第十話
無理やり四神の白虎を呼び出され、身動きのできなかった白虎は、すぐに変身をとき宝珠のそばへ駆け寄り手を握る。
「宝珠!」
青龍は名残惜しそうに宝珠のそばを何度か回りセオングの中へと帰る。
「玄武…いや…麒麟さん…宝珠はもう大丈夫なのか?」
セオングがたずねると
「麒麟でいい。…今は元凶の魔を封じただけじゃ。残っておる毒を解毒せねば…」
少し複雑な表情をする。その表情がすべてを物語る。
そして何かを決意したようにセオングに向かう。
「セオング! 宝珠の手を握り、呼びかけていよ。心の中でいい…呼びかけ繋ぎとめていよ」
「な!! 何でこいつが宝珠の手を握るんだ!!宝珠はオレの女だ!」
白虎が麒麟をにらみつける。
「ばか者! この緊急時にたわけたことを! 一秒一刻を争うのじゃ。お前はそこに座っておれ!!」
そういうと麒麟が手を白虎のほうに差出し、そのまま払うようにすると、白虎が部屋の隅に吹き飛ぶ。
立とうとするが、まるで金縛りのように動きがとれない。声も出ないようだ。
「しばらくじゃまをするな…」
白虎の方を一瞬哀れみの目で見つめ、宝珠のほうに向き直る。
「鈴華!蓮華!」
麒麟がそう呼ぶと、麒麟の手から放たれたエネルギーが、鈴華と蓮華を伝い、宝珠の周りを三角錐に囲む。
「セオング!早くせぬか!!」
麒麟がセオングをせかす。
ちらと白虎を見るとすごい形相でにらんでいる。
宝珠のほうに目をやると急速に唇の色が失われていっている。
セオングはひざまずき宝珠の手を握り心の中で呼びかける。
まるで氷のように冷たい手。
セオングはぬくもりを取り戻さんかのように、両手で包み込む。
セオングと宝珠の周りが少しづつ光り始める。
セオングのまわりは青。宝珠のまわりは赤いエネルギーで囲まれ、それがだんだんと溶け合って紫色になってゆく。
宝珠のなかからは、黒い煙のようなものが出て、麒麟の作った三角錐の頂点のほうに吸い込まれていく。
その煙も出尽くし最後の一筋が吸い込まれた…そのときだった。
宝珠の身体からまがまがしいエネルギーが衝撃波のように放出される。
セオングも麒麟弾き飛ばされ、鈴華、蓮華はかき消えてしまう。
「な!!…」
今の衝撃で白虎は金縛りが解け動けるようになる。
「宝珠!!」
白虎が宝珠に近寄ろうとすると宝珠の身体からすごい勢いで出てくるエネルギーの塊につかまり宙吊りにされる。
白虎は虎に変わり、身を交わす。その時に肩の辺りを引き裂かれ血が滴り落ちる。
「ちぃっ…まずい…呼び起こしたか」
麒麟は身体を建て直しながら、ぶつぶつと呪文のようなものを唱え手は何か形どり ”はっ” と気を入れると宝珠の周りのエネルギーを押さえつける。
「宝珠! 宝珠! 」
呼びながらかなりの傷を負っている白虎が宝珠に近づく。
エネルギーのシールドの中の宝珠に触れようとシールドの外に触れたとき
バチッ!
大きな電気が走り白虎は弾き飛ばされる。
「…ガキ! 宝珠に何をしたんだ!」
白虎が麒麟に向かって怒鳴る。
「すまぬ…解毒でいらんものを目覚めさせたようじゃ。」
「白虎…お前には酷だがもう繰り返すのはやめよ。朱雀と青龍の仲を引き裂くことはできぬ」
哀れむような目で白虎を見る麒麟。
白虎は反論しようとするが、麒麟はセオングに顔を向ける。
「セオング…昔も今も…宝珠の魂をこちら側に引きとめておけるのは貴殿だけじゃ」
そういいながらすまなそうな顔をしてセオングを見つめる。
麒麟は宝珠の周りにエネルギーで押さえ込み、それを維持させるため、両手を伸ばしている・・それもかなりきついようで、ふるふると震えている。
セオングは、宝珠のそばによる。
禍々しいエネルギーの中に入ると、自分の手が腕が全身が黒く異形のものに変わってゆく。気が圧縮され圧がかかってくる。
自分の手をみて驚くが、すぐに宝珠に向き直り、ゆっくりと宝珠を包み込むように抱きしめる。
ビリビリとかなりきついエネルギーがセオングに流れていく。そのたびに皮膚が裂け血が飛び散る。
「!」
全身を引き裂かれんばかりの痛み。
宝珠の中で、何が起こっているのかわからないが、宝珠が手の届かない遠くに行ってしまいそうなのだけはわかった。
”2度と失うものか…宝珠…”
そして宝珠の耳元で何かをささやく…閉じたままの宝珠のまぶたから一筋涙が流れる。そしてゆっくりとキスをする。
禍々しいエネルギーを全身に受け、かなりのダメージを受けるのだが、キスをすることで、さらにダイレクトに身体の中にもダメージを受ける。
眉間にしわを寄せ、気を失いそうなほどの衝撃に耐える。
心で宝珠の名を呼びながら…
”愛している…宝珠”
ゆっくりとゆっくりと、禍々しさが薄れてゆく…宝珠の指が”ぴくん”と動き、ほほに赤みが差してくる。
麒麟は、エネルギーのシールドを解き、ひざまずき一息つく。




