盗聴器発見器とか使ってごめん
さて、ミドリがお風呂から上がってくる前にすることがある。聡い皆さまならお気づきであろうが、私の右手にあるのは盗聴器発見器である。
ミドリが初めて我が家に来た日に慌てて買って来たものだ。もしかして、盗聴器とか仕掛けちゃうかなりヤバイストーカーさんの可能性もあるのでは?と念のため買って置いたのだ。
(ぶっちゃけ盗聴器を仕掛ける頭がないことはすでにわかっているし、そもそも盗聴器ってなあんだ?のレベルだと思う)
「ふふ、探偵の気分……」
それでも発見器を使ってみたい衝動にかられて取り出して来たのだが、流石にミドリを目の前にして「お前が疑わしいからちょっと捜査するぞ」とは到底言えない。なので、いない間にちゃちゃちゃっと調べようとしたわけだ。
「ん〜〜、やっぱり反応はないよなあ」
寝室を歩いて、リビングにきて、キッチンに来て、玄関の方まで移動して、またリビングに戻る。テレビの下を覗いたり、本棚と壁の隙間を見たり、ソファの下を見たけれど、発見器はスン…としている。
「カナ」
「うえあ!?」
「そんなところで這いつくばって何してるの?」
「え、あ、うん、探し物を、ね?」
速攻で見つかったーーーー!なーにが、ふふ、探偵の気分、よ!探偵だったら即解雇だわ!
己の失態をリカバーするべく、にこやかに笑ってミドリの前に立つ。
「探し物、手伝おうか?」
純粋な目で見られて、うううと胸の中で呻いた。すまない、君の好意を受け取れるほど綺麗な人間じゃないです、ごめんなさい。
「大丈夫、もう終わったから」
「そうなの? じゃあドライヤーしてくれる?」
「うん」
ふわふわの髪が水に濡れてぺちゃんこになっている。なんだか、猫の時のシャンプーを思い出してかわいくて、少し笑った。
「その前に、ちょっとまってね」
右手にもつ黒いアレをゴミ箱に向かって投げた。ガチャンと音がして綺麗にインしたことを確認して心の中で「お前とはここでお別れだ……さよなら三千円」と別れを告げる。
「オッケー、ミドリ。ドライヤー持ってきて」
「もうあるよ〜」
「いい子! 偉いぞ!」
「そういえばねえ」
「うん?」
「洗濯機の下でこれ見つけたんだ」
「あ、失くしたと思ってたミドリのお気に入りのおもちゃじゃん」
「そうなんだよ〜! もしかして、カナもこのおもちゃ探してくれてた?」
「ん!? うん。まあ……?」
「そっかあ! 見つかって嬉しいね♡」
「ソウダネ♡」
本当のことを言えない汚い大人でごめん、君の髪を心を込めて乾かすから許してくれ……!
誰に向けて許しを乞うているのかわからなかっだが、精一杯の気持ちを込めて髪を乾かすことにした。