毛穴という概念
人間になってから、カナは一緒のベッドで寝てくれなくなった。なので、お客さん用のお布団でリビングで寝ている。
「ん〜〜」
でも、やっぱりさみしい。せっかく二人でいるのに。別々に寝る必要はないはずなのに。
「カナ〜〜」
枕を持って、カナのベッドに行く。カナはベッドの上で本を読んでるみたいだった。足元に乗って、そのままずずずっと頭の方に移動する。
「一緒に寝よ〜〜?」
「狭いでしょ」
「でも……」
「今はミドリは大きいんだから………ちょっと待って」
何かに気づいたみたいで慌てて本を置いて、僕のほっぺたに手を添える。
「待って待って待って。美肌すぎじゃない…?」
「?」
「いや、分かってたけど待って」
ベッドサイドテーブルに置かれていたメガネをカナがかける。たまにカナはメガネをかけるんだけど、なんだか雰囲気が変わって好きだ。
「嘘……。毛穴…どこ…?」
「??」
「えっ、ていうか毛穴っていう概念置いてきちゃったみたいな? ニキビとかもないし? 化粧水とかつけてないのにモチモチのツルツルとかなに?」
「???」
「え!? こんな理不尽あっていいの!? こちとら肌ケアにどれだけの時間とお金かけてると思ってるの!?」
「!?」
「耽美小説から出てきたってか!?」
カナが言っている意味が全く分からない。でも、妙に興奮しているから、落ちつかせないと。
「カナ、落ちついて」
「落ちついた先にあるのは敗北なんだよ……!」
「うん?」
「いいかい、坊や。現実を認め、受け入れてしまったらそこで終わりなんだ。私は足掻くよ……! そしてひれ伏させてあげよう! 完璧な肌を持って!!!」
やっぱり言ってる意味がわからない。でも、???な僕を置いてカナは「旅に出てくるぜ。美肌の旅にな……」とリビングへと行ってしまった。
「カナー? 先に寝てるからね〜」
「おう」
でも、カナのベッドで寝ることを許してもらったので良しとする。
今夜は二人で寝れる。
なんだか嬉しくて、そのままあくびをして目を閉じた。