。
宝珠は記憶も残ってはいないかも知れぬ。この姿が…今の宝珠なのだ。私ももう消える。本当にすまない…』
すまなそうにセオングを見る朱雀。
「生きているなら・・・どんな姿であろうと…ありがとう…朱雀」
小さくなってしまった宝珠を見つめながらこたえる。
朱雀はすうっと宝珠の中へと消えてゆく。
額に朱雀の印が赤く浮かび消えてゆく。
プクプクと柔らかな赤みの差した頬、閉じられた大きな目、生き生きとした命の息吹を感じる寝顔。幸せそうにすやすやと寝息を立てて寝ている。
セオングは宝珠の無垢な寝顔を見て思う。
よかったのだ。宝珠はいつもつらい目にあっていた。
幼い頃さらわれ、魔の手先となり、記憶が戻ってからも発作のつらい日々だっただろう…
それがまっさらになるのだ。
これからはいつもそばにいよう。いつも守ろう。
あのはじめて出会った少女の頃のような平和で幸せそうな笑顔をずっと絶やさないように…
白虎がセオングのそばに近づく。
「宝珠…」
小さな小さな赤ん坊の宝珠を覗き込む。ほほを触ろうとしたが、自分の手が血で真っ赤に染まっているのに気がつき手を伸ばすのをやめる。
「オレの知っている宝珠はもういない…オレのもうひとつの姿をを見ても驚かない、もろくて消えてなくなりそうだったオレの宝珠…」
ゆっくりと背を向けドアの外へと向かう白虎。