第十二話
ゆっくりと宝珠が起き上がる。
「宝珠…」
朱雀はほっと安心する。
『私を目覚めさせるものはお前か』
そういいながら宝珠が目を開けると、あたり一面が見えない波動で吹き飛んでいく。
赤茶けた大地が顕になり、木々は根こそぎ倒れ吹き飛んでいく。
一気に荒地へと変わり果てる。
朱雀はかろうじて身を守り、宙で舞っていた。
宝珠のものとは違う赤い瞳。
色は透けるように白く、唇は血のように赤い。耳はけもののようにとがっていて、つめは赤く、すべてを切り裂かんばかりにとがっている。
身体から発する妖気はとてつもなく、朱雀も飛んでいるのがやっとだ。
「…おまえは…ファンヤエ…」
『ほう…朱雀か…少し見ぬ間に小さくなったんじゃないか?…そうか…それもあって私は目覚めたんだな。封印が解かれたということか』
「宝珠は…宝珠はどこだ」
『あのおじょうちゃんならほとんど何も残ってないよ。たった一つぶの砂のかけらさ。手出しなどできるものか!死んだも同然』
にやっと笑いながら答える。
朱雀はショックを受ける。
宝珠のすべてのエネルギーを自分に注いでしまったからだ。
『やっと表に出て私の役割をする時が来たのさ。地上に魔の世界を築くための扉を開く』
そう言ったとき、ファンヤエの周りを押さえ込むかのように何かのエネルギーが取り囲む。
「玄武!…」
そう朱雀がつぶやく
『おろかな。私が目覚めた今、玄武一人の力がどうだと言うのだ…』
にやりと笑い、跳ね返そうとしたときだった。
取り囲んだエネルギーの中、光りが一筋、ファンヤエの胸の中心から外へと射す。
うわぁ…
苦しみだすファンヤエ。
『な…な…なんだ…この光りは…』
ファンヤエが苦しみもがく。
その胸から射す光が朱雀に照らされる。
「セオング…青龍…」
セオングの声が聞こえる。
宝珠へと呼びかける声。そして宝珠へとささやかれる愛の言葉。
その声に青龍の想いも重なって聞こえてくる。
ドックン…
ファンヤエが胸を押さえその場にひざまずく。
『くそっ!くっ…ばかな…この女!!!何の力も残ってないはず…』
砂粒のひとつ…宝珠のかけらが鼓動しているのだ。
朱雀は青龍の声を聞き決心する。
大きく空へと羽ばたきある程度の高みに来たとき、羽ばたきを止め、体を翻し、ファンヤエの胸へと一気に降りていく。
その胸の光の射しているほうへ。
光があたり一面に広がっていく。
白く白く何も見えなくなる。