お買い物に行きましょう②
無事にサツに捕まらなかった私たちは、公園を抜けて駅の方に向かって歩いていた。少し日差しが強いから、パーカーを着ているミドリは暑いかもしれない。
「ミドリ、暑くない?」
「ちょっと……」
「パーカーの袖まくったげる。よし。あともうちょっとで着くからね」
「うん」
暑そうだけど、我慢はできないわけじゃないらしい。周りをキョロキョロ見ながら歩いてる。
向かっている小型の商業施設は大きな道沿いだから、車もたくさん走ってるし、歩行者も多いし、なんなら自転車が爆走していく。
「車は危ないから近づいちゃダメだよ。あと自転車も歩道を走ってくるから気をつけてね。ていうか、不安だから私の服の裾持ってて」
「はあい」
素直なのはミドリの美点だ。言うことは良く聞くし、ついでに物覚えもいい。あまり手のかからない子だ。
「カナ、喉かわいた〜」
「着いたらお茶しよっか。コーヒー屋さんあるよ」
「コーヒー。美味しい?」
「ミドリにはちょっと苦いかな? 紅茶かジュースがいいかも」
「カナはコーヒー好き?」
「うん、結構好き。そのままでも飲むし、ミルクとかクリーム入ってても飲むよ」
「じゃあ僕も飲んでみるよ」
「ん〜〜、ならラテにしようね」
ブラックコーヒーは初心者にはレベルが高い。私も初めて飲んだ時は、うっわなにこれまっず!これにお金払うわけ? と思った。(コーヒー党のみんなごめん)今は美味しく感じるから慣れは大事だ。
「着いたよ。冷房涼し〜」
「広いね〜! カナのおうち何個入るかな」
「おいおい小市民の住宅と比べるのはやめたまえ。こんな大きな空間に住めるとしたら、某王国のテニスが上手い国王様くらいだよ」
「そっか〜! カナもテニス上手くなったら住める?」
「いや無理だね……。人の骨格まで見抜くのは既に人智の領域を外れてる」
頭の中で、歌いながらラケットを振る国王が再生される。あっ、ちょっと懐かしくなってきた。家に帰ったら見ようかな。
「カナ」
「うん? あ、うん。コーヒー屋さんに行こう」
危うく意識を違うところに飛ばしかけてしまった。いけないいけない。そして、ミドリを見たところで気づいてしまった。そういえば、国王様と同じくらいの年齢だなって。しかもイケメンだ。
もしかしてワンチャンあるんじゃない???歌とダンス覚えてもらえばデュエットも出来るんじゃない???
「ミドリ。折り入ってお願いがあるんだけど」
「なに〜?」
「家に帰ったら、お姉さんと歌の練習しない? ミドリにぴったりの歌があるんだけど!」
「いいよ〜」
「ーーーーっしゃ!」
完璧じゃないか。完璧なプランだ。自分の才能が恐ろしい。
「あ、コーヒー屋さんここだよ、ミドリ」
「楽しみだねえ」
コーヒーを飲みながら、どの歌を覚えてもらうか熟考しなければ。