コジロとコユキ
「つまらねぇ。」
宮本小次郎は夕日が照らす神社のベンチにもたれかかり、大型のヘッドフォンを肩にかけながらながら呟いた。
毎日毎日同じ日々の繰り返し。
朝7時にアラームが鳴り、目を覚ますと、同居人と共に教育施設へと通う日々。
休日はあるが、どうにも繰り返しの日々というものが性に合わなかった。
教師型アンドロイドに役に立つかもわからない知識を詰め込まれる毎日。
確かに。知識は必要だろう。それはさすがに勉強嫌いの小次郎でも理解している。しかし、そうは言えども、小次郎は勉強は嫌いだった。知りたいと思っていない事を毎日詰め込まれるのは気持ちが悪かった。
「毎日授業中に寝ていたら面白くないでしょう?どうしてコジロはあんなに面白い話を聞けるのに寝てしまうんですか?」
隣にちょこんと座る少女が小次郎に話しかける。
この、とても小柄な少女は霜月小雪と言い、物心ついた頃から小次郎と同居している。
コユキは興味ありげな表情で小次郎を見た。彼女は彼がどうして勉強をしたがらないのか不思議でたまらなかったのだ。
彼女は勉強が好きだ。機械が好きだ。アンドロイドが好きだ。
好奇心旺盛な彼女は、小次郎がどうして物事を知りたがらないのか不思議でたまらなかったのだ。
隣に座る小次郎の顔を覗き込むような体制で彼女は聞いた。
「そりゃあ、面白く無いからだよ。
いつも和の国に関する授業なら聞いてやっていいんだけどな。」
「コジロは相変わらずですね。」
そう言いつつも、コユキはなんだか満足げな表情でコジロに言った。
ゆっくりと過ぎて行く時間。隣にはいつもと変わらないコジロがいる。そんな当たり前のことにコユキは幸せを感じていた。
「それじゃあ、そろそろ帰るかぁ。」
コジロはベンチから立ち上がるとうんと背伸びをした。
コユキも、そうですねと立ち上がる。
夕日をバックに帰り道を歩く同い年の少年と少女。
それだけで絵になりそうなものだが、側はたから見ると、残念ながらそうは見えない。2人の歩いている姿を見た他人が彼らの関係を想像した場合、兄妹か姪っ子の世話でもしてるのかと考えてしまうからだ。
その理由は、身長差である。
彼らの身長差が同い年であるとは思えないほど違うからだった。
しかし、そうは言っても、別にコジロの背が異常に高いと言ったわけでは無い。
コユキの身長が同世代と比べても異様に低いのだ。
同じ制服を着ていても、同居人のコジロと兄妹のように思われてしまうのはコユキの悩みの一つだった。
「じゃあ、行きますよ。コジロ」
先に歩き出したコユキについてコジロもポケットに手を突っ込んでダルそうに歩き出す。
この神社は長い階段を登った先にあり、夕日が綺麗に見えるのが人気のスポットだった。
眼前に浮かぶ夕日はとても綺麗で、隣に佇む歪な【神の塔】ですら、美しく見えた。
階段を下りながらコジロは呟く。
「相変わらず悪趣味な塔だな。」
神の塔については教育施設の授業でもまともに語られてはいない。わかることと言えば神の塔からこの街【極楽】に食料や生活用品など多くの物資が運ばれているという事くらいだった。
幼子が粘土に手短なオモチャを埋め込んでいったように歪な造形の神の塔は一学生のコジロやコユキからしても不思議な存在だった。
何のために存在し、また誰が作ったのか?
それは、この街に住む教師型アンドロイドも教えてはくれない。
「相変わらずごちゃごちゃしやがって。でも、あの上の方についてる鳥居っぽいやつは評価してやってもいい。」
「何塔に喧嘩売ってるんですか。馬鹿馬鹿しい。」
よくわからない文句を垂らすコジロとそれを相変わらずだと、微笑むコユキ。
たわいの無い話をしながら2人の日常は過ぎていく。
同じ階段を同じ速度で下っていくコジロとコユキ。
その歩幅はいつまでも変わらないはずだったのに…。